Mismeasuring Our Lives: Why GDP doesn`t add up

高齢化・人口減少時代における
居場所・地域・コミュニティ
広井良典(千葉大学)
[email protected]
全体の流れ
• はじめに:高齢化・人口減少時代の社会構想
ー真の「豊かさ」に向けてー
• 1.コミュニティと「福祉都市」
• 2.「人間の3世代モデル」と持続可能な地域
• おわりに:高齢化・環境親和型社会への展望
• (付論1) 伝統文化の再評価:鎮守の森とコミュニティ
• (付論2)ターミナルケアと死生観
• (付論3)医療・健康とコミュニティ
はじめに:
高齢化・人口減少時代の社会構想
ー真の「豊かさ」に向けてー
ジャパン・シンドローム?
高齢化と人口減少
・・・危機かチャンスかーー世界が注目
日本の総人口の長期的トレンド
様々な「幸福」指標とランキング
GNH・GAH・AKH
・・・「GDPに代わる経済指標」や
「幸福度」をめぐる議論の活発化
• フランスのサルコジ大統領(当時)の委託を受け、ノーベル経
済学賞を受賞したスティグリッツやセンといった経済学者が、
「GDPに代わる指標」に関する報告書を刊行(
Mismeasuring Our Lives: Why GDP doesn’t add up,
2010)。
・・・GDPで計測できない「生活の質(Quality of Life)」や「持
続可能性(Sustainability)」を重視。
• GNH(ブータン)、GAH(荒川区)、AKH(熊本県)などをめぐ
る議論。
• 内閣府・幸福度に関する研究会・・・2011年12月に幸福度指
標試案を公表。
①経済社会状況、②心身の健康、③関係性、の3本柱。
世界における生活満足度と所得の関係
(出所)フライ(2005)
経済成長と「Well-being(幸福、福祉)」
(仮説的なパターン)
幸福度
【幸福度の規定要因として
考えられるもの】
●コミュニティのあり方
(人と人との関係性)
●平等度(所得等の分
配)
●自然環境との関わり
●精神的、宗教的なよりど
ころ等
●その他
→相関弱(ランダム
な関係)
経済成長(一人当たり所得)
千葉県全体も今後人口減少。一方、高齢者数
は全国の中でもっとも増加
人口全体:622万人(2010年)→536万人(2040年)〔0.86倍〕
高齢者人口:134万人(2010年)→196万人(2040年)〔1.46倍〕
(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人
口」(2013年3月推計)
千葉県内の圏域別にみた人口動向
(2010→2040年の人口増減率予測)
(出所)千葉銀行『千葉県の将来人口の動向と変化を踏まえた
今後の対応策』2012年10月
地域再生・活性化に関する全国自治体
アンケート調査
• 2010年7月実施
• 1)全国市町村の半数(無作為抽出)及び政
令市・中核市・特別区で計986団体、
2)全国47都道府県に送付。
• 1)については返信数597(回収率60.5%)、
2)については返信数29(回収率61.7%)。
現在直面している政策課題で特に優先度が高
いと考えられるもの(複数回答可)
(n=597)
0
50
100
150
200
1)人口減少や若者の流出
250
300
350
154
3)格差・失業や低所得者等の生活保障
37
4)中心市街地の衰退
173
5)コミュニティのつながりの希薄化や孤独
128
6)経済不況や産業空洞化
161
7)少子化・高齢化の進行
433
8)農林水産業の衰退
10)その他
450
317
2)財政赤字への対応
9)自然環境の悪化
400
166
11
61
「少子化・高齢化の進行」、「人口減少や若者の流出」が特に多い。
500
地域によって異なる課題(人口規模別)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
1
3
119
①人口1万人未満
25
19
13 15
109
68
8
6
②人口1万人以上
