下肢領域における CT

下肢領域における CT-AEC 機構の特性
○ 古田明大 白石泰宏 上田幸介 大元謙二 横川新吾 石村隼人
古用太一 小島明彦 森絵美子 山本竜次 吉本政弘
愛媛大学医学部附属病院 診療支援部
・目的
1
閉塞性動脈硬化症(ASO)や深部静脈血栓(DVT)
など下肢領域の CT 検査は多い。ASO は動脈相を撮影
3
5
4
するためコントラストがつきやすいが、DVT は静脈相
を撮影するためノイズやアーチファクトの増加が診
2
断に大きく影響してしまう。当院では下肢 CT 検査に
図 1 ROI を置いた場所
おいて管電流決定に CT-AEC 機構を用いており、設定
Noise index を 8~10 にしている。しかし管電流が低
く計算され X 線出力が足りず、画質の低下が起こる
・撮影条件
場合があった。この原因として反対側からのアーチ
管電圧
120[kV]
ファクトと FOV 内の下肢の位置が影響しているので
管電流
Auto mA(10 ~440 [mA])
はないかと考えた。そこで今回は下肢領域における
Beam pitch
0.562 0.938 1.375 1.75
CT-AEC 機構の動作について検討したので報告する。
Slice 厚
0.625 ~10 [mm]
SFOV
Large
DFOV
36 50[cm]
・実験方法
下肢ファントムとして直径 100[mm]の円柱のプラ
Noise index 10
スチック容器に蒸留水を封入したものを2本使用し
た。発砲スチロールを寝台の端から出るようにし、
・使用器具
その上にファントムを設置することによって寝台か
CT 装置 GE Medical Systems Light Speed Ultra16
らの影響を無くした。2 つのファントムの中心と CT
発砲スチロール
の回転中心を合わせ、2 つのファントムの間隔を 0~
プラスチック容器
29[cm]とし、撮影パラメータとしてビーム幅、Beam
pitch、スライス厚を変化させて撮影を行った。各条
件で撮影後、管電流、CTDIvol 値、一定位置の画像に
・ 結果
10,20mmbeam による SD の変化を図 1、2 に示す。
おける標準偏差(SD)で評価した。SD は図 1 のように
10mmbeam と比較して 20mmbeam は値に多少のばらつ
2 つのうち右側のファントムにおける 5 点に ROI をと
きがあるが、ともに SD は設定 Noise index の 10 よ
り平均を求めたものである。
り小さい8程度であり、ほとんどの点で設定した
DFOV36[cm]を用いた理由は、当院で使用している
Noise index の 10 よ り 低 い 結 果 と な っ た 。
GE 社製の CT において SFOV が Large、DFOV が 36[cm]
pitch0.562 は ど の ス ラ イ ス 厚 に お い て も 他 の
のとき設定した Noise index に近づくように設定さ
pitch より SD が高くなった。また、20mmbeam のと
れているため DFOV を 36[cm]にした。また DFOV50[cm]
き計算された管電流が最小値を下回ったため
は、SFOV が Large のときの最大 FOV である。
CT-AEC 機構が働かない点があった。
5
10
4
0.562
9
SD
0.938
1.375
8
CTDIvol[mGy]
11
1.75
3
0.562
0.938
2
1.375
1.75
1
0
7
0
10
20
30
ファントム間隔[cm]
6
0.625
1.25
2.5
3.75
5
スライス厚 [mm]
図 4 ファントム間隔による CTDIvol 値の変化
図 1 ビーム幅の違いによる SD の変化(10mmbeam)
FOV が 36 [cm]のときのファントム間隔による SD
の変化を図 5 に示す。間隔が大きくなると SD は減
11
少していき、5~8[cm]付近で SD は最小となり、そ
データなし
れ以降は再び増加した。また、このとき撮影した画
10
0.562
0.938
1.375
1.75
