本園の研究

<研究テーマ>
幼児教育の質を高める計画と実践の在り方を考えるⅢ
~主体性と協同性の視点から~
Ⅰ
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研究の概要
研究テーマについて
(1)研究の経緯について
私たちは,これまで幼児教育の質を高める計画と実践の在り方を考えるとテーマを掲
げて,研究してきた。これまでの研究内容について,以下に簡単に示す。
第1年次:(平成 23 年~24 年度)
子どもの内面や遊びの見取り,かかわり方について主体性と協同性に視点をあてて検
討し保育の質の向上を図っていくことと,それらを生かして本園ならではの教育課程
の再編成と指導計画の作成を行い,保育の質の向上を図っていくことを目指して実践,
研究に取り組んだ。
第2年次:(平成 25 年度)
1年次の研究より,質の高い保育を「一人一人が主体性と協同性を発揮できる生活」
と捉え,新しい指導計画を活用しながら,保育を実践していった。重ねて,事例研究な
ど
を通して,その指導計画の内容の吟味や保育の見直しをすることにより保育の質の向
上
を目指した。
上記に示した研究実践を通して,主体性や協同性の豊かな育ちを支える教育課程の編成
を行い,指導計画の改善を進めてきた。成果として,保育のプロセス(子どもと保育者の
やりとり,子ども同士のやりとり,子どもともの・こととのやりとりなど)を大切にする
ことが,子どもの“今”の充実を支えることにつながっていくことが改めて明らかとなっ
た。また「子どもの姿」「指導計画」「教師の願いやねらい」を大切にし,その3つがバ
ランスよく絡み合ったときに,子どもの主体性,協同性が発揮されるということも,共通
理解することができた。
一方,上記を踏まえ,計画・実践の中で保育の質を高めていこうとするとき,私たちは
「協同性の育ち」については(平成 21~22 年度:協同性の研究を基に)共通理解して進め
てきたが,その基盤となっている「主体性」の見取りや育ちについては深く追究してきて
いないことに気づいた。
そこで,今年度は,新しい指導計画を生かしながら保育を実践する中で,子どもの主体
性に着目し,一人一人の育ちの基盤となる主体性と協同性のつながりを考えて研究を進め
ていくことにした。
-1-
(2)私たちの主体性のとらえ
保育を語る上で,子どもの主体性を抜きにして語ることはできない。
それは『幼稚園教育要領』第1章総則,第1節,幼稚園教育の基本1には「幼児は安定
した情緒の下で自己を十分に発揮することにより発達に必要な体験を得ていくものである
ことを考慮して,幼児の主体的な活動を促し,幼児期にふさわしい生活が展開されるよう
にすること」とあり「教師は,幼児の主体的な活動が確保されるよう,幼児一人一人の行
動の理解と予想に基づき,計画的に環境を構成しなければならない」とあるからである。
また,本園の目指す幼児像「自分の目的をもって自ら環境に働きかけ,意欲的に遊びに
取り組み,自分の力で解決していける子ども」にもつながっている。
では,これらを受け,教師は子どもたちの主体的な姿をどのような姿と捉えているだろ
うか。まず,思い浮かべるのは,子どもたちが目の前の環境に自らかかわっていく姿では
ないだろうか。子ども自身の心が動くことによって環境に働きかけていくという見える姿
と言い換えることもできる。しかし,教師の目に見える表面的な姿だけで,子どもの主体
性を語っていいものだろうか。心の内は見えないものである。子どもが人やもの・ことに
かかわり合う中に繰り広げられる思いや考えをどう捉えていくとよいのか。私たちは,子
どもの主体的な姿に辿り着く過程も含めた上で,主体性を捉え,考え,語ることが大切で
はないだろうかという考えに至った。
そこで,私たちは過去の研究(平成 21~22 年度)を振り返り,協同性の育ちの中に見え
る主体性を(協同性の育ちの過程についてはP6 参照)期ごとにまとめ,それをよりどころとし
て,研究していくことにした。なお,下記の表のⅠ~Ⅲの時期は,あくまで自我や人間関
係の発達の流れに沿って大きなまとまりを示すものであり,時期を特定するものでない。
~国立教育政策研究所教育課程研究センター (著) 『幼児期から児童期への教育』より引用~
時期
Ⅰ期
Ⅱ期
Ⅲ期
私たちが協同性の育ちの研究から見取った主体性
