本文 - J

(17)
Vol.55,No.12 (1999)
P -418
「
技術賞」紹 介
新 規PVA系
繊 維 “ク ラ ロ ンK-II”
の 開 発 と工 業 化
大 森 昭 夫 ・桜 木 功 ・小野 寺 正 憲
1.緒
媒 も大 きな 差 が な く,応 用 展 開性 や溶 媒 回収 性 な どの 点
言
よ りDMSO単
アラ ミド繊 維 を凌 ぐ超 高 強 度 繊 維 を実 現 したUHMW
独 を選 定 した.
3)固 化 ・抽 出 溶 媒 の選 定
PEの ゲル紡 糸法 を.PEよ り分 子 間相 互 作 用 が 格段 に 大 き
PVA/DMSO溶
く耐熱性 に優 れ るPVAに
蒸 留 分 離 性 な どの 点 よ り,MeOHを
応 用 し,ア ラ ミ ド繊 維 並 の 強度
液 の均 一 マ イル ド固化 性 やDMSOと
の
選 定 した.従 来 の湿
維 を開 発 した.
式 紡 糸や 乾 湿 式 紡 糸 の 固 化 ・抽 出 溶媒 に は 全 て 水 ま た は
さらに,こ の ゲ ル紡 糸法 の特 長 を生 か しな が ら,コ ス
水 溶 液 が 使 用 され て い る.製 造工 程 に お い て水 を 全 く使
トパフォー マ ンス に 優 れ か つ 高 機 能 を 目指 して検 討 した
用 しな い湿 式 あ る い は乾 湿 式 紡 糸 は 世 界 初 のユ ニ ー クプ
結果,世 界 初の 全 有機 溶 剤 系 湿 式 冷 却 ゲル 紡 糸法 に よる
ロ セ ス で あ る.
新規PVA系 繊 維"ク ラ ロ ンK-II” を開 発 し,7000ton/年
4)紡 糸 法 の 選 定
の操業プ ラ ン トを新 設 し,98年4月
冷 却 ゲル 紡 糸 は紡 糸 原 液 と低 温 の 固 化 浴 との 間 の断 熱
を有す る高強 度PVA繊
よ り工 業 生産 を開始
が 重 要 とわ か り,両 者 間 の 断 熱 が 容 易 に完 全 に 行 え る乾
した,
湿 式紡 糸法 が 有効 とわ か っ た.
2.冷
却 ゲル 紡 糸法 に よ る高強度
PVAフ
5)紡 糸 条 件 の適 正 化 一 ゲル 化 と相 分 離 一
ィ ラ メ ン トの 開 発
1)高重合度(PA)PVAの
ポ リマ ー 溶 液 を冷 却 固 化 させ る と,ゲ ル 化 と相 分 離 と
が 同 時進 行 し,ど ち らが支 配 的 で あ る かで 固 化 物 の 構 造
開発
弊社藤 原 らは,酢 酸 ビニ ル の 低 温 エ マ ル ジ ョン重 合 法
により,汎用PVA(PA1700)の
のPVAを 工業 的 に製 造 しう る重 合プ ロ セ ス を開 発 した11,
2)原液 溶媒 の選 定
モ デ ル 図 を作 成 され た2).我 々は,固 化 条 件 が
ゲ ル 化優 先 の 場 合 と相 分 離優 先 の場 合 とを検 討 し,前 者
で は微 結 晶 に よるJunctionPointが
PVAが 冷 却 ゲ ル 紡 糸 可能 な溶 媒 と して,グ
DMSO単 独, DMSO/水
が 異 な る.京 大 梶 研 究 室 で この 固化 過 程 の構 造 を 解析 さ
れ,図1の
重合度 よ り1桁 高 いPA18000
りセi)ン,
な ど を検 討 し,繊 維 強 度 は どの溶
多過 ぎて延 伸倍 率 が極
端 に低 下 し,分 子 配 向 不 十 分 で繊 維 強 度 が 低 くな り,後
者 で はJunctionPointが
Development and Production 著 者 紹 介 AK[O OHMORI*, 局所 的 にな くな るた め分 子 配 向 を
of New PVA ISAO Fibers”Kuralon SAKURAGI**and K-II”
MASANORI
ONODERA***
*Fiber&TextileTechnology Research Laboratory
,Kuraray Co.,Ltd.
