06P166_新田 彩

平成 23 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ
論文題目
XBP1 の構造解析を目指した合成研究:unspliced 型
XBP1 の活性化領域ペプチドの合成
Synthetic study for analysis of XBP1 structure:
Synthesis of activating domain peptide of XBP1 unspliced type
薬品製造学研究室 6 年
06P166
新田 彩
(指導教員:北川 幸己)
要 旨
小胞体においてタンパク質のフォールディング過程に破綻が生じると、折りたたみ不全の
タンパク質が小胞体に蓄積され、この異常タンパク質が小胞体ストレスとなり、細胞の正常機
能を妨げてしまう。細胞内はこの異常タンパク質を排除するために、小胞体におけるタンパ
ク質の折りたたみを軽減したり、分子シャペロンの量を増やすため転写を誘導することで折り
たたみ機能を向上させたり、変性タンパク質の除去効率をあげる。このストレスが過度になる
とアポトーシスを誘発させる。以上のような小胞体内での異常タンパク質を解消させる機構を
UPR という。このような要因での細胞の変質および細胞死は糖尿病の発症につながり、ほ
かにもパーキンソン病やポリグルタミン病などの神経変性疾患が遺伝子異常で小胞体ストレ
スを誘起させることが近年明らかとなっている。
このような疾患を予防するために、UPR に関する因子を理解することが重要である。ヒトの
UPR は IRE 経路、ATF 経路、PERK 経路と三つあるが、IRE 経路に携わっている XBP1
の構造解析がなされていないことから、unspliced 型特有の領域を化学合成することを計画
した。
本研究では XBP1 の unspliced 型領域を 3 つのペプチド断片に分け、それぞれの断片
を Fmoc 法で合成し、チオエステルセグメント縮合に用いるペプチド断片の最適化を検討し
た。
キーワード
1.UPR
2.ER
3.分子シャペロン
4.IRE
5.ATF
6.PERK
7.異常タンパク質
8.XBP1 (S)
9.XBP1 (U)
10.BZIP
11.AD
12.NES
13.DEG
14.アポトーシス
15.ポリグルタミン病
16.神経変性疾患
17.Fmoc 固相合成法
18.2-chlorotrityl Chloride
Resin
19. 逆相 HPLC
20.MALDI-TOF-MS
目 次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
1.Introduction
2.実験方法
2-1.試薬
2-2.ペプチド固相合成
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2-3.ペプチド鎖の伸長反応
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.実験結果
6
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3-1.合成戦略
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3-2.ペプチド断片合成結果
4.考察
5
・・・・・・・・・・・・・・・
2-4. 樹脂からのペプチドの切断/脱保護
2-5. ペプチドの精製
4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
7
8
14
謝 辞
引用文献
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
論 文
1. Introduction
生物の構成単位である細胞において、特に真核細胞では内部に高度に発達したい
くつかの小器官が観察される。小胞体 (Endoplasmic Reticulum; ER)は、新規に
合成された分泌タンパク質や膜タンパク質が糖鎖付加やジスルフィド結合形成を
受けて折り畳まれ正しい高次構造を形成 (フォールディング)する細胞小器官であ
る。タンパク質は自身のアミノ酸配列を基に各々に固有の高次構造を形成すること
によって初めて機能を発揮することができる。したがって、小胞体は正しくフォー
ルディングされているタンパク質とそうでないタンパク質とを厳密に区別するタ
ンパク質の品質管理を行う小器官としても重要である。小胞体内腔におけるタンパ
ク質のフォールディングは、小胞体局在性の分子シャペロンである
immunoglobulin heavy chain binding protein/glucose regulated protein78
(BiP/GRP78)、glucose regulated protein94 (GRP94)、糖タンパク質に特異的な分
子シャペロンである calreticulin、さらにジスルフィド結合形成に関与するフォー
