Title Author(s) Journal URL 歯内療法−臨床の現状とジレンマ− 古澤, 成博 歯科学報, 115(3): 269-269 http://hdl.handle.net/10130/3681 Right Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ 歯科学報 Vol.115,No.3(2015) 269 特 別 講 演 4 歯内療法 −臨床の現状とジレンマ− 東京歯科大学歯科保存学講座教授 古澤 成博 歯内療法処置は,一般の地域歯科医院において日常頻繁に行われている処置である。2012年度の政府の統計 (e-Stat)によれば,保険請求から見た我が国の歯科医療機関で行われた抜髄処置は約738万症例,感染根管 処置は約900万症例,これに抜髄即根管充填と感染根管即根管充填を加味すれば,推計だけでも日本全国で年 間約1, 638万症例に及ぶ根管処置が行われていたことになる。本学水道橋病院における最近のデータでは,総 合歯科系の紹介患者さんの71%が歯内療法関連で,その内55%が根尖性歯周疾患であり,そのほとんどが難治 性根尖性歯周炎の処置依頼であった。これは地域の歯科医院の日常臨床において,いかに歯内療法処置が面倒 かつ困難を極めているかを物語っていると言える。さらに,抜歯を勧められインプラントをはじめとする最新 の補綴処置を提案されるも,患者さん自身が歯科医師の説明に納得せず,残せる歯は出来る限り残したいとい う強い希望を持って来院されることも多い。演者も当病院で多い時期には毎年200名以上の紹介患者を受け, 難治性根尖性歯周炎を中心に処置を行い,それに付随した臨床研究も行ってきた。 ところで,歯内療法領域における最近のトピックスと言えば,実体顕微鏡や Ni-Ti ファイルの応用,コーン ビーム CT をはじめとするデジタルイメージングの導入などである。歯内療法処置の成功率は,旧来の方法で は約70%であったのに対し,最新機器を応用して処置をすれば約90%に上昇したと言われている。しかしなが ら,これら最新機器を駆使したからといって,100%の成功率が得られるわけではない。また,コストがかか る実体顕微鏡や Ni-Ti ファイルを用いて,保険医療機関において時間をかけて丁寧に歯内療法処置を行ったと しても,当然診療報酬は限られている。その一方で,旧来のエックス線写真のみでの診断の下,手探りの処置 では保存不可能であった患歯を立体的に診断し,明視下で確実な処置を行うことによって保存することが可能 となった。その結果,患者さんから感謝されることも多く,歯科医師として大きな喜びを感じることが多いの も現実である。 歯内療法処置では,このように最新の機器に対するコスト面や処置の面において,常にジレンマをかかえな がら日々の診療を行っており,すっきりとした解決の糸口が見出せないのが現状である。 今回は,我が国における歯内療法がかかえる種々なジレンマと,一方で進歩し続けている歯内療法の現状, および現在演者が取り組んでいる課題について述べてみたいと思う。 平成5年12月 ≪プロフィール≫ 平成17年3月 平成17年4月 平成19年6月 平成22年6月 平成25年4月 <略 歴> 昭和58年3月 昭和62年9月 昭和63年4月 東京歯科大学卒業 東京歯科大学大学院歯学研究科修了 (歯学博士) 東京歯科大学歯科保存学第一講座助手 マイクロスコープ歯内療法学マスター コース修了(USA Pacific Endodontic Research Foundation) 東京歯科大学歯科保存学第一講座講師 東京歯科大学水道橋病院 教育主任 総合歯科科長 東京歯科大学口腔健康臨床科学講座 准教授 東京歯科大学水道橋病院副病院長 東京歯科大学歯科保存学講座主任教授 <所属学会等> 日本歯科保存学会専門医 日本歯内療法学会専門医 日本顕微鏡歯科学会評議員 ― 85 ―
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