学校保健 セルフマネジメント力の育成 -睡眠に関する保健指導の検討- 正田 理沙子 本論の要旨 社会は絶えず急速に変化していき,その中で子どもたちの心身における健康課題は多様化・複雑化して いる。将来,子どもたちが変化の激しい社会の中でもたくましく生きていくためには,体と心がともに健 康であることが大切であり,セルフマネジメント力(自己管理能力)の育成がますます重要となってくる と考える。セルフマネジメント力をつけ,子どもたちが中学校生活を心身ともに健康に過ごし,さらには 生涯を通して自ら健康を意識して行動する力を育てたい。 生活習慣の定着や行動変容には,継続的な指導が必要となる。アンケート調査による生徒の実態把握と, 養護教諭がT.T.で参加する授業実践,ライフ顕微鏡を用いた睡眠調査および保健指導をすることによ り,1年生から3年生まで系統立てた睡眠に関する保健指導の方法や内容について検討した。 キーワード セルフマネジメント力,睡眠,保健指導,ライフ顕微鏡 1 主題によせて 状態が悪化する傾向が伺えた。また,日中の眠気等へ (1)はじめに の影響は睡眠時間の短さだけで説明できないという結 㻌 近年の急激な社会情勢の変化は,大人だけでなく子 果であった。また,3年生の9割が学習塾(家庭教師を どもたちの生活スタイルにも大きく影響している。深夜ま 含む)に通っている本校の現状から,ただ単に早く寝る で放送されるテレビ,昼夜関係なく利用できるインター ことを促す指導では限界があると考えた。 ネット等は,子どもたちにとって非常に身近なものとな そこで,平成25年度には就寝時刻だけでなく,睡眠 り,就寝時刻の遅れや睡眠の質の低下に繋がっている の質にも着目した授業を展開した。生徒のワークシート ことが推測される。特に,スマートフォンの普及は,さら からは,自分の睡眠習慣を振り返り,睡眠の質を高める にこれを助長させると考えられる。 取り組みの実施状況が伺えた。 子どもたちを取り巻く環境は時代とともに急速に変化 平成25年度のアンケート調査では,インターネットの していくが,毎日同じ時間に登校し,夕方まで授業を受 利用状況から,非依存群よりも依存傾向群で,就寝時 け,部活動をして帰宅するといった生活スタイルは,長 刻・睡眠潜時・起床時刻・熟睡感・日中の眠気・活気に 年変わっていない。心身ともに健康で元気に中学校生 おいて有意な差が認められた。 活を過ごすためには,基本的な生活習慣を確立させる ことが大切である。正しい知識をもって,健康を意識した 2 研究目的 行動をとるようにさせたい。 㻌 睡眠について正しい知識を持たせ,健康を考えた生 加えて,24時間稼働の社会の中で,子どもたちが将 活を送ろうとする意欲や態度を育てる。行動変容には継 来どのような就業体系や生活スタイルを送ることになる 続的な指導が必要であるため,1年生から3年生まで系 かはわからない。また,それは自分の意志で選択できる 統立てた保健指導の方法の検討や内容の充実を図る。 ものとも限らない。睡眠がヒトの心身の健康に与える影 響は大きく,子どもたちが社会に出たとき,自分のその 3 研究方法 時々の生活スタイルに応じて,その中でよりよい睡眠を (1)全校生徒を対象としたアンケート調査の実施 とるよう心がけるような生徒を育てたい。 㻌 全校生徒を対象に睡眠に関するアンケート調査を実 施する。睡眠習慣に関する項目(ピッツバーグ睡眠質問 (2)昨年度までの取り組み 票の日本語版を生徒用に一部改変)に,疲労に関する 本校に赴任した当初から,保健室に来室する生徒を 項目(文部科学省:生活者ニーズ対応研究「疲労と疲 問診する中で,就寝時刻に課題があると感じていた。