ルディング酵素である Protein Disulfide Isomerase (PDI)などといった小胞体シ
ャペロンによりフォールディングプロセスが介助されており、分泌系タンパク質は
通常効率よくフォールディングされている 1。
小胞体に異常タンパク質が蓄積すると真核細胞が関知し、核へ情報を伝達するこ
とで一群の遺伝子を転写誘導する。この一連の流れを unfolded protein response
(UPR)という。UPR は小胞体から核へ細胞内情報伝達を伴う転写誘導システムで
あり、UPR の代表的な標的遺伝子には、主に小胞体内に蓄積した異常タンパク質
に直接作用する小胞体局在性の分子シャペロンとフォールディング酵素 (小胞体
シャペロンと総称)が転写誘導され、これらが異常タンパク質に作用、もしくはそ
れによって生じた弊害に対処している。過度に異常タンパク質が蓄積すると UPR
によりアポトーシスを誘発する。しかし、このような細胞変性および細胞死はパー
キンソン病などの神経変性疾患に大きく関与してくる 1。これらの疾患を予防する
ために UPR にかかわる因子を知ることは重要である。
1
哺乳類細胞には UPR を活性化する IRE 経路、ATF 経路、PERK 経路の3つの
経路が知られている。IRE1 はⅠ型の小胞体膜貫通型タンパク質であり、N 末端側
半分が小胞体内腔に位置し、C 末端半分が細胞質に存在し、プロテインキナーゼお
よびエンドリボヌクレアーゼドメインを有する。小胞体内に異常タンパク質が蓄積
すると、IRE により感知され、2 量化および自己のリン酸化を経てエンドリボヌク
レアーゼドメインを活性化させ細胞質に伝達させる。そして、活性化されたエンド
リボヌクレアーゼドメインは XBP1mRNA を特徴的なステムループ内で切断し取
り除かれ、RNA リガーゼにより残りの mRNA が連結する。このとき mRNA の読
み枠 (コドン)がずれるフレームスイッチ型のスプライシングが起こることが知ら
れ て い る 。 XBP1mRNA の ス プ ラ イ シ ン グ サ イ ト に よ り N 末 端 側 は 、
Basic-Leusin-Zipper (BZIP)型の DNA 結合領域がコードされており、これにより
XBP1 の N 末端側に DNA 結合領域を持つ 1, 2 (Fig. 1)。
Fig. 1 IRE1-XBP1 経路 (Ref. 1 Fig. 2 より改変)
IRE1 は小胞体に負荷がかかることにより 2 量化とそれにひき続いて自己リン酸
化し活性型 IRE1 となる。活性型 IRE1 は前駆体 XBP1mRNA をフレームスイ
ッチ型スプライシングすることで成熟型 XBP1mRNA へと変換する。この XBP1
(S)が核へ移行して ER stress response element (ERSE)と結合し、小胞体シャ
ペ ロ ン が転 写 誘 導さ れ る 。 XBP1 (U) は小胞体ストレス非存在下で前駆体
XBP1mRNA から翻訳され生成される。
2
XBP1 にはスプライシングされた XBP1 (S)と、されていない XBP1 (U)があり、
ぞれぞれ、376a.a と 261a.a で構成される。XBP1 (S)は、フレームスイッチ型にス
プライシングされることで、DNA-binding domain とスプライシングされたこと
により生じた転写活性化領域 (Activation domain; AD)が結合し強力な転写促進
活性をもつことで、直接 UPR に携わる。一方、XBP1 (U)はスプライシングを受け
ず、そのまま翻訳される。これは、元々の XBP1mRNA に含まれているイントロ
ンが 26 塩基と短く翻訳抑制しないために XBP1 (U)が生成される。この産物は細
胞内で不安定なので、すぐに分解される。しかし、近年 XBP1 (U)は C 末端に核と
細胞質を往復する領域 (nuclear exclusion signal; NES)が XBP1 (S)と結合し
pXBP1 (S)-pXBP1 (U)の複合体を形成する。そして NES より C 末端側存在する分
解領域 (degradation signal; DEG)により速やかにプロテアソームで分解されると
いうような、UPR の負のフィードバックに関わるといわれている 2 (Fig. 2)。
そこで、XBP1 全立体構造解析を最終目標とし、本研究では NES および DEG
領域の化学合成を試みた。
Fig. 2 XBP1 (S)と XBP1 (U)の各領域 (Ref. 2 Fig. 1 より改変)
前駆体 XBP1mRNA には、26 塩基というイントロンがある。このイントロンで
は翻訳に支障をきたすことがないために XBP1 (S)と XBP (U)が生成される。
BZIP: basic-leuisin-zipper, AD: activation domain,
NES: nuclear exclusion signal, DEG: degradation domain,
