自閉症児における他者の既知/未知に関する教示言語

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自閉症児における他者の既知/未知に関する教示言語行動の刺激性制御の分析
井上雅彦
本研究は井上(2002)に参加した自閉症児を対象とし、 「他者がパズルを隠しに行く行動」を弁別刺激
とした「(他者名)が知っている」という第3者への教示言語行動が成立するか否か、またそのための条
件について検討がなされた。プレイヤーとの役割交代の結果、対象生徒の言語行動は教示言語行動という
形で情報要求事態にあるプレイヤーに直接向けられることはなかったが、パートナ- (情報保持者)への
要求という形で表出することで課題解決を行うことが可能となった。既知/未知に対する応答言語行動と
の関連性について考察をおこなった。
キーワード:自閉症・教示言語行動・役割交替・機能的等価性
1.はじめに
去に教えてもらったという強化歴がその自発に大
Baron-Cohen, Leslie & Frith (1985)は、自
きく影響すると考えられる。教示言語行動は、他
閉症児は他人の信念、欲求、知識など心の状態を
者が解決できない、あるいは知らない情報を他者
理解し推論することに独特の障害を持ち、自閉症
が行動を遂行していない状態で自発するというも
の障害の本質は「心の理論(theory of mind)」
のであり、井上(1998)において示されたように
の欠如にあるとした。以後様々な実験研究が行わ
複雑な刺激性制御を持つ。
れ発展してきているが、自閉症児の認知やコミュ
井上(2002)においては、教示者と情報要求者
ニケーションの発達支援という視点に立った場合、
の「役割交替」によっても教示言語行動の形成が
自閉症児が聞き手である他者の心的状態について
可能か、また形成された教示言語行動について井
記述したり、それを基に行動することについて、
上(1998)のような機能的な分化が可能か検討を
どのような体験や学習、成立条件が必要であるか
行った。その結果、役割交替手続きにより、パズ
を検討していく必要がある(奥田・井上, 2000)。
ルプレイヤーの困難状況、自らの解決情報の保有
井上(1998)は2名の自閉症児に対して、パズ
という2つ変数によって制御されうる機能的な教
ルが足りないで困っている情報要求者に対してパ
示言語行動が獲得された。また同じ対象児につい
ズルの入っている棚の位置を教えるという教示文
て情報(棚)が未知刺激である場合、 「指さしによ
脈を設定し、教示言語行動の成立条件について検
る教示行動」や「パズル片を取りに行って手渡す
討した。結果、 2名とも他者の情報要求事態と非
という物品提供行動」等、音声による教示言語行
要求事態、解決情報を自己保有しているか否かを
動と機能的に等価な行動がそれぞれの文脈状況に
弁別刺激とした機能的な教示言語行動を形成する
応じて自発可能か検討を行った。結果、情報が既
ことが可能であった。また井上(1998)において
知刺激で自らがパズル片が取れない条件では、常
はその形成手続きとして訓練者の直接的なプロン
に音声による教示言語行動が行われ、既知でパズ
プトが用いられていた。しかしながら、日常的に
ル片が取れる条件及び未知で取れる条件の2条件
は、教示言語行動のもう一つの弁別刺激として、
では「パズル片を取りに行って手渡す物品提供行
「教えてあげなさい」という指示や「教えてあげ
動」が自発するようになった。また、未知刺激で
ると、その人は喜ぶ」というルール、さらには過
自らパズル片が取れない条件では、 「指さしによ
る教示行動」が出現した。
兵庫教育大学発達心理臨床研究センタ-
このように、先の井上(1998)井上(2002)に
10発達心理臨床研究第9巻2003
よって、自閉症児がパズルプレイヤーの困難状況、
DSM-Ⅲ-Rの診断基準に照合した場合「自閉
自らの解決情報の保有によって機能的な教示言語