そ 労感の分子神経メカニズムとその防御に関する研究」班 こで,平成24年度に1,2年生を対象に睡眠に関するア 発表の問診票による疲労度自覚的調査を生徒用に一 ンケート調査をしたところ,学年が上がるにつれて睡眠 部改変),携帯電話(スマートフォンを含む)・LINE・メ 学校保健 — 108 — 【図3】何かをやり切るのに,やる気を持ち続けるのが 難しかったことはありますか? (2)授業実践 1年生と2年生の授業に,養護教諭がT.T.で 参加する。 (3)㈱日立社製のライフ顕微鏡(以下,ライフ顕 微鏡)による睡眠調査の実施 3年生を対象に,保護者の同意が取れた者にライ フ顕微鏡による睡眠調査を行う。 ールの使用状況に関する項目を加えて調査する。 1,2年生間で比較した結果,2年生は1年生に 比べて就寝時刻が有意に遅く(S),就寝時間 調査対象: も短かった(S)。また,熟睡感(S),日 1年生 2年生 3年生 調査人数 有効回答数 全体 男子 女子 全体 男子 女子 㻝㻝㻜 㻡㻢 㻡㻠 㻝㻜㻟 㻡㻜 㻡㻟 㻝㻝㻠 㻡㻡 㻡㻥 㻝㻝㻞 㻡㻠 㻡㻤 㻝㻝㻠 㻡㻥 㻡㻡 㻝㻝㻞 㻡㻤 㻡㻠 時期:平成26年6月~7月。 データ分析方法:学年間のデータの比較及びピッツ バーク睡眠質問票の結果の比較には,対応のない2 グループに対するW 検定を用いた。すべての統計処 中の眠気(S)において有意な差が認められた。 2,3年生間では,就寝時刻や起床時刻,睡眠時 間,熟睡感等すべての項目において有意な差は認め られなかった。 【表2】 A群(254名) B群(74名) t検定 理は,危険率5%未満(S)を有意水準とした。 就寝時刻 㻞㻟㻦㻟㻟 㻜㻦㻝㻝 㻨㻚㻜㻜㻝 起床時刻 㻢㻦㻠㻡 㻢㻦㻠㻢 㼚㻚㼟㻚 就寝時間 㻣㻦㻝㻝 㻢㻦㻟㻡 㻨㻚㻜㻜㻝 ピッツバーク睡眠質問票では,総得点が6点以上 で睡眠に障害ありとされる。6点以上の者は,74 (2)結果 【表1】就寝時刻・起床時刻・睡眠時間 平均 就寝時刻 起床時刻 1年生 㻞㻟㻦㻝㻠 㻢㻦㻠㻜 2年生 㻞㻟㻦㻡㻝 㻢㻦㻠㻢 3年生 㻞㻟㻦㻡㻥 㻢㻦㻠㻤 名と全体の22.6%であった。総得点が5点以下 睡眠時間 㻣㻦㻞㻡 㻢㻦㻡㻠 㻢㻦㻠㻥 【図1】よく眠れていますか? の者をA群,6点以上の者をB群とすると,就寝時 刻(S),睡眠時間(S)においてA群と B群の間で有意な差が認められた(表2)。 (3)考察 学年が上がるにつれて就寝時刻が遅くなり,睡眠 時間が短くなるのは,一昨年度,昨年度と同様の結 果であった。1年生が2年生にあがった際に,どれ だけ睡眠習慣を悪化させないかがポイントとなりそ うだ。1年生の早い時期に,睡眠の役割や心身の健 康との関係など知識的な部分をしっかり理解させる ことが大切であろう。 ピッツバーク睡眠質問票からは,約2割もの生徒 が睡眠に課題がある結果であった。元々,成人の睡 【図2】授業中や勉強中に起きていられなくなり 困ったことはありますか? 眠障害の有無を調べる質問票であるのに,中学生で 驚きの結果であった。睡眠に課題をもつ生徒が,ど のように生活を改善していけばよいのか,アンケー ト調査とすると個人を特定して保健指導をすること ができない。授業の中で,チェックシートとして利 用し,本人の睡眠習慣の振り返りや個人への保健指 導に生かすようにすると良いかもしれない。 今回,疲労度自覚的調査を加えたが,この調査は 成人向けに作成されているため,子どもにあてても — 109 — 学校保健 学 校 保 健 4 睡眠に関するアンケート調査から (1)調査対象,時期,データ分析方法 良いのかはまだわかっていない。