第5章 骨格系

第5章
骨格系
こっかく
骨格系 skeletal system は、体を支えるとともに、骨格筋が付き運動するための器官として使われ、さらに
脳や心臓などを保護する働き、血球などを形成する機能、カルシウムなどを貯蔵する働き、などがあります。
ほね
骨格系の構成単位は骨です。ヒトの場合には二百数個の骨が存在します。骨は、線維性結合組織で互いに連
結されて骨格を形成します。
骨格系は、ヒトが生命を維持し、重力に逆らい直立位を維持し、地球上を動きまわるためには欠かすことが
できないものです。
こっせつ
のうそっちゅう
最近では、ヒトの寿命が延び、高齢者で骨がもろくなり骨折がおこりやすくなり、脳 卒 中とともに骨折は
高齢者を寝たきりにさせる大きな原因となっています。
第1節
骨の形成と成長
ちゅうはいよう
骨 bone は、発生学的には中 胚 葉性由来の器官です
骨の長さの成長は、骨端板に存在する骨端軟骨でホル
が、骨の形成には系統発生に対応して二種類の方法があり
モンなどの働きで軟骨細胞が増殖し、増殖した軟骨組織が
ます。
骨組織に置き換わることで骨が成長します(図5-5)。そ
かんよう
胎生期に、幼若な結合組織(間葉)から骨が形成されるも
まくせいこつ
して、骨幹の中央部から骨端板が遠ざかることに因ります。
のは膜性骨(付加骨)と呼ばれます。膜性骨は、軟骨組織を
骨端板での軟骨組織が消失し、完全に骨組織に置き換わ
経由せずに、間葉から直ちに骨組織が形成され、エビや
ることで、骨端線 epiphysial line になると、骨の成長
カニなどの殻のように、体の表層に存在する外骨格となり
は止まります。
から
ます。
こつまく
一方、骨の太さの成長は骨膜 periosteum の深部に存
しようしなんこつ
もう一つは、間葉からまず硝子軟骨による骨の原型が
作られ、この軟骨組織が二次的に骨組織に置き換えられ
在する骨芽細胞が担います。
骨の形成が続く時期には、髄腔に面した骨組織に
はこつさいぼう
きぞん
ずいくう
るもので、軟骨性骨(置換骨)と呼ばれます。軟骨性骨は、
破骨細胞が現れて、既存の骨質を破壊・吸収し、髄腔
体の深部に存在し、内骨格ともいわれます。
medullary cavity を拡大することで骨組織が一定以上
軟骨性骨の場合には、軟骨組織で形成された骨の原
こつがさいぼう
せっかいか
に厚くならないように調整されています。
型の中央付近で骨を形成する骨芽細胞が出現し、石灰化
長骨の成長はホルモンなどで調節されています。幼児期
した軟骨組織を骨組織に置き換えます。骨芽細胞が仕事
で一番大切なものは成長ホルモン growth hormone や
を始める部位は一次骨化点 primary ossification center
インスリン様増殖因子 insulin-like growth factor です。
と呼ばれ、胎生期の第五週から第十二週の間に出現しま
これらは骨端軟骨で軟骨細胞の増殖を促進します。さら
す。この骨化の過程は出産の時期まで進行し、軟骨組織
に甲状腺ホルモン thyroid hormone やインスリン
の端近くまで進みます。
insulin も骨の成長を促進します。また、思春期になれ
たいせいき
多くの場合、出生後、拡張した骨の両端を作る硝子軟
骨に新しい骨化点が出現し、骨を形成し始めます。この
ししゅんき
ば、エストロゲン estrogen やアンドロゲン androgen
が重要な役割を担います。
部位を二次骨化点 secondary ossification center と呼び
ます。
また、骨に負荷や歪みを起こす運動などによって骨の形
成は強まります。
こっかん
一次骨化点から作られた骨(骨幹)と二次骨化点から形成
こったん
さらに、骨の成長や形成には、骨の材料となるカルシ
された骨(骨端)とは、多くの場合、二十歳前後まで融合せ
ウムやリンなどの電解質とタンパク質、さらに強靱な膠原
ずに、両者の間には、硝子軟骨組織でつくられた骨端板
線維を作るために不可欠なビタミンCなどが必要です。こ
epiphysial plate が存在します。
れらが不足すると、骨の形成不全がおこります。
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【骨に関連した病気】
・ページェット病
ページェット病は、骨格に限定した病気で、骨の吸収の
・くる病
くる病は、幼児期において軟骨組織から骨組織への置換
亢進と新しい骨の形成の促進が認められ、骨が軟弱化し、
の障害が、活性型ビタミン D 3の不足やリン代謝の異常、
肥厚・増大することによって骨の変形がおこります。
カルシウム摂取の不足などによっておこり、骨形成不全
・骨粗鬆症
こつそしようしよう
を引き起こす病気です。
骨 粗 鬆 症は、骨組織の吸収と形成とのバランスが取れ
こつりよう
ぜいじやくか
ずに、骨小柱(骨 梁)の減少による骨の脆弱化が進行す
・骨軟化症
るもので、緻密質よりも海綿質が早く影響を受けます。
骨軟化症は、成人における骨の形成不全で、原因はくる
病と同じです。
第2節
骨の構造と機能
1.長骨の構造
2.扁平骨の構造
こつかん
へんぺいこつ
長骨では、一次骨化点から形成された部位を骨幹
こつたん
diaphysis と呼び、二次骨化点から作られた部分を骨端
epiphysis といいます。
がいばん
頭蓋骨を構成している扁平骨では、緻密質が外板と
ないばん
内板を形成し、その間に海綿質が存在しています。この
ばんかんそう
海綿質は、板間層 diploe と呼ばれ、若いヒトでは静脈
ぞうげ
長骨の表層には象牙のように硬く密な骨組織から作ら
ちみつしつ
こうし
が豊富に存在します。外板に比べて内板は骨折しやすい。
びくう
れた緻密質 compact bone があり、深部には格子状の
鼻腔に面した骨の内部には空洞があり、副鼻腔
かいめんしつ
海綿質 spongy bone が存在します。海綿質を構成する
paranasal sinus と呼ばれています。これは海綿質に大
骨質を骨小柱(骨梁)といいます。
きな凹みが生じたものです。
ずいくう
長骨の骨幹の内部には、髄腔 medullary cavity と呼
おうしょくこつずい
ばれる空洞が存在し、成人では黄 色 骨 髄(主として脂肪組
し
3.骨の働き
織)が大部分を占めています。長骨の骨端では、緻密質が
せつけつきゆう
はつけつ
薄くなり、海綿質の隙間には赤色骨髄(赤血 球 や白血
①脳や心臓などの柔らかい器官を保護する働き。
球 、血 小 板を産生)が存在します。
②背部や手、足などの深層で体を支える働き。
きゆう
けっしょうばん
さんせい
骨の外表面は、強靭な密性結合組織で作られた布のよ
こつまく
③骨格筋が付着する部位を提供。体肢の骨格筋では、近
き し
うな骨膜 periosteum が被っています。骨膜は骨に付着
位に付着する部位を起始と呼び、遠位の付着部位を停