性障害(autistic disorder)に該当することが
行動を行えることが示された。本研究では、先の
確認されており、 CARS小児自閉症評定尺度
井上(2002)に参加した対象生徒が「他者がパズ
(Schopler, Reicher and Renner, 1986)の評
ルを隠しに行く行動」を弁別刺激として「(他者)
定においても7項目に関して中度の異常が認めら
が知っている」という第3者への教示言語行動が
れ、総合診断では軽・中度の自閉症であった。物
成立するか否か、またそのための条件について検
の名称に関する語嚢は豊富であったが、動詞語嚢
討を行う。
は少なく、質問に対して言語応答困難な場合は、
エコラリアが生じていた。
2.方法
1)対象児
2)マテリアル及びセッティング
自閉症と診断された女児1名であった。本研究
井上(1998,2002)と同様に4片(リンゴ、バ
開始時の生活年齢は8歳2ヶ月、 7歳6ヶ月時の
ナナ、カキ、ブドウ)または5片で完成する羽目
精神年齢は4歳10カ月(新版田中ビネー)であっ
板パズル2組(果物と野菜)が用いられた。セッ
た。井上(2002)に参加し、パズルが足りないで
ティングは、 Fig.1に示すようにプレイルームと
困っている情報要求者に対してパズルの入ってい
プレイルームの外のロビー、隣接するブースの3
る棚の位置を教えるという教示文脈において機能
つのスペースを使用して行われた。それぞれのス
的な言語行動を行うことが可能であった。物の名
ペースは独立しておりドアを閉めた状態では隣の
称に関する語嚢は豊富であったが、動詞語嚢は少
様子は観察できないようになっていた。対象生徒
なく、命名などの簡単な質問応答は可能であった。
の他、パズルを隠してくる役のパートナーが2名
パ-トナIB
●O
SF:]困rEB
緒∈輿
ブ ̄ス○
プレイヤー
パ-トナIAパートナIB
O
O
O
指示看
Fig.1セッティング
井上雅彦:自閉症児における他者の既知/未知に関する教示言語行動の刺激性制御の分析11
と指示者、パズルを行うプレイヤーの5人がいた。
退室した後、実験者が入室レヾズルを行った。実
またプレルーム内にはパルをするための机と記録
験者はパズル片が足りなくなった時点で「たりな
用のビデオカメラがセットされた。また、プレイ
いなぁ」といった。この際、対象生徒に行動を促
ルーム内の壁面には一面扉付きの作りつけの棚が
すような視線やそぶりはいっさい行わなかった。
設置されていた。
実験者は対象生徒が30秒間無反応の場合、退室し
た。また対象生徒の方が退室してしまった場合、
3)標的行動
対象生徒における標的行動は、プレイヤーにパ
ズルを隠した人を教示することとされた。
実験者は退室しないで室内で待機した。そして、
対象生徒がプレイルームの外に出た後、パズルを
隠したパートナ-が、プレイル-ム内から隠した
パズル片を持ち帰り、対象生徒に見えるように手
4)指導期間
で持ったまま実験者が退室してくるまで待った。
本研究は教育相談終了後の15分間を利用して行っ
実験者はパズルを持ったバートナ-が退室してか
た。また、対象児の負担にならないよう基本的に
ら30秒間待って退室した。指示者は実験者が退室
過1回1セッション行われた。期間は約3ヶ月で
した後、机上のパズル板を回収した。また指示者
*3Ba
は対象生徒の前でパズルを完成させないようにし
た。
5)手続き
(1)一般的手続き
(3)役割交代条件1
対象生徒とパートナーの役割交代を行った。 8
試行開始時、プレイルームの外には、パズルを
試行を1セッションとして行い、そのうち対象生
隠してくるよう指示する指示者、パズルの情報に
徒がパートナ-になる試行を4試行、ベ-スライ
ついて教示する教示者(対象生徒)、指示者の指
ン条件と同様に教示者役になる試行を4試行ラン
示によってパズルを隠してくるパートナーA, B
ダムに混ぜた。
の計4名がいた。パズルをする役のプレイヤーは、
(4)役割交代条件2
プレイルームに隣接するブースに待機した(Fig.
