将来を見据えた エコスラグ利用・普及のための課題

巻頭言
将来を見据えた
エコスラグ利用・普及のための課題
エコスラグ利用普及委員会
顧問 北
政文
(宮城大学 食産業学部 環境システム学科
建設環境材料研究室 教授)
%)
我が国のマテリアルフローを概観すると、輸入量が約6∼
れると期待されている。
8億トン、輸出量が約1.5∼2億トンと収支バランスが極め
さて、廃棄物の溶融化技術に目をやると、全国の溶融処理
て悪く、国内資源と合わせると約7億トンが毎年国内に蓄積
施設は200ヶ所を超え、エコスラグの発生量は約80万トン、
されている。これらは何年か後には廃棄物やリサイクル材と
スラグの利用率は80%以上と高く推移している。これまで
なる。ちなみに大国であるアメリカは、輸出入共に3億トン
順風満帆のように思われるが、一方では、施設の廃止を決め
と安定しており、廃棄物の処理はそれほど深刻ではない。こ
た自治体や広域組合もあり、課題もいくつか見えてきた。
のためリサイクルや廃棄物の減容化は、輸入大国である我が
課題の一つは、コストが大きいことである。イニシャルコ
国特有の課題であると言える。
ストは、普及開始時に比べ小さくなったが、ランニングコス
このような背景から、2000年に「環境基本法」が大きく改
トが大きいようである。特に外部燃料を必要とする施設にお
訂され「循環型社会形成推進基本法」が制定された。法の目
いては、化石燃料の高騰の影響を受けている。このため、バ
的は、
「大量生産・大量消費・大量廃棄」型の経済社会から脱
イオ燃料やクリーンエネルギーへの転換技術が求められてい
却し、生産から流通、消費、廃棄に至るまで、物質の効率的
る。同時に、このことはCO₂排出抑制対策にもつながるもの
な利用やリサイクルを進めることにより、資源の消費が抑制
である。
され、環境への負荷が少ない「循環型社会」を形成すること
二つ目は、スラグの品質の確保である。環境安全性はもと
である。法制定から10年以上が経過し、産業廃棄物の再利
より、金属アルミニウムの膨張およびポップアウト抑制対策
用量は3,000万トン増え、結果的に埋立処分量は、この10
技術が必要である。これらについては、溶融炉の形式に依存
年間で5,000万トンだったものが1,400万トンまで減少し
するところが大きく、利用用途を勘案した意識改革を関係す
た。
るメーカの技術者に期待するところである。
2011年に起こった東日本大震災においても大量のがれき
三つ目は、グローバル社会である今日、海外展開も必要で
が発生したが、リサイクルを前提として処理が進められた。
あると考える。大韓民国およびイタリアにおいては、一部溶
被災地最大の処理区である宮城県石巻市では、2年半で約
融化が行われているものの、その他の地域では皆無であり、
600万トンのがれきおよび津波堆積物を細かく分別し、実
特に我が国と同様に輸入大国への展開が必要である。
に96%が再利用された。過去の大規模震災では、海洋埋立
最後に、我が国の産業の持続可能な発展のためには、エコ
処分されており、関東大震災のがれきは横浜港に埋立し現在
スラグをはじめリサイクル材の利活用は不可欠である。リサ
の山下公園となり、阪神・淡路大震災のがれきは海洋埋立処
イクルを推進するためにはエンドユーザの確保が極めて重要
分場であるフェニックスに持ち込まれた。東日本大震災にお
である。リサイクル事業は、一方が成り立てば他方が成り立
けるがれきのリサイクル技術は画期的なことであり、今後起
たないトレードオフの関係になることが多く、B/Cを考慮し
こるであろう大規模震災からの復興に国内外を問わず活用さ
継続できる事業にすることが肝要であろう。
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