平成 18 年度整形外科年報

平成 18 年度整形外科年報
整形外科科長
安間基雄
平成 18 年度の業務目標をどう設定したか
本年より尐しずつ整形外科を充実させていくこととし、1)必要器材の充実、2)術式の刷新と統一、3)
後療法の簡素化、を本年の具体的目標としました。また周辺医療情報の調査と病院間連携を目的に「小田
原整形外科医会」に参加し、症例検討などの機会も持つことにしました。また日本整形外科学会・股関節
学会・骨折治療学会・人工関節学会・日仏整形外科学会などへは今まで通り可能な限り出張し、新しい知
見の集積に努めました。
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必要器材の充実
一月に赴任した時点で最も困ったことは、外傷とくに大腿骨骨折の整復をするための器材に不満があった
ことです。幸い私が今まで使っていたのとほぼ同型の、ミズホ医科器械製牽引手術台を導入して頂くこと
が出来ました。また現代整形外科医療の「眼」とも言うべきX線透視装置も絶命寸前の旧式機械でしたが、
こちらも国産機ではあるもののいちおう新品となり、術中オーバーヒートの危険性が減ったことは医療事
故予防の観点からも本当に良かったと思います。頻繁に用いるAO小骨螺子セットや骨把持鉗子なども充
実し、ようやく以前と同等の手術水準にもっていけるめどが立ちました。これらのハードウエア充実と平
行し、外傷医療機器メーカー「シンセス」と人工関節大手メーカー「ストライカー」の担当者とは大学関
連病院時代と同様に密な連絡をとるようにし、とくに事故情報などは迅速に収集する体制を整えました。
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術式の刷新と統一
私は大腿骨転子部骨折の内固定材を 2002 年以降髄内釘式の低侵襲手術である PFN(Proximal Femoral Nail)
に切り替えており、2004 年冬からはその発展型である PFNA(Proximal Femoral Nail Antirotation)を導入
していましたので、大腿骨頸部外側骨折の術式はこれに刷新することにしました。また大腿骨頸部骨折に
対しては 2003 年よりハンソンピンによる低侵襲骨接合術を第一選択とし、骨癒合が得られなかったり骨頭
壊死が出現した場合にのみ二期的な人工骨頭置換術を行ってきましたので、内側骨折の治療方針もこちら
で統一することにしました(この結果平成 18 年は比較的侵襲を伴う人工骨頭置換術が減尐し、わずか 1 例
となりました)。また近年の主流である低侵襲手術の一環として、MIPO(Minimal Invasive Plating
Osteosynthesis)なども導入し、下腿骨開放性骨折など通常の方法では骨癒合が得にくい症例で、とくに有
効な治療であることを実感しました。
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後療法の簡素化
術式が進歩するとそれに伴ってリハビリテーションも大きく変わります。症例数の多い大腿骨頸部骨折は
ほとんどが高齢者であるため、複雑な後療法は困難であり、実際の看護・リハビリの現場では後療法を簡
素化することが求められてきました。そこで今まで浦安で行ってきた実績もある、「手術翌日に特殊例を
除いて全荷重許可」を開始することにしました。これは手術翌日に私が患者さんを手伝って車椅子に乗せ、
激しい痛みなどがなければ看護師さんやリハビリスタッフにもどんどん車椅子へ移乗させてもらうという
ものです。この際に従来のような荷重制限がないため、現場でもかなり安心して離床させられるようにな
ったようです。こうした方針の変更は看護師さんの勉強会やリハビリカンファレンスなどを通してもお伝
えするようにしました。また週に一回は実際にリハビリ室で入院患者さん達のリハビリ進捗状況を拝見し、
現場のリハビリスタッフからの意見を尊重しつつゴール設定するようにしました。
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平成 18 年度手術統計
本年は総計 82 例の手術を無事行うことが出来ました。症例の内訳は下記の通りですが、この中には 3 例の
院内関係者も含まれており、この方々も含めて安全に手術を行えたことが最も嬉しいことでした。外来・
病棟・手術室・リハビリの各スタッフの方々に心からお礼を申し上げます。
大腿骨頸部骨折:25 例(うち内側骨折 11 例、外側骨折 14 例)
人工関節置換術:3 例(うち膝関節 1 例、股関節 1 例、人工骨頭 1 例)
大腿骨骨幹部骨折:1 例
肩関節周囲外傷:3 例
肘関節周囲外傷:3 例
前腕・手関節周囲外傷:4 例
膝関節周囲外傷:2 例(うち鏡視下手術 1 例)
手の外科・外傷:10 例
下腿・足関節周囲外傷:8 例
足部外傷:3 例
大腿切断:1 例
デブリードマン・異物除去:7 例
軟部腫瘍:7 例
拔釘術:5 例
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国際骨折治療コースのインストラクター合格
国際的骨折治療機関であるAOグループよりスイスで行われる骨折治療コースのインストラクター公募が
4 月にあり、杉田理事長とも相談の上、試験を受けてみることに致しました。書類選考と電話による英語
審査の結果、日本人には一人しか割り当ての無かった上級コースインストラクターに幸運にも合格するこ
とが出来ました。その結果、12 月にスイスで行われたコースで、各国の医師に指導・討論する場が与えら
れ、大いに啓発されました。こうした会に参加することは、長い目で見れば最良の医師リクルート手段に
もなり得ますし、とかく井の中の蛙に陥りがちな地方勤務医にとってはとても有意義なことだと思いまし
た。ご理解頂きました関係者の方々に心より感謝致します。
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平成 19 年度業務目標
今年度は今後整形外科治療を行っていく上での基礎固めを行った年でした。続く平成 19 年度の業務目標と
しては、1)年間手術数 100 件突破、2)医師確保と業務内容の見直し、3)学会発表、です。手術件数
だけが必ずしも病院の活動性を示すものではありませんし、保存的治療にも進歩の余地があるのは言うま
でもありません。しかし病院の評判が上がれば手術件数が増えるのは一般的傾向であり、まずは手術 100
件を突破したいところです。2)に関しては要するに整形外科を 3-4 人体制まで補強したいということで、
最低 2 人の人員が確保できない状況では日本整形外科学会研修施設にも申請できません。3)の学会発表
ですが、現時点での当院整形外科には学会で発表するほどの症例数がありません。しかし学会発表があま
りに長期間行われていないと、将来研修施設として研修医を募集する際にも問題ですし、若い医師のリク
ルートにはある程度の学際的雰囲気が必要です。なんとか新たな切り口で「ネタ」を探そうとは思います
が、当面は私の今までの症例を使って「日本における最小侵襲外傷手術」というような演題で、どこか小
さな国際学会ででも発表できないものか検討中です。来年度もあわてずにじっくり進歩していけるよう努
力して参ります、病院各部署の皆様のご支援・ご協力をお願い申し上げます。