粗削りでも評価したい 問題意識と独自性

【問1】つぎの文(出典:藤倉良(2011 年)
「エコ論争の真贋」新潮新書p 187 -190)を読んで、末尾の下線
部分「それぞれの立場による考え方の差」とは何を意味するのか、自分の言葉で説明しなさい。そのうえで、その
2012 年度
差を埋めるために必要な取り組みとはどのようなものか考えて論じなさい。
問1、問2のうち、どちらかを選択して解答しなさい。
【問2】
つぎの文(科学技術の進歩についての文)を読んで、「科学技術の進歩」について、具体的な科学技術の
例を挙げながら、あなたの考えを述べなさい。
問1、問2のうち、どちらかを選択して解答しなさい。
問1、問2のうち、どちらかを選択して解答しなさい。
●環境問題の
複雑さを直視する
人間環境学部
【問1】
以下の文章(ドミニク・プール、ケリー・ホワイトサイド「エコ・デモクラシー フクシマ以後、民主主
義の再生に向けて』明石書店、2012 年、24-27 頁 一部改変あり)の筆者たちは、現代の環境問題の特徴として、
第1に国境を越える地理的な広がり、第2に目にみえにくい不可視性、第3に予測しにくい予測不可能性を指摘し、
2015 年度 さらに第4の特徴として、世代を超える時間軸を指摘している。下線を引いた部分について、自分自身が選挙権を
持たない年齢であることを前提として、政治のありかたについてあなたの考えを述べなさい。
問1、問2のうち、どちらかを選択して解答しなさい。
●人間環境学部
向けて、主に文系分野から環境
問題に取り組むこと』を目指し
ています。自己推薦特別入試は
こ う し た 学 部 の 目 的 を 理 解 し、
高い意欲のある学生がほしいと
考えて実施してきました」。
環境問題を人文・社会科学系
の立場から学問するとはどうい
うことか。西城戸教授は「騒音
問題」を例にこう解説する。
「 自 然 科 学 的 な ア プ ロ ー チ で
は『この音は何フォン』なのかを
測定し、一定以上の音は人間に
は耳障り、という話を考えます。
一方、人文・社会科学では『問
題設定のあり方』も含めて検討
していきます。例えば『空港近
くの騒音問題』を見た場合、近
隣住民は『うるさい』と問題視
しても、飛行機の利用者にとっ
ては騒音は、問題にはなりませ
ん。同じ環境問題でも、立場や
視点によって捉え方が異なるの
です。このように環境問題は自
然破壊や環境破壊の有無と単純
に 考 え る だ け で は な く、『 ど ん
な問題として取り上げるのか』
も含めて見ていかなければなら
な い の で す 」。 自 然 科 学 的 な 視
点と共に、歴史的な経緯や文化・
哲学的な観点も含み、「社会の問
題」として学際的に環境問題を
捉えることを目指すものである。
人文・社会、自然科学を
クロスした出題
自己推薦特別入試はこうした
内 容 を 踏 ま え、「 高 校 生 活 で 習
得すべきリテラシー、能力」と
ともに、環境問題や持続可能な
社 会 に 向 け た「 活 動 経 験 」 や、
学部で学ぶ「意欲」を見る。
募集人員は 人。第一次選考
で「書類審査(調査書、志望理
由 書 )」 を 行 い、 そ の 合 格 者 に
対して第二次選考(筆記試験「英
語」「小論文」、面接)が課され
る。筆記試験の配点は英語10
0点、小論文100点の200
点。これらを踏まえ、面接(3
段階評価)で志望動機や意欲な
どを総合的に評価する。
このうち小論文では、人文・
社会科学系の教員が一題、理科
系の教員が一題を作問し、受験
生はそのうちの一題を選択する。
「 本 学 部 は 文 系 か ら 環 境 問 題
を考える学部ですが、理系的な
観点も必要です。そこで、人文・ 化的な要因」「人々がよりどころ
社会科学系と自然科学系の二つ
とする価値観の多様性」がある
の視点をクロスさせる出題を目