5万人未満
135
56
8
52
43
52
154
73
22
3
③人口5万人以上
30万人未満
52
63
81
14
72
55
129
23
18
0
④人口30万人以上
100万人未満
10
8
8
20
9
17
30
7
0
1
⑤人口100万人以上の都市
及び東京都の区(特別区)
2
2
4
1
5
8
11
1
6
11
総合計
1)人口
減少や
若者の流出
2)財政赤字
への対応
317
3)格差・失業や
低所得者等の
生活保障
154
4)中心
市街地の
衰退
37
173
5)コミュニティの
つながりの
希薄化や孤独
128
161
6)経済
不況や
産業空洞化
433
7)少子化・
高齢化の
進行
8)農林
水産業の
衰退
166
9)自然
環境の
悪化
61
10)その他
・「少子化・高齢化の進行」はあらゆる規模の自治体を通じた共通の重要課題。
・小規模市町村では「人口減少や若者の流出」が特に問題。中規模都市では「中心市街
地の衰退」。大都市圏では「コミュニティのつながりの希薄化や孤独」(「格差・失業や低所
得者等の生活保障」も)。
ひとり暮らし世帯の増加〔特に高齢女性〕
ひとり暮らし高齢者の急速な増加
1995年⇒2010年
• 男性:46万人から139万人に (3.0倍)。
・・・93万人の増加。
• 女性:174万人から341万人に (2.0倍)。
・・・167万人の増加。
*「高齢社会における都市」をめぐるOECD国際
会議(2014年10月、富山)でも、高齢者の孤独・
孤立(loneliness)をめぐるテーマが大きな話題に
「居場所」の意味
• “空間”的な場所も重要だが、精神的なもの
が重要。
• 英語の“feel at home” 「アット・ホーム」
• ・・・自分が自分でいられる場所、安心できる
場所、自分がそこに根ざしていると感じられる
場所。
• さらには生きがいや誇り、社会への貢献、社
会的な承認、他世代とのつながり等も。
戦後の日本人にとっての「居場所」
とは
• 農村から都市への人口大移動。
⇒「カイシャ」と「(核)家族」が“居場所”の中心に。
• 特に男性にとっては最大の居場所=カイシャ。
• 団塊世代の退職や急速な高齢化の進展の中で、
新たな「居場所」を模索しているのが現在の日本
社会。 ・・・社会全体を象徴する課題。
1.コミュニティと「福祉都市」
退職後の居場所: 「あなたは自宅以外で定期的
に行く居場所がありますか。」・・・首都圏に住む60~74歳の
男女1236人へのアンケート調査(複数回答)
(出所)日本経済新聞社・産業地域研究所『超高齢社会の実像』調査報告書、2014年9月
先進諸国における社会的孤立の状況
・・・日本はもっとも高。個人がばらばらで孤立した状況
ソーシャル・キャピタル
(人と人とのつながりのあり方)
と健康水準の相関 (アメリカ)
(出所)パットナム(2006)
高齢単身世帯割合と介護の軽度認定率
の相関(都道府県別)
(出所)厚生労働白書平成17年版
「地域密着人口」の増加
人口全体に占める「子ども・高齢者」
の割合の推移(1940-2050年)
60
50
%
40
子ども
高齢者
合計
30
20
10
50
20
40
20
30
20
20
20
10
00
20
90
20
19
80
19
70
19
60
19
50
19
19
40
0
(注)子どもは15歳未満、高齢者は65歳以上。(出所)2000年までは国勢調査。2010年以降は「日本の将来推計人口」
(平成18年12月推計)。
(参考)若い世代の「ローカル志向」
• 最近の学生の傾向
“静岡を世界一住みやすい町にしたい”
“地元新潟の農業をさらに再生させたい”
“愛郷心を卒論のテーマにする”
海外に留学していた学生が地元や地域にUターン、I
ターンetc
• ローカル志向は時代の流れ。“内向き”批判は的外
れ。
• むしろそうした方向を支援する政策が必要。
・・・“ローカル人材”の重要性。
地域コミュニティ政策に関する自治体
アンケート調査
• 2007年5月実施。
• 対象は全国の市町村。
