平成25年度 鹿児島県水産技術開発センター事業報告書 かごしまの水産物付加価値創出研究事業-Ⅲ (生シラスの非加熱食材化制試験) 保 【目 聖子・稲盛 重弘・加治屋大 的】 しらす干しの原料である稚魚期のイワシ類(以下,シラスという)は,本県西部や志布志湾の砂浜 域沿岸において汽船船曳網漁業で漁獲され,しらす干しの他,佃煮,釜揚げなどの加熱加工品原料に される。近年,全国的にシラスを生鮮食材として流通・販売するケースが散見されるが,シラスは一 般的に組織が脆弱で鮮度低下が早いものとされることから,食材としての安全性を確保する上での基 礎的な知見を得ることを目的とした。 【材料及び方法】 昨年度の結果において,漁獲直後のシラスは比較的一般生菌数が多いことが明らかとなり,漁獲後 の洗浄等の必要性が示唆された。そこで,今年度は,シラスの生食を目的とした場合における漁獲後 の洗浄処理の有効性について検討を行った。 ・材料 平成25年9月24日本県西薩海域で漁獲され,水揚げ後約2時間水氷中で冷蔵保管されていたものを 試験に供した。 ・試験の方法 漁獲後洗浄を行わない場合(以下未洗浄区という)及び水道水で4回洗浄を行う場合(以下洗浄 区という)に分けて試験を実施した。試験は,4回洗浄直後に細菌検査を実施した。なお,未洗浄 区についても同時に細菌検査を実施した。また,冷蔵流通中の細菌の動向を把握するために,未洗 浄区及び洗浄区共に4℃及び10℃で22時間保管した後,細菌検査を実施した。 (1)細菌検査 試験液の調製 シラス10gと滅菌リン酸緩衝液90mlを濾紙付きストマッカー用袋に入れ,十分に肉片を粉砕し た後,濾液を試料原液とした。 一般生菌数測定 試料原液を滅菌リン酸緩衝液を用いて適宜希釈し,原液及び希釈液を標準寒天培地(栄研化学 株式会社)に0.1ml,各2枚ずつ塗布し,35℃・48時間で培養を行った。なお,計数方法は,培地 プレートに発生したコロニー数の平均値から細菌数を求めた。 海洋細菌数計測 上記同様に原液及び希釈液をMarine Agar2216培地(Becton,Dickinson and Company)に0.1 ml,各2枚ずつ塗布し,20℃・5日間の培養を行った。なお,計数方法は前述一般生菌数同様に実 施した。 【結果及び考察】 一般生菌数の結果を図1に示す。試験開始時における未洗浄区は4.4×103 cfu/gであったのに対 し,洗浄区は7.0×102 cfu/gと低い値となり,水道水による雑菌の物理的除去の効果によるものと - 224 - 平成25年度 鹿児島県水産技術開発センター事業報告書 示唆される結果となった。冷蔵保 管中における22時間後の一般生菌数 の変化は,4℃保管では未洗浄区で 1.0×10 3 cfu/gとなり,洗浄区では 4.0×10 2 cfu/gであった。一方,10 ℃保管においては,未洗浄区で3.1× 10 7 cfu/g,洗浄区で5.5×10 3 cfu/g となった。このことから,冷蔵保管 中における一般生菌数の増加は,初 発の細菌数及び温度の影響を強く受 けることが明らかとなった。4℃流通 であれば,22時間程度の保管では未 図1.生シラスの一般生菌数 洗浄区でも103 cfu/gレベルで品質上も 問題のない範囲であるものの,温度が上昇する環境に置かれれば,急激に菌数が増加するリスクを 抱えている事実は変わらない。そのためシラスの生食を目的とした流通の場合においては,水揚げ 後の洗浄が必要であると考えられた。 また,海洋性細菌の結果を図2に示す。 海洋性細菌は,食品衛生法上の公 定法上の指標とはなっていない。 しかしながら,鮮魚の品質を評価 する上では,35℃で培養を行う一 般生菌数に比べ,Marine Agar培地 を使用し,20℃で培養を行う海洋 性細菌数の方がより細菌の汚染状 態を反映するとの報告がある1)。本 試験において,試験開始時の海洋 性細菌数は,未洗浄区で8.3×10 4 cfu/g,洗浄区で2.1×10 4 cfu/gと 洗浄区で低い値となり,共に一般生 図 2. 生 シ ラ ス の 海 洋 性 細 菌 数 2 菌数より10~10 倍高い値となった。22時間の冷蔵保管中における海洋性細菌数の変化は,4℃及び 10℃ともに,やや洗浄区が低い値であり,10℃保管の未洗浄区を除き,一般生菌数の変化と比べ試 験開始時と同様に10~102倍の高い値となることが明らかとなり,里見ら2)の報告と一致した。ま た,海洋性細菌の10℃保管における数値が一般生菌数のそれより低かったことについては,市販鮮 魚の場合,35℃で発育する中温細菌数が低温細菌数より多い事例が数多く見られるとの報告3)及び, そのような場合には,一般生菌数は105cfu/gを超える場合が多い3)との報告と一致する結果となっ た。このことは,本試験で実施した未洗浄のシラスが,海洋細菌以外の様々な雑菌に汚染されてい る可能性を示すものである。よって,生食を目的としたシラスの流通においては,水揚げ後の洗浄 工程が重要なポイントとなると示唆された。 - 225 - 平成25年度 鹿児島県水産技術開発センター事業報告書 参考文献 1)藤井建夫.水産食品の生菌数測定法-1 培地組成,培養温度および平板法について.東海水研報. 118.71-79(1898) 2)里見正隆,及川寛,矢野豊.微生物学的品質評価.中添純一,山中英明編.水産物の品質・鮮度 とその高度保持技術.恒星社厚生閣.東京.67-81(2004) 3)新井輝義,池内容子,岸本泰子,石崎直人,井畑幹良,観公子,下井俊子,牛山博文,立田真弓, 白石典太,甲斐明美,矢野一好.卸売市場で流通する鮮魚.魚介類加工品及び浸け水のヒスタミン 生成菌汚染状況.東京都健康安全研究センター研究年報.58.245-250(2007) - 226 -
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