3
2,実験方法
2-1 試薬
ペプチド固相合成用試薬は、Novabiochem (USA)または渡辺化学工業株式会社
(広島)より購入した。また、その他の試薬は記載のない限り、Nacalai Tesque (京
都)または Wako Chemical (大阪)より購入した。
2-2 ペプチド固相合成
各ペプチドは 9-fluorenylmethyloxycarbonyl (Fmoc)固相法により合成した。樹
脂は 2-chlorotrityl Chloride Resin (100-200 mesh,1.57 mmol/g:渡辺化学工業株
式会社)を用いた 5(Fig. 3)。
Fig. 3 2-chlorotrityl Chloride Resin の構造
2-chlorotrityl Chloride Resin は酸に対して非
常に敏感な樹脂であるため、ペプチド合成終了
後の樹脂からの切り出しの際に弱酸を用いて
の切り出しが可能である。弱酸では保護基の脱
保護は出来ないので、保護基を残して樹脂から
切り出すことができる 5。
R の部分は polystyrene である。
乾燥樹脂 0.2 mmol (130.25 mg)を PD-10 Empty Column (GE healthcare
(USA))に量り取り、Dichloromethane (DCM) 2.5 ml で 3 時間以上膨潤させた後、
最初に結合させるアミノ酸を 0.15 mmol 量り取り N,N’-Diisopropylethylamine
(DIPEA)をアミノ酸に対し 3 当量加え、室温で 120 min 攪拌させる。その後
Methanol (MeOH) 0.8 ml を加えて反応を止め、DCM、N,N’-Dimethylformamide
(DMF)、MeOH と Diethyl ether (ether)でそれぞれ 3 回ずつ洗浄し、一度、減圧
下で乾燥させ、次回のアミノ酸を反応させるときは DMF 中で 3 時間以上膨潤させ
る。
4
2-3 ペプチド鎖の伸長反応
Fmoc 基を、30% piperidine/DMF を用いて室温で 20 min 攪拌することにより
除去した。続いて、樹脂を DMF で 9 回洗浄した。縮合反応は、Fmoc-アミノ酸、
N,N’-Diisopropylcarbodiimide (DIC)、1-Hydroxybenzotriazole (HOBt)をそれぞ
れ 4 当量用いて、DMF 中 37℃にて 90~120 min 攪拌した。また今回 Fmoc-Gln-OPfp
と Fmoc-Asn-OPfp を 用 い た の で 、 こ の 二 つ を 縮 合 す る と き は
N-Methylmorpholine (NMM)、3,4-dihydro-4-oxo-1,2,3-benzotriazole (HOOBt)
をそれぞれ 5 当量用い DMF 中 37℃にて 90~120 min 攪拌した。続いて、DMF で
5 回洗浄した。Kaiser テストを行い、縮合反応の完了を確認した。反応が不十分だ
っ た 場 合 は 同 条 件 で 再 度 縮 合 を 行 う か 、 も し く は 、 Fmoc- ア ミ ノ 酸 、
1-Hydroxy-7-azabenzotriazole
(HOAt)
O-(7-azabenzotriazol-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluronium
、
hexafluorophosphate
(HATU)、DIPEA をそれぞれ 5 当量用いて 120 min 攪拌させ、Fmoc 基の脱保護
と Fmoc-アミノ酸の縮合を繰り返し、ペプチドを伸長した。
Table 1 使用したアミノ酸 (Nova biochem、渡辺化学と国産化学 (東京))
Fmoc-Ala-OH
Fmoc-Arg (Pbf)-OH
Fmoc-Asn (Trt)-OH
Fmoc-Asn-OPfp
Fmoc-Asp (OtBu)-OH
Fmoc-Cys (Acm)-OH
Fmoc-Cys (Trt)-OH
Fmoc-Gln-OPfp
Fmoc-Glu (OtBu)-OH
Fmoc-Gly-OH
Fmoc-His (Bum)-OH
Fmoc-Ile-OH
Fmoc-Leu-OH
Fmoc-Lys (Boc)-OH
Fmoc-Met-OH
Fmoc-Phe-OH
Fmoc-Pro-OH
Fmoc-Ser (tBu)-OH
Fmoc-Thr (tBu)-OH
Fmoc-Tyr (tBu)-OH
Fmoc-Trp-OH
Fmoc-Val-OH
Acm:Acetamidomethyl Boc:t-Butoxycarbonyl
tBu:t-Butyl
Bum:t-Butoxymethyl
Trt:Trityl
Pfp: Pentafluorophenyl
Pbf:2,2,4,6,7-Pentamethyl-dihydrobenzofurane-5-sulfonyl
