基礎マクロ経済学(2015年前期) 6.失業

基礎マクロ経済学(2015年前期)
6.失業
担当:小塚匡文
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6.1 離職・
離職・就職と
就職と自然失業率
L=E+U(L:労働者人口,E:就労人口,U:失業者数)
またf:就職率、s:離職率 とすると、均衡時には
fU = sE = s ( L − U )
U
U 

= s1 − 
f
L
L

U
s
1
=
=
L
s+ f
1+ f s
なぜ失業が発生するか?
⇒離職率と就職率の差が
影響
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自然失業率とは・・・
→経済でどうしても発生する失業者の割合
たとえば・・・
• 自分が望む条件に合う職を探している
• 働く気がない
といった事情で失業している人は、 自然失業率
にカウントされる
• 自然失業率に含まれない失業は、非自発的
失業という
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6.2 職探しと
職探しと摩擦的失業
しと摩擦的失業
< 摩擦的失業>
摩擦的失業とは、職探しのときに係る失業
主な原因:
①部門間シフトに時間がかかる
②職探しに時間がかかる
③失業保険を頼り職探しをしない人がいる
※③については100%経験料制度(解雇した会
社が失業保険をすべて負担する制度)で解決
できるかもしれない
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6.3 実質賃金の
実質賃金の硬直性と
硬直性と構造的失業
<硬直賃金制>
実質賃金は下げにくいもの(硬直賃金)
⇒そのため、労働需要(Ld)と比較し、労働供給(Ls)が多いと、失業
率が上昇(構造的失業)
⇒その原因は?
Ls
W/P
(W/P)*
Ld
失業
雇用者
求職者
L
<最低賃金法>
硬直賃金の原因・・・最低賃金法
⇒どういうことか?
若年層の失業に影響
若年の労働者は、一般に限界生産力が低い
(仕事に慣れていないから)
時として、最低賃金より低い限界生産力
よって、失業しやすい
とはいえ、賃金の保障も意味があるので・・・
※これに代わる方法として、有職貧困家庭の家
計を支える人は税額控除の対象とする、など
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<労働組合と団体交渉>
組合が交渉して、市場均衡によらない賃金決
定によって賃金が引き上げられる
雇用者の数は減る ⇒失業者増加
経営者は労働者の組合加入を恐れ、非組合員
も賃金を引き上げる
⇒労働組合の存在は、組織化されていない労働
者の賃金にも影響
※労働組合は労働者側の独占的交渉力を持つ
&高める!⇒特にヨーロッパでは大きな存在
⇒経営者は待遇を良くすることで対処
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⇒これにより、インサイダー(組合&労働者)とア
ウトサイダー( 失業者)との間に対立が発生
これを避けるためには・・・
⇒一国単位で賃金交渉し、政府も介入する
(スウェーデンの例)
こうすることで失業者数を抑えられる(アウトサ
サイダーの力が上昇する)
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<効率賃金>
高賃金→労働の限界生産力上昇を実現、とい
う考え方:(高給を与えればより生産的になる)
これは成り立つのか?
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(1)国の状況によっては生産性向上に資する
• 途上国:衛生・健康状態の改善→生産性↑
• 先進国:効果は期待できない
(2)転職の可能性を低下
• 新規雇用やトレーニングの手間が省ける
(3)逆選択の可能性
• 仮に賃金を下げれば、質の悪い労働者のみ
が残る
(4)労働意欲
• 賃金が高いので、サボって解雇されることを
惜しむ→懸命に働く動機付け
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6.4 労働市場の
労働市場の経験(
経験(アメリカの例
アメリカの例)
<失業継続期間>
1990年~2006年に・・・
• 38%は4週間で失業状態から脱した
• 31%は15週間以上失業状態にあった
• 前者は、失業期間総数の7%であった
• 後者は、失業期間総数の71%を占めていた
→この事実からいえることは・・・
→長期失業者の失業期間の合計は、全体の多
くを占めている:長期失業者をターゲットとす
べき
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<人口構成別>
人種・年齢別にみると、
• 若年層の失業率は高い(摩擦的失業か?)
• 黒人の失業率は高い
<トレンド>
• 1970年代の、ベビーブーマーが若年であった
とき→失業率は高い
• 1990年代の、ベビーブーマーがベテランに
なったとき→失業率は低下
※若年層の転職に伴う摩擦的失業か?
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• 1970年~80年代は、石油価格が上昇し、エ
ネルギー少消費産業へのシフトが進み失業