していますが、膜として引張ることができます。骨膜の内
止といいます。そして、骨格筋が収縮すると、骨が動き
面には多数の骨芽細胞が分布し、骨芽細胞は骨の成長と
ます。
しゅうふく
骨折の修 復などに重要な役割を果たします。また、骨膜
④骨の内部にある赤色骨髄では、赤血球や白血球、血小
には毛細血管が豊富で、骨の栄養供給にも貢献し、骨か
板などを産生します(図3-61)。図5-12に示すように、
ら骨膜を取り除けば、酸素と栄養不足とで骨は壊死にな
赤色骨髄は、年齢が進むと、血球の産生ができない脂
ります。
肪組織に変わり、黄色骨髄となります。
もうさいけっかん
こうけん
え
し
かんせつなんこつ
骨端では骨膜は軟骨組織に変わり、関節軟骨が見られ
⑤無機質(カルシウム Ca, マグネシウム Mg, リン P な
ます。関節軟骨は、硝子軟骨から作られていますが、こ
ど)と塩素とを骨質に貯蔵します。そして、血液中のカ
こには血管や神経が分布せず、滑液から酸素や栄養をも
ルシウムやマグネシウム、リンなどが減少すれば、これ
らいます。
らの減少を補うために骨から動員されます。
かつえき
えいようこう
骨幹には、通常、小さな栄養孔が存在し、ここを通って
栄養動脈・静脈が髄腔に入ります。
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【骨肉腫】
骨肉腫は、10歳から25歳の若いヒトに、多く発症し、骨
芽細胞に由来する悪性腫瘍で、急速に進行します。60歳
以後の高齢者では、ページェット病から二次性に発病す
ることが多い。
図5-1 骨とカルシウムとの関係を示す
第3節
骨の連結
骨が連結することで骨格は形成されますが、骨の連結
3.滑膜性の連結(狭義の関節)
は、その方法に基づいて三種類に大別できます。
①構造
かつまくせい
かんせつ
滑膜性の連結 synovial joint(いわゆる関節)では、二
1.線維性の連結
くう
つの骨の間には関節腔 articular cavity と呼ぶ空洞が存
ほう
線維性の連結 fibrous joint では、二つの骨が膠原線
在し、直接、連結せずに、二つの骨は関節包 joint
維などの線維性結合組織によって連結し、運動は制限され、 capsule と呼ぶ布状の線維性の包みによってつながって
原則として可動性はありません。
とうがい
ほうごう
います。
とうしゃく
この連結は、頭蓋の縫合や、前腕における橈 尺靭帯結
とうこつ
しゃっこつ
けいひ
けいこつ
体の動きに伴って二つの骨の間で発生する摩擦は、骨の
合(橈骨と尺 骨との連結)、下腿での脛腓靭帯結合(脛骨と
表面の硝子軟骨で形成された関節軟骨で軽減されます。
腓骨との連結)などにおいて見られます。前腕および下腿
関節包の内面にある滑膜 synovial membrane は、滑
ひこつ
の骨間膜は布状の膠原線維束で形成されています。
かつまく
液(関節液)synovial fluid を分泌します。滑液は、二つ
まさつ
の骨の間の摩擦を軽減するとともに関節軟骨に酸素と栄
養を与えます。
2.軟骨性の連結
ある種の滑膜性の連結では、二つの骨に加わる力を和
軟骨性の連結 cartilaginous joint には、軟骨結合と線
らげるために、線維軟骨で形成された関節円板
維軟骨結合の2種類があります。
articular disc あるいは関節半月 meniscus が二つの骨
①軟骨結合
の間に存在しています。関節円板や関節半月は、関節包に
付着しています。
軟骨結合 synchondrosis は、二つの骨が硝子軟骨を
介して連結し、少し可動性があります。
◆滑液
へい
滑液は、二つの骨の間で生じる摩擦を軽減し、関節軟
代表例は、胸骨柄と胸骨体とを連結させる胸骨柄結合
です。
骨などに酸素と栄養を与えるものです。滑液は、透明ま
②線維軟骨結合
たは少し黄色がかった粘 着 性のあるアルカリ性の液体で、
ねんちゃくせい
滑膜から分泌され、滑膜から吸収されます。
線維軟骨結合 symphysis では、二つの骨が対置して
滑液の量や色、粘着性は関節によって異なります。成
いる骨表面は硝子軟骨で被われていますが、硝子軟骨の
間に存在する線維軟骨を介して二つの骨が連結するもので
分は一般的な組織(間質)液のものと類似していますが、
す。この連結は、軟骨結合に比べて一段と可動性が良く
さらにヒアルロン酸や糖タンパク質などが加わります。
なります。
②分類
ついかん
ちこつ
関節を形成する骨の形状に基づいて関節における動き
この結合には、脊柱での椎間結合や骨盤の恥骨結合な
どがあります。
の善し悪しが決まります。
関節は、動きの方向性の内容により、一軸性や二軸性、
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かいない
多軸性などに分類されます。
前腕の回内 pronation は親指を外側から内側にねじる
ちようばん
かいがい
一軸性(一方向性の運動のみが可能):蝶 番関節、
運動で、回外 supination は親指を内側から外側にまわ
しやじく
車軸関節
す運動です。
二軸性(互いに異なる方向の二方向性の運動が可能)
だえん
f)足での内反と外反
あん
ないはん
:楕円関節、鞍関節
がいはん
そくてい
足頚の内反は足底を内側に向ける運動で、外反は足底
多軸性(あらゆる方向の運動が可能):球関節
を外側に向ける運動です。
③関節の運動に関する用語
g)足での背屈と底屈
はいくつ
関節の動きを正しく表現し、記述するための用語があ
そくはい
かたい
足頚での背屈は足背を下腿の方に近づける運動で、
ていくつ
ります。
じゆうそくきゆう
底屈は足背を下腿から遠うざけ、縦 足 弓を曲げる運動で
す。
a)屈曲と伸展
くっきょく
屈 曲 flexion は二つの骨の間の角度を減少させる動
h)下顎の前突と後退
しんてん
かがく
きで、逆に、伸展 extension は二つの骨の間の角度を増
ぜんとつ
下顎には、前突や後退などの運動があります。
加させるものです。
b)外転と内転
がいてん
【関節の病気】
せいちゅうせん
外転 abduction は体肢が体の正 中 線から遠ざかる動
ないてん
・痛風
きで、内転 adduction は体肢を正中線の方に近づける
痛風では、尿酸ナトリウム結晶が関節や腱などに沈着し、
運動です。
炎症を引き起こすもので、激しい関節の痛みがおこりま
c)描円
す。痛風は、魚や肉類の過剰摂取で核酸の老廃物である
描円(分回)circumduction は上肢が円を描く運動です。
尿酸の産生量が増加することや、腎臓による尿酸の排泄
が悪くなることなどに因ります。また、血液中の尿酸の
d)回旋
かいせん
量が増えると、狭心症や心筋梗塞などに罹りやすくなり
回旋 rotation は位置を変えることなく軸に沿ってね
ないせん
がいせん
ます。