大学との共同研究 を進める中で,今後他の学生グループで行われた調 査と比較し,本校生徒の特徴や健康課題を探ってい きたい。 夫を考えさせた。作戦が立てやすいよう,よい睡眠 をとるポイントをあらかじめ記載しておいた。 【図4】ワークシート ᴾ ᴾ ID 氏名 *最近一週間くらいの自分の睡眠習慣を振り返ってみよう。 5 授業実践 ①就寝時間は? ②起床時間は? ③睡眠時間は? 《授業実践1》 ④寝付きは良いですか? の上半分によい習慣を、下半分によくない習慣を書こう。 に改善やよりよい睡眠をとるための作戦を書こう。 GOOD☆ : : 時間 分 時間 良い ・ どちらかというと良い ・ どちらかというと悪い ・ 悪い (1)題材名・対象・時期 ⑤朝の目覚めは良いですか? 「ぐっすり睡眠でキラキラな生活!」 ⑥昼間、強い眠気を感じることはありますか? 良い ・ どちらかというと良い ・ どちらかというと悪い ・ 悪い 時間・時間帯 時間くらいの睡 ◎~ 眠時間 ☆よい睡眠のために☆ 準備 (2)学習目標 ・睡眠の必要性,重要性を理解する。 ◎就寝時刻、起床時刻が 毎日同じくらい などなど… 環境→寝心地良く ・自分の睡眠習慣を振り返り,よりよい睡眠をとる ◎薄暗い照明 ◎適温・適湿 ◎静かさ ◎自分の体にあった寝具 ◎自分にあった寝床 などなど… 就寝準備→リラックス状態に ◎心地よい香りをかぐ ◎軽い読書をする ◎静かな音楽を聴く ◎ストレッチをする ◎ぬるめのお湯で入浴する ◎深呼吸をする ◎歯みがきをする などなど… ための作戦を立てる。 (3)学習計画 (6)生徒の様子から 学習内容・活動 BAD# GOOD☆ 環境 BAD# BAD#を GOOD☆にするには? または、GOOD☆を増やすには? BAD#を GOOD☆にするには? または、GOOD☆を増やすには? BAD#を GOOD☆にするには? または、GOOD☆を増やすには? 時間・準備・環境に分けて考えさると,時間に関 指導・支援事項 導 1 本時の学習テーマを理解 ・睡眠時間の長さを意識させる。 する。 「一日の約1/3を占める時間っ 入 て何をしている時間でしょう?」 2 睡眠の役割について予想 ・睡眠の役割を考えさせる。 する。 「一日の1/3も使って,なぜヒト は眠るのでしょう?」 3 睡眠の役割について知る。 ・睡眠の役割(疲れをとる・成長ホ ルモンの増加・免疫力アップ・記憶 力アップ)を理解させる。 展 4 睡眠習慣について振り返 ・ワークシートを配布し,自分自身 の睡眠について想記させる。 開 る。 5 よい睡眠をとるためのポ ・睡眠のメカニズム,睡眠の質に関 イントを知る。 わるもの(睡眠時間・環境・就寝前 の準備)を説明する。 6 よい睡眠をとるためのポ ・よい睡眠についての具体例につい イントと,自分の睡眠習慣 て示す。 を照らし合わせ,よりよい 睡眠をとるための改善点を 探る。 7 就寝準備の一例として「リ ・薄暗い環境下でアロマミュージッ ラックス状態」を体感する。 クをかける。 することはほとんどの生徒がスムーズに書けていた が,準備と環境に関しては何を書けば良いのかわか らなかったり思いつかなかったりして記入しにくい 様子があった。 薄暗く静かな環境下でアロマミュージックを聴く 体験では,多くの生徒がリラックスした様子であっ た。 生徒のワークシートからは,自分の睡眠習慣をし っかりと振り返っている様子が伺え,睡眠の大切さ を感じ取った感想が書かれていた。 生徒のワークシートより一部抜粋 ・3分寝ただけでもすごく長く感じてリラックスで きたので,3分スマホをするのなら寝たいと思いま した。 