全国シンポジウム「いま改めて考えよう地層処分」 in 福岡 開催概要

全国シンポジウム「いま改めて考えよう地層処分」 in 福岡
開催概要
1.日時:
2015 年 6 月 28 日(日)13:30~16:40
2.場所:
アクロス福岡
福岡市中央区天神1-1-1
3.主催:
経済産業省資源エネルギー庁
原子力発電環境整備機構(NUMO)
4.後援:
文部科学省、日本原子力研究開発機構、日本経済団体連合会、日本商工会
議所、経済同友会、全国商工会連合会、日本原子力学会、電気事業連合会、
九州電力株式会社
5.参加者:
197名
6.当日概要(敬称略)
:
(1)開会あいさつ:吉野恭司(経済産業省大臣官房審議官(エネルギー・環境担当)
)
(2)基調講演:増田寛也(総合資源エネルギー調査会放射性廃棄物ワーキンググループ委員長)
(3)概要説明:近藤駿介(NUMO 理事長)
(4)政策説明:吉野恭司(経済産業省大臣官房審議官(エネルギー・環境担当))
(5)パネルディスカッション
■パネリスト
 増田寛也(総合資源エネルギー調査会放射性廃棄物ワーキンググループ委員長)
 愛智ゆみ(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協
会
九州支部長)
 大西有三(関西大学環境都市工学部特任教授・京都大学名誉教授)
 吉野恭司(経済産業省大臣官房審議官(エネルギー・環境担当)
)
 近藤駿介(NUMO 理事長)
■コーディネータ
 むかいさとこ(フリーアナウンサー)
(6)ごあいさつ:荒牧智之(九州電力株式会社代表取締役副社長)
(7)閉会あいさつ:近藤駿介(NUMO 理事長)
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7.内容(敬称略)
(1) 開会あいさつ:吉野恭司(経済産業省大臣官房審議官(エネルギー・環境担当)
)
(2) 基調講演:増田寛也(総合資源エネルギー調査会放射性廃棄物ワーキンググループ委員長)
「日本の将来課題と地層処分」と題して、人口減少により自治体は厳しい状況になること、
その背景は財政、社会保障、エネルギー問題が相互に複雑に関係していること、エネルギ
ー問題の中でも特に手がついていない地層処分の問題に不退転で取り組むことが必要であ
ること等を説明。
人口減少
財政・社会保障
エネルギー
(3) 概要説明:近藤駿介(NUMO 理事長)
「地層処分事業の概要」について、以下の構成のスライドを用いて説明。
高レベル放射性廃棄物とは
高レベル放射性廃棄物の処分方法:地層処分
地層処分の安全性
地層処分事業の進め方
(4) 政策説明:吉野恭司(経済産業省大臣官房審議官(エネルギー・環境担当)
)
「高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた新たな取組」について、以下の構成のスライ
ドを用いて説明。
最終処分に向けた取組の経緯
高レベル放射性廃棄物の処分の考え方
現世代の責任と将来世代の選択可能性
国が前面に立った取組
国民・地域の理解と協力
(5) パネルディスカッション
【自己紹介】
【進め方の説明、事前質問の紹介】
【原子力政策について】
むかい
処分の必要性はわかるが、まず原発を止めて廃棄物を増やさないことが先決では
ないかという意見について。
吉野
再稼働に関して厳しいご意見があるのは承知している。しかし、日本のエネルギ
ーを取り巻く状況は非常に厳しい。そうした事情を踏まえて、今般2030年の電
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源構成の見通し案を提示した。その際には、安全性の確保を大前提とし、エネルギ
ー安定供給、電力コスト、CO2削減それぞれの政策目標を設定し、その上で電源
構成のあるべき姿を議論した。原子力については、徹底した省エネルギー・再生可
能エネルギーを導入し、火力発電の効率化も進めることにより、依存度をできる限
り低減させ、その結果 20~22%という割合を提示している。原子力発電は重要な
ベースロード電源として、今後も活用していくというのが政府の基本方針である。
また、既に、使用済み燃料は存在しており、地層処分に関しては先送りしないで現
世代の責任で解決していかなければならない課題である。
増田
最終処分場を決める合意形成というのは、さまざまある問題の中で最も結論に至
るのが難しい問題の一つではないかと思っている。使用済み燃料は、既にガラス固
化体換算で2万 5,000 本相当あるが、仮に1本をどう処分するかとしても、多分難
しさにおいては変わらない。要は、全体の量を総量規制するとか、あるいは放射性
廃棄物を増やさないことをまず先に決めるほうが最終的な結論を得るのが容易だ
ということではなくて、それ自体が非常に難しい問題であって、だからこそ将来世
代に先送りしないように、
現世代においてさまざまな困難を乗り越えて合意形成し
ていくことが必要ではないかと思っている。