じる動きで、上肢と下肢とでは内旋や外旋があり、頭で
は右回旋や左回旋があります。
・関節リューマチ
関節リューマチは、滑膜の炎症を引き起こす病気で、滑
e)回内と回外
液の分泌の増加や関節軟骨の破壊、骨の腐食、腱・靱帯
以上の運動は一般的なもので、つぎのような特殊な運動
の損傷などが生じる、進行性の炎症です。
が存在します。
第4節
骨格の老化
老化現象は、骨を含むすべての結合組織に顕著な変化
そうしつ
として女性ホルモンの急激な減少があげられています。通
を引き起こします。骨組織からは、カルシウム塩の喪失や
常、女性ホルモン、特にエストロゲンは破骨細胞の分化
タンパク質の減少がおこります。骨や腱、靱帯、皮膚など
と機能を抑制し、骨芽細胞の機能を活発化します。
けん
でのコラーゲンの減少は、高齢者における体のかたさの
老化に伴う脊柱の変化は、身長の縮小としてあらわれま
原因ともなります。筋組織も成人になると減少します。
す。40歳頃からは、20年で脊柱の長さが約1.2 cm 短く
しかも、骨の維持に重要な役割を担う運動量が少なくな
なります。この要因は、椎間円板が薄くなることです。
ることも、これらの減少傾向を強めます。
また、肋軟骨が骨化し、可動性が悪くなるために、胸の
かれい
へいけい
加齢に伴う骨量の減少は、女性の場合では閉経後の数
こうしん
直径が2~3 cm 短くなります。
年間で骨量減少の速度がもっとも亢進します。この原因
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第5節
骨の分類
へんぺいこつ
骨は、骨の形状に基づき、長骨や短骨、扁平骨、不規
則骨などに分類されます。
体軸の骨格は、主として体腔の壁を形成し、保護の役目
があります。それに対し、体肢の骨は、体肢の骨格筋の
また、存在する部位により体軸の骨格と体肢の骨格と
作用に対する“てこ”の役割を担います。
に分けます。
第6節
体軸の骨格
とうがい
を通り、脊柱管から出ていきます。さらに、椎骨や脊髄
きようかく
体軸の骨格には、頭蓋を形成するもの、 胸 郭をつくる
せきちゆう
もの、脊 柱 を形成するもの、などがあります。
に分布する動脈や静脈が椎間孔を通過します。
②頚椎
頚椎は、脊柱の頚部を形成します。頚椎では、他の部
位では観察できない横突孔があります。第一頚椎から第
1.脊柱は椎骨で作られる
六頚椎の横突孔には、脳や脊髄の上部を養う椎骨動脈や
せきちゅう
たいこう
脊 柱 vertebral column とそれに付着して働く背筋群
椎骨静脈が通過します。椎体の上面の側縁には体鈎(鈎状
は、直立位(立位)というヒト固有の基本姿勢を保つ解剖学
突起)と呼ばれる突出部位が観察でき、上の椎体の窪みと
的構造として重要です。また、脊柱全体としては脊柱管
で滑膜性の連結(Luschka 関節)を形成します。
せきずい
くぼ
第一頚椎と第二頚椎は頭の回旋をおこなうために特殊
vertebral canal を形成し、脊髄を入れる容器を作りま
す。
かんつい
じくつい
な構造を示し、環椎および軸椎とも呼ばれます。
ついこつ
環椎には椎体がなく、指輪のような形をしています。環
ヒトの脊柱は、小さな椎骨 vertebra が連結して形成
こうとうか
けいつい
されます。通常、椎骨には、七個の頚椎と十二個の
椎の上関節面は、後頭骨の後頭顆と連結します
胸 椎、五個の腰椎、五個の仙椎(融合して一個の仙骨を形
(環椎後頭関節)。この関節によって、頭の前屈と後屈の運
成)、四個の尾椎(融合して一個ないし二個の尾骨にな
動(うなづき運動)が可能になります。
きょうつい
ようつい
せんつい
せんこつ
びつい
かんついこうとう
ぜんくつ
こうくつ
軸椎の椎体には、上方に突出した歯突起が見られます。
る)などがあります。
頭の回旋では、環椎が歯突起の周りを回旋します(正中環
①椎骨の一般的特徴
椎骨の一般的特徴としては、次のものがあります。
軸関節)。
第一頚椎を除く、全ての椎骨には、椎体があります。
③胸椎
ついたい
ろっこつ
ついかんえんばん
か
胸椎には肋骨と連結する窪みが、椎体の側面(肋骨窩)と
椎体は体重を支えます。上下の椎体は、椎間円板で連結
おうとつ
します。椎体の表層は薄い緻密質で形成されていますが、
横突起(横突肋骨窩)とに存在します。胸椎の棘突起は長く、
その内部は血管に富んだ海綿質で構成され、成人では最
下方へと曲がっています。
も活発な造血組織(赤色骨髄)が存在します。
④腰椎
ついきゅう
ようつい
椎 弓は、椎体から後方に突出した弓なりの構造物です。
ついこう
腰椎では、重い体重を受けるために、椎体や椎弓が極
椎体と椎弓とで脊髄を保護する椎孔を形成します。椎孔
端に太くなります。腰椎では、横突起と呼ばずに、横突
が重なり、脊髄を容れる脊柱管を作ります。
起と肋骨とが融合して形成されたもので、肋骨突起といい
おうとっき
椎弓からは、骨格筋の付着部となる左右二個の横突起
きょくとっき
ます。この棘突起は水平に後方に伸び、棘突起の間が広
せんし
と一個の棘突起とが伸びています。また、椎弓から上下
くなり、腰椎穿刺が可能になります。
の方向には、上関節突起と下関節突起とが伸びます。上
⑤仙骨と尾骨
せんこつ
下の関節突起は、滑膜性の連結(椎間関節)を形成しますが、
ぜんし
この連結は脊柱の過剰な動きを制限します。
をした骨です。前面には仙骨神経の前枝が通過する
上下の椎弓と椎体ならびに上下の関節突起によって囲ま
すきま
ついかんこう
せきずいしんけい
仙骨は、五個の仙椎が融合して形成された逆三角形の形
れた隙間は、椎間孔と呼ばれます。脊髄神経は、椎間孔
ぜんせんこつこう
前仙骨孔があり、後面には仙骨神経の後枝が通過する後
せんこつれっこう
せいちゅうせんこつりょう
仙骨孔や仙骨裂孔、正 中 仙 骨 稜などが観察できます。側
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かんこつ
じじょうめん
ろっかんげき
面には、寛骨と連結する耳状面が存在します(仙腸関節)。
こうかく
仙骨の上面(仙骨底)で最も腹側に飛び出た部位を岬角と呼
生体では、肋骨の間の肋間隙には、肋間筋が存在し、
完全にふさがり、胸郭壁を形成します。
きゅうき
びます。岬角と恥骨結合の後面とを結ぶ最短距離が、産
道で一番狭い部位となります。
いき
こ
き
胸郭は、吸気時(息をすう)に拡張し、呼気時(息をはき
出す)には縮小します。
びこつ
尾骨は、尾椎が融合して形成されたもので、一個ないし
せん
①胸骨
二個存在します。尾骨は、仙骨の先端(仙骨尖)に付き、骨
胸骨は、胸部の前正中線上に存在する扁平な骨で、
きょうこつへい
格筋や靱帯の付着部位となります。
けんじょうとっき
胸 骨 柄と胸骨体、剣状突起から構成されています。
胸骨体の内部には、成人でも赤色骨髄が残っております。
⑥椎骨の連結
ついかん