ま 8 今日の学びや感想をワー ・睡眠は、健康に欠かせないことを 強調する。 と クシートに記入する。 GOOD☆ よくある ・ たまにある ・ あまりない ・ まったくない (第1学年,平成26年6~7月) BAD# ・普段実感はしていなかったけど,自分の就寝時間 と起床時間を書いてみると睡眠時間があまりとれて め いないことに気づいてとてもびっくりしました。 (4)資料・教材・準備 ・脳のためにも健康のためにも自分のためにも睡眠 ワークシート(図4),CD,スライド 時間を増やしたい。テスト勉強をしているときでも 気をつけたい。 (5)学習において工夫した点 ・寝ている間は意識がないので「寝ているのもった ・1年生では,睡眠のメカニズムや役割について正 いない」と思っていたが,睡眠が起きている間にも しい知識をもたすことを重視し,スライドで絵や図 関わってくるということで大切なんだなと本当に思 を見せながら説明の時間を長くとった。 った。 ・ワークシートでは,就寝時刻や起床時刻,寝つき ・睡眠が脳や体を休めたり,免疫力を高めたりする などの自分の睡眠習慣を振り返らせた上で,睡眠の ことに重要だということがわかった。また,これか 時間・準備・環境の3つの観点で自分ができている らは暑くて寝苦しい時期が続くと思うけど,自分で 「良い習慣」と「良くない習慣」を書き出した。そ 衣服などを調節して快適に寝られるようにいたいと れを受けて,改善点やよりよい睡眠をとるための工 思う。 — 110 — 学校保健 よりよい睡眠をとるための作戦(生徒の例) 《授業実践2》 (1)題材名・対象・時期 「睡眠から健康を考える」(第2学年,平成26 年12月) (2)学習目標 ・睡眠の必要性,重要性を理解させる。 ・よりよい睡眠には,時間だけでなく質も関係して いることを理解する。 ・自分の睡眠習慣を振り返り,よりよい睡眠をとる ためにできることを考える。 (3)学習計画 導 学習活動と主な発言 指導・支援事項 1 ある先生の「ある日の様 ・身近な人の睡眠時間に目を向けさ 入 子」を見て,この生活が続 せ,興味を高めさせる。 くとどうなるか発言する。 「これはみんながよく知っている 誰かのある日の様子です。さて誰で しょう?」 2 睡眠不足であることに気 ・睡眠不足がもたらす健康への影響 付かせ,睡眠の役割につい について予想させる。 て予想する。 「毎日この生活が続くとどうなる でしょう?」 展 3 成長期の中学生にとって, ・子どもの夜更かしが特に悪い理由 開 睡眠が果たす役割について を,睡眠のメカニズムから説明す 理解する。 る。「子どもは早く寝なさいってよ く聞くけど,なぜでしょう?」 4 大人も含め,ヒトにとって ・睡眠の役割をもう一度確認させ 睡眠は欠かせず,健康に深 る。「では大人は夜更かししていい く関係していることを理解 の?」 する。 5 睡眠がどれほどヒトの健 ・睡眠が体の健康,心の健康に大き 康を左右するのか,本当に く関係していることを説明する。 それほど重要なのかを予想 「夜更かししている大人や夜働い する。→睡眠の大切さを再 ている大人は少なくない。その人が 確認する。 皆病気になるわけでもない。睡眠は 本当にそんなに大切なの?」 (7)考察 1年生では,睡眠に関する基礎知識を持っていな い生徒が多数おり,睡眠のメカニズム等を説明する 際に用いた用語は難しかったかもしれない。 時間・準備・環境の3つの視点から考えさせたが, 準備と環境については未記入の生徒や勘違いした内 容を書いている生徒もおり,十分な理解に繋がりに くいと感じた。