滋賀県産ワイン開発

5.コンサルティング活動
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コンサルティング活動
❏産業振興分野
滋 賀 県 産 ワイン開 発
ワインづくりは、情熱と土づくりがスタート
ものの本によれば、ワイン用のブドウ栽培に関する条件として、気温、日照、水分、土壌等々の良い畑の条件が
挙げられています。しかし、その中身を見れば、理想論であり、世界中で行われているブドウ栽培全てに当てはまら
ないのではないでしょうか?
赤ワインの代表的な品種であるピノ・ノワールはフランスのブルゴーニュ地方を原産地とします。「気まぐれ」と言わ
れるほど気候や土壌に敏感に反応し、栽培が難しいと言われている品種です。また、カベルネ・ソーヴィニヨンやメル
ローなどと違い、他の品種と殆どブレンドされることなく、ピノ・ノワールのみの単一品種で醸造されることが一般的で
す。それ故、その地方の味わいを敏感に反映することがあり、タンニンがミルキーで滑らかな味わいを表現し、その
地方の食べ物と上手くマッチングさせれば、最高の表現力を持つとも言われています
ワインがその土地の文化を象徴する飲み物であるとするなら、逆にいかに工夫や研究を重ね「独自性」「良い畑と
は何か」を我々に示してくれるのではと考えます。
「良いワイン造り」は「良いブドウ作り」で、突き詰めれば「良い畑づくり」となると考え、「良い畑づくり」をテーマに今
回、考えてみたいと思います。
ワイン用ブドウの適地とは、年間降水量 500~900mm で、緯度は 30~50 度で・・・・等丸暗記してみたが、実際に
ワイン産地を訪問してみると、あまり気にしているブドウ作り農家はいない。
実際に「ブドウ栽培」という、括りの中で、各産地の土壌、気候を確認してみたい。
山梨は日本の中でブドウ適地と言われている。確かに、甲府盆地で傾斜があり、水はけがよく笹子おろしという風
が吹き、日照時間が長い・・・・と言われている。
とは言え、ヨーロッパ品種にとって適地かどうかという点からは、諸条件を勘案すれば疑問が残る。そのことから、
日本でワイン用のブドウ栽培はある意味で無謀かもしれないと考えるが?なら、どう考えるか?日本のワインは日本
の風土から生まれたものである。 栽培条件としてリスキーな部分があるものの、そこに正面から向き合い、挑戦を
重ね、工夫を重ねながら、自分たちのテロワールを表現している。その形こそ、日本のワインと言われるものではな
いか?
そのような苦労や努力の積み重ねの中で、ヨーロッパ系品種より、在来のブドウ品種のほうがその土地で歴史を
重ね、生き残っていると言うことから、リスキーな風土に合っていることに気づかされる。教本にあるブドウの適地と
反対側でのブドウ栽培、こんなに湿度は高く、・・・・厳しい条件で・・・・。水はけが良い…根が下に伸びるから樹は上
へ上へと伸びる。水はけが悪いと、根は横へ広がり、悪くすると根腐りする。根が横に張ると樹は上でなく横へと広が
る。根の姿が樹の姿として現れる。それと根が下方へと伸びれば。それほど徒長性が強くならない。
ブドウ品種は何がいいのか?
品種の問題より、水はけが良い土地に植えられたかどうか?の問題が大きいと考えられる。
水はけのよい土地に植えられた場合、自分が徒長するのを抑えて、ブドウの実に養分を与える。それ故、凝縮した
ブドウができると言うことになる。ブドウは蔓性の植物であり、実を生らして増えると言うより、蔓を伸ばして、葉っぱを
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茂らせることの方が本来大切である。土地に水分が多いと、そのよう
な成長に栄養が行ってしまうため、実を生らさせる力が弱くなる。
根っこが下にしっかり張るようになれば、良いブドウができることと
なる。
ワインは実際他の酒類より製法は簡単である。製法が簡単である
ことより、その良否は原料であるブドウの良否・品質の影響を受けや
すいいと言うことができる。他の酒類は、水を使ったり、糖化させてア
ルコールを作ったりすることで、原料からの距離がどんどん遠くなって
【根の張り方の違い(勝沼醸造㈱提供)】
くる。ブドウは自然が育むものなので、同じ品質でも、根の深さにより
その蓄えている養分の量は異なることは言うまでもない。根が深いと言うことは、幾つもの地層から養分を吸い上げ
ていると考えられ、表面からしか養分を吸い上げていないモノとの差は、歴然としている。
では湿度が高いと言うのは、どうなのか?