上下の関節突起で形成する椎間関節は、脊柱の過剰な
動きを制限します。
せん し
そのため、赤色骨髄の移植のための骨髄穿刺を実施する
部位です。
椎骨では、上下の椎体が椎間円板を介して連結し、椎間
結合を形成します。椎間結合は、体重を支え、脊柱の運
動に関係します。
胸骨柄と胸骨体とが結合する部位は角度を持っており、
きょうこつかく
胸 骨 角と呼ばれます。胸骨角の外側には、第二肋軟骨を
介して第二肋骨が付きます。
ずいかく
けいせっこん
椎間円板の中心部にはゲル状の髄核があり、周辺部に
は線維軟骨で形成された線維輪が存在します。
さこつ
胸骨柄の上縁には、頚切痕や鎖骨切痕(鎖骨と連結する
部位で胸鎖関節を形成)が見られます。
ぜんじゅうじんたい
椎体の前面には前 縦 靱 帯が付き、後面には後縦靱帯が
おうしょく
存在します。椎弓の間には、弾性線維が多い黄 色靱帯が
剣状突起の骨化の完了は、非常に遅く、多くの場合、
四十歳代に完了します。
胸骨は、吸気時には少し前方へ飛び出し、呼気時には
張ります。脊柱における負荷が少ない時には、黄色靱帯
が脊柱の屈曲状態から伸展へとの復元力を生みます。
後方に戻ります。
⑦脊柱の生理的弯曲
②肋骨
せいりてきわんきょく
とう
成人の脊柱には、生理的弯曲が観察され、頚椎と腰椎
けい
たい
肋骨には、肋骨頭や肋骨頚、肋骨体があります。
とつ
こう
とが前方に凸の弯曲を示し、胸椎と仙骨とは後方に凸の
肋骨体の下縁の内側面には肋骨溝が存在し、この溝に
弯曲を示します。この弯曲が直立歩行に重要な役割を担
沿って肋間神経や肋間動脈、肋間静脈が走行します。肋骨
います。
頭は、胸椎の椎体と連結します(肋骨頭関節)。また、肋骨
脊柱の生理的弯曲は、出生後の発育の中で完成されて
ろっかん
けっせつ
結節は、胸椎の横突起と連結します(肋横突関節)。
いきます。つまり、頭を持ち上げ、はいはいを始めると、
肋骨のなかで肋軟骨を介して直接に胸骨と連結するもの
しんろく
頚椎の弯曲が形成されます。その後、伝い歩きなどによ
を真肋(第一肋骨から第七肋骨)と呼び、直接に胸骨と連結
って歩行し始めると、腰椎の弯曲が作られます。
しないものを仮肋(第八肋骨から第十二肋骨)といいます。
椎体の変形によって、病的な弯曲がおこり、側弯や後弯
などが起こります。前屈みの強いヒトは、骨粗鬆症などに
かろく
第十一肋骨と第十二肋骨とは、その先端が胸骨と連結し
ふゆうろく
ないので、浮遊肋とも呼ばれます。
因る椎体の変形のためです。
肋骨体は、吸気の時には上方に持ち上げられ、呼気の
時には下方に下げられます。
【椎間板ヘルニア】
椎間板ヘルニアは、髄核が線維輪を突き破り、飛び出た
③呼吸で動く胸郭
いき
迫し強い痛みあるいはしびれが腰や下肢に発生します。
きゆう き
呼吸には、息を吸い込む運動( 吸 気)と、息を吐き出す
状態です。その際に、髄核が脊髄神経あるいは脊髄を圧
こ
き
運動(呼気)とがあります。
安静時における胸式呼吸の吸気では、肋骨が引き上げ
られ、胸骨が前に突き出し、胸郭の前後径が大きくなり
2.胸郭の骨格
ます。それに対して、呼気では、吸気で持ち上げられた肋
きょうかく
胸 郭の骨格は、カゴ状の構造を示し、12個の胸椎と
ろっこつ
ろくなんこつ
12対の肋骨、12対の肋軟骨、1個の胸骨から構成されて
骨が下がり、胸骨が後方に下がり、前後径が短くなりま
す。
います。
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ています。蝶形骨は、脳頭蓋の要で、これを構成するすべ
3.頭蓋の骨
ての骨と連結します。
とうがい
ほうごう
とうちようこつ
かがくこつ
かんじようほうごう
前頭骨と左右の頭 頂 骨は、冠 状 縫合で連結します。
維性の連結)によって強く連結していますが、下顎骨のみ
がくかんせつ
かん
脳頭蓋の上部は頭蓋冠となります。
頭蓋では、多数の骨(15種23個)が可動性のない縫合(線
し じようほうごう
は、顎関節で連結し可動性があります。
また、左右の頭頂骨は矢 状 縫合で連結します。さらに、
①顔面頭蓋
左右の頭頂骨は後頭骨とラムダ縫合で連結します。頭頂
顔面頭蓋を構成する骨の多くは、前方から観察するこ
とができます。これらの骨の主な働きは顔面の開口部
がんか
びくう
こうくう
(眼窩、鼻腔、口腔)を形成するとともに、これらを保護す
ることです。
じようがくこつ
こうがいこつ
きょうこつ
びこつ
顔面頭蓋は、一対の上 顎 骨や口蓋骨、頬 骨、鼻骨、
かびこうかい
るいこつ
しこつ
りんじようほうごう
骨と側頭骨は鱗 状 縫合で連結します。
ないとうがいてい
脳頭蓋の下部は内頭蓋底となります。内頭蓋底は脳を
ぜんとうよう
入れる容器の底を形成しますが、脳の前頭葉を納める
ぜんとうがいか
しようのう
れています。
左右の上顎骨が正中で融合し、上顎や眼窩の下壁を形
成します。上顎骨は、下顎骨を除く、すべての顔面頭蓋の
こうがい
の仕切である骨口蓋を形成します。
じょうがくどう
上顎骨の内部には、上 顎 洞と呼ばれる空洞が存在しま
す。上顎洞では、鼻腔と交通する穴が床から高い位置に
ふくびくうえん
あるため、慢性副鼻腔炎を起こしやすくなっています。
篩骨は、鼻腔の天井と側壁を作ります。鼻腔の側壁で
さいじよう び こうかい
観察される最 上 鼻甲介や上鼻甲介、中鼻甲介は、篩骨の
けいかん
一部です。篩骨の上面には、上方に突出した鶏冠があり
しばん
が付きます。鶏冠の外側に存在する篩板の孔(篩板孔)を
きゅうしんけい
嗅 神 経が通り、頭蓋腔に向かいます。篩骨の垂直板と鋤
こつびちゅうかく
骨とで骨鼻中隔を形成します。篩骨の内部にも、篩骨洞
と呼ばれる、多数の空洞が観察されます。
きようこつ
頬 骨は眼窩の外側壁を形成します。この骨の側頭突起
と側頭骨の頬骨突起とで頬骨弓を作ります。
るいこつ
涙骨は眼窩の内側壁を形成します。この骨には涙を眼
びるいかん
窩から鼻腔に運ぶ鼻涙管が存在します。
鼻骨は、小さな長方形の骨で、鼻根部を形成します。
か
がんか
ぜんとうどう
の内部には、前頭洞と呼ぶ空洞が観察されます。
頭頂骨は頭蓋の上部と側壁とを形成します。
(下鼻甲介)を形成します。
くぼ
かすいたいか
は、下垂体を収める下垂体窩があります。蝶形骨の
しょうよく
ししんけいかん し し ん け い
がん
小 翼には視神経管(視神経と眼動脈が通過)があり、小翼
たいよく
じょうがんかれつ どうがん
かっしゃ
がいてん
と大翼との間に上眼窩裂(動眼神経や滑車神経、外転神経、
せいえんこう
眼神経、上眼静脈などが通る)があり、大翼には正円孔
じょうがく
らんえんこう か が く
きょくこう
(上 顎神経が通過)や卵円孔(下顎神経が通る)、棘 孔
ちゆうこうまく
(中 硬 膜動脈・静脈が通過)が存在します。蝶形骨の内部
には空洞がみられ、蝶形骨洞と呼ばれます。
がいじこう
きょうこつとっき
側頭骨の側面には、外耳孔や頬骨突起があります。頬