株 式 会 社 ク ラ レ 倉 敷 工 場 繊 維 開 発 部 開 発 主 管
**K-II Product Department
, Okayama Plant, Kuraray Co.,Ltd.
株 式 会 社 ク ラ レ 岡 山 工 場K一[1生 産 部 生 産 課 長
***Technology Department 1 ,0kayama Plant, kuraray Co.,Ltd.
株 式 会 社 ク ラ レ 岡 山 工 場 技 術 第 一 部 技 術 第 一 部 長
大森氏は,湿 式紡 糸基 礎 開 発 を専 門 と され て い る.趣 味 は テ ニ ス との こ と・
桜木氏は,繊 維製 造技 術 を 専門 と され てい る。 趣 味 は ス ポー ツ鑑 賞 との こ と・
小野寺氏は,繊 維機 械 工 学 を専 門 とされ て い る.趣 味 は スポ ー ッ,音 楽 との こ と・
本開発で1999年 繊 維学 会 技 術賞 を受 賞 され て い る.
本稿では,水 を 全 く使 用 しな い全 有機 溶 剤 系湿 式 冷 却 ゲル紡 糸法 に よ る高機 能 ス テー プ ル 」クラ ロンK一 【1”を開 発 し・7000t/Yの 新 設プ ラ
ントを建設 し,1998年4月
よ り本 格 生産 を開 始 した経緯 につ い て解 説 してい ただ い た・
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SEN'I
Fig.
1
Gelation
GAKKAISHI
and Phase-Separation
伴 わ な い 延伸 とな り,見 か け の延 伸 倍 率 は 大 きい が繊 維
強 度 は 低 くな った.PVA系
(繊 維 と 工 業)
Process
from
(18)
Homogeneous
PVA
3。 “ク ラ ロ ンK-II”
Solution
ステ ー プル の開 発 と工業化
で は ゲ ル 化 と相 分 離 の 程 度 を
適 正 化 す る こ とが 高 強 度繊 維 を得 る ため に重 要 と わか っ
上 記冷 却 ゲ ル 紡 糸 を事 業 性 の観 点 よ り見 直 し,ゲ ル紡
た.
糸 の 特 長 を生 か しつ つ,コ
s)PVAの
高 機 能 性 繊 維 を 目指 して検 討 した 。
重 合 度 と繊 維 強 度
PAを1700一 一18000に変 更 し,各 々 の 重 合度 で紡 糸 ・延
1)PVA系
伸 条件 の適 正 化 を行 い,得
図3に
られ た ヤ ー ン強 度 を延 伸 糸 の
スhパ フ ォー マ ンス に優 れた
に適 した冷 却 ゲル 紡 糸の 解 明 と活 用
従 来 の凝 固紡 糸 とAQの
冷 却 ゲル 紡 糸 で の固化
重 合度 に 対 して プ ロ ッ トした グ ラ フ が 図2で あ る3).
過程 に お け る モ デル 図 を示 した.冷 却 ゲ ル化 す る と,繊
こ れ よ り,PA18000のPVAを
維構 造 が均 一 となh,表
用いて全有機溶剤系冷却
層 も内 層 もポ リ.マー が配 向 ・結
ゲル紡 糸す る と,アラ ミド繊 維並の 強度2,9GPa(22cN/dtex)
晶 化 し易 い とわ か った.
のPVAフ
この 点 を活 用 し,ビ ニ ロ ンに使 用 され て い る汎 用PVA
ィラ メ ン トを得 る こ とが で きた.こ の 製 造 技 術
を用 い て も1.8GPa(14cN/dtex)の
を100kgベ ンチ ス ケ ー ル で確 立 した.
高 強 度繊 維 を得 ること
が で きた。
2)ゲ ル紡 糸 法の 湿 式紡 糸化
従 来,ゲ ル紡 糸法 は乾 湿 式紡 糸 しか 行 わ れ て い ない が,
乾湿 式 紡 糸 法 は繊 維 間 膠 着 しや す いた め 多 ホ ー ル紡 糸が
で きず,生 産 性 が 低 い問 題 が あ っ た.