5
2-4. 樹脂からのペプチドの切断/脱保護
ペプチド鎖の構築が終了した樹脂は、MeOH で 3 回、ether で 2 回洗浄後、減圧
下で乾燥した。樹脂 20 mg に対し Trifluoroacetic acid (TFA):Trimethylsilyl
bromide (TMSBr):Thioanisol:m-cresol:Ethandithiol (570:100:90:20:20
μl)を 800 μl 加え、氷冷下で 90 min 攪拌し、ペプチド側鎖の保護基と同時にペプ
チドを樹脂から切断した。冷 ether 中で沈殿させた粗ペプチドを、10 min、3500
rpm で遠心して、沈殿と ether を分離させ、ether を除いた。同様の操作方法によ
り ether で沈殿を TMSBr の臭いがなくなるまで繰り返した。沈殿を風乾させたの
ち、少量の蒸留水または acetonitrile/蒸留水で溶解し、凍結乾燥して白色のペプチ
ド粉末を得た。
2-5. ペプチドの精製
粗ペプチドは逆相 High-performance Liquid Chromatography (HPLC)を用い
て精製を行った。分析用カラムは、COSMOSIL 5C18 AR-Ⅱ (4.6×250 mm)を用
い、溶媒の流出速度は 1 ml/min に設定した。精製用カラムは COSMOSIL 5C18
AR-Ⅱ (20×250 mm)を用い、溶媒の流出速度は 5 ml/min に設定した。移動相に、
0.05% TFA/H2O と 0.05% TFA/acetonitrile を用い、0.05% TFA/acetonitrile の初
期濃度を 10%、30 min 後の濃度を 30%になるように、220 nm におけるアミド結
合の吸収を指標として直接濃度勾配によりペプチドを溶出させた。精製したペプチ
ド溶液を凍結乾燥して、得られた白色の粉末を、matrix-assisted laser desorption
/ ionization-time of flight-mass spectrometry (MALDI-TOF-MS 、 Autoflex
Ⅲ:Brucker Daltonics (ドイツ))で同定した。
6
3. 実験結果
3-1 合成戦略
XBP1 (U)は 261 残基で構成されている (Fig. 4)が、166 残基までは XBP1 (S)と
同じアミノ酸配列を持っている。今回は XBP1 (U)に特異的な NES と DEG が含ま
れる領域 Ser161~Asn261 のペプチドを合成することにした。この 101 残基で構成
される配列を逐次的に Fmoc 固相法で合成することは困難である。そこで、30 残
基ほどの長さでかつ、C 末端に Pro が位置するように 36、37、28 残基の三つに分
割し (Table 2)、それぞれを Fmoc 固相法で合成を行った。また Cys の側鎖は脱保
護するときに、フリーになってしまうとチオール基同士でジスルフィド結合してし
まうので酸でも切断できない Acm 基を採用した 6。
1
MVVVAAAPNP ADGTPKVLLL SGQPASAAGA PAGQALPLMV
41
PAQRGASPEA ASGGLPQARK
RQRLTHLSPE EKALRRKLKN
81
RVAAQTARDR
QVVDLEEENQ
KKARMSELEQ
KLLLENQLLR
121 EKTHGLVVEN
QELRQRLGMD ALVAEEEAEA KGNEVRPVAG
161 SAESAALRLR
APLQQVQAQL SPLQNISPWI
201 LISCWAFWTT
WTQSCSSNAL PQSLPAWRSS
241 YQPPFLCQWG
RHQPSWKPLM
LAVLTLQIQS
QRSTQKDPVP
N
Fig. 4 XBP1 (U)の一次構造
緑領域:nuclear exclusion signal (NES)
青領域:degradation domain (DEG)
Table 2 合成を試みた領域の Peptide 断片
Peptide Name
Peptide 1 A226-N261
Peptide 2 W189-P225
Peptide 3 S161-P188
配列
AWRSSQRSTQKDPVPYQPPFLC(Acm)QWGRHQPSWKPLMN
WILAVLTLQIQSLISC(Acm)WAFWTTWTQSC(Acm)SSNALPQSLP
SAESAALRLRAPLQQVQAQLSPLQNISP
7
3-2. ペプチド断片合成結果
Peptide 1 : Fmoc-(Ala226-Asn261)-OH の合成
2-chlorotrityl Chloride Resin (100-200 mesh、1.57 mmol/g)を用いて各アミノ
酸の縮合を行なった。当初、36 残基を 18 残基ずつ分割し合成することを試みた。
そこで、Pro244 までの 18 残基を縮合し終えたところで HPLC 分析を行った (Fig.