骨突起は、頬骨の側頭突起とで頬骨弓を作ります。側頭
にゅうようとっき
けいじょうとっき
骨の下面には、乳様突起や茎状突起が見られます。乳様
突起の内部には、蜂の巣のような空洞があります。外耳
ちゅうじ
ないじ
へいこう
孔の奥には、中耳や内耳が存在します。内耳には平衡器
ちょうかく
官や聴 覚器官が入っています。中耳や内耳の近くには頚
動脈管が存在し、この管のなかを内頚動脈が通過します。
けいにゅうとつこう
茎状突起の近くに存在する茎 乳 突 孔を顔面神経が通過し、
頭蓋に出ます。側頭骨の内面には、内耳孔(顔面神経や
かぎゅうしんけい
ぜんていしんけい
めいろ
蝸牛神経、前庭神経、迷路動脈などが通過)が見られます。
後頭骨には大後頭孔があります。大後頭孔により脊柱
管と頭蓋腔とがつながります。大後頭孔の両側には、脊
こうとうか
ぜ っ か しん け い かん
後頭骨の舌下神経管を舌下神経が通過します。後頭骨の
とうがいくう
脳頭蓋は、脳を入れる頭蓋腔を形成します。
がいこうとうりゅうき
外表面には皮膚の上から触れる外後頭隆起があります。
そくとうこつ
脳頭蓋は、一対の頭頂骨と、一対の側頭骨、単独の
ちょうけいこつ
くら
面には窪みがあり、トルコ鞍と呼ばれます。トルコ鞍に
柱の環椎と連結する後頭顆が存在します(環椎後頭関節)。
②脳蓋
ぜんとうこつ
たい
蝶形骨は、脳頭蓋の中心となる骨です。蝶形骨体の背
び こうかい
下鼻甲介は、湾曲した薄い骨で、鼻腔の外側壁の下部
こう
前頭骨は前頭部(額)や眼窩の上壁を形成します。この骨
だいのうかま
ます。鶏冠には、左右の大脳半球の間に存在する大脳鎌
こうとうよう
は両者の中間に位置します。
しそう
左右の上顎骨の口蓋突起と口蓋骨とで、口腔と鼻腔と
のうかん
前頭蓋窩が一番浅く、後頭蓋窩が一番深く、中頭蓋窩
骨と連結します。上顎骨の歯槽突起の下縁には、上歯が
はいる歯槽が見られます。
ちゅう
小 脳を納める後頭蓋窩などに区分されます。
じょこつ
下鼻甲介、涙骨と、単独の篩骨および鋤骨などから構成さ
そくとうよう
前頭蓋窩と、側頭葉を入れる 中 頭蓋窩、脳幹や後頭葉、
こうとうこつ
前頭骨、単独の蝶 形 骨、単独の後頭骨などから構成され
外後頭隆起の正中部をイニオン inion と呼びます。
- 62 -
けいじょうみゃくこう
後頭骨と側頭骨とが結合する部位に頚 静 脈 孔(内頚静
ぜついん
ふく
脈や舌咽神経、迷走神経、副神経などが通る)が見られま
張し、過剰な開口を防止します。
す。
顎関節では、開口や閉口、前突、後退、左右への側方
移動などの運動ができます。
③下顎骨と舌骨
ぜっこつ
こうとう
関節包と外側靱帯などには、機械的受容器と侵害受容
舌骨は、下顎骨の下で、喉頭よりも約2 cm 上の前
じかい
こうきん
頚部に存在します。舌骨は、他の骨と連結せずに、靭帯
器が存在し、耳介側頭神経や咬筋神経の分枝、交感神経
で側頭骨の茎状突起とつながります。
の節後神経線維などが分布します。
かがくこつ
顎関節の外側部には浅側頭動脈からの血液が供給され、
下顎骨は、大きく太い骨で、左右の側頭骨と頭蓋で唯
がくかんせつ
内側部は顎動脈から供給されます。
一の可動性のある連結(顎関節)を形成します。
たい
下顎を形成する骨の部位を下顎体と呼び、この上縁に
【顎関節の脱臼】
しそう
は下歯を容れる歯槽が存在します。
口を大きく開けすぎ、下顎頭が関節結節を乗り越え、前
だつきゆう
し
下顎体の両端には、上方に伸びた下顎枝があります。
かく
下顎体と下顎枝とが合流する部位を下顎角といいます。
方に移動しすぎると、元に戻らずに脱 臼します。
【顎関節症】
下顎枝の上端には、側頭筋がつく筋突起と、顎関節に
顎関節症は、歯科の三大疾患の一つといわれているほど
関係する関節突起とが見られます。下顎骨の内部には下
多い。この疾患の始まりは、食事中などにガクンとした
顎管が存在し、この管のなかを下歯に分布する下歯槽神
感じで顎がひっかかることです。そのうちに口を開くた
経や下歯槽動脈・静脈などが通ります。
びに音がするようになり、しだいに口が開きにくくなり
か し そ う
下顎骨は乳幼児に硬い物を良く咬むと発達し、強い下
ます。症状がひどくなると顎の周囲の筋が痛くなり、頚
顎骨となります。一方、中高年で咬むことが少なくなる
と、早く下顎骨が退化し、歯が抜けやすくなります。さ
や肩の痛み、耳鳴りや頭痛という症状がでてきます。
⑤大泉門と小泉門
らに、歯が抜けると歯槽部がなくなります。
新生児の頭蓋骨は完成しておらず、前頭骨と左右の頭頂
骨との間には、骨が形成されずに線維性の膜状構造物が
④顎関節
がく
か が く か
顎関節は、側頭骨の下顎窩と下顎骨の下顎頭とで形成
か
される滑膜性の連結です。食べ物を咬むときに強い力が
だいせんもん
あり、大泉門と呼びます。また、左右の頭頂骨と後頭骨
しょうせんもん
との間の線維性の膜状構造物を小 泉 門といいます。
顎関節に加わるため、この関節腔には関節円板が存在し
ます。
小泉門は生後三カ月~六カ月ぐらいに閉じ、大泉門は
出生後一歳半から二歳ぐらいに閉じます。
ばいどく
この関節を維持するために、蝶下顎靭帯や茎突下顎靱
帯、外側靱帯などが存在します。外側靱帯は、開口時に緊
第7節
クレチン病やくる病、梅毒などの病気や発育障害によ
って大泉門の閉じる時期が遅くなります。
上肢の骨格
上肢の骨格は、手を自由に動かすことができるように
湾曲した骨で、皮膚の上から触れることができます。
鎖骨は、胎生の初期(第5週ぐらい)に骨化が始まります
作られており、体を支える機能や体を保護する働きはあ
りません。
が、手の動きに対応して形成されますので、骨の完成は二
十歳台の前半と遅いものです。
せっこん
きょうさかんせつ
鎖骨の胸骨端は胸骨の鎖骨切痕と連結し(胸鎖関節)、
1.上肢帯の骨格
けんぽうたん
けんさ
肩峰端は肩甲骨の肩峰と連結します(肩鎖関節)。
じょうしたい
たいじく
鎖骨は、上肢に加わった力を最後に受け止めるため、
上肢の骨格は、上肢帯によって体軸の骨格と連結します。
さこつ
けんこうこつ
上肢帯は鎖骨と肩甲骨とから構成されていますが、鎖骨
一番骨折を起こしやすい骨です。
のみが体軸の骨格と連結します。
②肩甲骨
肩甲骨は、逆三角形の扁平な骨で、肋骨の後方に存在
①鎖骨
鎖骨は、頚部の基部から肩にかけて存在するS字形に
しますが、肋骨とは連結しません。
- 63 -
けんこうきょく
肩甲骨の背側面では肩 甲 棘が後方に突出し、この上方
きょくじょうか
には棘 上 窩の窪みが存在し、下方には棘下窩が見られま
肩関節では、屈曲や伸展、内転、外転、内旋、外旋な
どの運動が可能です。
す。肩甲棘の外側端には肩峰があります。この骨の外側
肩関節の関節包の後部と上部には外側鎖骨上神経から
部には関節窩があり、その前上方には烏口突起が飛び出
の分枝が分布し、前下部領域には腋窩神経からの分枝が
しています。