むかい 処分費用を考慮すると原発のコストは安くないのではという意見については。
吉野
原子力は、さまざまな費用を合わせて 10.1 円以上と試算している。相対的に見れ
ば、火力発電や再生可能エネルギーに比べて経済的には競争力のある電源と評価し
ている。この中には、廃棄物の処分費用や福島の事故後の賠償費用、除染の費用な
ども含まれている。しかし、賠償や除染の費用はこの先増える可能性があるので、
「以上」という試算としている。
愛智
高レベル放射性廃棄物の処分については、知らない人が多くて、関心の低さが気
になるところ。既にガラス固化体がある現状を知って、勉強して、次にどうすべき
か判断するというステップを踏むことが必要と思う。
吉野
廃棄物処理の問題は避けては通れない問題。国民の皆さんに丁寧に説明して理解
を得ながらこの問題に対処していきたい。
【地層処分は安全なのか】
むかい
地層処分は安全なのか、なぜ地層処分なのかについて多くの質問をいただいてい
る。まず、日本に 10 万年動かない地層はあるのかという質問について。
大西
“全く動かない”地層というものはないが、地球全体も動いているので、相対的
に動かない地層はある。数百万年程度安定して存在している地層はあり、しっかり
事前調査して安定した地層を探して地層処分する場所を選ぶことは可能である。
ま
た、地層処分では、放射性物質が漏れて地下水を介して地表に達するという懸念が
指摘されるが、深い地層では、地下水の動きはとてもゆっくりで、300m 以深の粘
土や岩盤の中ではざっくり計算すると一万年で数十メートル程度くらいの動きで
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ある。
むかい 地下 300m では浅いのではないか?地震国日本では地層処分は無理ではないか?
という意見があるが。
大西
地層は何層にもなっていて、地下深くになればなるほど安定している。地震の影
響は、地下のほうが地上よりも小さく、地下 300m では三分の一くらいの揺れで
すむ。火山や断層を最初から避けること、加えて、しっかりとした対策を練って設
計をして構造物を作ることが重要と考える。
むかい ガラス固化体や金属容器の強度や劣化についての質問がある。
近藤
強度については、例えばガラス固化体をクレーンで吊って 6m くらいの高さから落
として大丈夫かといった極端な状態を設定して検証している。また、経年劣化に関
しては、ガラス固化体はオーバーパックという金属の容器に入れるが、地下環境は
酸素がないから腐食はほとんど進まないと考えている。しかし、周りに水がたくさ
んあると仮定して腐食量を測定して評価してみても、1万年ぐらいはもつだろうと
いうような計算結果になる。1万年もつのは本当なのかと思われる向きもあろうが、
例えば、古代ローマ人が 2,000 年前にスコットランドに攻め込んで退却するときに、
彼らが持ち込んだ大量の鉄製のくぎを地下に穴を掘って埋めたが、これが掘り起こ
してみると、まだ使えるぐらいの丈夫さで現存していたという事例がある。2,000
年以上前の人が作ったものもこのぐらいの耐性がある。現在の科学的な知見でさま
ざまなケースを想定して設計すれば、十分目的とする時間、耐性を持つものになる
と考える。
むかい 万が一の場合の影響についての評価はどうなっているのか?
近藤
多重バリアで安全を確保するが、さまざまな異常状態を想定して、それでも目標
が達成されるように保守的に設計することが基本的考え方。例えば、深いところに
ある活断層が動いた結果として、処分場に副断層として新たに断層が起きることも
あるかもしれないと想定して、断層が処分場を突き抜け直撃するというシナリオで、
地上の放射線レベルがどう変わるかということも計算した。影響度として、被曝線
量は最大で 0.00004 ミリシーベルトという数値が出たが、日常生活での自然放射
線というのは大体1ミリシーベルトであり、それと比べて十分小さい。これは単な
る一例であるが、いろいろと深く検討して、皆様がご心配なところについて、ご安
心くださいと説明できるように努力をしていきたいと考えているところ。
愛智
地下深部についても何十万年という期間にしても、一般人には想像もつかない世
界。
こうやって、一つひとつ説明していただけると少しずつ納得できてくる。逆に、
現在保管されている廃棄物が、天災に見舞われた時の方が心配になってくる。早く
どうにかしてほしいという気持ちになる。
むかい 核種変換技術についてはいかがか。
近藤
有害度の高いアメリシウムなどを高速炉や加速器で有害度を低くすれば、ガラス
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固化体の発熱量が下がり、処分場の面積を小さくすることはできる。この技術開発
を進めるのは大事だが、廃棄物がなくなるわけではない。その技術の確立をただ待
つのではなく、今、地層処分を進めていくことが必須であると考えている。
むかい 国外処分についてはいかがか?