率も上昇
• 2000年代も石油価格が上昇したが、70~80
年代のような動きはなかった
→すなわち、部門間
部門間シフト
部門間シフトによる地域間・産業
シフト
間の資源再配置に伴う失業が70~80年代に
あった
• 70年代は生産性低下に伴い、失業率は上昇
• 90年代は生産性上昇に伴い、失業率は低下
※理論上は、生産性上昇があっても、実質賃金
が上がり、失業率は変わらないはず(長期的
にも成立)
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<労働市場における参入と退出の移行過程>
• 労働市場への参入・退出の要因
→離職・就職以外の要因はなにか?
→労働力の増減
就業意欲が低下した人(就業意欲喪失労働者)
は労働者に含まれない(市場から退出)
⇒失業統計で捉えることが困難
※かといって、失業の様々な尺度によって測る
と、差が大きくなる
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6.5 労働市場の
労働市場の経験(
経験(ヨーロッパの例
ヨーロッパの例)
<失業の拡大>
2000年前後以降に失業率は10%前後に
• 手厚い失業給付が原因?
• 技術進歩で非熟練労働者への労働需要が減
少?(特にコンピュータの普及)
失業給付を減らすと働く人は増えるかもしれ
ないが、不平等度は上がる
(福祉国家のクリアすべき課題)
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<ヨーロッパ内部の失業の違い>
国によって、失業の状況は異なる:
①スイスの失業率は約2%、スペインのそれは
約11%
②長期失業者が多い
③国ごとに労働市場政策(失業保険など)が異
なる
④政府支出の状況(職探しの補助など)が国ご
とに異なる
※スペインは③が多く、④が少ない
⑤組合の交渉力=賃金面で影響を与える労働
者の数が異なる:失業率と相関が高い
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<ヨーロッパにおける余暇の増大>
ヨーロッパはアメリカよりも余暇が多いとされる:
なぜか?
• 高齢者の労働者は少なく、早く退職する
• 税率が高い(Prescottの研究による)
⇒税率の高いために、帳簿外で働く人が増える
が(地下経済)、これは公式統計に表れない
• 労働組合の交渉のより休日が増加
• 選好の違い
⇒豊かになったのちに、アメリカは更なる労働
を、欧州は更なる余暇を重視した結果
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6.6 まとめ
• 摩擦的失業は部門間シフト、職探しの時間、
失業保険の存在、により発生する
• 実質賃金は下げにくいこと(実質賃金の硬直
性)によっても、失業は発生する
• 最低賃金法はその硬直的賃金の原因の1つ
である
• 労働組合の存在によって賃金が高く設定され、
それにより就業者と失業者の対立が発生する
• 高給によって生産性が高まる、とする考えを
効率賃金仮説とよぶ
• アメリカと欧州、及び欧州の各国で、諸制度の
違いから、失業の状況は異なる
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練習問題5
(1)次のうち、自然失業率に含まれない失業はどれか
(A)高い技能を持ち、プライドが高く、企業が提示するも
のより高い賃金でなければ働こうとしない人
(B)働く気はないが、失業保険をもらうために求職する
ふりをしている人
(C)働く意欲もあり、どんな賃金でも働く気があるが、就
職できない人
(2)労働生産性が低下したとき、労働需要関数はどう
なるか?
(3)(2)の状況で実質賃金が変更されないとき、失業
者数はどうなるか?
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練習問題5 解答
(1)
(A)は、条件に合う仕事を探しているため、自然失
業率の失業に含まれる。
(B)は、働く気がない人の失業であるので、自然
失業率の失業に含まれる(さらにいえば、摩擦的
失業である)。
(C)は非自発的失業であり、自然失業率には含ま
れない。
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練習問題5 解答
(2)
労働生産性の低下は、限界生産力の低下であるので、
より少ない実質賃金を払うことになる。よって左(下方)に
シフトする。
(3)
実質賃金を均衡水準より高く設定していることになり、そ
のときの労働需要は労働供給より少ない。よって失業が
発生する。
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練習問題5 解答
(1)次のうち、自然失業率に含まれない失業はどれか
(A)高い技能を持ち、プライドが高く、企業が提示するも
のより高い賃金でなければ働こうとしない人
(B)働く気はないが、失業保険をもらうために求職する
ふりをしている人
(C)働く意欲もあり、どんな賃金でも働く気があるが、就
職できない人
(2)労働生産性が低下したとき、労働需要関数はどう
なるか?
(3)(2)の状況で実質賃金が変更されないとき、失業
者数はどうなるか?
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