• 全国市町村1834のうち無作為抽出917、プラス政令市とそ
の区・その他で1110団体に送付。返信数603(回収率54.3
%)
• 質問事項は、
・地域コミュニティの中心
・地域コミュニティの単位
・地域コミュニティづくりにおける課題・ハードル
・地域コミュニティづくりの主体
・地域コミュニティ政策において重要なこと
・その他複数の自由回答項目
「コミュニティの単位」
「自治会・町内会」との回答が群を抜いて多。次が「小学校区」。
450
400
350
300
250
200
150
100
50
1
他
)そ
6
社
区
)地
5
・町
会
治
)自
の
協
会
内
区
校
学
)小
学
)中
2
3
4
)市
町
村
の
行
政
校
単
区
位
0
地域コミュニティづくりの主体として
今後特に重要なもの
「自治会・町内会」と「住民一般」が特に多い。次いで行政、NPO
。
600
500
400
300
200
100
1
社
0)
神
1
他
の
1)
そ
・お
寺
校
)学
9
生
)民
8
等
経
済
委
団
員
体
会
内
工
会
会
・町
)商
7
6
)自
治
民
一
般
員
)住
4
)議
5
3
)民
間
企
業
PO
)N
2
1
)行
政
0
荒川区の例
(『日経グローカル』誌の高齢化対応度調査(2013年
11月)で全国2位〔調査自治体:702市区〕)
• 「地域力」を大切に。←「GAH(荒
川区民総幸福度」の一環
• 「町会」の活動を重視。
• 高齢者みまもりネットワーク
例)新聞販売店との連携
• 緊急通報システム(ひとり暮らし高
齢者等が家庭内の専用機器ボタ
ンを押すと事業者の警備員が駆
けつける)
• 孤独死はほぼゼロ。
今後重要となる居場所やコミュニティ
とは
• 「時間コミュニティ」と「空間(地域)コミュニティ」
*時間コミュニティ・・・何らかの共通の関心や趣
味等を通じたつながりや活動。
*空間(地域)コミュニティ・・・同じ地域の住民同
士のつながりや活動。
(a)伝統的なもの・・・町内会・自治会
(b)自発的なもの・・・地域に根差したNPOやま
ちづくり・地域づくりに関する団体等。
• これらはいずれも重要で、相互に補完的なもの
であり、相乗効果や連携が期待される。
福祉政策とまちづくり・都市政策
との総合化
• ヨーロッパなどの街・・・高齢者がごく自然にカフェや
市場などでゆっくり過ごす。
• 日本やアメリカの街・・・圧倒的に“生産者”中心。
• 高齢者等がゆったり過ごせるような場所(居場所)
が街の中にあることは、ある意味で福祉施設や医
療施設を作ること以上に重要な意味を持つのでは
ないか。
• まちづくりや都市政策と福祉政策との連動が重要。
高齢者もゆっくり歩いて過ごせる街
(ミュンヘン)
中心部からの自動車排除と「歩いて
楽しめる街」(フランクフルト)
中心部からの自動車排除と「歩いて
楽しめる街」(エアランゲン)
→街のにぎわいと活性化にも。
歩行者専用空間と「高齢者もゆっくり過ごせる街」(ドイツ:
バート・ライヘンハル〔人口1.7万人〕)
歩行者専用空間と「高齢者もゆっくり過ごせる街」
(デンマーク:ロスキレ〔人口4万人〕)
歩行者空間と「座れる場所」の存在
(チューリッヒ)
高齢者もゆっくり楽しめる
市場や空間
(シュトゥットガルト)
「コミュニティ感覚」と空間構造
• 都市空間・地域空間のあり方(というハード面)が、
「コミュニティ感覚」ないし“つながり”の意識に影響
する。
Ex.・道路で分断された都市
・職場と住居の遠隔化
・自動車中心社会と“買い物難民”、商店街空
洞化
• 「コミュニティ醸成型空間」
vs「コミュニティ破壊型空間」
• 「コミュニティ醸成型空間」ということを意識した街づ
くり
改善を考えるべき例:
道路で分断された商店街や参道
(千葉市稲毛区:せんげん通り)
典型的な日本の地方都市
・・・道路中心の街と中心部の空洞化
(水戸駅南口)
コミュニティ感覚が保たれている例
(静岡:駅前に縦横に広がる商店街
と歩行者空間)
荒川区・「ジョイフル三ノ輪」商店街