SD
9
8
像を図 6 に示す。④の ROI 付近に画像の歪みが発生
しており、間隔が大きくなるにつれ歪みも増加し、
SD は大きくなった。
7
10
9
6
0.625
1.25
2.5
3.75
5
7.5
10
SD
スライス厚 [mm]
0.562
8
0.938
1.375
7
図 2 ビーム幅の違いによる SD の変化(20mmbeam)
1.75
6
ファントム間隔による管電流、CTDIvol 値の変化を
最もSD低い
5
0
図 3、4 示す。ファントム間隔によらず撮影に必要な
管電流、CTDIvol 値はあまり変化しなかった。
2
5
8
11
ファントム間隔[cm]
14
図 5 ファントム間隔による SD の変化(FOV36cm)
70
管電流[mA]
60
50
40
0.562
0.938
1.375
1.75
30
20
10
0
0
10
20
30
ファントム間隔[cm]
図 3 ファントム間隔による管電流の変化
図 6
ファントム間隔による画像への影響
(FOV36cm)
FOV が最大の 50[cm]のときのファントム間隔によ
る SD の変化を図 7 に示す。FOV が 36[cm]のときと ROI
の大きさが異なるため SD は全体的に低い結果となっ
た。SD はファントム間隔が 14[cm]付近まで 5~7 付
近であるが、ファントム間隔を 14[cm]以上にすると
画像が歪み FOV の端に近づくほど SD は上昇した。
pitch0.562 はファントム間隔が大きくなると設定
Noise index の 10 より SD が大きくなった。また、こ
のとき撮影した画像を図 8 に示す。FOV36[cm]のとき
と同様に④の ROI 付近に画像の歪みが発生しており、
間隔が大きくなるにつれ歪みも増加し、SD は大きく
図 9 pitch による画像への影響(間隔 5cm)
なった。
14
12
0.562
SD
10
0.938
8
1.375
1.75
6
SDが増加
4
0
2
5 8 11 14 19 24 29
ファントム間隔[cm]
図 7 ファントム間隔による SD の変化(FOV50cm)
図 10 pitch による画像への影響(間隔 29cm)
・考察
ファントム内の SD が設定 Noise index より低く
なった理由は、下肢の中間に存在する空気を含めて
1つの被写体として計算を行った結果、体幹部と比
較して楕円率が大きいものとして認識され、Scout
view からの計算による誤差が大きくなったためで
あると考えられる。
Beam pitch0.562 の SD が大きくなったのは、
pitch
の変化によって被曝線量が大きく変化しないよう、
図 8
ファントム間隔による画像への影響
pitch が遅い場合のスキャンでは管電流を低く計算
(FOV50cm)
した結果として線量が抑えられたのが原因である
と推測される。
FOV を最大の 50[cm]として、
ファントム間隔が 5、
今回用いたファントムでは間隔が近いと反対側
29[cm]のときの pitch による画像への影響を図 9、
からのアーチファクトの影響で SD が大きくなり、5
10 に示す。ファントム間隔、pitch が大きくなると
~8[cm]で SD は最も小さくなる。また、14[cm]以上
画像の歪みは大きくなった。
離れると再構成による画像の歪みやボウタイフィ
ルターによる線量の低下などによる影響で SD が増加
したと考えられる。今回の実験から求めた 5~8[cm]
、
14[cm]といった数値は被写体の大きさによって異な
ることが推測されるため、異なる大きさのファント
ムを用いた検討が必要であると考えられる。
・ まとめ
下肢の間隔を 14[cm]以下にし、可能であれば 5~
8[cm]にすることによってアーチファクトや画像の
歪みを抑えることができた。下肢領域は極端に楕円
率が大きい部位であるため、設定 NI と SD の間には
差が生じることを確認できた。臨床では骨が存在し、
更なるアーチファクトが発生するので、今後は骨を
模擬したファントムを作成し検討を加える必要があ
ると考える。