5)。分析用カラムは、COSMOSIL 5C18 AR-Ⅱ (4.6×250 mm)を用い、溶媒の流
出 速 度 は 1.0 ml/min に 設 定 し た 。 移 動 相 に 0.05% TFA/H2O と 0.05%
TFA/acetonitrile を用い 0.05% TFA/acetonitrile の初濃度を 10%、30 min 後の濃
度が 40%になるように、220 nm におけるアミド結合の吸収を指標として直接濃度
勾 配 に よ り ペ プ チ ド を 溶 出 さ せ た 。 Fig. 5 に お け る peak1 を 分 取 し 、
MALDI-TOF-MS にて質量を確認したところメジャーピークである peak1 が目的
物 (18 残基: 244-261)であることを確認した (Table 3)。
Fig. 5 Fmoc-(P244-N261)-OH の分析結果
Gradient;
10- 40% (0.05% TFA/CH3CN)
30 min
Table 3 Peptide 1 (Fmoc-(P244-N261)-OH)の MS 測定の結果
Sample
peak1
Peptide
配列
Theor. Avg.
XBP1 (U)
PFLC(Acm)QWGRH-
Peptide1
QPSWKPLMN-OH
8
[M]
2295.6656
[M+H]+
2296.6736
[M+Na]+
2318.6554
Found
2296.653
この結果より、さらに 5 残基を同じ樹脂で延長した。V239 までの 23 残基を縮合
し終えたところで、HPLC で分析した (Fig. 6)。分析用カラムは、COSMOSIL 5C18
AR-Ⅱ (4.6×250 mm)を用い、溶媒の流出速度は 1.0 ml/min に設定した移動相に
0.05% TFA/H2O と 0.05% TFA/acetonitrile を用い 0.05% TFA/acetonitrile の初濃
度を 40%、35 min 後の濃度が 90%になるように、220 nm におけるアミド結合の
吸収を指標として直接濃度勾配によりペプチドを溶出させた。 Fig. 6 における
peak2 分取し、MALDI-TOF-MS にて質量を確認したところメジャーピークであ
る peak2 が目的物 (23 残基: 239-261)であると確認できたため、残り 15 残基も同
じように続行した (Table 4)。
Fig. 6 Fmoc-(V239-N261)-OH の分析結果
Gradient;
40- 90% (0.05% TFA/CH3CN) 30 min
Table 4 Peptide 1 (Fmoc-(V239-N261)-OH)の MS 測定の結果
Sample
peak2
Peptide
配列
Theor. Avg.
