当院における透析液水質管理の現状報告

当院における透析液水質管理の現状報告
鈴木寿文、守澤隆仁、泉谷晴義、青柳武志、寺邑朋子※
医療法人あけぼの会 花園病院 透析室、同 内科※
Management of dialysis fluid in our hospital
Hisanori Suzuki, Takahito Morisawa, Haruyoshi Izumiya,
Takeshi Aoyagi, Tomoko Teramura ※
Dialysis Center, Internal Medicine ※ , Hanazono Hospital
<はじめに>
2010 年 4 月の診療報酬改定により「透析液水質確保加算」10 点が新設され、これにより透
析液清浄化のさらなる管理が求められるようになった。
当院では 2005 年 11 月からエンドトキシン(ET)活性値と生菌数を測定し、透析液の水質
管理に努めてきたため、その内容と測定結果を報告する。
<当院における透析液の水質管理>
2005 年 11 月に逆浸透装置と透析液供給装置、4 系統に分配していた透析液供給ラインを 1
系統に新規設置し、さらに事後洗浄工程の変更を行った(図1)
。この新旧システムの更新前後
における ET 活性値と生菌数を比較した結果、更新後全てのサンプリングポイントにおいて低値
を示した(図 2)
。
2007 年 10 月にカプラの熱水消毒を開始した。熱水消毒は薬液消毒に比べ、十分な消毒効果
があり消毒時間が短縮できる。さらに臭気もなく、作業環境を選ばないことからもカプラの消毒
に有効1)2)である。
2008 年 2 月には事後水洗時間を 20 分から 30 分に延長し、
さらに過酢酸消毒(ヘモクリーン)
工程を週 1 回から 2 回、消毒時間の延長も行った。
20
ከேᩘ⏝㏱ᯒᾮ
౪ ⤥ ⿦ ⨨
NCS-200N
䠄஧䝥䝻♫䠖97ᖺ9᭶〇㐀䠅
㏱ ᯒ ᾮ ౪ ⤥ 䝔䝣䝻䞁䝏䝳䞊䝤
䠄96ᖺ6᭶タ⨨䠅
䝷
䜲
䞁
㏱ᯒ┘ど⿦⨨
Ὑ
ί
ᕤ
ͤ4⣔⤫
⢭ᐦ㝈እℐ㐣䝣䜱䝹䝍䞊
CF-609N 䠄஧䝥䝻♫䠅タ⨨
஦๓ ỈὙ70ศ�‽ഛ25ศ
஦ᚋ ỈὙ60ศ�⸆Ὑ(ḟளሷ⣲
㓟䢁䢀䢔䡯䢍300ppm)20ศ�
⛬
୍ᬌᑒධ
ͤ1㐌㛫䛻1ᅇ䚸㐣㓑㓟Ὑί
15
TW-1200HI
䠄ᮾ䝺䝯䝕䜱䜹䝹♫䠅
EU/L
RX-101
㏫ ᾐ ㏱ ⿦ ⨨ 䠄䡼䢚䡮䡺䢙䢎䢙䢈䢚䢖䢙♫䠖93ᖺ7᭶〇㐀䠅
ETάᛶ್
ET
活性値
᪂䝅䝇䝔䝮䠄ᖹᡂ17ᖺ11᭶䡚䠅
TC-30HI
䠄ᮾ䝺䝯䝕䜱䜹䝹♫䠅
䝁䝇䝰䝣䝺䝑䜽䝇
10
0
ͤ1⣔⤫
20
⢭ᐦ㝈እℐ㐣䝣䜱䝹䝍䞊
CF-609N 䠄஧䝥䝻♫䠅タ⨨
஦๓ ỈὙ60ศ�‽ഛ15ศ
஦ᚋ ỈὙ20ศ�⸆Ὑ1(ḟளሷ⣲
㓟䢁䢀䢔䡯䢍350ppm)20ศ�
ᑒධ30ศ�⸆Ὑ2 (ḟளሷ⣲
㓟䢁䢀䢔䡯䢍23ppm)�୍ᬌᑒධ
ͤ1㐌㛫䛻1ᅇ䚸㐣㓑㓟Ὑί
図 1. 新旧システム
RoỈ
婧㔜⼴德㜸㵚
ᮎ➃㏱ᯒᾮ䠄ETRF䛒䜚䠅
ᮎ➃㏱ᯒᾮ䠄ETRF䛺䛧䠅
5
CFU/䡉L
ᪧ䝅䝇䝔䝮䠄䡚ᖹᡂ17ᖺ10᭶䠅
生菌数
⏕⳦ᩘ
15
10
5
0
᭦᪂๓
᭦᪂๓1䞄᭶ᚋ
᭦᪂๓5䞄᭶ᚋ
図 2. システム更新前後における ET 活性値および生菌数
— 25 —
2008 年 7 月には日常的に未消毒となっている、RO タンクと供給ラインの洗浄を行った。RO
タンク内を 1800ppm 次亜塩素酸ナトリウム溶液にて 30 分間封入後、シングルパスにて供給ラ
インへ送液し消毒を行った。さらに、低濃度の 30ppm 次亜塩素酸ナトリウム溶液にて、RO タ
ンク内と供給ラインを一晩封入消毒し、翌日には RO タンク内を十分に水洗後に各ラインの水洗
を十分に行った。
< ET 活性値および生菌数の測定結果>
2005 年 11 月からの各サンプリングポイントにおいて、ET 活性値と生菌数の測定を行って
きた。さらに、昨年 4 月から当院における透析液清浄化マニュアルに管理基準を設定し管理し
ている。
原水は不定期ではあるが季節的な変動も考慮しながらサンプリングを行っており(図 3)
、さ
らに水質管理データとして水道局のホームページから水質データをダウンロードし管理している。
RO 水は全ての測定結果において、透析医学会の透析液水質基準3)の透析用水到達点である
ET 活性値 0.05EU/mL 未満、生菌数 100EU/mL 未満をクリアしている(図 4)
。
当院では透析監視装置末端(全 23 台)に ETRF である CF-609N を設置している。ETRF
後の末端透析液は全ての測定結果において、透析液水質基準の超純粋透析液到達点である ET 活
性値 0.001EU/mL 未満、生菌数 0.1EU/mL 未満をクリアしている(図 5)
