H23 農業農村工学会大会講演会講演要旨集 [1-32] 集水域を持つ用水路システムにおける土砂移動とその制御 Sediment transport and control in irrigation canal systems with catchment areas ○向井章恵・樽屋啓之・嶺田拓也・中田達 MUKAI Akie, TARUYA Hiroyuki, MINETA Takuya, NAKADA Toru 1.はじめに 用水路の通水性を低下させる要因の一つとして,土砂の堆積が挙げられる.東北地方の M地区では,用水路システム内に堆積した土砂に水草が発生し,流下した水草が揚水機場 や除塵機のスクリーンの目詰まりを引き起こすことが問題となっている.そこで,用水路 システム内の土砂移動を制御することで,堆積を防ぐ方法について検討する. 2.M地区の用水路システム M地 区 の 用 水 路 シ ス テ ム の 概 要 図 を Fig.1に 示 す . A頭 首 工 で 取 水 さ れ A 頭首工 た水は,B用水路(開水路)を経て, C分 水 工 か ら D用 水 路 ( パ イ プ ラ イ 支線用水路 ン ) と E用 水 路 ( 開 水 路 ) に 分 け ら B 用水路 れ る . C分 水 工 に は 調 整 池 ( 面 積 約 E 用水路 集水路 7,000m 2 )が付設されており,用水の 3.用水路システム内の土砂移動と P P P P F 集水路 到達時間を調整するとともに,沈砂 池としても機能している. D 用水路 調 整 池 (C 分 水 工 ) Fig.1 M 地 区 の 用 水 路 シ ス テ ム 概 要 図 Schematic of irrigation canal system in M area 水草の発生要因 用排兼用であるB用水路には,山地を集水域とする 3本の集水路が合流する.したがって, 出水時にはここから水とともに土砂が流入する.2007年9月に発生した大規模な出水時には, 3本の集水路からB用水路を経て,調整池に大量の土砂が流入・堆積し,土砂を温床とする 水 草が 繁茂し た( Fig.1参 照 ). 下流 の E用水路 の管 理者へ の聞 き取り から ,大規 模出 水後, 水草によるスクリーンの目詰まりが増加したことが分かっており,これには調整池に繁茂 する水草が少なからず影響していると考えられる. 水 草 は , Fig.2 の 赤 囲 部 に 示 す 調 整 池 の 左 岸 下 流 部 に 集 中 的 に 繁 茂 し て い る . そ こ で , 左岸下流部の流況を水理模型実験で定性的に把握したところ,循環流の発生する止水域で あることが確認された( Fig.2).これは,水草に好適な生育環境は止水域である 1) との認識 と一致する. また,左岸下流部で 2010年に採取した土砂は,F集水路(3本のうち最も集水面積が大き い)で採取したものと比較して,粒径が小さくシルト分がより多く含まれることが分かっ た ( Fig.3). こ れ は , 左 岸 下 流 部 が 止 水 域 で あ る こ と を 示 す と と も に , 繁 茂 し た 水 草 が さ らに小粒径の土砂を捕捉することを意味すると考えられる. 4.土砂移動を制御する方法とその効果 調整池において水草の繁茂を防ぐためには,上流の集水路にて土砂の移動を制御し,土 農 村 工 学 研 究 所 National Institute for Rural Engineering キーワード:用水路,土砂制御,水草 ─ 152 ─ 通過質量百分率(%) 100 Flow 左岸下流部 80 猪去沢 60 40 20 0 縮 尺 : 1/200 流 量 : 0.25 l/s アルミ粉を上流から投入 0.001 0.01 0.1 1 10 100 粒径(mm) Fig.3 用 水 路 シ ス テ ム 内 の 土 砂 の 粒 度 分 布 Grain size distribution in irrigation canal systems Fig.2 調 整 池 左 岸 下 流 部 の 流 況 Flow regime in the back of the reservoir Table 1 水 理 条 件 Hydraulic conditions Case 1 Case 2 Case 3 実験 数値解析 数値解析 流量 (l/s) 15 4000 4000 水路幅 (m) 0.6 2.0 2.0 砂の流出を防ぐことが有効な方法の一つ であると考える.そこで,集水路内に床 固め(渓床の堆積物の移動を防ぐ砂防構 造物)を連続的に配置する対策工法を考 案した.工法の効果の検討として,Table 1の 水 理 条 件 を 用 い た 実 験 及 び 数 値 解 析 水路勾配 1/100 1/1000 1/1000 水位 (m) 0.14 1.4 1.4 Z(cm) 床固め Case 1では,農村工学研究所水路工実 床固めの間隔 (m) 1.35 1.35 2.70 水路床位 10 0 初期水路床位 -10 0 を行い,水路床位の変化の様子を観測す ることとした. 土砂の平均粒径 (mm) 3 11 11 40 80 120 160 200 240 280 X(cm) Fig.4 横 断 方 向 平 均 縦 断 水 路 床 位 ( Case 1) Transversal-averaged longitudinal bed level 験棟内の水路(幅0.6m,勾配1/100)に床 固 め (高 さ0.3m, 奥 行0.16m) を 1.35m間 隔 で 6基 設 置し ,20cm厚 さ で均 一 砂を 敷き 詰 めて 実験を行った.給砂は,出水時の土砂流入を考慮し,上流部の水路床位を初期値に保つよ う 行 っ た . 上 流 か ら 2-4基 間 の 水 路 床 位 の 変 化 を Fig.4に 示 す . 水 路 床 位 は 初 期 値 よ り 上 昇 しており,床固めによって土砂の流出が抑制されるとともに土砂が捕捉されることが分か った. Case2,3では,F集水路の水理条件を用い,水路床位の変化を数値計算 2) によって観測し た . F集 水 路 を 移 動 する 土 砂 は 礫分 が 多 く 含ま れ る 混 合砂 ( Fig.3)で あ り , 粗粒 化 の影響 等のため,Case 1(均一砂)と同様の水路床位の変化は観測されなかった. 引用文献 1)角野康郎 (1994):日本水草図鑑,文一総合出版,pp.3-4. 2)H. Takebayashi, et al. (2007) : Geometric Characteristics of Bars on Layers with Rocks or Cohesive Material, Proc. of 10th International Symposium on River Sedimentation. ─ 153 ─
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