初めての集団の中で様々
安心を感じたり友達を感じたりしながら,したいことに
な環境に出会う時期
どんどんかかわっていこうとする。
遊びが充実し自己を発揮
まわりの環境に対して心を揺らしながら自分なりにか
する時期
かわっていこうとする。
人間関係が深まり学び合
共通の目的に向かって仲間を感じながら自分を発揮す
いが可能となる時期
る。
第1・2年次の研究を通して,保育を豊かにするには保育のプロセスが大切であり,教
師が子どもの学びの過程をどう捉え,どのようにつなげて理解しようとするか,そしてそ
の理解を環境づくりへと生かしていくのかを考えていく必要があることを学んだ。今年度,
その学びを生かし,子どもの姿と指導計画とを関連させながら,保育を実践していく中で
遊びにおける子どもの主体性を探っていこうと考えた。
-2-
2
研究の内容と方法
研究内容
○これまで作成してきた指導計画に基づいた保育実践を通して,子どもの「主体性」を見
取り,探っていく。
1,2年次の研究から,協同性の育ちの中に主体性が大きな意味をもつことは分かって
いた。しかし,これまでより深く,一人一人の心の内について探ることで,一人一人が人,
もの・こと,とのかかわりの中で自分とのかかわりが明らかとなるのではないかと考え,
主体性を見取り,探っていく。
○子どもの主体性を促す教師の援助について探る
子どもの主体性を,一人一人の内面から捉えるとき,その思いや考えをどう見取ってい
くのか,子ども自らが生き生きと自分を表していくにはどのような支援が適切であるのか
を見極めていくことが教師に求められている。教師が子どもの内面をどのように思いや考
えをもってみとるのか,その見取りからどのように援助につなげていくのかについて探っ
ていく。
研究方法
日々の保育実践(保育記録)から書き起こす事例を検討,また保育カンファレンスを中
心に研究を進めていく。
①保育記録
日々の保育について記録していくことは,様々な意味を教師自身にもたらす。子どもを
理解すること,遊びを理解すること,自分自身を振り返ることなど,たくさんのことが挙
げられる。記録し評価することは,教師自身への評価であり,保育をよりよいものにして
いくための手がかりとなる。それらのことを念頭に
おいたとき,どのような記録をとることでよりよく
改善できるのか,頭を悩ませた。そこで,その手が
かりを掴む1つの手立てとして,教師集団で,幼稚
園教育指導資料第5集『指導と評価に生かす記録』
の読み合わせを行い,よさを話し合い,記録を書く
ことへの視点,心もちを見出してきた。その記録に
ついての考え方や方法の学びを自分なりに取り入れ
て書くことを大切にしている。現在,保育カンファ
レンスの中でお互いの記録を参考にしながら書いて
いるところである。さらに,子ども,遊び,自分を
見つめる記録づくりを行っている。その日々の記録
の積み重ねを大切にしてきた。
(保育記録:一例)
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②保育カンファレンス
○保育後の振り返り
1学期は,子どもや保育についての理解を深めようと,①の保育記録を持ち寄り,保育
後,クラス担任を中心として保育カンファレンスを行った。話し合う内容は子どもの遊び
について,環境や援助について,気にかけている子どもについてなど,様々である。子ど
もの姿から感じ取る教師の小さなの喜び,また,その日に気になったことなども含めて話
し合った。その日を振り返り,語ることで教師自身が子どもや他の教師の立場に立って,
改めて子ども自身や遊びを捉え直し,話し合いうことは様々な気付きを得られる場となっ
た。
また,2学期以降は,日単位ではなく,毎週金曜日の保育後,全職員で行う保育カンフ
ァレンスを行ってきた。週案を基にした1週間の生活での子どもや遊びについての気付き
や思いに加え特に,教師が今,大切にしたいこと,気になっていることを共通理解するこ
とで,全員で子どもたちを見取り,保育にかかわることができるように努めた。その過程
は,全職員で子どもたちの理解を深めたり,翌週の保育計画などにも生かされたりしてい
る。
○事例研究
①の保育記録から事例を書き起こしていく。まず,教師が心
に残ったこと(心を動かされたことや,気になったことなど)
を中心に事例に書き起こす。そして,今度は「主体性」という