コミュニティ空間、“サード・プレイス”として
*図書館、カフェなど学習スペース、
子育て関連スペース、自然エネル
ギー設備等との融合も。
コメダ珈琲店
“サード・プレイス”としてのカフェ
「福祉政策と都市政策の統合」
• これまで
・都市政策・・・「開発」主導、ハード中心の思考
・福祉(社会保障)政策・・・「場所・空間」という視点が希薄、
ソフト中心の思考
• 今後は、両者の統合が必要。たとえば、
・中心部にケア付き住宅や若者・子育て世代向け住宅等を整
備・誘導し、歩いて楽しめる商店街などとともに福祉・医療の
視点と地域再生・コミュニティ活性化等の視点を複合化する
・中心部からの自動車排除と歩いて楽しめる街づくり
→コミュニティ醸成型空間の形成
・公有地の積極的活用や強化、コミュニティ政策との連動
→福祉(買い物難民減少など)・環境(ガソリン消費削減など)・
経済(中心部活性化、雇用など)の相乗効果へ。
(参考)関連の研究やプロジェクト
• 「スマートウェルネスシティ」の試み(新潟県見附市、三条市、
岐阜県岐阜市等。総合特区に指定。筑波大学・久野(くの)
譜也教授研究室と連携) ・・・歩いて楽しめるまちづくり→健
康寿命改善→医療費や介護費の節減。
• 千葉県柏市の試み(東京大学高齢社会総合研究機構、UR
都市機構)・・・団地を拠点とする高齢社会のまちづくり)
• 柏の葉スマートシティプロジェクト(東京大学高齢社会総合研
究機構、千葉大学予防医学センター、三井不動産)
• OECDコンパクトシティ・プロジェクト・・・報告書Compact
City Policies(2012)公刊(世界5都市の国際比較〔メルボル
ン、パリ、ポートランド、富山、バンクーバー〕)→去る10月17
日に富山市で国際会議「高齢社会におけるレジリエントな都
市」
事例紹介
宮下佳廣さん
&鎮守の森コミュニティ推進協議会の皆さん
• 1944年生まれ
• 企業を定年退職後、森林イン
ストラクターの資格を取得。
• さらに千葉大大学院園芸学研
究科を修了。
• “時間と競争に追われた”企業
人時代にできなかった、地域に
根差した活動を開始。関心を共
有する新たな仲間たちと。
鎮守の森セラピー(鎮守の森・森林療法)の試み
地域における交流や出会いの場としても
(参考)千葉大学「福祉環境交流センター」
での試み
• 1998年設置
• 大学と患者会・NPO等の市民団体及び地域
社会との直接的な連携のあり方を模索。
• 医療・福祉・環境分野の8つの団体が登録し
、日常的に利用。
• センターの基本的な機能は、1)情報拠点機
能、2)交流機能、3)相談機能、4)調査・政
策提言機能の4つ。
利用団体の概要(1)
• 「支えあう会『α』」(代
表:五十嵐昭子氏)
・がん患者や、体験者、
家族等が、立場を超え
て学びあいながら、“
がん”をベースに「生老
病死」を語りあい、自
分らしく生きる事をめざ
し、ともに支えあう会。
・定例会、気功教室、講
演会等や電話相談を
実施。
利用団体の概要(2)
• 「NPO法人千葉・在宅ケア市民ネットワ
ーク ピュア(NPOピュア) 」(代表:藤田
敦子氏)
・ 在宅ケアを支援し、「患者本位の医療間
連携づくりを働きかけ、継続したケアを
地域で提供していくこと。最期の場所を
自由に選び、可能にするシステムをつく
ること」を目指す。
・ 情報誌発行、講演会、電話相談、ボラン
ティア養成などを実施。
・ 千葉県との協働事業「在宅緩和ケアガ
イドブック」作成や、県の「在宅緩和ケア
ネットワーク指針 」づくりへの参画等。
2.「人間の3世代モデル」と
持続可能な地域
最大寿命と性成熟年齢の関係
ー人間は他の生物に比べ高齢期が構造的に長いー
「人間の3世代モデル」
ー老人の「遊+教」の役割が重要ー
老人 : 「遊」 +「教」
大人 :
「働(産)」
子ども: 「遊」
生産/生殖から自由
+ 「学」
人間の創造性の源
「老人と子ども」統合ケアとコミュニティ
• これまでのケアは、「ケアする者-ケアされる者」と
いう1対1関係を基本。
• しかし、人間にとって重要なのは「老人と子ども」や