分布、前上部には外側胸筋神経からの分枝が分布します。
③胸鎖関節
肩関節は、前上腕回旋動脈や後上腕回旋動脈、肩甲上
うこうとっき
きょうさ
胸鎖関節は、鎖骨の胸骨端と胸骨の鎖骨切痕とで形成
動脈、肩甲回旋動脈などの分枝から血液の供給を受けます。
されます。胸鎖関節は、上肢を伝わった力を最終的に受
肩関節だけの外転では、上腕骨は肩までの高さに止ま
け止める部位で、強い力が加わりますので、関節腔には
ります。さらに上腕骨を上方へと外転させること(挙上)が
関節円板が存在します。
できるのは、鎖骨と肩甲骨が動き、関節窩を上方に向け
胸鎖関節を運動の支点として鎖骨の肩峰端が大きく円を
ることで可能になります。
描くように動くことができ、そのために肩関節では大き
な運動が可能となります。
4.前腕の骨
胸鎖関節には、内側鎖骨上神経と鎖骨下筋神経からの
ぜんわん
分枝が分布します。
とうこつ
前腕には二本の骨があり、外側には橈骨が存在し、内側
また、この関節は、内胸動脈と肩甲上動脈からの分枝
によって血液の供給を受けます。
しやつこつ
には 尺 骨があります。二つの骨は、上橈尺関節や前腕骨
間膜、下橈尺関節で離れないようにつなげられています。
①尺骨
ちゅうとう
こうじょう
尺骨の近位端では、肘 頭(上腕三頭筋が付く)と鈎 状突
2.上腕の骨
かつしやせつこん
じょうわん
起との間に滑車切痕が見られます。また、鈎状突起の近
じょうわんこつ
そめん
上 腕には、一本の上 腕 骨のみが存在します。
けん
くには、尺骨粗面(上腕筋が停止)が存在します。
ちゅう
けいじょうとっき
上腕骨は、肩関節(かた)で肩甲骨と連結し、 肘 関節(ひ
じ)で前腕の骨と連結します。
きんいたん
遠位端には、尺骨頭や茎状突起が存在します。
②橈骨
だいけっせつ
上腕骨の近位端では、上腕骨頭や外科頚、大結節(肩関
橈骨の近位端には橈骨頭や橈骨粗面(上腕二頭筋の腱が
節の保護筋が停止)、小結節などが観察されます。骨体に
停止)などが存在し、遠位端には茎状突起があります。こ
は、三角筋粗面(三角筋が停止)や橈骨神経溝(橈骨神経と上
の茎状突起の表層で、橈骨動脈の脈を調べます。
さ ん かく き ん そ めん
とうこつしんけいこう
腕深動脈が走行)が存在します。
えんいたん
ないそくじょうか
遠位端には、内側上顆(前腕の浅層の屈筋群の起始が付
かっしゃ
5.肘関節
く)や上腕骨滑車(尺骨の滑車切痕とで腕尺関節を形成)、
ちゅうかんせつ
上腕骨小頭、外側上顆(前腕の伸筋群の起始が付く)、
肘 関 節は、上腕骨滑車と尺骨の滑車切痕とで形成され
ちゅうとうか
わんしゃく
肘頭窩などが見られます。
る腕 尺関節や、上腕骨小頭と橈骨頭とでつくられる
わんとう
腕橈関節、橈骨頭と尺骨の橈骨切痕とで形成される
3.肩関節
じょうとうしゃく
上 橈 尺関節などで構成されています。
けんかんせつ
肩関節は、肩甲骨の関節窩と上腕骨頭とで形成される
かんせつしん
球関節です。関節窩の縁には関節唇が見られますが、浅
肘関節の屈曲・伸展は腕尺関節でおこなわれますが、
前腕の回内・回外は上橈尺関節が関係します。
く、上腕骨頭を完全に納めることができない不安定な関
だっきゅう
上橈尺関節では、橈骨頭が橈骨輪状靭帯によって尺骨に
節です。そのために関節の周囲の骨格筋が、脱 臼の防止
固定されます。この関節は、前腕の回内や回外の運動の
に重要な役割を果たしています。
支点となります。幼児期に、手を強く引っ張ると、橈骨
ほう
けん
関節包のなかを上腕二頭筋の腱(長頭)が通過します。
輪状靭帯から橈骨頭が遠位に向かって抜けることがありま
肩関節を補強する靱帯には、関節上腕靱帯や烏口上腕
すが、この現象を一般に「腕が抜ける」といっています。
そくふく
靱帯があります。
肘関節では、外転や内転を制限するために内側側副靱
- 64 -
ちゅうしゅ
帯や外側側副靱帯が存在します。
手掌には5本の中 手骨があります。
しせつ
筋皮神経からの分枝が肘関節の前部に分布し、橈骨神
経からの分枝が関節の後部と前外側部に分布、尺骨神経
5本の指は指節骨で作られています。母指を除いて、
きせつ
ちゅうせつ
まっせつ
指節骨には、基節骨や中 節骨、末節骨などがあります。
からの分枝が内側側副靱帯に分布します。
中手骨は、遠位列の手根骨と手根中手関節で連結し、
肘関節への血液の供給は、肘関節動脈網からの分枝に
基節骨とは中手指節関節で連結します。
ぼ
因ります。
し
母指の手根中手関節を除き、残りの手根中手関節は、
共通の関節腔をもち、可動性が悪いものです。
中手指節関節は、顆状関節で、屈曲や伸展が可能です。
6.手の骨
また、伸展時には、内転と外転も可能です。ただし、母
手の骨には、8個の手根骨や5本の中手骨、14個の指
指の中手指節関節は、軽度の屈曲・伸展とわずかな内転
ができるのみです。
骨などがあります。
指節骨の間の手の指節間関節は、蝶番関節で、屈曲と
①手根骨
しゅけい
しゅこんこつ
手頚には、8個の手根骨が二列に並び、靱帯で連結して
きんいれつ
しゆうじようこつ
います。近位列には、外側から内側にかけて、 舟 状 骨、
伸展のみが可能です。
④母指の手根中手関節
とうじょうこつ
母指の手根中手関節は、独立した関節腔をもち、可動
月状骨、三角骨、豆 状 骨があります。遠位列には、
だいりょうけい
ゆうとう
ゆうこう
大 菱 形骨、小菱形骨、有頭骨、有鈎骨が存在します。
近位列の手根骨と橈骨は、橈骨手根関節で連結します。
だいりょうけい
性がよく、大 菱 形骨と第一中手骨底との間に形成される
ぼしきゅう
鞍関節です。この関節は母指球の深部に存在します。
くっきんしたい
第一手根中手関節での可能な運動は、屈曲と伸展、外
手根骨の前面は凹面(手根溝)を示し、屈筋支帯とともに
手根管を形成します。前腕からの腱や神経、血管などが手
転、内転、対立です。
根管を通過して、手 掌に向かいます。
【骨折の治癒】
しゅしょう
ち
ゆ
細い骨は、骨膜細胞や骨芽細胞の量にくらべて修復する
②橈骨手根関節
部分が少なく、治りが早い傾向があります。逆に、太い
橈骨手根関節は、橈骨と関節円板とで作られる窪みに、
骨は治るのに長くかかり、何週間もかかります。
手根骨の近位列の3個の骨(舟状骨と月状骨、三角骨)が形
ガールト氏は骨折の部位による平均治癒日数を表にし
成する凸面がはまって形成される連結です。
可能な運動は、屈曲と伸展、外転、内転です。
ました。この表によると、指骨では2週間、中手骨・中
この関節には、前骨間神経と後骨間神経からの分枝が
足骨・肋骨では3週間、鎖骨では4週間、前腕骨では5
週間、上腕骨・腓骨では6週間、上腕骨頚・脛骨では7
分布します。
橈骨手根関節は、前骨間動脈や橈骨動脈の掌側手根枝
週間、大腿骨では10週間、大腿骨頚では12週間ぐらいで
・背側手根枝、尺骨動脈の掌側手根枝・背側手根枝などか
治癒する、とされています。しかし、この期間は最も短