視点をもって事例を捉え直し,再度,書き起こしていった。子
どもの姿や行動,表情や言葉,また教師のかかわり,心の中な
どを含めて書き,子どもの様子から内面を読み取り,教師のか
かわりについてなどの考察を深めた。
それを,教師集団で読み合い,検討することで「主体性」の
捉えを広く深く捉えたり共通理解をしたりしていった。また,
事例から読み取れる子どもの主体性を,本園の発達観(次頁に
示す)に照らし合わせていった。それと共に事例を整理し,表
や図にしたり,子どもの姿や教師の支援について付箋分析し「主
体性」をより深く捉えていくとともに,それに伴う教師の援助
についても検討していった。
(付箋分析)
(保育カンファレンスの様子)
3
本園の発達観のとらえ
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~関係づくりを通しての子どもの発達~
本園では,子どもたちの発達を「できる-できない」「わかる-わからない」といった
能力主義的な尺度からとらえようとする発達観には立っていない。
佐藤学氏の「学びの三位一体論」に学びながら,子どもの発達は3つの関係づくりが広が
り,深まり,高まっていく過程ととらえた。①子どもたちが生活の中でかかわっている人
(他者)との関係づくり,②自然や社会事象,文化,歴史といったものやこと(対象)と
の関係づくり,③自分自身(自己)との関係づくりである。
このような発達観で子どもたちを見とりながら,子どもたちの学びについても考え,何
かができるようになること,何かが分かるようになることだけが学びではないとした。
ものやこととのかかわりを追究していくこと,その過程で人との関係が広がり,他者認識
を深めていくこと,そして,自分への振り返りがなされ,新しい自分をつくっていこうと
する,これらの営みの全てを『幼稚園における学び』ととらえた。
地域の人
小・中学生
実習生
植物
虫や動物
外国の人
泥・砂・水
遊具
友達
身近なものやできごと
先生
家族
人
など
など
ものやこと
自分自身
この発達観に立って,主体性を探っていくこととする。
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幼児教育における「質の高い保育」とは,どのような保育だろうか。
保育の実践を規定し,その内容を担保するものとしての「質」にはいくつか水準がある。
大きく分けると構造の質(職員の配置や学級規模,子ども・職員の比率など)と過程の質
(子どもと保育者のやりとり,子ども同士のやりとり,子どもとモノとのやりとりなど)
である。構造の質は,国や自治体によって定められた水準などにより,実践者の私たちに
とって,変えるには難しい現実があるが,過程の質に着目し,その中で質を高めようとす
ることは,子どもと生活を共にしている私たちだからこそできることである。
そこで,本園では,質の高い保育を「一人ひとりの主体性と協同性が発揮できる生活」
と捉え,それを目指して,そのプロセスを大切にした計画や実践の在り方について研究を
進めてきた。
“主体性”は,幼稚園教育の基本であり,本園のめざす幼児像「自分の目的をもって自
ら環境に働きかけ,意欲的に遊びに取り組み,自分の力で解決していける子ども」ともつ
ながっている。
一方,“協同性”は,幼小接続の観点から,平成20年改定の幼稚園教育要領に新たに加
えられた内容であり,平成22年度の「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方
について」にも,教育課程・指導計画に取り入れる内容として提起されている。本園にお
いても,平成21年度から22年度にかけて『協同への育ちの過程』を研究テーマに掲げ,
主体性を基盤にして協同性について研究をおこなってきた(紀要 P4参照)。研究におい
ては,入園から修了までの協同への育ちやそれを促す環境や援助について明らかにしてき
ている。
平成21年度より,主体性を基本として,子どもたちの「協同」への育ちの過程を見つ
めてみた。子どもには,ものやこととのかかわりを追求していく姿,その過程で人との関
係が広がり他者認識を深めていく姿,そして自分への振り返りがなされ新しい自分をつく
っていこうとする姿がある。このような子どもの姿の一つひとつがつながり合って「協同」
