医師主導治験による酵素製剤を利用したムコ多糖症II型の中枢神経症状

厚生労働省 臨床研究中核病院整備事業
拠点名: (独)国立成育医療研究センター
医師主導治験による酵素製剤を利用したムコ多糖症II型の中枢神経症状に対する新規治療法の開発
奥山虎之 (プロジェクト責任者/国立成育医療研究センター臨床検査部長),小須賀基通 (プロジェクトマネージャー/同 高度先進検査室長)
目的
目的
方法
 酵素製剤イデュロサルファーゼβ(商品名:ハンタラーゼ)をムコ多糖症II型
患者の脳室内に投与し、中枢神経症状の進行抑制の可能性を検証する。
本プロジェクトの目的を達成するために、前臨床試験、第I/II相試験(医師
主導治験)、第III相試験(必要時企業治験として実施)を順次遂行する。
 到達目標は、酵素製剤イデュロサルファーゼβの脳室内投与の薬事承認
である。
背景
背景1
A.
 ムコ多糖症II型は、ライソゾーム酵素で
 酵素の静脈内投与により心不全、閉
塞性呼吸障害、関節可動制限、肝脾
腫など、ムコ多糖症II型の諸症状が改
善し、患者・家族のQOLは劇的に改善
することが確認されている(Fig.1)。
(Okuyama et al. Molecular Genetics and Metabolism. 2012)
6MWT Distance (m)
500
-79.9 ± 2.2%
(p=0.004)
100
50
75
25
50
0
25 Baseline
3
6
9
12
0
Mean
baseline
uGAG6 = 106.49 mg/g creatinine,
Baseline
3
12
~8 times the upper limit of normal
B.
Time Point (months)
Liver Volume
1750
Fig.1-1 尿中グリコサミノグリカン排泄量
B.1500
Liver Volume
1750
1250
1500
-33.2 ± 4.0%
(p=0.002)
1000
1250
750
1000
Baseline
3
6
9
C.
6
9
12
 上記の前臨床試験は、薬事戦略相談対面助言(2014年9月)でその充足
baseline liver volume = 1.3 x normal
性については確認済みである。
Fig.1-2Spleen
肝臓容積
Volume
C.
 サルを用いた単回毒性および反復毒性試験等の試験をGLP準拠で行う。
 疾患モデルマウスを用いた薬効試験を行う。
Time Point (months)
Spleen Volume
250Mean
300
3
ゼβ(商品名:ハンタラーゼ)を用いる。
12
750
Baseline
前臨床試験
 脳室内投与のために高濃度(50mg/ml)に調整されたイデュロサルファー
Time Point (months)
6MWT
54.5 ± 27.0 m
400
Urine GAG Level
125
75
Time Point (months)
Volume (cc)
Spleen(cc)
Spleen Volume
ルファーゼα(商品名:エラプレース)が
承認され、現在120名以上の日本人ム
コ多糖症II型患者に毎週1回静脈内投
与されている。
Volume (cc)
Liver(cc)
Liver Volume
 2007年酵素補充療法製剤イデュロサ
A. 100
GAG Level
Urine
Level
Urine GAG
(mg/g creatinine)
(mg/g creatinine)
あるイデュロサルファーゼの先天的欠
損に起因するX連鎖劣性遺伝病である。
Urine GAG Level
125
250
200
 2015年10月には終了予定。
200
150
150
100
Baseline
3
6
9
12
Time Point (months)
200
100
Baseline
100
3
6
9
12
Time Point (months)
Baseline 3
6
9
12
投与1年後
投与前
Fig.1-4 関節可動域
Time Point (months)
Fig.1-3 6分間歩行距離
背景2
第I/II相試験
 患者対象の医師主導治験としてプ
ロトコール骨格を検討中。
 ムコ多糖症II型の臨床症状は多彩であり、特に重症型患者においては、
精神運動発達遅滞や神経退行症状を呈する。
 静脈内に投与された酵素製剤は、血液脳関門を超えて脳内に到達する
ことができないため、精神運動発達遅滞や神経退行などの中枢神経症
状の進行を抑制出来ない。
 中枢神経症状に効果的な治療法とし
Ommaya reservoir system
Most popular Cerebrospinal fluid (CSF)
reservoir system
 試験デザイン:
 対象:生化学的遺伝学的にムコ多糖症II
型と診断され、酵素の静脈内投与の治
療を受けている患者
 脳室内にイデュロサルファーゼβ(ハンタ
ラーゼ)を定期的に投与
 第I/II相非盲検オープン試験として実施
予定
•Drug administration route of the brain
tumor, carcinomatous meningitis etc.
•CSF excretion route of the patient
which dilate cerebral ventricle (spine
rupture with spina bifida etc.)
The popularly practiced technique in the
neurosurgical field.
 主要エンドポイント案:
髄液中のグリコサミノグリカン濃度の有意
な低下
て、造血幹細胞移植があるが、リス
クの高い治療法であるため、中枢神
経症状に対して安全かつ有効な治
療法の開発が求められている(Fig.2)。
 測定するバイオマーカー:
グリコサミノグリカン、ヘパラン硫酸
(Tanaka A, Okuyama T, et al. Asian Congress of Inherited
Metabolic Disease. 2013)
Fig.2 ERT vs. HSCT, and Six Champions
背景3
 酵素製剤イデュロサルファーゼα(商品名:エラプレース)の髄腔内投与
 治療計画:
 上記対象者に、月1回の割合で脳室内投
与
 研究期間:24 週
 目標症例数:6 例
により、髄腔内だけでなく脳内にも酵素が到達することが、サルを用い
た前臨床試験で示されている(Fig.3-1)。
(Pericles Calias et al. PLoS ONE 2012)
今後の展開・発展性について
 ムコ多糖症II型患者に酵素製剤
イデュロサルファーゼαを髄腔
内投与した場合、髄液中のムコ
多糖(グリコサミノグリカン)の急
激な低下を認めている(Fig.3-2)。
(Joseph Muenzer et al. ICIEM 2013)
 企業側の事情により、イデュロ
サルファーゼαによる髄腔内投
与の治験は、日本での実施が
当面計画されていない。
 開発の目標は、脳室内投与用製剤としてのイデュロサルファーゼβが
市販化されることである。
Fig.3-1
Fig.3-2
Fig.3 先行医薬品「イデュロサルファーゼα(商品名:
エラプレース)」による前臨床試験と第I/II相試験結果
 ムコ多糖症II型の中枢神経症状の進行を抑制する唯一の薬剤として、
標準的治療となり、多くの患者が使用することが期待される。
 酵素の脳室内投与が、ムコ多糖症II型以外の中枢神経症状を呈するラ
イソゾーム病に広く応用される道を開くことが期待される。