そ こ で,冷 却 ゲル 紡 糸 方 式の 湿 式紡 糸化 に取 り組 み,
断 熱 湿:式紡 糸法 を 開 発 し,数 万 ホー ル ノ ズル に よ る生 産
性 の 高 い冷 却 ゲ ル紡 糸技 術 を確 立 した.
3)高 機 能 汎 用 ポ リマ ーの 活 用
従 来 の紡 糸 方法 で は繊 維 化 困 難 な 汎 用の 低 結 晶性PVA
もゲル 紡 糸 に よ り,繊 維 化 可 能 とな っ た.た
剤 用市 販PVAよ
とえば,糊
り常 温 水 に完 全溶 解 す る世 界 初 の ステ ー
プ ル を 開 発 した.さ ら に,原 液 溶 媒 と して 使 用 のDMSO
は,幅 広 い 高機 能 汎 用 ポ リマ ー が溶 解 可 能 の た め,こ れ
Fig.
2
PA of PVA
Fiber
v.s Fiber
Tenacity
ら ポ リマ ー を単 独 あ る い はPVAと
混合 ・複 合 で繊 維化 す
(19)
Vol.55,No.12 (1999)
Table
Fig. 3
Models
of Gelation
1
P -420
Table
1
Types
K-II"
Fibers
and Properties
of "Kuralon
and Coagulation
ることによ り種 々の 高機 能繊 維 を得 る こ とが で き る.
4)溶媒 回収
全有機溶 剤系 紡 糸 の 工 業 化 に は,溶 媒 回収 が 極 め て 重
Fig.4EffectsofK-IIforslatestrength
要である,このL収 技 術 確 立 に 注 力 し,原 液溶 媒 のDMSO
と固化溶媒 のMcOHを
分離 ・回収 す る クA一 ズ ドシ ステ
ムの工業化技 術 を確 立 した .
2)水 溶 性 タ イ プ
図5にPVAの
以上の結果 よ り,水 を全 く用 い な い 全 有機 溶 剤 系 湿 式
冷却ゲル紡 糸法 に よ る高機 能 性 繊 維 “ク ラQンK-II”
ス
分 子構造 と鹸 化 度 の 定 義 を示 した.こ の
鹸 化 度(DS)はPVAの
い程,分
極 め て 重 要 な性 状 で あ る.DSが
テープル を開発 し,7000t/Yの 新 設 プ ラ ン トに よ る操 業 生
に示 した 高強 度 タ イプ に用 い るPVAのDSは99.8%以
産を98年4月 よ り開 始 した.
あ る.一 方,DSが88-99%のPVAを
4.“ ク ラ ロ ンK-II”
の 銘 柄,特
性,用
上で
使用 す る と,得 られ
る繊 維 の水 溶 温度 を5-90℃ の間 で制 御 す る こ とが で きる.
途例
従 来 の紡 糸法 で は繊 維 化 困難 な低DS-PVAで
現在,開 発 ・市 販 して い る銘 柄 と そ の特 性 を表1に 示
した,
も本 紡 糸 法
で は繊 維 化 可 能 で,常 温 水 可溶 とい う他 の繊 維 で は 得 ら
れ な い 独自 高機 能繊 維 を得 た.
1)高強度 タ イプ
通常の=Qン
また,PVAに
に 使 用 され て い る 汎 用PVAを,本
は熱 溶 融性 は な く,従 来 のPVA繊
冷却
ゲル紡糸法 に よ り繊 維化 す る と,汎 用 繊 維 の 中 で は 最 高
レベルの強度14cN ,/dtex(1.8GPa)を 得 るこ とが で きるこ
とは前記 した .
本タイプ は,高 強 度 と と もに 耐 アル カ リ性,親
水性,
耐久性に も優 れ て お り,ア ス ベ ス ト代 替 の セ メ ン ト補 強
繊維向けや,耐 熱 性 と耐 ク リー プ 性 な ど を生 か して 高 強
度紡績糸向 け な ど に使 用 され て い る.図4にK-IIEQ5タ
イプを2%添
高
子 間 水素 結 合 が 強 く,水 に溶 け に く くな る.r
加 した と きの ス レー ト補 強 性 を示 した.
Fig.