らの分枝によって血液の供給を受けます。
い骨折治癒期間で、実際にはもう少し長びきます。
③中手骨と指節骨
第8節
か
下肢の骨格
し
下肢の骨格の一般的な構造は、上肢の骨格と似ていま
す。脊柱からの体重を下肢帯は受け止め、大腿骨に伝え
ちょうこつ
ざこつ
ちこつ
すが、下肢の骨格は、体重の支えや体の移動(歩く、走
ます。成人の下肢帯の骨は、腸 骨や坐骨、恥骨が
る)などに適した構造に変化します。
寛 骨 臼で思春期頃に融合し、一つの骨である寛骨となっ
かんこつきゅう
かんこつ
たものです。
腸骨は、腹腔の下部の側壁を形成します。腸骨の上縁
1.下肢帯の骨格
りょう
きょく
を腸骨 稜 (上前腸骨 棘 から上後腸骨棘の間)と呼び、後部
か し た い
下肢の骨格を体軸の骨格につなげるのは下肢帯の骨格で
だ い ざこ つ せ っ こん
には大坐骨切痕があります。
- 65 -
けっせつ
坐骨には、座位の時に体重を支える坐骨結節が存在し
ざこつきょく
ますが、体幹や上肢の体重がすべてこの関節に加わります
ます。坐骨棘 ischial spine は坐骨結節の上方に存在し、
ので、強い安定性が求められ、ほとんど可動性がありま
靱帯などが付着します。坐骨棘の下方には、小坐骨切痕が
せん。
あります。
起立時の仙腸関節では、体重によって仙骨底が前方へ押
へいさこう
坐骨と恥骨で囲まれた閉鎖孔は、生体では閉鎖膜が張
し下げられる傾向があります。そのために、この動きを
り、上部の裂け目を閉鎖管(閉鎖神経や閉鎖動脈・静脈な
防止する靱帯(仙結節靭帯、仙棘靭帯、後仙腸靱帯)が強靱
どが通過)と呼びます。
となっています。前述以外の靱帯には、前仙腸靱帯や骨間
恥骨は寛骨の最も前方の部位で、左右の恥骨は正中部
にある恥骨結合(線維軟骨性結合)で連結します。
仙腸靱帯があります。この関節には、第一仙骨神経と第
二仙骨神経の前枝・後枝や上殿神経からの分枝が分布し
ます。
腰痛や殿部の痛みの原因として仙腸関節の不具合による
2.骨盤
ものが、十数%になるとの報告があります。
こつばん
骨盤は、左右の寛骨と仙骨、尾骨で形成されたもので
す。仙骨の両側面は寛骨とつながり、左右の寛骨は前面
4.大腿の骨
で恥骨結合により連結します。
だいたい
だいたいこつ
大腿には、一本の大腿骨が存在します。
恥骨結合は線維軟骨結合で、左右の恥骨の間には線維
軟骨で作られた恥骨間円板が存在します。この連結を補
大腿骨は、体の中で一番太く、かつ長い強靱な骨で、
強する靱帯には、上恥骨靱帯や下恥骨靱帯があります。
寛骨と股関節で連結し、下腿の脛骨とは膝関節で連結し
妊娠の後期や出産時には、恥骨結合の可動性がホルモン
ます。大腿骨体は下部ほど内側に移行していますが、大腿
との関係で増加します。恥骨結合には、腸骨下腹神経や
骨頚と大腿骨体とが形成する角度(成人の平均は126~128
腸骨鼡径神経、陰部神経などからの分枝が分布します。
度)は男性よりも女性で小さくなります。
こ
だいてんし
大腿骨の近位端には、大腿骨頭や大腿骨頚、大転子、
骨盤全体としての運動は、脊柱の運動と非常に密接な関
せんちょう
しつ
そ
連があります。仙骨と寛骨で形成される仙 腸関節では、
小転子などが見られます。大腿骨体の後面には粗線があり
ほとんど可動性がないので、あらゆる体の運動に際して、
ます。高齢者では、細い大腿骨頚が骨折しやすくなりま
骨盤は単一のものとして動きます。
す。
骨盤は男女の性差が構造の上で見られ、女性のものは
か か ん か
遠位端には、内側顆や外側顆、顆間窩などが存在します。
出産に適応した構造を示します。一般に、女性の仙骨は
男性のものよりも湾曲が少なく、女性の仙骨の幅は男性
5.股関節
のものよりも広くなっています。左右の恥骨弓が形成する
かかく
こかんせつ
恥骨下角は男性(約60度)よりも女性(約70度)の角度が大き
股関節は、寛骨臼と大腿骨頭で形成される球関節です。
いものです。女性の坐骨結節は男性のものよりも外向き
寛骨臼は深く、大腿骨頭がほぼおさまる安定な関節で
で、左右の坐骨結節を結ぶ距離は女性の方が男性よりも
すが、周囲には関節唇が堤防のように取り囲んでいます。
長くなっています。
この関節の可能な運動は、伸展や屈曲、内転、外転、
しんけつごう
真結合線は、恥骨の内面と仙骨の岬角とを結ぶ最短距
さんどう
内旋、外旋です。
離の線です。真結合線は、産道で一番狭い部位(女性の平
股関節の過伸展を防ぐ重要な靱帯は、三角形の厚い腸
均は約11cm)で、短すぎると胎児の頭よりも狭くなり自
骨大腿靱帯です。大腿骨頭が完全に骨化するまでは、大
然分娩ができません。
腿骨頭靱帯に沿っている閉鎖動脈の分枝によって大腿骨頭
ぶんべん
に向かって血液が供給されます。
股関節に分布する神経は、大腿神経や閉鎖神経、副閉
3.仙腸関節
せんちょう
鎖神経、上殿神経などの分枝です。
仙 腸関節は仙骨の耳状面と寛骨の耳状面とで形成され
- 66 -
股関節は、閉鎖動脈や内側大腿回旋動脈、上殿動脈、
下殿動脈などからの分枝によって血液が供給されます。
8.足の骨
そくこんこつ
足の骨は、手のものと似て、7個の足根骨と5個の中
6.下腿の骨
足骨、14個の趾骨から構成されています。体重を支える
かたい
下腿の骨には、前腕と同じく二本の骨があり、前方か
けいこつ
つ内側に存在する太い脛骨と、後方かつ外側にある細い
ために、第一中足骨と母趾の趾骨が他のものに比べて一
段と太くなっています。
きょこつ
関節の形成に関与していません。
しょうこつ
しゆうじよう
足根骨には、距骨や踵 骨、舟
腓骨です。大腿骨と連結する骨は脛骨のみで、腓骨は膝
けつじょう
状骨、内側楔 状骨、
中間楔状骨、外側楔状骨、立方骨などがあります。
しつがいこつ
膝蓋骨は、膝関節の前面に存在する種子骨です。
踵骨は、カカトを作り、足の骨の中で最も大きいもの
です。距骨の上面は、脛骨と連結し(距腿関節)、下腿から
①脛骨
脛骨の上部の前面には、内側顆や外側顆、膝蓋靭帯が
の体重を受け、踵骨や舟状骨に体重を伝えます。
付く脛骨粗面などが観察できます。上部の上面には、顆間
りゅうき
隆起が見られます。
9.距腿関節
脛骨の前面には皮膚から触れる前縁があり、下端には
ないか
きょたい
内側に隆起した内果が存在します。
距腿関節は、下腿の骨(脛骨と腓骨)と距骨との間の連結
で、蝶番関節です。この関節では、背屈と底屈とが可能
②腓骨
腓骨の上端の腓骨頭は脛骨の外側顆(腓骨関節面)と連結
がいか
です。
脛骨の先端と距骨・踵骨などとの間に内側(三角)靭帯が
します。この骨の下端には外側に隆起した外果が存在し
張り、距骨の内側への変位を防ぎます。
ます。
内側靱帯が疲労すると、内側に距骨が変位しやすくな
ねんざ
り、足頚の捻挫がおこりやすくなります。
7.膝関節
距腿関節に分布する神経は、深腓骨神経や伏在神経、
しつかんせつ
膝関節は、大腿骨の内側顆・外側顆と脛骨の内側顆・
外側顆との間で形成される蝶番関節です。膝蓋骨は関節