個人間の相互作用。
• 都市化や核家族化の中で、そうした相互作用は失
われがち。
→「老人と子ども」統合ケアの必要性。
• また、老人と子どもを含む多世代のコミュニティの再
構築が重要。
• さらに、世代間の人口バランスや世代間継承性を重
視したまちづくり・地域づくり
→「持続可能な地域社会」 (~人口減少問題ともつな
がる)
「老人と子ども」統合ケア 例
(千葉県市原市;日夕苑 〔おもちゃ美術館〕)
様々な試み
• 1)ユーカリが丘(千葉県佐倉市)での試み(山万株
式会社) ・・・3世代共生型のまちづくり
• 2)高島平団地における大東文化大学との協働
・高齢化が進む団地の何室かを大学が借り切り、
留学生を含む学生が居住し高齢者等との交流事業
を展開。
• 3)東京おもちゃ美術館(四谷)
・小学校の跡地を活用。おもちゃや「遊び」を通じた
高齢者と子どもの交流活動
• 4)岐阜県・石徹白地区でのNPO「地域再生機構」
の取り組み
岐阜県石徹白地区
(郡上市白鳥町)の遠景
ーNPO「地域再生機構」による小水力発電をベースと
する「持続可能な地域」づくりの試み。
小水力発電(大)〔上掛け水車型。750ワット。
落差3m〕
「石徹白(いとしろ)地区は、白山信仰の拠点となる集落であり、小水力発電を見に来
ていただく方には、必ず神社にお参りいただいています」
「自然エネルギーは、自然の力をお借りしてエネルギーを作り出すという考え方」であ
り、「地域で自然エネルギーに取り組むということは、地域の自治やコミュニティの力を
取り戻すことであると、私どもは考えております」 (NPO地域再生機構の副理事長、
平野彰秀さんの言 )
町のいちばんいい所に保育園、ホスピス、社を
(宮崎駿・養老孟司『虫眼とアニ眼』より)
・・・老いや世代間継承性を包摂する都市・地域
おわりに:
高齢化・環境親和型社会への展望
高齢化の地球的進行 Global Aging
• 2030年までに世界で増加する高齢者(60歳以上)
の地域別割合
(World Bank, Averting the Old Age Crisis, 1994)
• 「20世紀が人口増加の世紀――世界人口は
16億から61億にまで増加した――だったとす
れば、21世紀は世界人口の増加の終焉と人
口高齢化の世紀となるだろう」
(Lutz et al(2004))
環境親和型社会と高齢化社会
環境親和型社会
特質
定常型社会 steady-state society
人口定常化
持続可能性
environmental
sustainability
↑
資源の有限性
finite resources
stable population
↑
高齢化と低出生率
aging and low birthrate
「循環」性
重要となる
コンセプト
「人間ー自然」間
時間軸
高齢化社会
超長期
世代間
長期
高齢化・環境親和型社会の
フロントランナーとしての日本
• 日本は高齢化・人口減少社会の文字通りフロントラ
ンナー。
• 多くの課題や困難を抱える一方、
• 相対的に費用対効果の高い形で長寿を実現。自然
との親和性や、伝統的な自然信仰が保存。
• 近代西欧文明とアジア、先進国と途上国をつなぐ位
置。
• 新たなモデルと真の豊かさへの模索。
御清聴ありがとうございました
コメント、質問等歓迎します。
[email protected]
(付論1)
伝統文化の再評価:
鎮守の森とコミュニティ
自然やスピリチュアリティ(精神的価値)を含む
コミュニティの再構築と「鎮守の森」
• かつての日本
→地域コミュニティの中心に神社やお寺が存在。
・・・自然や信仰、世代間のつながりが一体となったコミュニティ。
• 高度成長期
→急速な都市化・経済成長の中で、そうしたつながりを喪失。
• 現代社会において、いかにコミュニティ、自然、スピリチュアリティとのつ
ながりを回復していくかという課題。
• 全国の神社の数 :8万1000ヶ所
お寺の数 :8万6000ヶ所
・・・都市から農村への人口大移動の中で、高度成長期においては人々