5
Molecular
structure
of PVA
維 は,
P-421
SEN'I
GAKKAISHI
(繊 維 と工 業)
(20)
不 織 布 の 最 も合 理 的 な製 造 法 で あ る熱 カ レ ン ダー や熱 エ
ンボ ス を適 用す るこ とが で きな か っ た.そ
こで熱 接 着 可
能 な水 溶 性 繊 維 を 目指 して検 討 し,低 融 点 ・高 接 着 性 の
低 鹸 化度PVAを
島成 分,高 融点 ・高結 晶性 の 高鹸 化度PVA
を海 成 分 とす る海 島構 造繊 維 とす る こ と に よ り,熱 圧 着
性 の あ る水溶 性 繊 維 を得 た.図6に
型 電 子 顕 微 鏡 写 真 を,図7に
本繊 維 の 断 面 の 透 過
本繊 維 熱 圧 着 時 の 推 定 接 着
メ カニ ズ ム を示 した4'5).
Fig.
8
Biodegradability
of Aqueous
WN
Type
Solutions
Fig.
Fig. 7
Bonding Mechanism
Fig.10
Section
of SA Type
Photographs
of SA Type
Before
and After
Fibrillation
溶 液 は生 分解 す る こ とで 知 られ て
い るが,念 の ため,本 水 溶繊 維 の 水 溶 液 をJIS-K6950に
拠 して評 価 し,図8を
Cross
of WJ Type
さ ら に,水 溶 性 繊 維 の 重 要 な性 能 と して水 溶 解 後 の 生
分 解 性 が あ る.PVA水
9
準
得 た.こ の 結果 よ り,良 好 な 生 分
解 性 を確 認 した.
こ れ らの水 溶 性 繊 維 は,ウ ー ル マ ー ク社 と共 同 開 発 の
“W
oo1/K-II” や ク ラ ボー(株)と
共 同 開 発 の “ス ピ ンエ ヤ
ー”(綿とK-IIの 混 紡)お よび ケ ミカル レー ス基 布 な どに使
用 され て お り,好 評 を得 て い る.
3)易 フ ィ ブ リル タイ プ
PVAとDMSO可
溶 ポ リマ ー との海 島相 分 離 溶 液 を紡 糸
す る と,図9に
示 す 海 島 相 分 離 繊 維 が 得 られ る.こ の 海
島繊 維 は,ゴ ム 中 混 練,ピ ー ター 叩解,高 圧 水 流 な どの
物 理 応 力 に よ り,図10に 示 す よ うに,径 が1μ以 下 に フ ィ
プ リル 化 す る.
本 繊 維 は,図11に
Fig.11
示 す よう に,配 向 に よ り異 方 性 の あ
Stress-Strain
with SA Type
Curves
of
Reinforced
Rubber
(21)
Vol.55,No.12 (1999)
P -422
る補強をす る こ とが 可能 で ゴム 補 強 向 け な どに 用 途 開 発
文
献
中である.
5.今
後の 展 開
1)藤
原,佐
藤,結
93年7月,“
“
クラロンK-II” は
,98年4月
評であり,今 後,25000t/年
の操 業 生 産 開 始 以 降 好
2)西
へ の 増 強 を 計 画 して い る。 こ
のためには,環 状 銘柄 の 馬途 拡 大 と と もに,本 紡 糸 法 独
98年12月,“
3)大
内,岡
高 重 合 度PVAの合
下,西
田,金
ポ バ ー ル 会,
成”
谷,梶,第113回
目 で 見 るPVAゲ
森,第113回
谷,第102回
ポ バ ー ル 金,
ル の相 分 離 構 造 ”
ポ バ ー ル 会,98年12月,“PVAゲ
ル紡
糸 に よ る ク ラ ロ ンK-1r
自の新たな機 能繊 維 を開 発 す る こ とが重 要 と考 えて お り,
新規
用途 と新 規 ニ ー ズ に対 す る提 案 を して項 け る と幸 い
小 路,竹
城,由
4) A. OHMORI,
Index
'96 Nonwovens
Congress,
Feb.'96 "A New Water Soluble Synthetic Fibre For
である.
Nonwovens Application"
S)大
森,化学
と工 業50巻2号p199,'97年2月,“
糸法 に よる 常温 水 に溶 解 す る繊 維 ”
新規紡