ら い ぶ ら り い No. 1 6 3 小 論 文 部 門 行をさせてもらっているのだ。 ♠優秀賞 次に挙げる問題として、米の低価格化がある。ここ 何年かで米の買い取り価格がかなり低下している。現 田んぼのある風景 電子制御工学科4年 野津 将義 僕の親戚は農業をやっており、僕はよくその手伝い をしている。稲作と茶作りが中心だ。主な作業内容と しては春から夏にかけて茶摘みと田植え、秋ごろから は稲刈り、冬は農業機械の整備をしている。農業と関 わっていると、普段の日常では見ることができない風 景をよく見る。春先の茶畑、田植えの終わった水田、 穂の実った稲など、思わず写真を撮りたくなるような 風景だ。僕の生まれ育った大井という町は中海と山に 挟まれたような地形で、元々自然の多い所だ。平たく 言えば田舎なのだ。そういった事が理由となっている のか、この町には田んぼや畑がたくさんある。まだ人 間の都市化の手があまり行き届いていないこの町が僕 は好きだ。例えどのような就職に就こうとも、最後に は必ずこの町に帰ってきたい。しかし、今やその町の 田のいくつか、または近隣の町の田のいくつかは無く なってしまう危機に瀕している。その根拠にはいくつ か考えられるが、僕は高齢化と米の価格の低価が原因 になると考えている。 まず、高齢化が招くものは、作業の効率の低下、農 業技術の不継承だ。大井町では八十歳を越えても畑仕 事をする元気なお年寄りもいる。農家には、自分の家 族で食べる分だけ作っている所もあれば、出荷するた めに作っている所もある。出荷を目的とした時、重視 されるのは生産効率である。細かな作業スキルでは熟 練の老人の方が上かもしれないが、体力的に限界があ るはずだ。生産高を出せなければ利益が出ない。利益 が出なれば農場の維持経営ができない。これを解決す るためには、農家の世代交代をしなければならない。 つまり、次の若い世代への技術の継承をしなければな らない。農家側が積極的に若い世代を受け入れなけれ ばならないし、世界の若い人々も農業に興味を持たな ければならない。 例えば大井町では、核家族より祖父母、父母子で構 成される大家族が多い。日中は祖父母が畑仕事、父母 はそれぞれの職業の仕事をして、夕方に仕事を終えた 父が畑仕事、母は家事をするという一例もある。田植 えや稲刈りなどの時間を要する作業であれば一家族総 動員で休日を費やして行うこともある。大農家となる とパートなどで人を雇って人手不足を補うこともあ る。年月が経って、父母の世代が定年退職をすると、 祖父母の役割を引き継ぐ形になる。農家の規模にもよ るが、親族内での継承が主となる。家に畑を持つ者に は農業という義務が課せられるのだ。僕の家にも畑が ある。僕が畑作をしないことで畑が荒れてしまうこと はとても悲しく感じる。だから僕は、将来畑の維持に 困らないように、親戚の手伝いをしながら畑仕事の修 在の米農家からの農業協同組合の30キログラムあたり の米の買い取り価格は大体5000円くらいだ。これは、 高かった時期の半分程度という。米の値段は年々下が るばかりだが、米を作るため設備の維持費や、農業、 肥料などの費用は年々上昇している。例えば、トラク ターやコンバインは頑丈なようで実は多くの整備を要 し、機的に弱い部分はよく壊れたりもする。また、農 家の運搬の主役は軽トラックだ。近年、ガソリンの価 格が上昇し、運搬に要する費用もまた上昇している。 それに農家には軽トラック以外にもガソリンエンジン で動く道具は多くある。今の農家の経済状況は、いく ら生産してもそれに見合った利益が得られない事態に ある。米の低価格化の原因としては、食文化の変化に あると僕は考える。ファストフード、ラーメンなどの 麺類を売る飲食店などが若者には人気だ。パンなどの 小麦食品を食べることも多いだろう。このように、若 者を中心とする米離れが米の需要を低下させ、価格を 低下させているのだ。この問題を解決するには、米へ の興味・関心を幼年期から育てることが必要となる。 小、中学校に渡り食育の勉強を行い、米を食べるメリッ トや重要性を学べば、自分から米を食べたくなる。僕 は中学二年生の頃から白米が好きになり、給食ではた くさん食べていた。そのせいかわからないが、身長が 急に伸びた。僕もまた、米の恩恵のお陰で今までの生 活を送ってきたのだ。 この夏、大阪や名古屋などの大都市へ行き、田畑や 山や川の少なさに驚いた。そして改めて、島根の緑の 豊かさを実感できた。自分が恵まれた環境で育ってき たことが分かった。島根には今のままであって欲しい し、大井の田畑の風景もずっと変わらないでいて欲し い。そのためにはまず、安定した人生、老後を得るた めに社会人へと育たなければならないし、老後のため に丈夫な体を作らなければならない。そういった決意 を得る夏となった。 −7− 評 日本の農業は農業従事者の高齢化や米の価 格低下、外国産の安い農産物の流入など多く の問題を抱えている。これを大所高所から論ずる のではなく、田園の広がる環境に生まれ育った視 点から捉えている点が良い。ガソリン価格と農業 の関係など経験がなければわからないだろう。こ れからはパンよりご飯をたくさん食べて日本の 農業を守ろうではないか。筆者も「米を食べて身 長が伸びた」のだから。 (黒田祐一)
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