の関心の中心からははずれた存在。
→コミュニティの希薄化や精神的空洞化が指摘される今、その意義が再
発見、再評価され、積極的な位置づけや活用が考えられていくべきでは
ないか。
「鎮守の森・自然エネルギーコミュニティ
構想」
• 神社やお寺といった存在は、かつて「コミュニティの中心(な
いし拠点)」として存在し、経済、教育、祭り、世代間継承など
コミュニティの多面的な機能を担っていた。
• こうしたコミュニティにとって「鎮守の森」のもつ意義を、自然
エネルギー拠点の整備と結びつけていくプロジェクト。(なお
、祭りが盛んな地域では若者のUターンや定着が多いという
指摘あり。)
• さらにそうした自然エネルギー拠点について、周囲の場所を
一体的にデザインし、保育や高齢者ケアなどの福祉的活動
、環境学習や教育、様々な世代が関わりコミュニケーション
を行う世代間交流等々の場所として、新たな「コミュニティの
中心」ないし拠点として多面的に活用。
• 自然エネルギーという現代的課題と、自然信仰とコミュニティ
が一体となった伝統文化を結びつけたものとして、日本が世
界に対して誇れるビジョンとなりうる可能性。 〔→「鎮守の森
コミュニティ研究所」ホームページ参照。〕
久伊豆神社(埼玉県越谷市)
神社関係の雑誌『若木』(2012年3月)掲載の「鎮守の森・自然エネルギー構想」に関す
る文章を契機に問い合わせあり。
太陽光発電導入へ
地域に開かれた様々な行事
太陽光パネル取り付け
予定の社務所屋根
●導入のねらい・・・自然災害等で大規模な停電になった際に、氏子を中心とした地域
住民を対象として、集会室兼空手道場を避難場所として活用するための非常用の電
源を確保し、行政に頼らない“神頼み”の役割を担う。
●さらに流れ落ちている御霊水の下に小型水車を入れ、災害時の非常灯の電源にす
る案を盛り込み、太陽光に一部小水力を加えた形で実現(2013年夏)。
逢瀬神社(長野県小布施町)
町の中心部にある逢瀬神社
や、町立の健康福祉センター
の脇に小水力発電を導入し、
街道の街灯の電力等に活用
する案を計画中。→町民の交
流拠点や観光拠点として活
用。
鎮守の森セラピー(森林療法)の試み
<白幡天神社(市川市)にて>
実施例)最初に気功を行い、続いて樹木に寄り添う、触れ
る、抱える等により瞑想を行う。
(付論2)ターミナルケアと死生観
五木寛之「2013年のうらやましい死に方」
(『文芸春秋』2013年7月号)
• 人の死に方や看取りに関する読者投稿の募
集。1999年の第1回目に次いで二度目。
• 「「団塊死」の時代」という時代状況。
• 「「死」はいま「生」よりも存在感を強めている」
• (同12月号:読者投稿の内容を踏まえて)
• 「いま「生き方」と同じように、「逝き方」を現実
の問題としてオープンに語り合えるようになっ
てきた気配がある」
死亡急増時代
108万人(2005年)→167万人(2039年)〔2012年推計〕
千人
日本における死亡場所の年次推移(%)
今後は高度成長期と“逆”のベクトルへ
90
80
70
60
自宅
50
%
病院
40
診療所
30
老人ホーム
20
10
0
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2006 2008 2010
病院の割合は2006年に前年から初めて減少(79.8→ 79.7%。〔2010
年には77.9%〕 )、一方、老人ホームが徐々に増加(2.1→2.3%。
〔2010年には3.5%〕 )。
死亡場所の国際比較
日本
(2010)
イギリス
(1990)
デンマーク
(1999)
病院
77.9%
54%
49.9%
ホスピス
-
4%
-
自宅
12.6%
23%
21.5%
福祉的施設・
住宅
老人ホーム
3.5%
ナーシング・
ホーム、レジ
デンシャル・
ホーム
13%
プライエム・保
護住宅
24.7%
その他
診療所2.4%
診療所3.8%
死生観の空洞化
• 戦後日本が脇に置いてきた課題・・・特に高度
成長期
• 若い世代の場合