湿度が高いとべト病とか病気の発生のための好条件となる。
また、雨を考えれば、4 月から 10 月の生育期に雨がどう降るか?
例をあげれば、ブルゴーニュでは、冬の間、葉も何もない状態の時、毎日のように降っている。その雨は、芽吹き
や芽の成長にとって凄く有益なものである。
しかし、それ以降の雨は、基本的に水を好むべト病、黒とう病、晩腐病等カビの発生リスクが飛躍的に大きくなるこ
ととなる。
日本の平均的な気候は 5 月~7 月にかけて梅雨を挟んで毎日の様に雨が降る、……葉っぱは毎日の様に濡れて
湿度 100%状態となる。病原菌はこの様な時に広がるので、日本では難しい。逆に冬場は日本では降らない。4 月か
ら 10 月に雨が多いだけでなく、梅雨があり、台風も来る。これはブドウ栽培にとって非常に不利な条件と言える。この
ような条件の中で、「水はけの良い土壌」をどう作るのかが、一番の目標となる。しかし、日本はブドウ栽培の土地と
言う点をだけを考えると、狭い限られた土地しかないと言う日本の弱みが強みに変化する。狭い限られた土地故、や
り易くなってくる。良い条件を作り出すために人間がサポートする。水はけを良くするためにどうすればよいのか?傾
斜地だからいいとは限らない。ブドウ畑の周りに明渠と言われる溝を作ったり、畝を作りその上にブドウを植えたりし
て、ブドウにとって居心地の良い環境を作る必要がある。
原点にかえると、水はけが良いと言うのは凝縮したブドウを
作る……質の良いブドウを作ることと、病気にかかりにくくする
と言う意味があるように考える。
では、日照と気温についてはどうか?
ものの本では、積算温度で適地を考えている。しかし、日照
の質について考えているのは少ない。フランスを考えてみると、
日差しの強さは、かなりのものだし、日照時間も、夏場は夜遅く
まで明るい。夜の 10 時まで日が出ている国と 19 時には暗くな
【都農ワイナリーの直営ブドウ畑】
る国とでは、比較はできない。
ただ、寒暖の差は、大きければ大きいほどいいと言える。糖度や色づきは寒暖の差が必要であるということは断
言できる。
その他、樹勢は重要な要素と言える。日本のブドウは樹勢が強くなりやすい。その理由として考えられるのは、土
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地が肥沃で水分が多いことだと考える。フランスの例えばブル
ゴーニュと山梨の勝沼ではシャルドネ、ピノ・ノワールで考えれ
ば、別の種類である。枝の太さや長さが違い過ぎる。樹勢を抑
えるためにどうするのか?棚式にすれば芽数が増えるのでバラ
ンスがとり易い。
オーストラリアのバロッサに行けば樹齢が 100 年以上の太い
樹があり、それがいいように考える。但し、枝は細い方がいい。
日本で、よく言われるのは鉛筆の太さがいいと言われている。
【都農ワイナリーの直営ブドウ畑】
あまり太い枝に好い実がつかない。
垣根式で上に新梢を伸ばす方式をとると、先端が太くなりがちになる。上手くバランスをとって同じ太さに揃えるの
が技術である。ブドウのことを良く知っている人はそれが分かるらしい。養分バランスが悪いと太さが混在することに
なる。土の中にある養分が樹勢に与える影響は大きい。日本は昔、どの土地も田んぼとして保水力を良くした名残
が残っているので、その土地の上に、ブドウを植えており、樹勢が強いのも頷ける。
ここで、最悪の条件のもとで、世界から称賛されるワインを作った都農町の例を紹介したい。世界でも最も過酷な
条件と言っても過言でないそんな場所で、16 年にも及ぶ戦いが、風土を克服した紹介である。
丁度 20 年前、都農ワインは、都農町、尾鈴農協、地元企業等が出資し設立された。10 年目の 2006 年山梨で開催
された第 4 回国際ワインコンクールで同社のワインが欧州系白品種部門で金賞及び部門最優秀のワインに与えられ
るカテゴリー賞を受賞した。更に、銀賞 1 つ、銅賞 2 つのメダルを獲得した。この受賞の意味は、都農ワインにとって
だけでなく、日本のワイン業界にとっても非常に重いものであると考える。
ワインづくりは情熱
作物にとって一番の肥料は農夫の足跡と言われており、どのブドウ畑も同様の傾向が見られた。「ここで美味しい
ワインを造ろう」と信じて踏ん張る人がいる限り、その土地は良い畑になる。沢山訪問させて戴き教えて戴いた先達
の想いは、この言葉に尽きる。