吉野
地層処分は、自国自らの責任で行うことが国際条約上の原則であり、各国それぞ
れの取組みを進めてきているところ。
【どうやって進めていくのか】
むかい
処分地を決めるには地元の理解が必要。周辺住民との対話をしっかりと実施する
必要がある。フィンランドやスウェーデンなど、処分地が決まっている国の例をご
紹介いただきたい。日本も参考にできないのか。
近藤
フィンランドやスウェーデンでは、まず適性のある地域を抽出した。その後、事
業者がそれらの地域に入って調査のお願いをして回った。ご了承いただいた地域で、
詳細な環境影響調査を実施し、住民の意思を尊重しながらサイトを絞り込んでいっ
た。NUMO としても処分場ができることによる経済的な影響、環境に対する影響
などについて調査し、メリット、デメリットを含めて地域の方にお話しし、一緒に
地域の将来を考えていきたい。また、地域の方々が地層処分について勉強をする場
を支援したいと考えている。
むかい
国が有望地を提示することについて、国が一方的に決めるのではないかという危
惧があるが。
増田
科学的有望地はピンポイントに特定の自治体を示すのではなく、広域的にゾーン
で示すことになると私は理解している。科学的有望地の提示は、地域で議論するき
っかけづくりであり、多様な立場の人が入った対話の場が生まれ、理解が深まると
ともに信頼感が醸成されていくことを期待したい。
愛智
有望地の対象になった地域の人は勉強するだろうが、そこから外れた地域の人は
かえって無関心になるのではないだろうか。一般の方々が、この問題は避けられな
い問題として、我が事として考えられるよう、活発な情報提供をお願いしたい。情
報提供の際は、一般の人が理解できる言葉で説明してもらいたい。
吉野
国からのお仕着せで説明するだけではなく、地域の主体的な取組としてこの問題
を考えてもらうことが重要と考え、積極的に支援していきたい。また、この問題は、
一部の地域のみならず、その近隣、さらには全国幅広くご理解してもらうことが大
事なことと考えている。
【会場からの声】
質問者1
全然知らない状況で聞きに来た。「放射能は怖い」というイメージがある。専門家
の方から意見を聞きたい。しっかり対話をして理解できるようにしてもらいたい。
近藤
地層処分で考えられている放射線影響は、我々が日常生活で受けている放射線レ
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ベルと比べて全く問題にならないレベルである。そもそも放射線、放射能とは何
かといったことから勉強できる場、対話の場を整備していくことも大事だと考え
ている。
質問者2
日本では主に軽水炉を使っている。世界的にはトリウム溶融塩炉の技術開発が進
んでいると聞いているが、日本での研究進捗はどうなっているのか?
吉野
国際的に研究が進められているが、トリウム溶融塩炉については、基礎研究段階
であると認識している。
質問者3
電源三法交付金の付与の仕方について、文献調査や概要調査を受け入れておいて、
最後の最後でご破算にできる今のシステムは甘すぎるのではないか?制度設計を
見直すべき。
増田
現状、文献調査と概要調査は決まっているが、精密調査段階は決まっていない。受
け容れてくれた地域について、感謝と敬意を表する必要があるなど、全体の中で
考えると、今の措置の中できちっと調査することが重要と考える。精密調査段階
は期間も長く、この部分をどう制度設計していくか検討していく必要がある。
質問者4
総論賛成、各論反対になりがちな迷惑施設の受け入れについて、例えばガレキの
受け入れでは成功事例もある。粘り強く説明や説得を続けた。参考にしてほしい。
吉野
他の成功事例を参考に進めていく。何より、皆さまのご理解が大事であり、丁寧
に進めていくことが重要と考えている。
質問者5
再処理することのメリットは何なのか。また、要望であるが、首長にお願いして
了承したらそれで終わりではなく、きめ細かな説明を行ってほしい。
吉野
核燃料サイクルのメリットとして、使用済み燃料の直接処分と比べて、天然ウラ
ン程度になるまでの時間が短くなる。適地選定については法定調査の前段階とし
て有望地のマップを提示することにした。こういったプロセスの有り様について
説明してきたわけだが、長期間を要するプロセスであるので、本日のシンポジウ
ム以外にも丁寧に説明を尽くしていく。ご関心を持っていただいた上で、国の方
から複数の地域に対してご協力の申し入れをしていく。現時点では、このように
理解活動を進めている点、ご理解いただければと思う。
【最後に一言ずつ】
愛智
正しい情報をもらって、真摯にこの問題と向かいあって、せめて困ったなとみん
なで悩むことが大事と感じた。また、核種変換などの将来の技術開発にも期待し
たい。
増田
信頼感の醸成が必要。組織や個人への信頼が合意形成を進めるうえで大きな役割
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を担う。
大西
説明が難しすぎるとよく言われる。わかりやすく伝えることが大事だと考えてい
る。そもそも目に見えない分かりにくいものという認識を持って、社会とのつな
がりを考えながら情報発信していきたい。
吉野
これまでの反省に立って政策に対する信頼を築いていく必要がある。プロセス全
体に対して押しつけではないことを理解していただけるよう丁寧に進めていく。
近藤
NUMO の使命は地層処分の実現。このような他に類を見ない施設について勉強し
てみたいという方々が増えることを望んでいる。組織としての信頼を得られるよ
う絶えず努力していきたい。
むかい
廃棄物処分というのは、専門家に丸投げせず、国民一人一人が考えていくべき問
題と思う。
以
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