にもかかわらず、それらを無視
指 し て い ま す 」( 西 城 戸 教 授 )。 して国際的な環境保護団体や国
受験生の中には理系の受験生も
家間、国内の政治的利益が優先
おり、出題はこうした受験生を
されてきたことを「悲劇」と捉
も念頭に置いてなされる。
える。そしてメディアを通じて
例えば2015年度入試の出 「 ク ジ ラ は 食 べ る も の で は な く
題内容を見る(資料①)。【問1】 見るもの」との価値が国際標準
は課題文から「環境問題の3つ
となりつつあると指摘している。
の特徴(地理的な広がり、不可
受験生としては、当然、近年
視性、予測不可能性)」に加えて、 の日本など捕鯨国と反捕鯨国の
「 第 4 の 特 徴( 世 代 を 超 え た 時
対立状況などの予備知識が求め
間 軸 )」 を 踏 ま え て、 選 挙 権 を
られる。しかも課題文に示され
持たない年齢であることを前提
た「自然保護」の背景に、近年
に、政治のあり方を考察すると
のグローバル化と各地のローカ
いうもの。
ルな食や文化のせめぎ合いがあ
ま た【 問 2】 は「 捕 鯨 問 題 」 る こ と を 踏 ま え て 述 べ る な ど、
という具体的な環境問題につい
ま さ に「 多 様 性 」「 複 雑 性 」 を
て、「 で き る だ け 多 く の 多 角 的
踏まえた論が求められる。
な論点を整理した上」で、受験
答案の鍵を握る「具体性」
生自身が捕鯨問題に関わるとし
たら、どう関わるのかの「当事
採点は、それぞれの出題者が
者 性 」 を 述 べ る と い う 設 問 だ。 行い、極端に点数の差が無い形
で調整し、英語と面接の点数も
どちらも環境問題の本質的な理
突き合わせてバランスを見る。
解を問うものと言える。
答案評価のポイントについて
これらのうち【問2】を見る
西 城 戸 教 授 は こ う 語 る。「 主 張
と、課題文では現在の捕鯨問題
が 多 少、 粗 削 り で も い い の で、
の 対 立 の 根 本 に は、「 社 会・ 文
20
文系で環境を学ぶとは?
【問2】以下の文章(村田純一編『知の生態学的転回:第2巻 身体を取り囲む人工環境』東京大学出版会、
2013 年、229―230 頁)を読んで、あなたの考えを簡潔に述べ、あなたの答案に相応しいタイトルをつけなさい。
「環境問題を学ぶ」といえば、
生物や工学など、理系分野だと
捉えられがちだ。その中にあっ
て、政治や経済、社会、自然文
化 な ど 主 に「 文 系 分 野 」 か ら、
環境と社会についてアプローチ
してきたのが、法政大学人間環
境学部である。
人間環境学部では、2003
年の学部開設以来、自己推薦特
別入試を行ってきた。その目的
について、人間環境学部教授会
主任の西城戸誠教授は次のよう
に語る。「本学部は『持続可能(サ
スティナブル)な社会の実現に
【問1】
現在日本はいろいろな場面で時代の転換期ともいえる。以下の文(清水博『場の思想』東京大学出版会、
2003 年、66-68 頁)には、そのようなときに必要な構想力(未来の場を想像しそれを設計する能力)の欠如と
いう問題が書かれている。下線を引いた部分を中心に、この問題についてあなたはどう考えるか、出来れば具体例
2014 年度
も加えて自分なりに論じなさい。
2015 / 10 学研・進学情報 -6-
-7- 2015 / 10 学研・進学情報
西城戸誠 教授
【問2】
以下の文章(岩崎・グッドマン・まさみ『人間と環境と文化』清水弘文堂書房、2005 年、5 ~ 6 頁、
一部改変あり)を読み、捕鯨問題について可能なかぎり多角的な視点から論点を整理したうえで、将来、あなたが
捕鯨問題に関わるとしたら、どのようなかたちで関与したいか、できるだけ具体的に述べなさい。
