(短)(借) BriefNote 亜急性期の帯状庖疹痛に対し PainVision⑧を用いて評価した1症例 ヽ ヽ 中尾 晃 森田善仁 井関雅子 順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座 はじめに 従兎 視覚的評価スケール(visualanalogqe scale:VAS)は痛みの評価法として広く用い られている.今臥 帯状癌疹の皮疹が治癒した 後に持続する痔痛に対する薬物治療の効果を知 覚・痛覚定量分析装置(Pain Vision⑧)を用い て評価し,VASと比較した1症例を報告する. 症 例 67嵐 女性 身長157cm,体重45kg. の痔痛が持続するため,皮疹出現後朝日目に 当院麻酔科・ペインクリニック外来に紹介された. 初診時二右Tさ領域の背部から前腹部にかけ て,針で刺されるような痛みがあり,同部位に アロデイニアおよび知覚低下が存在した.夜間 痛による睡眠障害があり,VAS値は50mmで あった.血液検査ではPT43%,PT(mR)1.92 であり,その他の異常を認めなかった. 治療経過(図1): 形成術を施行した.以後,洞不全症俵群に対し, 抗祝園薬内服中の患者であったため.神経ブ ロック療法は実施しなかった.治療は.まず直 線偏光近赤外線局所照射,10%リドカイン軟膏 塗布を継続した.しかし,療病は軽減せず,初 心臓ペースメーカーを挿入した.初診時, 診8日目のVAS億42mm,痛み度(PainVi− NYHA心機能分腰でクラスⅠと心不全徴候は sion⑧により測定した痛み対応電流値と電流知 認めなかった,抗凝固薬としてワルファリンカ 覚開催から算出される数億:痛み慶一=100x リウム,アスピリンが投与されていた. (痛み対応電流値一電流知覚開催)/電流知覚 主 訴:右腹背部痛(右T8領域). 既往歴:7年前に僧帽弁狭窄症に対し僧帽弁 家族歴:特記すべきことなし. 開催)137であった.そのため,10%リドカイ 現病歴:右腹背部の強い痛みを伴う皮啓を自 ン軟膏塗布を中止(直線偏光近赤外線局所照射 が経口投与された.皮疹は軽快したが,同部位 は継続した)した.初診9日臥リドカイン点 滴投与(リドカイン100mgを細分かけて点 滴静注,2回/週),ガバペンチン600mg/日を 開始し継続した.初回の点滴静注直後より 〈BriefNote〉 VAS億27mm(点滴静注前VAS億40爛斑)i 覚した.皮疹出現10日後,当院皮膚科を受診 し,右T8領域の帯状癌疹と診断された.バラ シクロビル,ロキソプロフェン,メコバラミン MeasurementofacutepainwithPainVisionO 痛み慶100(同前値137)と痛みの軽減を確認 inapostherpe銭cnetmlgiapa丘ent した.初診14日臥夜間痛が改善され,意欲 的な言動がみられるようになった.初診16日 臥.痺痛はさらに軽減(VAS償32m肌痛み AはraNakao,etal DepartmentofAnesthesioIogyandPainMedicine, JuntendoUniversitySchoolofMedicine ペインクリニック Ⅵ)1.30No.4(2009.4) 529 図1 治療経過 度45),初診から30日目.VAS億15mm,痛 本症例の治療経過をみると,最終蘭にVAS み皮8となり息眠を得ることが可能となった∴ と痛み度はともに低下してお牒一 発症から1カ く 初診から60日目には痔痛はほほ消失したため, 月以上経過した亜急性期の帯状癌疹稀に対し リドカインの点滴を中止し,ガバペンチンの用 て.リドカインとガバベンチンの併用は非常に 量を漸減していった.初診から131日日.ガバ 有用であったと考える.その奏効横序としで. ペンチン内服を中止した.以降,痔痛の再燃は リンドカインのNa■チャネル遮断灘用による損 認められていない. 傷神経の異常発火抑制.ガバベンチンのCa2◆ のα2dチャネル遮断作用による興雷性伝導物質 考 察 の遊離押倒申が考えられる.また,過去にも両 日常臨床において.痛みの評価にはVASが 者の治療の有用性が報告均されている、.今回. 用いられることが多い.VASは簡便で優れた 神経障書性痙痛め発生機序は多岐にわたるた 評価法であるが,患者自ら痛みを数値化する方 め.