の前面に存在します。
関節の中には膝十字靱帯(前十字靱帯と後十字靱帯)や関
腓腹神経、脛骨神経などからの分枝です。
距腿関節は、前脛骨動脈の前内果動脈・前外果動脈や
後脛骨動脈の内果枝、腓骨動脈の外果枝などによって血液
が供給されます。
節半月(内側半月と外側半月)が見られます。前十字靱帯は
脛骨の前方への変位を防止し、後十字靱帯は大腿骨の前
10.足の関節
方への変位(脛骨の後方への変位)を防ぎます。
関節半月は、二つの骨の間に加わる強い力をやわらげ、
二つの骨の連結を安定化させます。中・高年者で関節半
ないはん
がいはん
足の内反や外反などの運動に関与している関節は、
きょしょうしゅう
距 踵 舟関節や踵立方関節です。
距踵舟関節は、距骨頭と踵骨、舟状骨などで形成されま
月や大腿骨と脛骨の関節軟骨が薄くなり過ぎ、膝関節に
す。この関節を維持する上で重要な役割を果たす靱帯は、
負荷がかかると痛みが起こることがあります。
関節の異常な動き(過剰な内転や外転)を制限するものと
底側踵舟靱帯です。この靱帯は、走行や歩行などの推進力
を得る上でも重要な役割を果たしていますので、スプリン
して、内側側副靭帯や外側側副靭帯が観察されます。
膝関節には、閉鎖神経の関節枝や大腿神経の筋枝、脛
骨神経の関節枝、総腓骨神経の関節枝などが分布します。
グ靱帯とも呼びます。距踵舟関節には、深腓骨神経と内
側足底神経からの分枝が分布します。
踵立方関節は踵骨と立方骨とで作られます。
膝関節への血液の供給は、膝窩動脈の内側・外側上膝
おうそくこん
なお、距踵舟関節と踵立方関節とを併せて横足根関節
動脈や中膝動脈、内側・外側下膝動脈、大腿動脈の下行
膝動脈、外側大腿回旋動脈、腓骨回旋動脈、後・前脛骨
と呼びます。
中足骨頭と基節骨底とで形成する中足趾節関節は、楕
反回動脈などからの分枝に因ります。
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円関節で、屈曲や伸展、内転、外転が可能です。
弓には、内側縦足弓と外側縦足弓が存在します。内側縦
上肢と異なり、中足趾節関節や趾節間関節では、体を
つちふ
足弓が土踏まずを形成します。
移動させる力を作るために、過伸展が見られます。
足底弓は、ヒト以外の動物になく、ヒトでも乳児では
見られずに、立って歩き始めることで、次第に形成されて
いきます。
11.足底弓
内側縦足弓を維持し、体の推進力を作る重要な靱帯は
足の骨は、体重を支えるだけでなく、弾性を持ち、体
しょうげき
の前進力を生じ、衝 撃を吸収するために、弓状の構造と
ていそくしょうしゅう
底 側 踵 舟靱帯で、距骨が踵骨と舟状骨との間に落ち込
むのを防止します。
ジョギング中に地面から受ける体の衝撃(反発力)は、体
なっています。そのために、足の骨は、縦方向と横方向と
に弓状に並び、縦と横の足底弓が見られます。縦の足底
第9節
重の三倍にもなります。
カルシウム代謝
体重が60kg のヒトの体には、約1,150㌘のカルシウム
カルシウムは、主に十二指腸と空腸の吻側部とで吸収さ
が存在しています(体重の約1.5%)。99%のカルシウムは骨
れます。また、カルシウムの吸収は、低カルシウム血症や
に含まれています。血漿カルシウムは、通常、10mg/dL
活性型ビタミン D 3、ラクトース(乳糖)、成長ホルモン、
(5meq/L, 2.5mmol/L) 存在し、一部はタンパク質と結
腸の酸性環境などによって増加します。一方、コルチゾー
合し、一部はイオン化しています。イオン化したカルシウ
ル cortisol や過度の脂肪酸、過度の無機リン、アルカリ
ムは、細胞内での二次情報伝達物質として働き、さらに血
の摂取などによってカルシウムの吸収は低下します。
ぎょうこ
図5-2で示すように、吸収されたカルシウムは、血液
液の凝固や筋細胞の収縮、神経活動などにも必要です。
細胞外液でのカルシウムイオンの減少は、神経細胞や筋細
などの細胞外液に運ばれます。このカルシウムは、細胞内
胞などの異常な興奮を引き起こし、手などが振るえること
液や骨との間で常に交換されています。
腎臓の糸球体からろ過された原尿のなかには、たくさ
があります。この現象をテタニー tetany と呼びます。
そのために、細胞外液のカルシウムイオン濃度は、副
甲状腺ホルモンやカルシトニンなどのホルモンの働きなど
んのカルシウムが存在しますが、その大部分は再吸収され
て、1日に100mg ぐらいしか対外に排出されません。
また、汗のなかには、1日に30~120mg のカルシウ
で、狭い範囲に厳密に維持されています。
カルシウム濃度の恒常性は、骨や腎臓、腸管などの働き
ムが含まれています。
そのために、栄養学的に推奨されているカルシウムの摂
によって保たれ、副甲状腺ホルモンやカルシトニン
取量は、一日に500mg ~1000mg です。
calcitonin、活性型ビタミン D 3(活性型は1,25(OH)2D3)
などで主に調節されています。
表5-1 ヒトの血漿中のカルシウム値(ミリモル濃度/㍑)
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図5-2 一日に約1000mgのカルシウムを摂った場合での体内におけるカルシウム代謝を模式的に示す
第10節 骨と骨粗鬆症
こつ そ しようしよう
骨粗鬆症の予防には、最大骨量を可能な限り増やし、
高齢社会の健康問題として、骨粗 鬆 症 があります。骨
その後の骨密度の低下を食い止めることが重要です。そ
粗鬆症は骨の密度が低下している状態です。
骨粗鬆症になったヒトでは、転んだり、ちょっとした
のためには、食事と日常の運動、すなわち生活習慣がポ
ことがきっかけで骨折を起こします。高齢者では、骨折
イントとなります。特に、成長期から二十代の生活習慣
がきっかけで、寝たきりになる場合がもっとも深刻です。
が決定的です。適度な運動に加えて、骨の形成に必要な栄
骨の密度は、成長期に急速に高まり、三十代から四十
代にかけてピークを迎えます。このピークを最大骨量と
養素を適切に摂取することが、強い骨を形成するために
特に重要です。
骨の形成や維持に必要な栄養素には、カルシウムに加え
いいます。ピークを過ぎると、加齢にともなって骨密度は
て、タンパク質、ビタミンD3、ビタミンK、マグネシウ
低下していきます。
女性では最大骨量が男性よりも少なく、加えて閉経後の
ム、リン酸なども必要です。他方、食事などでリン酸を
と
数年間では、男性に比べて急速に骨密度が低下します。
摂りすぎると、カルシウムの吸収が悪くなり、もろい骨に
そのために、骨粗鬆症が高齢女性で特に深刻な問題とな
なりやすい。
ります。
【この章の参考図書】
・林泰史著、「骨の健康学」、岩波新書、1999年。
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