・・・公の場では語られず、アニメや音楽が代替
死生観や生きる意味への“飢餓感”
• 経済の成熟化・定常化と死生観
・・・「離陸」の時代から「着陸」の時代へ
ライフサイクルの二つのイメージ
【直線としての人生イメージ】
【円環としての人生イメージ】
生 死
子ども
成長、上昇、
進歩
生
老い
死
老人
「たましいの帰っていく場所」
• 『バウンティフルへの旅』(The Trip to
Bountiful)
・・・1985年のアメリカ映画(主演女優の
ジェラルディン・ペイジはこの作品により
同年のアカデミ-主演女優賞を受賞)
• 主人公にとっての「生まれた場所」の意
味
• 「たましいの帰っていく場所」と、円環とし
ての人生イメージ。
• 死生観において本質的なのは、その人
にとっての「たましいの帰っていく場所」
と呼ぶべきものを見出し、確かめること
ではないか。
日本人の死生観 -その3つの層ー
特質
A..“原・神道的”な層 「自然のスピリ
チュアリティ」
死についての理解/
イメージ
生と死の関係
「常世」、「根の国」
・・・具象性
生と死の連続性・
一体性
B.仏教(・キリスト教) 現世否定と解脱・ 浄土、極楽、涅槃等
的な層
救済への志向
(仏教の場合)、永遠
の生命(キリスト教の
場合)
・・・抽象化・理念化
C.“唯物論的”な層
“科学的”ないし
“近代的”な理解
死
死=「無」という理解
生と死の二極化
生=有
死=無
「自然のスピリチュアリティ」
• キリスト教や仏教などの普遍宗教においては、「スピリ
チュアリティ」は、理念化・抽象化された概念として考え
られる傾向 ( 「永遠の生命」 「空」「涅槃」etc)。
• これに対して、日本を含む地球上の各地域・文化圏に
おけるもっとも基底的な自然観においては、スピリチュ
アリティは「自然」と一体のものとして考えられてきた。
例) 「還自園」
・・・「たましいの帰ってい
く場所」として
(参考)学生(2年生、女子)のレポートより
(ターミナルケアにおける「地元」の重要性)
• 「ターミナルケアと死生観について、私は「若者」のうちに「どう
死ぬか」ということを考えておく必要がある、また「地元」と呼べ
る場所を生産年齢のうちに失わない、あるいは作っておくこと
が重要だと考える。」
• 「これは、自分の還るべき場所というものを見失ってしまえば、
満足な形で死を迎えることができない、孤独死などの問題に
つながっていくと考えるからである。・・・もし、生産年齢の間、
それまで住み慣れた地域を離れ、全く地縁のないところで人生
の大部分を過ごしたとしても、「地元」と呼べる場所を失わない
限り、そこが各人にとっての還っていく場所であり、心が休まる
場所であり、還っていくコミュニティとなりうるのではないだろう
か。
心理的な面で、やはり帰っていくべき場所があるというのは
、大きな安心感を伴う。人によって変わる可能性があるが、日
本人が望む「安らかな死」というものには、このような還るべき
場所(自分が居てもいいと周りに認められている場所)にいる
のだという安心感が必要となってくるのではないかと考える。」
(付論3)医療・健康とコミュニティ
医療費の対GDP比と平均寿命の関係
(国際比較)
フランス
83
日本
82.5
82
スウェー
デン
平均寿命
81.5
ドイツ
81
80.5
80
79.5
イギリス
アメリカ
79
78.5
0
5
10
15
20
医療費の対GDP比( %)
(注)医療費の対GDP比: 2011年 (日本は2010年)。平均寿命: 2011年。いずれもOECD
データ。
虚血性心疾患の死亡率 国際比較
(2000年、OECDデータ)
日本
アメリカ
医療費の配分
ー今後は医療の周辺部分が発展→予防的効果ー
A.高度医療
研究開発
保険給付外の
高度医療
2兆円
5,000億円
高度先進医療
健診・
人間ドック
等
医療の本体部分
(診断・治療・
リハビリ等)
特別材料
給食等
差額
ベッド
給食
室料
C.生活サービス・
アメニティ
あんま・マッサージ・指圧
はり・きゅう・柔道整復
B.