ガバペンチンとリドカインの作用機序が異 法であるため,主観的な評価になりやすく,高 なる2つの薬物を併用したことが,痛みの職和 齢者では,自らの痛みをVAS値で表現するこ に大きぐ貢献した可能性がある. とに戸惑う場面も見受けられる.一方,Pain 漁療経過中のVASと痛み度との比較で軋 Vision⑩は,痛みを感じる最小電気刺激量を測 痛み虔はりドカイン,ガバペンチン投与開始か 定する「電流知覚開催」と,もともとある痛み ら1遺問後より急激に減少しているが,ⅤÅS の大きさに対応した電流量を測定する「痛み対 はやや連れで数週間後より綬徐に減少した.奥 応電流値」から痛み度として数値化できる1)た 田ら8〉は.VASは患者の不満や治療を受けてい め.より客観的に痛みを評価できる可能性があ る.また,PainVision⑧の測定法は比較的簡便 虔とは必ずしも一致しないと述べている.また,■ であり,被験者に痛みを与えることなく5分程 拡a反ら…)は,急性鼎の帯状癒疹患者では.痺 度で測定できる. 将によヶで日常生清卜身体活軌社会活動が湘 530 る安心感などがより強くこ反映きれるため.痛み n血C血icl払1.30N0.1(200g.4) 限され,情緒不安定になり,これらの因子が帯 状癌疹後神経痛の発症に密摸に関与すると報告 している.したがって,本症例のVASの結果 には,心理的な要因が関与している可能性があ 文 献 1)井関雅子:電流知覚開催検査 Painvision◎. (小川節郎・編著:痛みの概念が変わった:新 キーワード100+α).東京,其興交易,2008. 124−126 る.一九 PainVision⑩はVASよりも身体的 2)ChengJK,ChiouLC:Mechanismsoftheanti・ な治療効果に対し鋭敏に反応することが示唆さ ScilOO:47ト486.2006 3)眞鍋治彦,久米克介,加藤治子.他:急性期 の帯状癌疹の治療.日臨麻雑誌28:2−11,2008 れるため.両者の測定結果を組み合わせて治療 効果を判定することが重要である.さらに. PainVision⑩の結果は痛み度という数値の変化 として表現されるため,患者に対しても治療効 果の指榛の一つとして共有することができると 考える.これにより,患者の治療への関心が高 まり情緒面の安定につながる可能性がある. 亜急性期の帯状癌疹痛に対してリドカイン点 滴とガバペンチンの内服を行い.治療効果を PainVision⑧とVASを用いて評価した.Pain Vision⑳で得られた痛み度の変化は治療効果を 判断するのに有用であり,今後の知覚・痛覚定 量分析装置として期待できる.また,Pain Vi− sion⑳とVASの測定結果をうまく組み合わせ nociceptiveactionofgabapentirLJPharmacoI 4)Hempensta11K,NurmikkoTJ,JohnsonRW. etal:Analgesic therapyin postherpetic neu・ ralgia:aquantitativesystematicreview.PLoS Med2:e164,2(氾5 5)奥田知乱 加藤幸子.瀬野晋一郎,他:帯状 梅疹における痛みの定丑評価の試み−Visual analoguescale:VASとの比救意義−.日皮会 誌115:2373−2380,2005 6)KatzJ,CooperEM,WaltherRR,etal:Acute palnin herpes zoster anditsimpact on health−related quality oflife.ClinInfectDis 39:342−348.2004 7)KatzJ,McDermottMP,CooperEM,etal: Psychologicalrisk factor for postherpetic neuralgia:apr9SpeCtivestudyofpatients withherpeszoster.JPain6:782⊥790,2005 (2009.1.受付) ることによって痛みをより多角的に評価できる と考える. ※ ペインクリニック Ⅵ)1.30No.4(2009.4) 531
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