また、「当たり前のことだが、ワインづくりは、ブドウを原料としている、ブドウは貯蔵が効かないのでブドウを液体
のままで収穫することに近い。そして、ブドウの品質、収量は天候に左右される。……ブドウ栽培と言う風土を抜きに
したワイン作りは、ワインに輝きを失わせてしまう。このように、ワインづくりはその地域の農業の一部と考えたほうが
分かり易い。」「ワインは本来、地酒であるべきだと考えている。ワインの供給はナショナル・ブランドが行なえばいい。
私たちはここの風土をワインで表現したい。」「結果的に地元のブドウに拘ることにより、地元との絆が強くなり、消費
者の信頼を得た。」(地元産 100%のブドウへの拘り、都農町)、生食用であり、ワインに向いていないとされたキャン
ベル・アーリーを用いたワインづくり、更に宮崎県と言う焼酎文化の浸透した地域での地酒としてのワインづくり。単
に水はけが良い、稲作に不向きだからと言う理由で始めたブドウ栽培を見事に 6 次産業化した。また、地産地消の
概念をいち早く導入して、技術力と情熱で克服した。その結果世界が選んだ都農ワインとして羽ばたいた。(一人の
夢が、皆の夢に…都農町、赤尾氏談)
土によるブドウの個性を差別化し同一品種でもバラエティに富んでいるワインづくり。
具体的には、収穫前に、ブドウのテイスティング……ブドウの粒、果肉の硬さ、果梗から粒をとる強さ、果汁の量、
甘味、酸味、果皮の噛み応え、果皮のタンニンの強さ、果皮の質、果皮の酸味、アロマ。種の色、砕いた時の感触、
風味、タンニン……。
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各項目を 5 段階評価し、収穫時期と品質を統計的に判断する
もの。そのデータとワインメーカーの判断で、大きなワイナリーで
あっても、8,500tのブドウから 2t、5tを選ぶ作業をする。大量生産
でなく、大きなワイナリーの中に、小さなワイナリーが幾つもある
ような印象である。
西欧は稀に見るワインの適地かもしれないが、その背景には、
技術そのものと言うより、ワインづくりにかける情熱、探究心、そ
れにプラスしっかりしたポリシーがある。
【都農ワイナリー】
また、オーストラリア、ニュージーランド等比較的新しいワイン
の国は、栽培・醸造技術の情報が非常にオープンで、積極的に情報を公開することで次なる革新を生み出して行くこ
とや、導いていくと言うスタンスは素晴らしいと感じる。それ故、感性の鋭い、多感で探究心の旺盛な 30 歳前後の若
いワインメーカーを醸造の頂点に立たせることができる。地域や会社として、ベテランを否定はしないが、西欧と違う
観点で、新しい発想と感性を取り入れているのだと頷けた。グローバルなワイン社会の中で、様々な人々と積極的に
知識を共有し、情熱を分かち合う大切さ‥…ローカルなワインづくりは、グローバルな考えから‥…と言うことが理解
できる。
今から凡そ 60 年前に永友百治翁が「田んぼに、木を植ゆる馬鹿がおるげな」と周囲から蔑まれながら始めたブド
ウ栽培、それが、都農町一帯に広がり、更に、彼らの夢であったワイナリーが建設された。
滋賀県でのワインづくり
滋賀県にもそのような努力をされているワイナリーがある。
有機栽培、手作り、自社畑で一文字短梢剪定栽培し山梨大
学が種苗登録した「ヤマ・ソービニヨン」を収穫、日本のワインの
父「川上善兵衛氏」が昭和 4 年に改良した、日本で 2 社のみが
使用する貴重品種「レッドミルレンニューム」の栽培等拘りが見
られる。
そのような観点で、地元に愛されるワインづくりを続けていけ
ば、日本らしい、滋賀県らしいワインづくりが、世界に通用する
【栗東市朝柄野・琵琶湖ワイナリー】
日が来ると信じるのは私だけであろうか?
ワインづくりはコミュニティビジネス
コミュニティビジネスと言う言葉があるが、一般的には地域に埋もれている潜在的な人材、資源をビジネス的手法
で生かすことだと解釈できる。
その地域のワインづくりは、その意味でコミュニティビジネスの実践であると考える。各地には様々な人材、資源が
ある。そう思えば、住んでる市町は、宝の山であり、メーテルリンクの「青い鳥」でもある。
まちづくりや地域活性化においては、コミュニティビジネスの発想を大切にしたいと思料する。
(文責 特任教授 若林 忠彦)
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