葛西臨海公園オリンピック問題の解決に向けて - TOKYO

野 鳥・Tokyo
葛西臨海公園オリンピック問題の解決に向けて
日本野鳥の会東京・代表 川沢祥三
6月の中旬、東京都知事が葛西臨海公園のオリ
ること」を強く要望していく
ンピック・カヌースラローム競技場建設計画の見
つもりです。代替地が決定さ
直しを表明しました。多くの人々に親しまれてい
れるまで、引き続き署名活動
る貴重な自然環境が根こそぎ破壊されてしまう、
等にご支援をくださいますよ
そういった事態の回避に向けて、見通しが大きく
うお願い致します。
開けてきました。建設地変更を求めて日本野鳥の
今から 80 年前、中西悟堂
会が取組んできた運動と皆様からいただいたご支
氏が日本野鳥の会第1回探鳥
援の力で、ようやく問題解決の方向に状況が動き
会を呼びかけた時、参加したのは鳥の研究者、言
だしたことを喜びたいと思います。
語学者、文人、画家など錚々たるメンバーでした。
日本野鳥の会東京は、毎月 10 か所で月例の探
探鳥会は学問と芸術の深い香りの中で生まれた
鳥会を実施しています。その探鳥会1回あたりの
と言えそうですが、現在の探鳥会は学者や芸術家
出現鳥類種数および参加者数について昨年1年間
に限らず、たくさんの人々が参加してくださるよ
のデータを見ると、葛西臨海公園の出現鳥類種数
うになっています。この 80 年間の社会の進歩に
は平均 53 種で第1位、参加者数は平均 60 人で明
より、自然に親しむこと自体が一つの文化として成
治神宮と並んで同率1位となっており、まぎれも
立しつつある、と言って良いのではないでしょうか。
ない二冠王です。
私自身、鳥を研究するだけの明晰さや、識別に
さらに葛西臨海公園では、地元の自然保護団体
すべてを懸けるような情熱はなく、まして詩や歌
により子供向け昆虫観察会などが行なわれ、多様
や絵画の作品を物するほどの才能もありません
な生き物と自然環境、そしてそれらとふれ合って
が、気楽な野鳥・自然愛好家として新しい文化に
遊び憩う人々にとって、かけがえのない場所であ
参加できるのは実にありがたいことです。また同
ることがわかります。
時に、「スポーツは文化だ」という意見にも私は
埋立地に造成された公園に今のような自然環境
同意します。「自然」と「スポーツ」、人々にとっ
が再生されたのは、公園の計画検討段階から数十
て大切な二つの文化が対立するのではなく、共に
年の歴史的経緯と、その間の関係者の方々の努力
発展するのが望ましい社会だ、ということを一都
の賜物です。カヌー競技場計画見直しに際して、
民として強調したいと思います。
都知事が「公園の成り立ちの歴史と自然環境に配
葛西臨海公園で育まれた「自然と親しむ」文化
慮」と言及したことは重要な意味を持つものです。
がさらに発展していくためには、まだまだ課題が
6月下旬に来日したIOCの役員は、東京都や
あります。その一つは、野鳥観察や野鳥写真撮影
組織委員会の関係者に対して、2~3ヶ月のうち
のマナーの問題です。この問題の解決を探る上で
に代替地を決定することを要請しました。日本野
基本となるのは「野鳥のためになるかどうか」を
鳥の会東京は、代替地がどこになったとしても、
考えること、さらにその土台にあるのは「人間尊
その場所で新たな環境破壊が起きないように見届
重」の精神であると考えます。葛西臨海公園オリ
けることが建設地変更を求めてきた私たちの責任
ンピック問題で私たちの運動をご支援くださった
であると考えます。今後の東京都との話合いでは
多くの方々の気持ちに応えるためにも、マナーに
「代替地について詳細な環境影響評価を行なうこ
ついて意見交換や議論がさらに深まることを願う
と」、「予測される問題があればしっかり対策をと
ユリカモメ No.706 2014.8
ものです。
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