解答例と結果(得点分布)

経済学概論 2014 年度期末試験解答例
2015 年 2 月 6 日、3.4 時限実施
※ 問題1
問題2
問題3
合計3問について解答すること。
問題1(40 点)
マルクスは『資本論』(1863)で、資本主義経済が成長する中で発生する失業の存
在を、資本蓄積と平行した労働力供給人口の増加と、追加資本の比率の変化によって
生じる相対的過剰人口として捉えた。この相対的過剰人口が発生する仕組みを不変資
本、可変資本、資本構成(資本の有機的構成)、労働力の需要、労働力の供給、の用
語を用いて説明せよ。また、この過程を図を用いて説明せよ。
(解答例)
資本蓄積が進み、資本が増大すれば、雇用も増え、失業もなくなるように見える。
不変資本の可変資本に対する比である資本構成(資本の有機的構成)が不変のままで
資本蓄積が進むと、資本の増大に比例して可変資本部分が増え、その結果「労働力の
需要」は資本の増大に比例して増える。ここで労働力の需要が労働力の供給を上回る
場合、賃金は上昇する。
可変資本
労働力人口
労働力の供給
不変資本
労働力の需要
=
=
資本蓄積は利潤が資本に追加投下されることによって進むが、機械設備や原材料か
らなる不変資本と労働者の賃金からなる可変資本への資本の追加投下の比率、その結
1
果としての不変資本と可変資本の比率=資本の有機的構成は一定ではない。可変資本
への追加比率が高くなれば労働需要が増加し、低くなれば労働需要が低下する。
資本蓄積によって賃金が高くなれば資本は機械やロボットやコンピュータを採用し、
不変資本への追加投下の比率を(可変資本に比べて)高め、資本の増大に比べて可変
資本部分は相対的に減少し、労働需要が労働供給を下回ることになる。その結果失業
が発生する。
すなわち、資本蓄積に伴い労働力の需要は絶対的には増加するが、資本(可変資本
+不変資本)の増加に比べて相対的に減少する。労働力人口=労働力の供給が一定の
比率で増大するならば、ある時点で労働力の需要が労働力の供給を下回る、すなわち
失業の状態になる。マルクスはこの失業者の存在を相対的過剰人口と名づけた。
相対的過剰人口
可変資本
2
労働力人口
労働力の供給
不変資本
労働力の需要
=
=
問題2(40 点)
新古典派経済学は、失業者が存在する状態を限界理論とそれに基づく市場均衡の理
論よって完全雇用とそこからの乖離として説明しようとした。これに対してケインズ
は、働く意志をもちながら働く場を得られない労働者を雇用するための需要が不足し
ており、市場経済のもとではこの不完全雇用の状態のほうが一般的であるとした(『雇
用・利子および貨幣の一般理論』、1936)。新古典派とケインズの完全雇用に関する考
え方の違いを、実質賃金、自発的失業、非自発的失業、労働力の需要、労働力の供給、
の用語を用いて説明せよ。また、この過程を図を用いて説明せよ。
新古典派経済学の労働市場理論によれば、資本家=経営者(労働力の需要側)も労働
者(労働力の供給側)も労働力の価格である実質賃金に基づいて労働量を決定するこ
とになり、労働者は実質賃金が与えられることによって労働時間を決める。そして、
失業すなわち労働力の需要が労働力の供給を下回る状態は、労働者が均衡点よりも高
い賃金を求めていることになり、労働者が自発的に失業していると説明したのである。
新古典派の労働市場理論
労働力の供給曲線
自発的失業
実質賃金
均衡点
労働力の需要曲線
労働量(時間)
完全雇用
これに対してケインズは、労働力の需要が労働力の供給を下回る状態は労働者が自
らの意志に基づいて失業しているのではなく、非自発的に失業しているとした。そし
て、働く意志をもちながら働く場を得られない労働者を完全雇用するための需要が不
足しており、市場経済のもとではこの不完全雇用の状態のほうが一般的であるとした。
その根拠は、賃金はすでに雇用契約を結んでいる労働者を構成員とした労働組合と経
営者の交渉で決まるのであって、雇用されていない失業者が実質賃金を行動原理に自
らの行動=失業を選択することはあり得ないからである。
3
ケインズの労働市場理論
非自発的失業
労働力の供給曲線
実質賃金
均衡点
労働力の需要曲線
不完全雇用
完全雇用水準
労働量(労働者数)
問題3(20 点)
資料(裏面)を参考にして以下の設問に簡潔に答えよ
① 1930 年代から 40 年代にかけてヨーロッパとアメリカにおいて所得格差が縮小し
た要因について
(所得格差の拡大は資本の収益率が労働者の所得の上昇率よりも高いことによって生
じるが、)1930 年代から 40 年代にかけて世界大戦によって資本の多くが破壊された
一方で、戦争に多くの労働者を徴用するために労働者の賃金を上げる必要があった
ことから、この時期に所得格差が縮小した。
② 1950 年代から 60 年代(ヨーロッパでは 70 年代)まで所得格差があまり変化しな
かったが、それ以降所得格差が(特に米国で)拡大している要因について
第二次世界大戦後、先進資本主義国ではケインズ主義的経済政策による福祉国家路
線によって(あるいは累進税率の最高課税率を高めることによって)所得の再分配
が進んだが、ドルショック・オイルショック以降、新自由主義的な経済政策が進み
福祉国家路線の転換が行われ(あるいは累進税率の最高課税率を高めることによっ
て)、所得格差が拡大した。
または
所得格差の拡大は資本の収益率が労働者の所得の上昇率よりも高いことによって
生じるが、所得の上昇は経済成長率に依存するため、第二次世界大戦以降のドルシ
ョック・オイルショック以降の低経済成長によって所得の伸びが資本収益の伸びに
追いつかずに、所得格差が拡大した。
4
経済学概論 2014 年度期末試験得点集計データ
受験者
126
平均点
74.36508
最高点
100
最低点
0
標準偏差
21.44746
階級
<
度数
≦
0
5
2
5
10
1
10
15
1
15
20
1
20
25
0
25
30
2
30
35
1
35
40
2
40
45
7
45
50
2
50
55
2
55
60
6
60
65
8
65
70
10
70
75
15
75
80
15
80
85
12
85
90
12
90
95
17
95
100
10
成績は期末試験得点を基本にして、平常点、レポートを加味して評価します。
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