1年生の段階で睡眠の質にまで着目 6 睡眠時間だけでなく,質も ・睡眠の質に着目して快眠へのポイ 重 要 で あ る こ と を 理 解 す ントを示す。 る。 「“ぐっすり睡眠”にはコツがあ る!」 7 自分の睡眠習慣について ・ワークシートを配布し,自分自身 振り返る。 の睡眠について想記させる。 ま 8 睡眠が体の健康,心の健 ・睡眠は生き生きとした人生を送る 康に大きく関係しているこ 上で重要な役割を果たしているこ め とを理解する。 とに気づかせる。 ・その時々の生活スタイルに応じ て,よりよい睡眠をとる工夫が必要 であることを強調する。 と していると,初めて知る知識の量が大きくなってし まう。そのため,睡眠の質に関することは2年生で 詳しく学習することとし,1年生では睡眠のメカニ ズムや役割について時間をかけてわかりやすく説明 (4)資料・教材・準備 し,まずは知識理解に重点を置くことが望ましいと 考える。そして,心身の健康と睡眠の関わりについ 9 よりよい睡眠をとるため ・ワークシート記入の指示をして, に,今の自分ができること 回収する。 をまとめる。 ワークシート(図5),スライド て強調し,意識づける。1年生から2年生に学年が (5)学習において工夫した点 上がる際に,睡眠習慣が悪化していかないようにし ・「睡眠についての学習=早く寝なさいの指導」と たい。就寝時刻が知らぬ間に遅くなっていかないよ いった先入観を持たずに授業を受けてほしかったた うに,帰宅後から就寝までの過ごし方についても振 め,生徒には学習する内容を「元気に生活していく り返りながら,睡眠について考えさせていきたい。 ための学習」と伝え,「睡眠」というフレーズを出 — 111 — 学校保健 学 校 保 健 さずに授業に入った。 生徒のワークシートから一部抜粋 ・ワークシートでは,就寝時刻や起床時刻に加えて ・寝ている環境,寝具などはいいと思うけど,寝る 睡眠の質に関わる習慣についても細かく振り返りを 直前までスマホをいじったりするのは改善が必要だ させた。その上で,気づいたことや今の自分にでき と思いました。 ることを記入させた。 ・だんだんと受験に向けて生活リズムを整えていき ・就寝前の過ごし方として,スマートフォン等のデ たいなと思った。そのために12時までには寝よう ィジタル機器の使用が睡眠に与える影響について強 と考えた。 調して触れた。 ・できるだけ早く寝るように心がける。睡眠に対し ・睡眠不足や睡眠の質の低下がヒト(子どもに限ら ての意識・考え方を見直す。 ず大人にとっても)の心身の健康に及ぼす影響を伝 ・リラックスがあまりできていない。頻繁に眠気が えることで,睡眠の重要性を再認識させた。また, あるので,ちゃんと改善しないといけないなと感じ 病気の予防や健康の保持にとどまらず,健康の増進 ました。 のために,将来どんな就業体系,生活スタイルをと ・今までパソコンなどを寝る直前までしていること ることになってもその時々の状況に応じて工夫して が多かった。もっと早めに切り上げるべきだと確信 ほしい,生涯を通して意識してほしいということを した。 強調した。 【図5】ワークシート (7)考察 では初めての授業であった。そのため,睡眠に関す る基礎知識と睡眠の質について時間をかけて説明 し,睡眠習慣の振り返りをおこなった。発表や生徒 同士の交流,体験的な内容をほとんど取り入れなか ったために,生徒の反応が指導者に伝わりにくく, ワークシートから理解度などを読み取った。 ★自分の睡眠習慣を振り返って、気付いたことを書こう。 (良いところや改善が必要なところなど) ID 名前 *時間について*ᴾ ここ一か月のだいたいの・・・ 就寝時間( : 頃) 起床時間( : 頃) ᴾ *寝つき*ᴾ ( よい ・ どちらかといえばよい ・ どちらかといえば悪い ・ 悪い ) ᴾ *起床の様子*ᴾ ★今の自分にできることを考えてみよう。 ( すっきり起きられる ・ どちらかといえばすっきり (時間、寝るときの環境、寝る前の過ごし方などから考えてみよう) どちらかといえば起きづらい ・ 起きづらい ) *昼間の様子*ᴾ ( いつも元気・ たまに眠気がある・ 頻繁に眠気がある・ いつも眠たい ) ~睡眠の質に関わってくるもの~ *寝ているときの環境について*ᴾ 暗さ ( 真っ暗 ・ 薄暗い ・ 明るい ) 音 ( 静か・ まあまあ静か・ まあまあうるさい・ うるさい ) 温度や湿度 ( 快適 ・ 普通 ・ 不快 ) におい ( 快適 ・ 普通 ・ 不快 ) MEMO *寝間着*ᴾ 締め付けのきつい服や、着心地の悪い服、季節にあっていない服などで寝ていない? ( よい ・ 普通 ・ 悪い ) *寝具*ᴾ 高すぎる枕、掛け布団が重たすぎる、床が固くて起きたとき体が痛いなどないかな? ( よい ・ 普通 ・ 悪い ) *寝る前の過ごし方*ᴾ ・パソコンや携帯・スマホを寝る直前まで使っている? ( 毎日・週3~4回・週1~2回・使用しない) ・入浴はいつ? ( 寝る 時間前まで ・ 寝る ~ 時間前 ・ 寝る直前 ・ 起床後 ) ・寝る前にリラックスしている? ( している ・ どちらかといえばしている どちらかといえばしていない ・ していない ) 昨年度は2,3年生で授業をしたため,現2年生 ワークシートの「気づいたこと」「今の自分にで きること」の部分には「寝る直前までスマホを触っ ているので改善したい」という内容が1年生に比べ て圧倒的に多かった。睡眠習慣の振り返りを見ると, パソコンや携帯・スマホを寝る直前まで使っている 生徒は,「毎日」が4割,「週3~4回」が3割で あった。このことは,就寝時刻を遅くさせたり,睡 (6)生徒の様子から 眠の質への影響も懸念される。継続的な指導を行う 睡眠時の環境や就寝前の過ごし方等も含めて自分 ことと,2年生で既に7割の生徒が習慣的に就寝前 の睡眠習慣をしっかり振り返ることができていた。 に利用している状況から,1年生時の指導内容にも 睡眠の役割や時間に関することについてはある程度 盛り込む必要があると考える。 知識を持っていたようだが,就寝前の過ごし方や就 また,生徒の発言や交流する時間がほとんどなか 寝時の環境に着目したことはあまりなかったよう ったことから,質問などがあれば記入するよう言い で,説明の際には驚いた様子の生徒が多かった。 添えたところ,「コタツで寝たらダメと言われるの はなぜですか?」や「寝るときに音楽をかけていて, かけっぱなしなんですがいいですか?」などの質問 が書かれており,自分の生活を振り返り,見直そう とする姿勢が伺えた。中学校生活だけでなく,生涯 を通した健康について言及したことで,夜勤を伴う 仕事に就く家族を心配し,自分にできることはない かと尋ねる者もいた。自身の健康だけでなく,家族 の健康についても考えるような時間をつくっていけ ると良いだろうと考えた。 写真 睡眠習慣を振り返る生徒 — 112 — 学校保健 6 ライフ顕微による睡眠調査 の様子も聞きながら話を進めた。1月に結果を返す 関西福祉科学大学教授大川尚子氏,滋賀大学教育 ことで,受験前の健康管理も含めた指導を行うこと 学部講師大平雅子氏との共同研究でライフ顕微鏡 ができた。普段保健室にほとんど訪れない生徒に対 (図6)を用いた健康調査を行った。 