「技術専門校で思う事」 やきもの図案科 白川三枝 私 は 以 前 グ ラ フ ィ ッ ク デ ザ イ ン と マ ー ケ テ ィ ン グ の 仕 事 を し て お り ま し た 。 20 代 の 頃は前衛的なアートが好きで、日本より欧米に憧れていた気がします。そんな考えが 変ったのはロンドンヘの初めての一人旅がきっかけでした。ヨーロッパの人々は日本 の文化をとてもリスペクトしていました。浮世絵や日本画、茶の湯。陶磁器や蒔絵と いった伝統工芸などあげればきりがありません。にもかかわらず、私は彼らよりも日 本の文化について無知でとても恥ずかしく思いました。日本に戻ってから少しずつ興 味を持つようになりました。 日本の伝統工芸に関わる仕事がしたいと、漠然と思っていましたが、実際に行動を 起こしたのは昨年でした。きっかけは勤めていた会社がヨーロッパの企業に買収され てしまった事でした。品質よりもコストが重視され、会社の方針が大きく変わりまし た 。 10 年 以 上 勤 め て い た 会 社 で し た が 、 一 瞬 に し て 今 ま で 積 み 上 げ て き た も の が 崩 れ ていくようでした。今度こそは伝統工芸の技を身につけよう。絵を描くのが好きだっ た の で 焼 き 物 の 絵 付 け 職 人 を 目 指 そ う 。と 思 い ま し た 。優 美 で 繊 細 な 清 水 焼 が 好 き で 、 迷わず京都府陶工高等技術専門校の図案科を選びました。 入校し4ヶ月が過ぎようとしています。紙の上で描けた絵が器の素地にはうまく描 けません。定規に頼らず真っ直ぐな線を引いたり、呉須という絵の具の濃度を調節し たり、自分の目や筆先で感じることがとても重要なのですが、なかなかうまくいきま せん。そういえば会社にいた頃は、自分の感覚よりもデータや数字が重視されていま した。数字の裏づけのない自分だけの感覚には価値はありませんでした。パソコンを 使えば垂直の線も色の濃度の調節もマウスをクリックするだけで簡単にできてしまい ます。データや機械に頼り、何かを感じる人間本来の力を重視していなかった気がし ます。 器には一対一で、自分ひとりで向き合わなければなりません。誰も助けてくれませ んしマニュアルもプログラムもありません。先生に教えて頂いたことを素直にひとつ ひとつ積み重ね、感覚を自分のものにするしかありません。以前早く仕上げようと焦 っていい加減な作業をしてしまった課題がありました。焼き上ったものを見た時、本 当に後悔しました。何の為にこの専門校に来たのか。課題をこなす事は目的ではなく 過程であり、技術を確実に身につける事が大事だと反省しました。作業に追われると つい疎かになりがちですが、当り前のことが、当り前に出来るよう、これからも日々 精 進 し て い こ う と 思 い ま す 。 5 年 後 、 10 年 後 も こ の 気 持 ち を 持 ち 続 け ら れ た な ら 職 人 として生きていけるのではないかと思っています。
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