推薦入試の合否を分ける「小論文」については、各大学の出題の特色をつかむこ
とが欠かせない。今号では学部の専門領域にかかわる良問を出題し続けてきた、法
政大学人間環境学部とキャリアデザイン学部の自己推薦特別入試について見ていく。
【問2】
つぎの文(出典:宮川公男『統計学でリスクと向き合う(新版)』東洋経済新報社、2007 年、5-8 頁)
を読んで、下線部「情報が豊かな社会では何かが貧しい」とはどういうことか自分の言葉で説明しなさい。そして、
情報化社会を生きていくうえでどのような対策、心構えが必要かを論じなさい。
法政大学人間環境学部・キャリアデザイン学部
【問1】つぎの文(出典:星野道夫『長い旅の途上』文春文庫、2002 年、32 - 37 頁)を読み、下線の部分の言
葉に込められた筆者の想い(何を伝えようとしたのか)について考察しなさい。その上で、筆者の想いに対するあ
2013 年度 なたの考えについて論じなさい。
粗削りでも評価したい
問題意識と独自性
資料① 法政大学人間環境学部自己推薦特別入試の小論文問題 近年の設問・課題文の出典
特集 ●私大推薦入試の小論文
●特集 私大推薦入試の小論文
●特集 私大推薦入試の小論文
次の文章(出典:宇野重規『<私>時代のデモクラシー』岩波新書、2010 年)を読み、第一
問および第二問に答えなさい。
第一問 文章中の傍線(ア)について、あなた自身が「『ノー・ロングターム』の社会」を実
感することとしてどのようなことがあるか。実例を挙げて、それがどうして「『ノー・ロングター
ム』の社会」を実感することといえるのか、説明しなさい。実例については 100 字以内で、
2012 年度 説明は 200 字以内で記しなさい。
第二問 下線部「仲間達があなた方のものを読む」ことで、どのようなことが生じてくるだろ
うか。あなたの考えを 200 字程度で述べなさい。
2014 年度
第一問 工場労働者がペンと紙をとって、自分の仕事について語ることは、自分自身にどのよ
うな影響をもたらすと、著者のヴェイユは考えているだろうか。200 字程度で述べなさい。
次の文章(出典:シモーヌヴェイユ(1936)
「Rの労働者達への呼びかけ」、『労働と人生に
ついての省察』、黒木義典・田辺保訳、勁草書房、2010 年(新装版第6刷))を読んで、第一
問、第二問、第三問に答えなさい。
2015 年度 第一問 本文中で示されている「自立」の意味について、200 字以内でまとめなさい。
●キャリアデザイン学部
金山喜昭 学部長
作問および採点は 人の教員
が行い、採点も担当する。設問
は例年、二つの観点から組まれ
る。第一問は「現代文を読み取
る力」。「どれだけ関連する本を
読んでいるのかどうかが大事だ
と考えています。これは教科書
だけではなかなか身につきませ
ん 」。 続 く 第 二 問 は、 読 み 取 っ
た内容を踏まえて、自分の頭で
論理展開できているのかの、「論
述の能力」を見るものだ。例年、
第一問(内容把握)ができてい
れば、第二問もよく書けている
と い う こ と で、「 課 題 文 の 内 容
把握」は答案全体の質を左右す
ると言える。
採点官は試験終了後ただちに
答案を読み、その日には採点を
終える。一点刻みで採点をする
が、最後には全体を見渡して最
初の採点と後の採点で間違いが
無かったか、バランスが悪くな
かったのかなどをチェックしな
がら、得点化している。
2
3
第二問 傍線部に関連して、「自立生活」の考え方は、あなたのこれからの生き方にとってど
のように重要な意味を持つだろうか。具体的な例を挙げながら、300 字以内で述べなさい。
32
次の文章(出典:金子郁容『ボランティア―もうひとつの情報社会」岩波新書、1992 年)を
読み、第一問および第二問に答えなさい。
22
第三問 二重下線部 「それはどうでもいいことです」とある。なぜヴェイユは、どうでもい