XBP1 (U)
VPYQPPFLC(Acm)Q-
Peptide1
WGRHQPSWKPLMN-OH
9
[M]
2881.3375
[M+H]+
2882.3454
[M+Na]+
2940.3272
Found
2878.381
最終的な保護ペプチド樹脂は 232.29 mg を得た。TMSBr 系で脱保護を行い、
HPLC で分析を行った (Fig. 7)。分析用カラムは、COSMOSIL 5C18 AR-Ⅱ (4.6
×250 mm)を用い、溶媒の流出速度は 1.0 ml/min に設定した移動相に 0.05%
TFA/H2O と 0.05% TFA/acetonitrile を用い 0.05% TFA/acetonitrile の初濃度を
10%、35 min 後の濃度が 50%になるように、220 nm におけるアミド結合の吸収
を指標として直接濃度勾配によりペプチドを溶出させた。Fig. 7 における各々ピー
クを分取し、MALDI-TOF-MS にて質量を確認したところ、peak4 に目的のペプ
チドが含まれることを確認した (Table 5)。メジャーピークである peak3 は、Ser229
まで縮合した欠損体であることが MS の結果から推察できた。
Fig. 7 Fmoc-(A226-N261)-OH の分析結果
Gradient;
10- 50% (0.05% TFA/CH3CN) 30 min
Table 5 Peptide 1 (Fmoc-(A226-N261)-OH)の MS 測定の結果
Sample
peak3
peak4
Peptide
配列
Theor. Avg.
XBP1 (U)
SSQRSTQKDPVPYQPPFLC(Acm)-
Peptide1
QWRHQPSWKPLMN-OH
XBP1 (U)
AWRSSQRSTQKDPVPYQPPFL-
Peptide1
C(Acm)QWGRHQPSWKPLMN-OH
10
[M]
4038.5289
[M+H]+
4039.5368
[M+Na]+
4061.5187
[M]
4632.2044
[M+H]+
4633.2123
[M+Na]
4655.1942
Found
4023.134
4627.466
Peptide 2 : Fmoc-(Trp189-Pro225)-OH の合成
2-chlorotrityl Chloride Resin (100-200 mesh、1.57 mmol/g)を用いて各アミノ
酸の縮合を行った。Peptide 1 同様、最初に Phe207 までの 19 残基の合成を行った。
合成し終えたところで HPLC で分析を行った (Fig. 8)。分析用カラムは、
COSMOSIL 5C18 AR-Ⅱ (4.6×250 mm)を用い、溶媒の流出速度は 1.0 ml/min に
設定した移動相に 0.05% TFA/H2O と 0.05% TFA/acetonitrile を用い 0.05%
TFA/acetonitrile の初濃度を 10%、30 min 後の濃度が 50%になるように、220 nm
におけるアミド結合の吸収を指標として直接濃度勾配によりペプチドを溶出させ
た (Fig. 8)。Fig. 8 における peak5 を分取し、MALDI-TOF-MS にて質量を確認し
たところ、メジャーピークである peak5 に目的のペプチド (19 残基: 207-225)が
含まれることを確認した(Table 6)。
Fig. 8 Fmoc-(F207-P225)-OH の分析結果
Gradient;
10- 50% (0.05% TFA/CH3CN) 30 min
Table 6 Peptide 2 (Fmoc-(F207-P225)-OH)の MS 測定の結果
Sample
peak5
Peptide
XBP1 (U)
Peptide2
Theor. Avg.
配列
FWTTWTQSCSSNALPQSLP-OH
11
[M]
2225.4352
[M+H]+
2226.4431
[M+Na]+
2248.4250
Found
2227.509
この結果より、さらに 11 残基を延長し Leu196 まで延長させ、そのまま脱保護を
行った。合成終了後の樹脂の量は 126.57 mg であった。TMSBr 系脱保護を行い、
HPLC で分析を行った (Fig. 9)。分析用カラムは、COSMOSIL 5C18 AR-Ⅱ (4.6
×250 mm)を用い、溶媒の流出速度は 1.0 ml/min に設定した移動相に 0.05%
TFA/H2O と 0.05% TFA/acetonitrile を用い 0.05% TFA/acetonitrile の初濃度を
55%、35 min 後の濃度が 90%になるように、220 nm におけるアミド結合の吸収
を指標として直接濃度勾配によりペプチドを溶出させた。Fig. 9 における peak6
を分取した。今後 MALDI-TOF-MS にて質量を確認する予定である。また、Trp189
までの延長も出来ていない。
Fig. 9 Fmoc-(L196-P225)-OH の分析結果
Gradient;
55- 90% (0.05% TFA/CH3CN) 35 min