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という意味内容を育んでいくと考えた。つまり,子どもたちが日々の「人・ものやこと・
自分」との関係づくりにおける発達の高まりの中で,協同して遊ぶことも少しずつ可能に
なってくるという考えに立ち,研究を進めていった。
以上の発達観や研究経緯を土台として,一年次は以下の2点を重点化し保育の質の向上
を図った。1点目は子どもの見方,かかわり方について主体性と協同性に視点をあてて検
討していくこと,2 点目は本園ならではの教育課程の再編成と指導計画の作成を行うこと,
である。
研究の成果は以下の4点である。
①教師集団が,主体性と協同性で大切にしたいことを具体的に共通理解できたこと。
②主体性と協同性に視点をおいた子どもの“今”を大切にする援助のポイントが,これ
まで以上に深まったり広がったりしたこと。
③指導計画を見開きにし,子どもの姿やねらいなど,その月の保育における様々な視点
で構成されたこと。また,子どもの見方や育ち,教師の援助や保育展開などが捉えやすく
なったこと:紀要P6~7に指導計画の見方・ポイントを記載,紀要P8~9に具体例5
歳6月を記載。
④指導計画が完成されることにより,各年齢,及び3年間の見通しをもった上で,子ど
もの“今”の充実を支える指導計画が作成されつつあること。
3
今年度(2年次)は,一人ひとりの主体性と協同性が発揮できる生活について検討する
ために,新しい指導計画を活用しながら,実践と事例研究などを通して,その指導計画の
内容の吟味や保育の見直しをすることにより保育の質の向上を図った。
その理由は,『幼稚園教育要領解説』第3章,指導計画の作成にあたっての留意事項(P
195)には「指導計画は,一人一人の幼児が幼児期にふさわしい生活を展開して必要な
経験を得ていくように,あらかじめ考えた仮説であることに留意して指導を行うことが大
切である。」とあり,続いて「具体的な指導は指導計画によって方向性を明確にもちなが
らも,幼児の生活に応じて柔軟に行うものであり,指導計画は幼児の生活に応じて常に変
えていくものである。」と書かれているからである。
すなわち,指導計画の通りに保育を展開していくことが,目の前の子どもにとって望ま
しいことかといえば,そうではないときもあるということである。計画にとらわれすぎて,
育ちにそぐわない保育になってしまえば本末転倒である。まずは目の前の子どもの姿を大
切にするということである。
そこで,1年次に作成している指導計画において,まず保育のねらいである主体性や協
同性を育んでいくという方向性を共通理解した。つぎに,子どもたちの学びや生活が充実
したものとなるために,教師の今の子どもへの見取りを保育環境や援助に反映させていく
ことであると考え,教師の今の子どもへの見取りに注意を払った。その上で,遊びや活動
の具体,保育教材という保育の実践そのものを吟味したり見直してみたりした。
上記のことを踏まえた上で,2年次は以下の2点に重点を置いて,研究を進めていく。
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1)主体性と協同性を育む環境構成や保育の展開,教師のかかわりについて明らかにする。
子どもの主体性と協同性を豊かに育んでいけるように,指導計画と照らし合わせな
がら保育のプロセスに着目し,目の前の子どもの姿を見取りつつ,保育実践を行い事
例を作成する。その事例を検討する中で,主体性と協同性を育む保育づくりの視点か
らの教師の働きかけについて明らかにしていくことによって,保育の質の向上をめざ
す。
2)主体性と協同性が発揮できる生活をめざした指導計画の活用の仕方を提起する。
指導計画の活用の仕方として,作成した指導計画を1)の成果とつなぐことによっ
て,主体性と協同性の発揮を目指した保育計画について提起する。また,保育計画を
実際に立てる際に拠り所となるのは,指導計画だけではなく,個々の保育者の保育履
歴の中で獲得した経験もまた拠り所となる。そこで,教師の中で獲得した経験をどの
ように活用するのかも含めて指導計画の活用の仕方を考え,保育の質を向上をめざす。
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