いと述べているのだろうか。また、それならば、何が目的なのだろうか。あなたの考えを
250 字程度で述べなさい。
2
第二問 本学部はキャリアを「仕事」という意味のほか、
「人生」を指す言葉として使っている。
文章中の傍線(イ)「人生の『物語』を紡いでいく」ためには、どのような生き方をすべきだ
と考えるか。具体例を示して述べなさい。また、そのような生き方ができる力を付けるために、
本学部でどのように学べばよいと考えるか。できるかぎり具体的に述べなさい。前者(生き方)
については 100 字以内、後者(学び方)については 300 字以内で記しなさい。
40
30
15
資 料 ② で 今 年 の 出 題 を 見 る。
出 題 は 金 子 郁 容 氏 の『 ボ ラ ン
ティア―もうひとつの情報社
会』(岩波新書)の一節である。
筆者はアメリカの身体障害者
の「『自立生活』運動」を例に、「自
立 」 と は、「 す べ て を 自 分 で で
きるということが自立ではなく、
自分の生活に関して、可能な範
囲で『自己決定をするというこ
と 』」 だ と 主 張 す る。 進 ん で リ
スクを引き受ける、そのこと自
体が「存在の尊厳」の証左であ
り、こうした「自立生活」は障
害者のみならず、すべての人に
とって大事であると述べている。
第 一 問 は 筆 者 が 語 る「 自 立 」
を適切に把握しているかどうか
を説明するというもの。そして
第二問はこうした「自立」に基
づいた「自立生活」の考え方を、
受験生自身の生き方に関わらせ
て、具体的に述べるというもの
である。まずは第一問では、筆
者の言う「自立」の意味が問わ
れている。ここでの「自立」は
通 常 考 え ら れ て い る、「 自 分 で
収入を得て、日常生活で人の世
話 に な ら な い 自 立 」 で は な く、
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-9- 2015 / 10 学研・進学情報
「全国であまり例を見ない学部
答案の出来不出来の鍵を握る
● 学問領域への
で学びたいという、積極的な意
の が「 具 体 性 」 で あ る。「 よ く
思 の あ る 学 生 」 を 求 め て き た。
大学1年生に『あなたの知って
問題意識を評価
実際、この入試で入学してきた
いる環境問題は?』と聞くと『地
キ
ャ
リ
ア
デ
ザ
イ
ン
学
部
学生たちは「第一志望」のため
球環境問題』と答える学生が
か、 や は り 大 学 生 活 へ の モ チ
割ぐらいいます。中身について
3領域にかかわり、
ベーションが高く、リーダー的
具体性、リアリティが全くない。
「ちょっとねじった」出題
存在である。
小論文も同様な傾向があります。
逆に課題について、自分の経験
続いてキャリアデザイン学部
そ れ で は 内 容 を 見 て み よ う。
である。設置は人間環境学部と
自 己 推 薦 特 別 入 試 は こ れ ま で、
や問題に引き寄せて具体的に論
第一次選考(書類審査)後に、第
じ た 生 徒 は 評 価 が 高 い で す ね 」 同じ2003年。キャリアデザ
イ ン 学 部 の 金 山 喜 昭 学 部 長 は、 二次選考(英語、小論文、面接)
と西城戸教授は語っている。
という流れだった。 年度の入
このように大学で学ぶ内容へ 「世の中が不安定で混迷し、人々
の生き方にも変化が求められる
試結果は定員 名に対して志願
の意欲に直結する自己推薦特別
中で、本学は『自分に対して自
者数が153人で二次選考合格
入試だが、この入試で入ってき
立的な自己を形成していけるよ
者が 人。受験生の多くが首都
た 学 生 へ の 評 価 は 高 い、「 非 常
うな人材の育成』と『他者の自
圏出身のなか、自己推薦特別入