予防・健康増進
大衆薬
(かぜ薬等)
5,000億円
一部負担
39.2兆円
介護保険
7.9兆円
(注)本体部分の39.2兆円は
2012年度「国民医療費」、介護
保険の7.9兆円は2011年度「社
会保障給付費」による。
D.介護・福祉
は現行保険給付の範囲
(出所)広井良典『医療の経済学』日本経済新聞社、
1994を改変。
特定病因論
• 19世紀に成立
(←17世紀 科学革命)
• 「一つの病気には一つの原因物質が対応しており、
その原因物質を同定し、それを除去すれば病気は
治療される」という考え方
• ①基本的に身体内部の物理化学的関係によって病
気のメカニズムが説明されると考えること
②「原因物質→病気」という単線的な因果関係が
想定されていること
に特徴。
• 感染症や外傷等の治療においては絶大ともいえる
効果。
ライフサイクルと医療費
(生涯の医療費のうち半分(49%)は70歳以降で)
(2005年度推計)
現代の病い・・・「複雑系」としての病い
• 病いの原因は身体内部の要因のみならず、
心理的要因、環境との関わり、社会的要因
(労働時間、経済格差等)を広く含む。
→様々なケア・モデルの統合の必要性
そもそも「科学(的)」とは何か
「病気」とは、「健康」とは?
・「社会疫学」の発展
・・・「健康の社会的決定要因(social
determinants of health)」の探求と分析
医療に関する包括的なアプローチの必要性
→エコロジカル・モデルとも呼ぶべき視点
自然科学的
医療モデル
予防・環境モデル
個体を
とりまく
環境に
注目
個体に注
目
心理モデル
生活モデル
~コミュニティ・社会全体のあり方
人文・社会科学的
(出所)広井(2000)を改変。
「ケア」の意味の再考
ケ ア
個 人
コミュニティ
自
然
(スピリチュアリティ)
• ケアとは、 「個人」という存在を、その底にある「コミュニティ」
や、「自然」、「スピリチュアリティ」の次元に “つないで” ゆく
ことではないか
参考文献
• ウィルキンソン(2009)『格差社会の衝撃ー不健康な格差社会を健康にする
法』、書籍工房早山。
• 近藤克則(2005)『健康格差社会』、医学書院。
• ロバート・パットナム(2006)『孤独なボウリングー米国コミュニティの崩壊と再
生』、柏書房。
• 広井良典(1997)『ケアを問いなおす』、ちくま新書。
• 同(2000)『ケア学』、医学書院。
• 同(2001)『定常型社会 新しい「豊かさ」の構想』、岩波新書。
• 同(2009)『コミュニティを問いなおす』、ちくま新書。
• 同(2011)『創造的福祉社会』、ちくま新書。
• 同(2013)『人口減少社会という希望――コミュニティ経済の生成と地球倫理』
朝日新聞出版。
• ブルーノ・S・フライ他(2005)『幸福の政治経済学』ダイヤモンド社。
• リチャード・フロリダ(2008)『クリエイティブ資本論』ダイヤモンド社。
• Joseph E. Stiglitz, Amartya Sen他(2010), Mismeasuring Our Lives: Why
GDP doesn’t add up, The New Press.