対象生徒とプレイヤー(実敬者)の役割交代を
1上).次に指示者はパ-トナーAまたはBに対
行った。 8試行を1セッションとし、パズルをす
して、例えば「A先生パズルを棚においてきて」
るプレイヤー役を対象生徒が行う試行を4試行、
と指示し、 4片で完成するパズルの1片をパート
ベースライン条件と同様に教示者役になる試行を
ナーAにわたした。指示されたパートナーAはプ
4試行おこなった。 2つの役は交互に交代して行
レイルームに入室し、任意の棚にパズルを隠して
われ、セッションの第1試行目は常に対象生徒が
部屋から退室した。次に指示者は、対象生徒をプ
プレイヤー役とした。対象生徒がプレイヤー役の
レイルームに入室させ、パズルのはめ坂と残った
場合、教示者は対象生徒に対して「○○先生(パー
3片のパズル片を机の上において退室した。続い
トナー名)がしってるよ」という教示言語行動を
てブースに待機していたプレイヤーがプレイルー
行aa
ムに入室しパズルを行った。
(2)ベースライン
(5)教示言語訓練
役割交代条件2と同様の条件で、対象生徒が教
指示者役を対象生徒の母親、教示者役を対象生
示者役の試行の時にプロンプターが対象生徒とと
徒が行った。指示者は、パートナーAとBのどち
もに入室したOプレイヤーのパズルが足りなくなっ
らかにパズルを隠してくるよう指示した。指示者
た時点で「○○先生(情報保有者)がしってるよ」
が対象生徒をプレイルームに入室させ、パズルの
という言語行動のモデルを出し、対象生徒に模倣
はめ板と残った3片のパズル片を机の上において
させた。対象生徒が3秒以内に教示言語行動を自
12発達心理臨床研究第9巻2003
生徒とパートナーの2名一緒にパズル片を隠しに
発した場合プロンプトは行われなかった。
いく試行、パートナーだけがパズル片を隠しにい
(6)プローブ1
プロンプターのいない状況で対象生徒とプレイ
く試行を各4試行ずつランダムに混ぜ、計12試行
1を行った。
ヤーとで役割交代しながら行われた。
(7)プローブ2
6)データの信頼性
ベースラインと同様の条件で測定された。
対象生徒の様子はすべてビデオに録画された。
(8)プローブ3
対象生徒がパズルの場所を知っている場合、自
全試行数の30%以上の試行をランダムに抽出して
分で取りに行ってプレイヤーに手渡すことも可能
評定した。評定はセッション中にビデオ撮影した
となる。プローブ3では、対象生徒が、取って手
テープを利用した。測定者2名について評定者間
渡すという行動と教示言語行動「∼先生が知って
の一致試行数が算出され、これを全評定試行数で
るよ」という行動を文脈に応じて使い分けられる
除し100を掛けたものを一致率とした.一致率は
か否か評価する目的で導入された。対象生徒とパー
100%であった。
トナーの2名が一緒にパズル片を隠しにいく試行
とパートナーだけがパズル片を隠しにいく試行と
を5試行ずつランダムに混ぜ、計10試行を行った。
(9)プローブ4
対象生徒だけがパズルを隠しに行く試行、対象
Table lプローブ3及びプローブ4の反応パタン
プローブ4
プロ-プ3
条件
試行
パートナーパートナー+対象生徒対象生徒パ-トナ-パ-トナ-+対象生徒
(9-が知ってるよ
反応(診取って渡す
4/4
3/4
0/4
4/4
4/4
0/4
1/4
1/4
0/4
0/4
③∼が知ってるよ-取って渡す/4
B
3eLine
RC1
RC2
0/4
3/4
TR
)/4
P1
0/4
P2
101112131415
串Leaving田LeavingandCalling田caHng □Instructi。n Sessions
Fig.2情報要求事態における対象生徒の行動
井上雅彦:自閉症児における他者の既知/未知に関する教示言語行動の刺激性制御の分析13
3.結果
プレイヤー役と教示者役の役割交替をなくしたプ
ローブ2でも維持された。
1セッション中における対象生徒のプレイヤー
プローブ3及びプローブ4の対象生徒の反応パ
に対する反応率をFig.2に示した。ベースライン
タンをTable lに示す。プローブ3では、新たに
条件では対象生徒は、プレイヤーがパズルが足り
対象生徒とパートナーの一人が一緒にパズルを隠
ない状況になっても教示言語行動を自発すること
しに行くという試行をパートナーだけが隠しに行
なく、部屋から退室してしまっていたOパートナー
く試行と混ぜて行った。結果、対象生徒とパート
と教示者役で役割交替が行われる役割交替条件1
ナーとが隠しに行く試行においてもパートナーだ
が導入されてもこの傾向は同様であった。次にプ
けが隠しに行く試行と同様に「∼先生が知ってる
レイヤー役と教示者役で役割交替が行われる役割
よ」と教示するパタンが4試行中3試行で表出し、
交替条件2が導入されると、導入後の最初の第7
1試行のみで自分でパズルを取ってプレイヤーに
セッションでは、対象生徒はいったんプレイルー
手渡すというパタンが見られた。プローブ4では、
ムから退室した後、パズルを隠したパートナーに