にまじめです。オープンキャン
立 を 支 援 す る 人 材 の 育 成 』『 自
試には近年、北海道や山形、静
パスのスタッフや、環境系サー
己と他者という関係の中での人
岡などからの受験生も散見され
クルの活動の中心は自己推薦特
間形成が図れる人材育成』を目
ている。
別入試生です。ゼミナールでも
指しています」と語る。
活発で成績も良く、学部を盛り
書 類 審 査 で は「 志 望 理 由 書 」
が課される。志望理由書につい
上げてくれています」と西城戸
そこで自己推薦特別入試では
ては、「自分の言葉できちんと、
教授は語る。
『この学部で学びたい』という
昨年度の人間環境学部の自己
意志が記されているのかを見ま
推薦特別入試は志願者数 人で
す」と金山学部長。重要なのは
次 合 格 者 数 は 人。「 環 境 問
「学びたい内容」を具体的に示
題への問題意識が高く、意欲の
していくことである。
ある受験生はねらい目です」と
小論文で見たい力は何か。「受
西城戸教授は述べていた。
第二問 「全体性」を実現するためには、何が大切なのか。現代社会の問題を整理し、400 字
以内で述べなさい。
課題文に対して自分のオリジナ
リティを出せている答案は評価
が高くなります」
。先の捕鯨問
題ならば、「自分ならば、どう捕
鯨に関わるのか、
それはなぜか」
、
賛否どちらの主張でも構わない
ので、具体的で説得力のある主
張かどうかが問われている。
逆に評価があまり高くないの
は、
「自分が得意とする事例や
議論のパターン」に無理に引き
寄せようというもの。自分の型
にはめこみすぎて論旨が通らな
くなっているものや、地球温暖
化についての「決まり文句」に
無理に結びつけた答案も散見さ
れるが、「課題文にフィットしな
ければ、評価は低くなります」
。
また一通り論旨が通っていても、
「表面的で浅い答案やオリジナ
リティが見られない答案も、評
価はあまり高くありません」
。
「同じような答案の
む し ろ、
採 点 が 続 く 中、 き ら っ と 光 る、
解答者のオリジナリティが読み
取れる答案は評価します」とい
うように、文章としては粗削り
でも主張が明確なものは評価さ
れるという。
第一問 筆者が文中で繰り返し述べている「全体性」とは何か、何を意味しているのか。250
2011 年度 字以内でまとめなさい。
解決する能力も見たいと考えて
するな』と、推測しつつ自分の
います」と金山学部長。
言葉で論理的にきちっと表現す
る力を見たい。また本学部は『自
筆者が語る「自立」とは?
己形成』を大切にしているので、
自分で物を見て考えて判断して
次の文章(出典:暉峻淑子箸『豊かさの条件』岩波新書、2003 年)を読み、第一問および第二問に答えなさい。
験生は試験当日、その場で初め
て 問 題 文 を 読 む わ け で す か ら、
本学の学問領域に対する問題意
識が無いと書けませんね。出題
に 対 し て、
『これは○○と関連
資料② 法政大学キャリアデザイン学部自己推薦特別入試 小論文問題 近年の設問・課題文の出典
自分と社会の相互の依存性を認
め、
「自らリスクを取って行動
できる『自己決定』できること」
を指すものだと把握しているこ
とが、ポイントになる。
そして第二問ではこうした意
味での「自立」を、受験生自身
の日常生活や将来設計で具体化
することが求められている。「精
神的な側面も含め、人間は相互
依存しながら自立していくとい
う点を読み取って、具体的な事
例に落とし込んでいくことが求
められています」と金山学部長。
このようなテーマ設定につい
て金山学部長は、「本学部は『発
達・ 教 育 キ ャ リ ア 領 域 』
『ビジ
ネスキャリア領域』『ライフキャ
リア領域』の3つの領域にわか
れています。働くことなどにつ
いては様々な本も出ていますが、