12
Peptide 3 : Fmoc-(Ser161-Pro188)-OH の合成
2-chlorotrityl Chloride Resin (100-200 mesh、1.57 mmol/g)を用いて各アミノ
酸を縮合し、Arg170 まで延長させ、piperidine で 20 min 処理し脱保護を行った。
合成終了後の樹脂の量は 296.63 mg であった。TMSBr 系で脱保護を行い、HPLC
で分析を行った (Fig. 10)。分析用カラムは、COSMOSIL 5C18 AR-Ⅱ (4.6×250
mm)を用い、溶媒の流出速度は 1.0 ml/min に設定した。移動相に 0.05% TFA/H2O
と 0.05% TFA/acetonitrile を用い 0.05% TFA/acetonitrile の初濃度を 10%、30 min
後の濃度が 50%になるように、220 nm におけるアミド結合の吸収を指標として直
接濃度勾配によりペプチドを溶出させた。Fig. 10 におけるメジャーピークである
peak7 を分取し MALDI-TOF-MS にて質量を確認したところ、peak7 に目的のペ
プチドが含まれることを確認した(Table. 7)。Ser161 までの延長は、まだ出来てい
ない。
Fig. 10 Fmoc-( R170-P188)-OH の分析結果
Gradient;
10- 65% (0.05% TFA/CH3CN) 30 min
Table 7 Peptide3 (Fmoc-(R170-P188)-OH)の MS 結果
Sample
Peak7
Peptide
XBP1 (U)
Peptide3
Theor. Avg.
配列
RAPLQQVQAQLSPLQNISP-OH
13
[M]
2088.3673
[M+H]+
2089.3752
[M+Na]
2111.3570
Found
2087.002
4. 考察
本研究の結果より、合成を試みた三つのペプチド断片のうち Peptide 1 の合成は
完了したが Peptide 2 および Peptide 3 は合成途中であり、かつそれぞれの合成純
度は低かった。また、合成途中のため収率の確認は行っていないが、各段階におい
ての HPLC・MALDI-TOF-MS の結果から収率はそこまで悪いものではないと考
える。そのため今後 XBP1 (U)の全合成を行うには、各ペプチドセグメントの合成
方法を見直す必要があると考えられる。また、合成途中、複数回のカップリングを
要した残基が多かったことから、縮合に用いる試薬等の検討も必要である。
本研究の最終目標は、XBP1 (U)をチオエステル縮合法にて合成することである
ので、今後は上記の問題点を改善した上で各セグメント縮合を行っていきたい。
XBP1 は UPR の一部であり、異常タンパク質のフォールディングに関与してい
る。そのため異常タンパク質により誘発されるアポトーシスが原因で発症するとさ
れているパーキンソン病・ハンチントン病などのポリグルタミン病に関与している
とされている。XBP1 (U)の構造解析を行うことで、上記の疾患に対する何らかの
治療法または予防法の確立に大いに貢献できると考える。
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謝 辞
本卒業研究Ⅱの終わりに、随時有益なご助言とご指導頂きました新潟薬科大学薬学
部薬品製造学研究室
北川
幸己
教授に心から感謝致します。
本卒業研究を進めるにあたり、直接のご指導とご鞭撻を賜りました新潟薬科大学薬学
部薬品製造学研究室
浅田
真一
助教に深く感謝致します。
最後に、薬品製造学研究室のみなさまに感謝致します。
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引 用 文 献
1. 森和利, 木俣行雄, 河野憲二, 浦野文彦, 西頭英起, 一條秀憲, 蛋白質 核酸 酵
素, 49, 992-1009 (2004).
2. Yoshida H., Uemura A., Mori K., Cell structure and function., 34, 1-10
(2009).
3. Yoshida H., Matsui T., Hosokawa N., Kaufman R., Mori K., et al.,
Developmental Cell., 4, 265-271
4. Uemura A., Oku M., Mori K., Yoshida H., Journal of Cell Science., 122,
2877-2886 (2009)
5. Kitagawa K., Adachi H., Sekigawa Y., Yagami T., Inoue K., et al.,
Tetrahedron., 60, 907-918 (2004).
6. Kawakami T., Aimoto S., Chemistry Letters, 1157-1158 (1997)
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