プローブ3の2種類の試行に対象生徒だけがパズ
対して「○○先生」といいながらパートナーをプ
ルを隠しに行くという試行が加えられた。その結
レイルームに誘導する動作(手を引く)が表出し
果、対象生徒だけが隠しに行く試行においても
た。そして第9セッションからは、対象生徒はプ
「∼先生が知ってるよ」 (でたらめな反応)が出現
レイルームから退室せず、プレイルーム内からパ
した。その反応に対して、プレイルームの外にい
ズルを隠したパートナーに対して「○○先生、お
たパートナーが「知らないよ」という応答をする
いで」と呼び出す反応が表出するようになった。
と、その後対象生徒は、自分でパズルを取ってプ
教示言語訓練が導入されると対象生徒のパートナー
レイヤーに渡すという行動か自発した。また、最
への呼びかけは、プレイヤーへの教示言語行動
初から自分でパズルを取って渡す試行も1試行み
「○○先生(パートナー名)が知ってるよ」に置
られた。
換された。教示言言吾行動はその後のプローブ1、
対象生徒が プ レイヤー役
パズルを渡す
対象生徒
情報要求者
○
パートナ情報保持者
「00先生! 」
部屋を出て呼ぶo r部屋から呼ぶ
I 「00先生が知ってるよ」
○教示者
対象生徒が教示者役
^H"V-∩二∩三二
情報要求者、、J
」!ノ情報保持者
対象生徒
教示者
Fig.3役割交替条件2での役割交代時の各メンバーの反応
14発達心理臨床研究第9巻2003
た。このことは、対象生徒が教示者役の場合、自
M^^^^S^M察
分がプレイヤー役であった時に教示された「○○
本研究は、先の井上(2002)に参加した対象生
先生が知ってるよ」という言語行動をモデリング
徒が「他者がパズルを隠しに行く行動」を弁別刺
せず、自らがプレイヤー役の時に行っていたパー
激として「(他者)が知っている」という第3者
トナーを呼びに行くという行動をそのまま自発し
への教示言語行動が成立するか否か、またそのた
たものであると考えられる(Fig.3下線部分参照)0
めの条件について検討がなされた。プレイヤ-と
パートナーを呼ぶという行動は、要求機能を持っ
の役割交代の結果、対象生徒の言語行動は教示言
ものであり、先の井上(2002)において得られた
語行動という形で情報要求事態にあるプレイヤー
結果と同様、役割交替という独立変数の中ではマ
に直接向けられることはなかったが、パートナー
ンド(要求)機能を持っ言語行動は比較的獲得さ
への要求という形で表出することで課題解決を行
れやすいが、教示のようなタクト(叙述)機能を
うことが可能となった。
持っ言語行動は獲得されにくいことを示している。
Fig. 3は、役割交替条件2での役割交代時の各
また、 Fig.4はプローブ3及びプローブ4にお
メンバーの反応を示している.対象生徒がプレイ
ける教示者、プレイヤー、パートナーの反応を図
ヤー役の試行では、教示者は「○○先生が知って
示したものである。パートナーだけがパズルを隠
るよ」とプレイヤー役の対象生徒にいい、対象生
す試行では、対象生徒はパズルの隠された場所を
徒はパートナーの所へいって「○○先生」といっ
知ることはできない。したがって教示言語訓練に
てパートナーの入室を促す仕草を見せていた。生
よって獲得した「○○先生が知ってるよ」という
徒が教示者の役の試行では、役割交替条件2の初
言語行動を自発するしかない。これに対して、パー
期においては、プレイルームから出て「○○先生」
トナーと対象生徒がパズルを隠しに行く試行、対
といったパートナーを呼びに行くという行動が見
象生徒だけがパズルを隠しに行く試行では、対象
られ、それは試行を重ねるごとに、在室したまま
生徒はパズルの隠された場所を知っていることに
で「○○先生おいで」と言う行動に置換していっ
なる。しかしながら対象生徒は、この2つの試行
パートナ-がパズルを隠す試行
パートナーと対象生徒がパズルを隠す試行
パズルを漉す
■tttllttttttt-
I
プレイヤー
情報要求者
パートナー
情報保持者
00先生が知ってるよ」
対象生徒
教示者
対象生徒がパズルを隠す試行
プレイヤー
情報要求者
「知らないよ」
パートナー
情報保持者
「00先生が知ってるよ」
対象生徒
教示者
Fig.4プローブ3及びプローブ4における教示者、プレイヤー、パートナーの反応
井上雅彦:自閉症児における他者の既知/未知に関する教示言語行動の刺激性制御の分析15
の場合も「○○先生が知ってるよ」という教示を
文献
自発してしまっていた。このためパートナーと対
1 ) American Psychiatric Association (1987)
象生徒がパズルを隠しに行く試行ではパートナー
DSM M -R (Diagnostic and Statistical
名を教示しても誤答にはならないものの、対象生
Manualof Mental Disorders, Third
徒が隠した試行の場合はパートナー名を教示する
Edition-Revised) , 38-39.