小論文としてはこれらと重なり
つ つ も、
『ちょっとねじったと
ころ』でのテーマを心がけてい
ます」と語っている。
採点者が受験生の答案を読ん
で 感 じ る の は「 読 解 力 の 無 さ 」
で あ る。
「 ふ だ ん、 読 む ト レ ー
ニングをしていないのかな、と
推 察 さ れ ま す。『 筆 者 は 何 を 言
いたいのか』を探っていけば把
握できるはずですが」。
「意見」「展開」についてはど
う か。「 受 験 生 に は 自 分 に 引 き
寄せて意見を述べてほしいので
すが、ややもすると、世の中で
一般的に騒ぐような反応に同調
して書く例も多い。もっと『自
分だったらこう考える』という
視点を展開してほしい。受験生
に求めているものは深いんで
す」と金山学部長。
傍 観 者 的 な 声 も 多 い。「 例 え
ばいじめの問題への意見などを
問 う た と す る と、『 わ た し に は
何もできなかった』で終わって
しまう、思考停止した答案が目
立ちます。これでは答えにはな
らない。本学部で学ぶのであれ
ば、 他 者 と の 関 わ り に 対 し て、
もっと踏み込んで考えることを
大切にしてほしいと思います」。
「面接などとのアンバランス」
も 目 立 っ て い る。「 面 接 は よ く
できるけれども、書く力はない、
あるいはその逆というようにバ
ラ ン ス の 悪 さ を 感 じ ま す 」。 面
接 は よ く 指 導 さ れ て い る 一 方、
小論文は、あまり書き込まれて
さい。これは面接にも通じます」
いないということで、差が付き
と語る。
やすくなっている。
また、金山学部長は「高校の
先 生 方 は 生 徒 た ち に、『 社 会 で
なお、キャリアデザイン学部
の 自 己 推 薦 特 別 入 試 は、 2 0
今起こっている状況』をきちっ
16年度からキャリア体験特別
と 伝 え て く だ さ い。 本 や 映 像、
入試(自己推薦)とグローバル
ネットなど信頼のおける媒体を
体験公募推薦入試(現役生のみ) 紹介し、世の中の問題について
となる。詳細は大学HPなどで
学び、自分の頭で課題を考える
確認いただきたいが、新たな自
基礎的な態度を身に付けさせて
己推薦特別入試では、第二次選
ほしい。大学からでは遅すぎま
考 が「 小 論 文 」「 面 接 」 の み に
す」と語気を強める。
なるため、小論文の比重はます
文 章 指 導 は ど う か。「 形 を 整
ます高くなっている。
える指導もありますが、まずは
『何でもいいから書こう』と呼
*
びかけて、書くことに慣れてい
小論文入試への対応を行う上
で、高校現場は何をすべきか。
くことが大事だと思います。
西 城 戸 教 授 は、「 こ の 学 部 で 何
そ の た め に も、『 読 む こ と 』
を勉強したいか、学ぶ内容をイ
が大事です。世の中には膨大な
メージしてほしい。人間と環境、 知があるのですが、それらを吸
社会の問題は簡単ではなく、複
収するには、読む力が欠かせま
雑です。その複雑なことを単純
せん。新書レベルで構いません
に理解するのではダメなんです。 ので、本を読む習慣を身につけ
学部の内容を根気よく、丁寧に
させてほしい」(金山学部長)。
見て理解してください。これは
「 推 薦 入 試 の 小 論 文 」 は 大 学
間違いなく 世紀に必要な力で
の専門性に関わるメッセージで
す。 ま た、『 自 分 の オ リ ジ ナ リ
ある。大学人のこれらの言葉を、
テ ィ は 何 か 』、 拙 く て も 構 わ な
高校現場でも重く受け止めたい。
(取材・文/福永文子)
い の で、『 自 分 』 を 出 し て く だ
21
2015 / 10 学研・進学情報 -10-
-11- 2015 / 10 学研・進学情報