平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ 論文題目 光線療法に関わる光化学反応機構 Photochemical reaction mechanism involved in the phototherapy 薬品物理化学研究室 4 年 09P179 川島 優花 (指導教員:星名賢之助) 1 1 要 旨 光線療法について、その光化学反応機構を分子レベルで調べた。 人体の表面はたんぱく質で構成されており、特に皮膚の表面は太陽光線の侵入口であ る。皮膚は、表皮と真皮に分かれており、更に何層にも及んでいる。太陽光線はこの層 の中へ侵入し、人体に悪影響を与える。特に UV-B という波長領域の太陽光線が人体 に悪影響であり、紅斑(日焼け)やガンなどに代表される。紅斑(日焼け)は人体の太陽 光線に対する防御反応であり、ガンは UV 光吸収により DNA が損傷することによって 起きる。 一方で、太陽光線は人体に悪影響ばかり与えるわけではなく、むしろ、太陽光線によ って予防できる疾病がある。くる病がそのひとつであり、ビタミン D の欠乏によって 引き起こされる骨疾患である。このビタミン D の合成に太陽光線が必要不可欠であり、 積極的に光線をあてる治療法が行なわれている。 また、新生児に起こる疾患として高ビリルビン血症がある。高ビリルビン血症とは、 通常抱合型で存在するビリルビンの酵素最大容量が低いために溶けることができずに 体内に蓄積し、黄疸が現れる疾患である。この疾患の治療法としては、光線療法を用い ることができ、今回はこの高ビリルビン血症を光線療法の例として分子レベルの解釈よ り、①光開裂(光酸化)②光異性化③光環化の3種に分けて説明している。 ① 光開裂(光酸化)は、ビリルビン分子を無色で可溶性のある、酸化分解できるよ うな分子まで小さくする。 ② 光異性化は、ビリルビン分子を水中でより溶けやすい状態に異性化し、D-グルコ ン酸抱合せずに肝臓から胆管へ流れやすいようにする。 光環化は、光異性化したビリルビンを環化することによって、フォトビリルビンⅢとい うビリルビンに似た構造を生成する。 キーワード 1.光線療法 2.光化学反応 3.太陽光線 4.皮膚 5.紅班 6.DNA 損傷 7.ビタミン D 8.くる病 9.高ビリルビン血症 10.光開裂 11.光異性化 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 2 2 光線療法に関わる 光化学反応機構 薬品物理化学研究室 09P133 川島 優花 3 概要 光線力学的治療について薦める前に、病気の治療において どの部分で光が使われているか考えることが必要である。 人体の表面はたんぱく質で構成されており、特に皮膚の表 面は太陽光線の侵入口である。太陽光線がここを通して体内 に侵入することにより、人体に様々な影響を与える。ここでは、 太陽光線による紅斑(日焼け)、くる病について記述する。 そして、高ビリルビン血症における光線療法の光化学反応 機構について考慮する。 4 皮膚の構造 おおよその厚み 組成 表皮 角質層 顆粒層 扁平壊死したケラチノサイト、 ケラチン、メラニン、脂質 2~4細胞層 マルビーギ層 ケラチノサイトの20細胞 層:角質層を作り出すために 上へ移動する 有棘細胞を含む 基底層 ケラチノサイトを生成する円 柱細胞の単層 メラニンを含む 真皮 結合組織、脂質、支持組織、 血液、リンパ管(温度調 節) 皮脂腺、汗腺(温度調節) 下位皮膚組織 脂肪層の毛根毛胞(断熱、衝撃 5 吸収) 太陽光のスペクトル 分光放射照度 大気圏外放射曲線 人体が浴びる太陽光 黒体輻射(5900K) (Wm-2A-1) 波長(nm) 6 太陽光による皮膚への影響 皮膚紅斑(日焼け)を起こすスペクトルと海面への放射線の強度のグラフ。 日焼け止めによって取り除くべき部分は斜線部であり、主にUV-B領域である。 人間に紅斑を起こすスペクトル 海面への放射線の強度 ※UV-A : それ自身では 肌に対する害なし。UV-B との共存により皮膚に悪影 響。 ※UV-B :皮膚に悪影響。 表皮層でDNAに損傷作用 を起こすが、色素細胞がメ ラニンを生成し防御反応を 取る。(日焼け) ※UV-C :非常に有害。 オゾン層で守られている地 表には通常は到達しない。 7 太陽光によるガン化(例) 太陽光によるガン化は、UV光吸収によりDNAが損傷することによって起こる。 ・UV領域におけるDNAと蛋白質の吸収を 示したグラフ ・DNA塩基 O NH2 N HN N Guanine G Cytosine C O NH2 N N N Adenine A N H N H2N N H O N H HN O N H Thymine T 8 核酸塩基の光反応 ・チミン ・シトシン NH2 NH2 N O N 光,H2O,光付加 Cytosine R=H HN 2π+2π 付加環化 N R O N R O N R hv O O HN O 脱離 N UV-A N HN O N R HN NR × HN O OH N Guanine O O O H2N N R cyclobutane dimer (isomers) λ<245nm Ψ~1 R=H 高pH or 熱 NH O Thymine ・グアニン HN O 260nm,H2O,ψ~0.1 HN OH N R O O N H 内因性増感物質 O2 H2N N N H 8-hydroxyguanine N R N NR O Oxetane dimer R=H(f ree bases),or DNA chain O 9 太陽光による疾病予防~くる病の例~ 太陽光は人体に悪影響を与えるばかりではない。太陽光 を浴びることによって予防ができる疾病がある。くる病がそ のひとつである。くる病はビタミンDの欠乏によって起きる骨 疾患であり、このビタミンDの合成には太陽光が重要である。 くる病患者のX線回折 10 体内におけるビタミンDの合成 太陽光 プロビタミンD3(41)は、光吸収 によって同施的に開環し、プレビ タミンD3(42)を生成する。 プレビタミンD3(42)がシグマト ロピー転位によりビタミンD3とな る。 11 光線治療のメカニズム 表皮層に存在する7-デヒ ドロコレステロール(41)は、 UV-B紫外線によってプロビ タミンD3(42)に変換。 ↓ 次に、熱反応によってマル ビーギ層や基底層で異性化し、 ビタミンD3になる。そして 血管系で拡散され、血漿タン パク質と結合して血流を回る。 ↓ プロビタミンD3が光強度 減少領域に存在するビタミン D3のために38℃の熱変換に よって表皮から真皮へ輸送さ れることは必要不可欠。 表皮 真皮 12 高ビリルビン血症と光線治療 ・高ビリルビン血症とは、通常抱合型で存在するビリルビンが酵素最 大容量が低いために溶けずに体内に蓄積し、黄疸が現れる疾患で ある。新生児に発症する。 ・光線療法 ①光開裂(光酸化) ②光異性化 ③光環化 13 高ビリルビン血症~分子レベルの解釈~ His. Globin モノグルクロニドと糖 との複合体について: ビリルビンジグルクロ ニドには主要経路がある。 ヘムの切れ目はプロトヘ ム(鉄Ⅱプロトポルフィ リンⅨ)のα位(C5)にあ り、異性体の位置を決め るためには必要不可欠で ある。自然体のビリベル ジンとビリルビンはⅨα異 性体といわれる。 O O N 2 N Haem oxygenase O2 Fe 3 1 NH HN 4 5 N NH N protein CO Fe P P N P Haemoglobin P Biliverdin Bililverdin reductase O O O O NH NH HN NH pH7中でビリルビンジグル クロニド(抱合型ビリルビン)は 不溶性物質である。この時ビ リルビンは体内に留まり、ビリ ルビン血症となる。 UDP Glucuronosyl transf erase HN Uridine diphosphoglucuronic acid HN NH HN P P 51 Bilirubin CO CO2H O CO CO2H O O OH O OH H OH H OH OH Bilirubin diglucuronide 抱合型ビリルビン OH 14 光線治療①:光開裂(光酸化) ビリルビン分子を無色で可溶性のある、酸化分解できるような分子まで小さく する。 15 光開裂(光酸化)反応機構 光 内部転換 ジエン付加 エン付加 Hock転位 16 光線治療②:光異性化 ビリルビン分子を水中でより溶けやすい状態に異性化し、D‐グルコン酸抱合せずに肝臓か ら胆管へ流れやすいようにする。 分子内水素結合が切れて水 溶性が上がる。 X線回折による構造 光 光 or 熱 17 光線治療③:光環化 光異性化したビリルビンを環化することによって、フォトビリルビンⅢというビリルビン に似た構造を生成する。 光 光 水溶性が高い 18 高ビリルビン血症治療のまとめ ビリルビン(ビリルビンⅨα) hν,O2 光開裂(光酸化) イミド ジアルデヒド Water-propentdyopent adduct(OH replacing OMe) hν 光異性化 フォトビリルビンⅠ 4Z,15E-ビリルビン 4E,15Z-ビリルビン (4E,15E-ビリルビン) 光環化 フォトビリルビンⅡA/ⅡB (ルミルビン,イソルミビン) フォトビリルビンⅢ 光治療において、光化学は皮膚で起こる。 光開裂(光酸化)生成は腎で反応し、尿として現れる。 光異性化は、胆管に運ばれるためにアルブミンによってPhotobilirubinsとなり、血液 19 中を運ばれる。 参考文献 “Chemical Aspects of photodynamic Therapy” Raymond Bonnett , Gordon and Breach Science Publishers Chapter 5 “Some other Example of Photomedicine” (2000) 20
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