しても個別の保健指導ができたことは,調査を実施 した収穫の一つでもある。 (1)方法・手順 今の自分の睡眠状態が実際どうなっているのかと 平成26年6月に3年生に「健康調査のお願い」 いうことを客観的な数値として見られることは,生 のプリントを配布し,養護教諭がクラスごとに生徒 徒の睡眠に対する関心度をさらに高め,任意であっ 向けに説明をした。ライフ顕微鏡による睡眠調査を たことにより自発的に自分の健康に目を向けるのに 希望する者は,保護者に同意書を記入してもらい, 効果的であったと考える。 提出する。 7月に保護者の同意が得られた78名の生徒を集 7 研究の成果と課題 アンケート調査を3年間続けて実施したことによ した。生徒は3日間ライフ顕微鏡を装着し,①睡眠 り,学年が上がるにつれて出てくる睡眠習慣の課題 時間中における覚醒判定の回数(中途覚醒回数), が明らかとなった。 ②睡眠時間から睡眠時間中に覚醒と判定された時間 健康を意識して生活するためには,正しい知識を を引きその値を睡眠時間で割った睡眠効率,③睡眠 もって,自分の生活を振り返ることがその第一歩と 時間以外における睡眠判定の回数(居眠り回数), なる。 ④動きが安静と判定されて他の行動に遷移すること 1年生では,今回睡眠習慣を振り返ってみて初め なく続いていると推定される時間(睡眠時間)を測 て自分の睡眠時間の短さに気づいた生徒もおり,睡 定した。 眠の役割や心身の健康との関連を理解することで 1月に身体測定の残り時間と休み時間や放課後を 「早寝早起きは体に良い」とよく聞くからなんとな 使って,一人ずつ保健室にて面談をした。測定結果 くそうだと思っていた生徒や,「睡眠は無意識の時 と睡眠についてのリーフレットを渡し,結果の説明 間」と考えていた生徒の睡眠への概念が変わったこ と保健指導を行った。 とがワークシートから伺うことができた。 【図6】ライフ顕微鏡 2年生では,自身の睡眠習慣についてじっくりと して見直すことができた。自身の健康だけでなく, 家族の健康を考えることもしていきたい。 振り返ることで,睡眠の時間だけでなく質にも着目 3年生では,任意の調査であったため,生徒の自 発的な興味関心のもと,調査と保健指導ができたこ とは良かったが,調査できない生徒が出てしまうと いうデメリットがあった。客観的なデータは説得力 があり,生徒の健康に対する意識向上や指導の効果 も期待できるため,授業内で指導できる方法を検討 していく余地がある。 (2)考察 子どもたちの健やかな成長と,生涯を通して体も 3年生は昨年度の授業で,自分が続けてできそう 心も健康に生き生きと過ごせることを願い,これか な「睡眠の質を高める工夫」を選び,実施して朝の らも健康教育の充実を図っていきたい。 目覚めや日中の眠気などについて記録し,一週間実 施した振り返りを行っている。保護者の同意が必要 参考文献 な調査であるため,119名中78名の生徒が任意 ・土井由利子ほか,ピッツバーク睡眠質問調 で調査を希望したことから,睡眠に対する関心度が 査日本語版の作成.精神か治療学 : 高いことが伺える。 ・大平雅子ほか,中学生におけるインターネ 結果を返却する際,養護教諭が一人ひとりと面談 して結果の説明と保健指導を行った。ほとんどの生 ット利用状況と睡眠習慣の関連.第 回近畿学校保 健学会 徒が大変興味深そうに説明を聞いていた。調査実施 から結果を返すまで期間が空いたので,最近の生活 — 113 — 学校保健 学 校 保 健 め,ライフ顕微鏡の使用方法等の説明を行い,配布
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