仮想腫瘍を埋め込んだ柔軟な臓器モデルの製作 Development of Low-Cost Soft Organ Model with Virtual Tumors ○小枝 正直(大阪電通大),水篠 公範( (株)Embedded Wings) , 千菊 敦士(京大),澤田 篤郎(京大) ,吉川 武志(京大) ,松井 喜之(京大), 小川 修(京大) ,國居 貴浩( (株)かしなシステム),岸本 直樹(大阪電通大) , 大西 克彦(大阪電通大) ,登尾 啓史(大阪電通大) Masanao KOEDA (OECU), Kiminori MIZUSHINO (Embedded Wings Co. Ltd.), Atsushi SENGIKU (Kyoto Univ.), Atsuro SAWADA (Kyoto Univ.), Takeshi YOSHIKAWA (Kyoto Univ.), Yoshiyuki MATSUI (Kyoto Univ.), Osamu OGAWA (Kyoto Univ.), Takahiro KUNII (Kashina System Co. Ltd.), Naoki KISHIMOTO (OECU), Katsuhiko ONISHI (OECU), Hiroshi NOBORIO (OECU) We have been developing a laparoscopic surgical training system. To train operations under various situations, preparation of various organ model is required. For example, shape, hardness, tactile and tumor location, size of organ. In this paper, we introduce a casting process for making a soft organ model with virtual tumors at a low cost. Key Words: Surgical training, Laparoscopic surgery, Endoscopic surgery, Kidney, Urology 1. はじめに 現在,我々は腹腔鏡下手術トレーニング装置を構築中で ある(Fig. 1) .手術トレーニングを行うためには様々な状況を 想定したリアルな臓器モデルが必要となる.例えば,臓器自体 の形状や内部の血管配置,硬度や触感,腫瘍の状況などを変え た様々なモデルが必要であろう.臓器モデルの製造は既に幾 つかの企業で事業化されており[1],[2],データを提供すればプ ラスチック製や柔軟なゲル素材で生成されたモデルが比較的 容易に入手できる状態である.これらは内部構造を再現した 精密で精細なモデルが必要とされる術前の手術シミュレーシ ョンや,患者への術前の説明などを主な対象としている.精密 なモデルではあるが,その反面,製造コストは高く,繰り返し 練習が必要なトレーニング用途には不向きである. 腹腔鏡下手術医から,腫瘍の大きさや埋没位置,埋没状況 などの違いにより手術方法が異なり,それらの状況に合わせ たトレーニングが必要である,との意見が得られた.トレーニ ング用臓器モデルを製作するにあたり,仮想的な腫瘍をいか に埋め込むかが重要である.また腫瘍摘出トレーニングに用 いられる臓器モデルは切開されるために再利用はできず,基 本的に使いきりである.多人数に対して継続的なトレーニン グを提供するためには,臓器モデルを安価で簡単に量産でき ることも大きな条件である. そこで本稿では,小規模な研究室でも購入可能な簡易な 装置を用いて,柔軟な臓器モデルを安価に量産するための一 連の方法についてまとめる.また,臓器モデル内の特定の位置 に仮想腫瘍となる物体を埋め込む方法についても述べる.今 回対象とする臓器は腎臓であり,腫瘍以外の内部構造の再現 は取り扱わないこととする. 鋳型の内側や側面に離型剤を塗布して乾燥させる.今回 はエクシール社バリアコートを利用した. 4. 適当な位置に湯口となる穴を開ける. 5. 仮想腫瘍として埋没する物体の中心を通るように糸を通 す(Fig. 3).今回は 0.3mm の透明なナイロン糸と直径 22mm のゴム球を利用した. 6. 埋没位置決め用の線を油性ペンで引き,それに合わせて 糸をテープで止める(Fig. 4) .今回の埋没位置は鋳型の下 枠から 20mm,右枠から 40mm とした. 7. 鋳型を合わせ,接合面に耐水性のテープを貼り,漏れを防 ぐ.クランプで挟んでおくとより確実である(Fig. 5, 6) . 8. 湯口からゲルを流し込む.今回はエクシール社人肌のゲ ル原液(硬度 5)を利用し,同社顔料(赤)で色付けした (Fig. 7) . 9. 硬化後,鋳型を分割してゲルを取り出す. 10. 表面にコーティング剤を塗布し,バリを切り取り,糸を抜 いて完成する(Fig. 8) . 3. Fig. 1 開発中の腹腔鏡下手術トレーニング装置 2. 製作手順 仮想腫瘍を埋め込んだ柔軟な臓器モデルの製作には,おお まかに以下の 10 ステップから構成される.今回用いた装置や 資材などを付記したが同等品でも問題なく製作可能であろう. 1. 対象臓器の DICOM データから鋳型となる 3 次元モデル を二分割して作成する.今回は 3D slicer[3]を利用した(Fig. 2). 2. 鋳型モデルを 3D プリンタで造形する.今回は Cubify 社 3D Touch を利用し,PLA で造形した. Fig. 2 二分割した鋳型の 3D モデル Fig. 3 ナイロン糸を通した仮想腫瘍 Fig. 7 鋳型へのゲル注入 Fig. 4 位置決め線を引いた鋳型と仮想腫瘍の固定 Fig. 8 完成した柔軟な臓器モデル(バリ取り前) 3. おわりに Fig. 5 鋳型の接合 小規模な研究室でも購入可能な簡易な装置を用いて,仮想 腫瘍を内包した柔軟な臓器モデルを安価に量産する方法につ いてまとめた.鋳型の製造,離型剤の乾燥,ゲル硬化にそれぞ れに 1 日程度要したため,モデル完成までには全体で 3 日程 度掛かった.しかし鋳型は 1 度生成すれば使い回し可能なた め, 以後は 1 日で製作が可能である. 製造費は 3000 円程度で, 主にゲル代である.本手法は腎臓に限らず,他の臓器の造形に 対しても応用可能であろう. 今後,血管や尿管など臓器の内部構造を含んだ造形や,触感 や硬度の再現など,さらにリアリティの高い臓器モデルの製 作を目指す. 文 Fig. 6 接合した鋳型のシーリング [1] [2] [3] 献 株式会社クロスメディカル http://www.xcardio.com/ 株式会社 JMC http://www.jmc-rp.co.jp/model/ 3D Slicer http://www.slicer.org/
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