。
ETRF 前の末端透析液でも若干の変動はあるが、透析液水質基準の標準透析液到達点である
ET 活性値 0.05EU/mL 未満、生菌数 100EU/mL 未満をクリアしている(図 6)
。
CFU/mL
EU/mL
6
140
⏕⳦ᩘ
ETάᛶ್
100
4
EU/mL
0.05
100
90
5
120
CFU/mL
80
䛂㏱ᯒᾮΎί໬⟶⌮䝬䝙䝳䜰䝹䠄ⰼᅬ⑓㝔䠅䛃 ETάᛶ್
⟶⌮ᇶ‽䠖ET 䠘 0.05EU/mL䠄┠ᶆ್0.001 EU/mL 䠅
⏕⳦ᩘ䠘 100CFU/mL 䠄┠ᶆ್1CFU/mL 䠅
0.04
70
⏕⳦ᩘ
ETάᛶ್
0.03
60
80
3
0.02
40
60
2
40
1
20
0
50
30
20
0.01
10
05/11 05/12 06/4 06/9 06/10 06/11 07/1 07/5 07/7 07/10 08/1 08/5 08/9 08/11 09/2 09/5 09/8 09/11 10/1 10/4 10/5 10/6 10/7 10/8 10/9
0
0
図 3. 原水の ET 活性値および生菌数
05/11 05/12 06/4 06/9 06/10 06/11 07/1 07/5 07/7 07/10 08/1 08/5 08/9 08/11 09/2 09/5 09/8 09/11 10/1 10/4 10/5 10/6 10/7 10/8 10/9
図 4.RO 水の ET 活性値および生菌数
— 26 —
0
CFU/mL
EU/mL
100
0.05
⏕⳦ᩘ
90
80
࢚ࣥࢻࢺ࢟ࢩࣥ⃰ᗘ
ETάᛶ್
䛂㏱ᯒᾮΎί໬⟶⌮䝬䝙䝳䜰䝹䠄ⰼᅬ⑓㝔䠅䛃
⟶⌮ᇶ‽䠖ET 䠘 0.001EU/mL
⏕⳦ᩘ䠘 0.1CFU/mL
70
60
0.04
ETάᛶ್
0.04
80
0.03
60
50
0.02
40
0.02
30
30
20
0.01
20
0.01
10
10
0
0.05
⏕⳦ᩘ
70
0.03
40
EU/mL
100
90
㏱ᯒ┘ど⿦⨨඲ྎ䛾ᮎ➃䛻
ETRF䠄CF�609N䠅䜢タ⨨
50
CFU/mL
05/11 05/12 06/4 06/9 06/10 06/11 07/1 07/5 07/7 07/10 08/1 08/5 08/9 08/11 09/2 09/5 09/8 09/11 10/1 10/4 10/5 10/6 10/7 10/8 10/9
0
0
図 5. 末端透析液(ETRF 後)の ET 活性値および生菌数
05/11 05/12 06/4 06/9 06/10 06/11 07/1 07/5 07/7 07/10 08/1 08/5 08/9 08/11 09/2 09/5 09/8 09/11 10/1 10/4 10/5 10/6 10/7 10/8 10/9
0
図 6. 末端透析液(ETRF 前)の ET 活性値および生菌数
<透析液水質確保加算>
当院では昨年 4 月 1 日より透析液水質確保加算 10 点を申請している。算定条件である、①月
1 回以上水質検査を実施、②透析液水質基準を満たした透析液を常に使用している。③専任の透
析液安全管理責任者として臨床工学技士を配属、透析機器安全管理委員会(毎月)を開催し議事
録を作成している。さらに管理マニュアルを完備し、透析機器の保守管理も行っている。
<考察>
2005 年 11 月より RO 水と末端透析液は、関連学会の定める水質基準および目標値を達成し
ている。過去に行った透析装置の新規設置と透析液供給ラインの更新は、安定した RO 水と透析
液を供給でき、透析液の清浄化につながったと考えた。さらに現在においても透析液清浄化の維
持につながっている要因として、カプラの熱水消毒、事後洗浄工程の変更、RO 装置内の消毒洗
浄などが、透析液の清浄化および管理に有効であると考えた。
今後も透析液清浄化の維持のためには、ET 活性値と生菌数の定期的な測定が必須であり、そ
の測定結果についてリアルタイムに対応していくことが重要と考えた。
<さいごに>
透析液の清浄化は、透析療法の生体適合性の向上に直結するため、継続した定期的な透析液の
水質調査および適切な維持管理が必要であると考える。
— 27 —
参 考 文 献
1)青柳武志、橋村春和、泉谷晴義、守澤隆仁、鈴木寿文、寺邑朋子:熱水消毒によるカプラ管
理、秋田腎不全研究会誌 11:14-17、2008
2)青柳武志、橋村春和、泉谷晴義、守澤隆仁、鈴木寿文、寺邑朋子:熱水消毒によるカプラ管
理、透析会誌、42 Supple 1:467、2009
3)秋葉 隆、川西秀樹、峰島三千男、政金生人、友雅司、川崎忠行、西沢良記:透析液水質基
準と血液浄化器性能評価基準 2008、透析会誌 41(3)
:159-167、2008
— 28 —