ことは誤答となるOその場合、パートナ-はプレ
2 ) Baron-Cohen, S., Leslie, A.M., & Frith,U.
イヤーに向かって「知らないよ」という言語行動
(1985). Does theautistic child have a
を発した。これによって対象生徒はパズルを自分
"theory of mind?". Cognition, 21, 37-46.
でもって来て手渡すという反応を自発した。この
3 ) Baron-Cohen, S. (1993). From attention-
ことは、対象生徒が「知らないよ」という言葉、
goal psychology to belief-desire
あるいはパズルが渡されないという状況を弁別刺
psychology : The development of a the-
激として教示言語行動と機能的に等価な物品提供
ory of mind and its dysfunction. In S.
行動を自発したことを示している。
Baron-Cohen, H. Tager-Flusberg, & D. J.
Perner, Frith, Leslie, & Leekam, (1989)は,
Cohen (Eds.), Understanding other min
ある事物を被験児の目の前で実験者が隠し,その
ds : Perspectives from autism (pp.59-82).
場面を被験児のパートナーには見せないという実
Oxford : Oxford Medical Publications.
験条件を設定した。その結果,自閉症児の多くは
4)井上雅彦(1998)自閉症児における他者への
「誰が見ることができたか?」という知覚に関す
教示言語行動の獲得と般化発達心理学研究,
る質問には正答することができたが, 「誰が知っ
9 (3), pp.179-190.
ているか?」という知識に関する質問に対して適
5)井上雅彦(2002)自閉症児における他者への
切な応答ができたのは約半数だけであった。こう
教示言語行動の獲得と般化発達心理臨床研
した研究から自閉症児が「見ることと知ることの
究, 8, 9-18.
関係」の理解に困難性があること(Baron-Cohen
、1993;内藤,1997)が指摘されている。
本研究の条件では、 「見ること」と「知ること」
6)内藤美加(1997)心の理論仮説からみた自閉
症の神経心理学的研究心理学評論, 40,
123-144.
の因果関係については言及できないが自閉症児が
7)奥田健次・井上雅彦(2000)自閉症児への
「他者がパズルを隠しに行く行動」を弁別刺激と
「心の理論」指導研究に関する行動分析的検
して「(他者)が知っている」という教示言語行
討-誤信念課題の刺激性制御と般化-.心
動を自発可能であることが明らかになった。
理学評論, 43, 427-442.
今後は「見ること」と「知ること」の因果関係
) Perner, J., Frith, U., Leslie, A. M., &
やプローブ3や4において対象生徒は「パ-トナー
Leekam, S. R. (1989). Exploration of the
Aはパズルの場所を知っていたか?」、 「Bは知っ
autistic child's theory of mind : Know-
ていたか?」、 「プレイヤーは知っていたか?」、
ledge, belief and communication. Child
「あなた(対象生徒)は知っていたか?」といっ
Develop-ment, 60, 689-700.
た質問に対する応答言語行動の成立条件と教示言
9 ) Schopler, E.,Reicher, R.J..& Renner, B.R.
語行動との関連性について分析していく必要があ
(1986) The childhood autism rating scale
る。
(CARS). New York, Irvington Publi-
shers. (佐々木正美監訳小児自閉症評定尺
皮,東京,岩崎学術出版社.)
16発達心理臨床研究第9巻2003
Analysls of stimu山s controlI of instructional verbal i〕ehavior about
known/unknown to other person for a child with autism
Masahiko INOUE
Research and Clinical Center for the Handicapped,
Hyogo University of Teacher Education (Katoh-Gun, Hyogo-Ken 673-1494)
This study was conducted to analysis of stimulus controll of instructional verbal behavior
about known/unknown to other person for a child with autism. A child was participated in
Inoue (2002). The instructional verbal behavior ``(NAME) knows. , was targeted. It was
discriminated the behavior which the others hide a puzzle. The child acquired the behavior of
require to the others using role change procedure, however she couldnt be done instructional
verbal behavior. The results were discussed about functional equivalence of instruction behavior.
It was examined about the relevance with the tact of that others know or unknow.
Key Words : Autism instructional verbal behavior, functional equivalence