沖縄県那覇市における 中学生の食環境(食料品店舗数)が栄養素摂取量に及ぼす影響 Influence of food environment surrounding junior high schools on nutrient intake of students in Naha, Okinawa 医学系研究科公共健康医学専攻 (老年社会科学分野) 伊藤 真理、斎藤 民、甲斐 一郎 2009. Dec. 16th. Background(1):子どもの肥満 「今世紀最も深刻な 公衆衛生の課題の一つ」 (WHO:Childhood overweight and obesity) 子どもの肥満の問題点 成人後も肥満のままでいる可能性 若くして生活習慣病に発展、障害持つ可能性 早世の可能性 子どものうちに肥満防止対策! Background(2):子どもの肥満を引き起こす要因 食環境(food environment)と肥満との関連 【欧米】 ファーストフード店(FFS)利用 エネルギー、総脂肪摂取量の増加 食物繊維、果物・野菜の摂取量減少 (Bowman SA,et al. 2004、 French SA,et al. 2001、Schmidt M, etal. 2007) FFSやコンビニエンスストア(CS)へのアクセスの良さ 地域住民の食生活は不健康で肥満レベル高い(Larson, 2009) 【日本】 CS利用 購入食品数が多いほど食物繊維の摂取量が減少(佐々木ら 2000) CS利用の食事は脂質割合高く肥満リスク (宮腰他, 2008) 日本には食環境と肥満の関連を見た研究がない Background(3):沖縄県の子どもの肥満 成人の肥満者割合日本一 (政府管掌健康保険事業運営懇談会資料) 子どもの肥満も深刻 10歳女児の体重は過去50年間で全国平均を逆転 肥満児童割合は全国平均よりも約5ポイント上 (崎原、2005) 人口当たり全国一のFFS数 FFS含む外食産業数も全国平均より上回る (岩間ら、2006) しかし、食環境要因と子どもの体格、健康状態に関する 研究はない Objective 那覇市内の中学校周辺の食環境を確認し、 中学校周辺の食料品店数と 生徒の栄養素摂取量との 関連を検討 (学校周りの食環境=FFSやCSの数=と、栄養素摂取量に関連はあるのか?) Methods(1) 那覇市内公立中学校の食環境 食環境データ 中学校、FFS、CSをリストアップ、座標値(経度緯度)取得 (県教育委員会データ、NTT電話帳、Yahoo!電話帳、マピオン電話帳、 CSVアドレスマッチングサービス:東京大学空間情報科学研究センター) ⇒中学校 17校 ※分校を除く FFS 25店:大手ハンバーガーチェーンA、B社 フライドチキンC社、県内ハンバーガーチェーンD社 CS 104店: 全国展開する大手3チェーンE、F、G社 Methods(2) 那覇市内公立中学校の食環境 空間解析 地理情報システム(GIS)、ArcGIS9.2 Desktopを使用 沖縄県地図に那覇市内の中学校、FFS、CSをマッピング 中学校を中心に半径400m、800mの円を描き、 円内の各店舗数を集計 ※半径400m⇒徒歩5分圏、半径800m⇒徒歩10分圏 (Western Australian Planning Commission 2000、Pikora 2002, 2006) Methods(3) 那覇市内公立中学校の食環境 Methods(4) 那覇市内公立中学校の食環境と生徒の栄養素摂取量 栄養素摂取量データ:対象と調査方法 「H17年沖縄における小中学生の健康調査報告書」 厚生労働省科研費による研究班が実施した大規模調査の一部 那覇市公立中学校17校(分校1校を除く公立中全校) 自記式簡易版食事歴法質問調査票(BDHQ)使用 生徒6369人(有効回収率62.8%) Methods(5) 那覇市内公立中学校の食環境と生徒の栄養素摂取量 測定項目 1)栄養素摂取量データ:脂質、総食物繊維(エネルギー調整値) ※個人データではなく学校単位のデータ 2)食環境データ:①で作成した全県地図から那覇市分を抽出、利用 3)国勢調査データ(平成12年):社会経済的要因の調整変数を算出 ※完全失業者割合: 〔完全失業者(15-64歳男女計)/労働力人口(15-64歳男女計)〕×100 ※高学歴者割合: 〔短大・高専卒業者(15歳以上男女計)+大学・大学院卒業者(15歳以上男女計) /〔人口総数(男女計)-15歳未満人口(男女計)〕×100 Methods(6) 那覇市内公立中学校の食環境と生徒の栄養素摂取量 データ解析 独立変数 半径400m、800m内のFFS、CSの数、社会経済的要因 従属変数 エネルギー調整済み脂質、総食物繊維の摂取量 ※Spearmanの順位相関係数を算出 ※社会経済的要因を各調整変数とする偏順位相関係数を算出 ※いずれも有意水準10% ※統計パッケージはSAS Ver9.1を使用 那覇市内公立中学校の食環境と生徒の栄養素摂取量 Results(1) 那覇市内の公立中学校から半径400m、800m以内にあるFFS、 CSの店舗数と総食物繊維摂取量の相関 半径400m内 相関係数 p FFS -0.46 0.06 CS 0.28 0.27 完全失業者割合 -0.40 0.11 高学歴者割合 0.57 0.02 半径800m内 相関係数 p 0.04 0.87 0.00 1.00 -0.62 0.01 0.52 0.03 那覇市内公立中学校の食環境と生徒の栄養素摂取量 Results(2) 那覇市内の公立中学校から半径400m、800m以内にあるFFS、 CSの店舗数と脂質摂取量の相関 半径400m内 相関係数 p FFS 0.20 0.44 CS -0.15 0.56 完全失業者割合 0.16 0.53 高学歴者割合 -0.02 0.95 半径800m内 相関係数 p 0.07 0.80 -0.28 0.28 0.16 0.55 0.06 0.83 那覇市内公立中学校の食環境と生徒の栄養素摂取量 Results(3) 那覇市内の中学校から半径400m、800m以内にあるFFS、CS の数と脂質、総食物繊維摂取量の社会経済要因を調整した偏相関 <完全失業割合を調整した偏順位相関係数> 半径400m内 総食物繊維 脂質 相関係数 p 相関係数 FFS -0.44 0.09 0.18 CS 0.34 0.19 -0.17 <高学歴者割合を調整した偏順位相関係数> 半径400m内 総食物繊維 脂質 相関係数 p 相関係数 FFS -0.45 0.08 0.20 CS 0.32 0.23 -0.15 p 0.50 0.54 p 0.46 0.57 那覇市内公立中学校の食環境と生徒の栄養素摂取量 Discussion(1) <FFS> 半径400m内の店舗数と総食物繊維摂取量 ⇒負の相関(p<0.10) 半径800m内の店舗数と脂質、総食物繊維摂取割合 ⇒いずれも相関なし 先行研究 FFを食べる子ども・大人は食べない人より ⇒エネルギー・脂肪摂取量が増加 食物繊維(果物・野菜)が摂取量が減少 (Bowmanら 2004、 Paeratakulら 2003) 本研究の結果 FFS数と総食物繊維摂取量との関連、先行研究と同じ傾向 那覇市内公立中学校の食環境と生徒の栄養素摂取量 Discussion(2) <CS> 半径400m、800m内ともに 店舗数と脂質、総食物繊維の摂取量に相関なし 本研究の結果 CS店舗数と栄養素摂取量との関連は見られず ☆地域でのCSの役割が日米違う? (例:陳列物や利用パターンの差) ☆対象学校数が少なく、分散も小さい ⇒差を検出できなかった可能性も Limitation 個人レベルのデータではない ⇒交絡要因の調整が不可能 対象学校数少なく、栄養素摂取量の分散も小さい ⇒検出力弱い 有効回収率62.8% ⇒セレクションバイアスの可能性 本研究の結果は 食環境と栄養素摂取量との間の関連についての 可能性を示唆するにとどまる Future tasks 個人データ(栄養素摂取量やbody mass index、食習慣等)と 詳細な食環境要因を組み合わせた緻密な検討が必要 FFS、CSの利用形態(頻度・購入品目、量)や食習慣について 調査実施を計画、市町村と交渉中 ⇒食環境との関連を検討 本研究の発展により、エビデンスに基づいた食育推進計 画をはじめとする地域政策立案や取り組みが可能 Conclusion 中学生の栄養素摂取量と食環境の関連を見た国内初の研究 那覇市の公立中学校の食環境と 生徒の栄養素摂取量 半径400m内のFFS数と総食物繊維摂取量 ⇒有意な負の相関 社会経済的要因で調整しても有意 半径800m内の食品店舗数と栄養素摂取量に相関なし Acknowledgments 本研究は以下の助成を受けた研究の一部である。 やずや食と健康研究所(2007年度) (社)日本女子大学教育文化振興桜楓会(2008年度) 東京大学AGS研究会(2008年度) 以下の皆様よりご協力、ご指導をいただきました。感謝申し上げます。 沖縄県健康増進科、沖縄県教育庁の関係者の皆様 稲福恭雄・沖縄県衛生環境研究所長 等々力英美准教授、大屋祐輔准教授、高倉実教授(琉球大学医学部) 佐々木敏教授(東京大学医学系研究科社会予防疫学分野) 森克美技官(東京大学医学系研究科生命倫理・健康増進科学分野) 中村健太郎・超次元空間情報技術株式会社技術部マネジャー 古橋大地特任研究員(東京大学空間情報科学研究センター)
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