Title 根管が開かない場合の対処法について Author(s

Title
Author(s)
Journal
URL
根管が開かない場合の対処法について
古澤, 成博
歯科学報, 114(5): 487-489
http://hdl.handle.net/10130/3500
Right
Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
歯科学報
Vol.114,No.5(2014)
487
臨床のヒント
Q&Aコーナーは,東京歯科大学の3病院の臨床研修歯
科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本
学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基
礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼す
る場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆
様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会ま
でeメールかファックスで依頼していただきたいと存じ
ます。必ずご期待に添えることと思います。今号は狭窄
根管に関する質問です。
Q&A
歯内療法学系
Question
根管が開かない場合の対処法について
Answer
れ,患者の年齢や各症例によって考慮する必要があ
1.狭窄根管の原因
る。特に,上顎第一大臼歯の近心頬側根の2根管
根管が狭窄する原因は種々考えられるが,通常生
(MB2)
は狭窄しやすいため,見落としが多い。
活歯の場合,歯髄に何らかの刺激が加わり続けてい
一方,すでに根管充填が施されており症状が再発
た場合に,その刺激に対する防御機転として石灰化
して再根管治療を行う場合には,前医が行った不適
が進行するということが考えられる。その刺激とし
切な処置,すなわちレッジやステップ(図1)
などの
ては,咬合性外傷や齲蝕,歯の亀裂など様々な外来
不正な形態に形成された根管形成によって,その先
刺激による原因と,加齢変化に伴う歯髄結石などに
の根管が狭窄してしまっている場合もある。
よる狭窄(いわゆる異栄養性石灰変性)
とが考えら
2.狭窄根管への対処法
まず,通法通り髄室開拡を行った後,根管口と思
しき部位の探索から開始する。マイクロスコープの
設備がある場合は,マイクロスコープ下で観察する
ことが望ましいことは言うまでもない。ここで,根
管と根管を結ぶ溝(related groove)
(図2)
が観察で
きれば,その溝を超音波チップで追求することに
よって根管が発見されることがある。但し,超音波
チップを使用することは歯質を無用に切削する危険
性をはらんでいるため,エックス線写真で確認しな
がら処置を行うなどの慎重な操作が必要である。ま
た,根管の狭窄によって生活歯か非生活歯か不明な
場合で処置を無麻酔下で行っている場合には,歯髄
への刺激で患者が疼痛を訴えることがあるので,根
管口の位置の参考になることもある。
図1
一方,マイクロスコープの設備がない場合でも,
根管形成の不正形態
― 77 ―
488
図2
歯科学報
Vol.114,No.5(2014)
第一大臼歯髄床底の related groove(点線)
根管口の位置の指標となる
初診時
カルビタール応用後6ヶ月
図3 38歳女性。下顎左側第一小臼歯の咬合時痛を主訴とし
て来院。近医にて感染根管処置を1年以上受けるも症状
は緩解せず,当院初診時にもエックス線透過像が認めら
れた(矢印)
,いわゆる銃剣状根管歯。根管は完全に狭窄
していたが,月1回の「カルビタール」貼薬後半年で症
状は消失した
根管処置を数多くこなしている臨床経験豊富な歯科
一方,マイクロスコープでも根管が発見できず,
医師であれば,指先の感覚で根管を発見できる可能
手指の感覚でも見つからない場合は,無理に開ける
性が高い。この場合はまず根管口と思われる部位を
必要はないと考えている。既に述べたように特にマ
ダイヤモンドインスツルメントで軽く削去した後
イクロスコープ下で超音波チップを使用して無理に
に,手用 H ファイルに EDTA 製剤を塗布して同部
形成すると,思わぬ方向にパーフォレーションを惹
に挿入し,いわゆるペッキングモーション(鳥が嘴
起する可能性もあり,深追いは禁物である。また,
で突くようなイメージ)
のような動作で根管を探
完全に狭窄するなどして根管が発見できない場合
る。因みに,ファイルの太さはあまり細いと応力に
は,形成された部位までの根管内を EDTA 製剤と
弱くてすぐに曲がってしまうので,筆者は#15号を
次亜塩素酸ナトリウム製剤で良く清掃した後,水酸
使用することが多い。ファイルの先端が引っ掛かり
化カルシウム製剤「カルビタールⓇ」を2∼4週間
抵抗を感じれば,そこが根管である。この場合,H
に一回の割合で貼薬し,経過観察を行う。水酸化カ
ファイルを使用することが重要で,逆三角形の断面
ルシウム製剤特有の強アルカリ性が象牙細管を通じ
を有する H ファイルの構造から根管口に引っ掛か
て根管全体に行きわたり,環境変化が起こって結果
る可能性が高くなるのである。石灰化は歯冠側から
的に根管が消毒され,根尖病巣を有する患歯でも治
起こるため,根管口が発見できれば根尖側の根管に
癒に向かうこともある(図3)
。なお,EDTA 製剤
はスムーズに到達することが多い。根管口が見つか
は処置をする際の数分間のみに使用するものであ
り根管内に挿入できたなら,慌てずに根管口部の
り,根管が狭窄しているからといって間違っても次
ロート状拡大を行った後,通法通りの根管拡大・形
回来院時まで根管に貼薬してはならない。EDTA
成を行えばよい。
製剤を長期間根管内に留めることにより,過剰な象
筆者は,まずマイクロスコープ下に根管口と思わ
牙質の脱灰を惹起させる可能性があることを付記し
れる部位を確認し,超音波チップで同部位の探索を
ておきたい。なお,その後の根管充填は,形成され
数秒間行った後,EDTA 製剤を塗布した H ファイ
た部位まで行えば,まず予後は良好である。
ルで,手指により根管を見つけ出す確率が高い。マ
しかしながら,根管が完全に狭窄し然るべき治療
イクロスコープと超音波チップのみですべてが解決
を行っても治癒に向かわない場合や,根管の再治療
されると誤解されることが多いが,やはり過剰切削
の場合で,以前の治療の際に根管内にレッジやス
のリスクが大きく危険である。
テップなどが形成されていて,根尖方向にファイル
― 78 ―
歯科学報
Vol.114,No.5(2014)
が進められない場合,すなわち根尖部に感染源が残
489
る。
根管処置に早道はない。慌てて根管形成を行って
留していると思われる場合には,積極的に外科的歯
ステップ等の不正形態を作らないようにくれぐれも
内療法処置を行うと良い。
このような場合に適応となる外科的歯内療法処置
注意してほしい。
は,まずは歯根端(根尖)
切除術であろう。上顎第一
大臼歯の狭窄根管を有する湾曲した近心頬側根にも
適応可能である。また,歯根端(根尖)
切除を併用し
た意図的再植法を行わなくてはならない症例もあ
― 79 ―
Answer:古澤成博
東京歯科大学歯科保存学講座