論文要旨

様式 3
学 位 論 文 要 旨
研究題目
(注:欧文の場合は、括弧書きで和文も記入すること)
Two randomized controlled studies comparing the nutritional benefits of branched-chain amino acid
(BCAA) granules and a BCAA-enriched nutrient mixture for patients with esophageal varices after
endoscopic treatment.
(食道静脈瘤治療患者に対する BCAA 顆粒製剤と BCAA 高含有経腸栄養剤の栄養学的効果を比較し
た2つの無作為試験)
兵庫医科大学大学院医学研究科
医科学専攻
器官・代謝制御系
肝胆膵内科学(指導教授
西口修平 )
氏 名
坂井 良行
食道静脈瘤は肝硬変の合併症であるため、本症の治療を要する患者の多くは蛋白・エ
ネルギー低栄養状態(PEM)に陥っている。食道静脈瘤からの吐血時の止血や予防的治
療として内視鏡的食道静脈瘤硬化術(EIS)や内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL)が行わ
れている。これらの治療時には食事摂取が制限されるが、処置後の絶食期間が肝硬変の
PEM を悪化させる可能性が高い。なぜなら肝硬変患者における 12 時間の絶食後には健康
成人での2~3日の絶食に相当する低栄養状態に陥るとされているからである。さらに、
食道静脈瘤に対する内視鏡的食道静脈瘤治療は一般的に入院期間が 2 週間から 4 週間で、
2~3 回の内視鏡的治療がおこなわれる。治療日は絶食が必要で、治療部位に潰瘍ができ
るため、その後も食事制限が続く。このため、一連の内視鏡治療は肝硬変患者に対する
栄養状態や肝予備能に対する増悪因子となっている。たとえば、身体計測データにおい
て、治療前後で体重、body mass index (BMI)、triceps skin folds (TSF)、arm muscle
circumference (AMC)の有意な低下が生じ、3ヶ月後でもこれらの異常が継続することが
報告されている。この結果から、治療後は長期にわたり栄養障害が遷延すると考えられ
る。このため、食道静脈瘤治療に伴う栄養障害に適した、栄養状態および肝予備能の維
持改善のための栄養学的な治療介入が必要である。
肝硬変患者に対する BCAA 顆粒製剤や BCAA 高含有経腸栄養剤の有用性について多く
の報告があるが 、内視鏡的食道静脈瘤治療時のこれらの製剤の有用性を検討し、比較し
た報告は少ない。今回、申請者は食道静脈瘤治療時の最適な栄養補充療法を検討するた
めに、2 つの研究を行った。研究 1 では、従来の検査後食と、カロリーのみの補充群、
BCAA とカロリーの補充群の3者を、研究 2 では、BCAA のみの補充群と BCAA とカロ
リー補充群の2者を比較した。つまり本試験では肝硬変患者に対する絶食を中心とした
侵襲時における栄養療法において、BCAA の補充だけでいいのか、カロリーの補充だけ
でいいのか、BCAA とカロリーの両者の補充が必要なのかを前向きに検討した。その結
果、食道静脈瘤治療に伴う栄養障害への対策として、BCAA とカロリーを共に補充すべ
きであると考えられた。