はじめに この本は「在宅介護応援ブック」というシリーズの一冊です。それなのに、なぜ 「施設選び」なのか、と思われる方もいることでしょう。 まず、本のタイトルが『いざという時の介護施設選びQ&A』であるように、何ら かの理由で在宅介護が難しくなった「いざという時」に役立つ本であることに間違い はありません。 でも、本書の目的はそれだけではありません。むしろ、往み慣れた在宅での介護を 支えるためにこそ役立つ本だと考えています。 まず、在宅介護を続けていくためには、ショートステイを定期的に利用することは 不可欠です。ショートステイを使っている間、介護する家族は心身を休ませることが できますし、要介護の高齢者には、生活空間や人間関係を広げ、生活に刺激と彩りを もたらすことにもなります。 しかし、そのショートステイ先を間違えると大変です。「ショートステイに1週間 行って帰ってきたら床ずれができていた」「表情がなくなって帰ってきた」 「施設の 近くを通ったので訪ねてみたら両手を縛られていた」なんて体験をした介護家族は少 なくないのです。 介護に関わってきた私たちにとっては恥ずかしい話ですが、残念ながらそんな介護 施設は珍しくありません。 そんなショートステイでは在宅介護の応援になっていません。むしろショートステ イを利用することで高齢者の要介護度を高めてしまい、在宅介護を断念させることに もなりかねません。さらにそうした施設ほど、ベッドが空くと、まだ在宅で生活でき る人を入所させたがるのですから、なおさら困ったことです。 ショートステイだけでなく、デイサービスやデイケアの利用も、在宅介護を長続き させるためには不可欠です。これらは、老化や障がいによって失いかけた人間関係や 役割、ひいては高齢者のアイデンティティを確認するための場なのです。しかしその デイサービスやデイケアで、逆にプライドを傷つけられるとしたら、高齢者は生きる 意欲を失ってしまうでしょう。これまた在宅介護を困難にさせてしまいます。 では、在宅介護を続けるために「いいショートステイ」「いいデイサービス、デイケ ア」を選ぶには何を目安にすればいいでしょう。 有料老人ホームの場合には、よく週刊誌や月刊誌がランキングを発表したりしてい ます。でも、これらはいずれも、建物や設備、それに費用についての評価で、ケアの 中身について判定したものは一つもありません。 介護家族がよく利用する介護保険の施設については、行政が主導した第三者評価の データがあります。しかしこれも、一人あたりの面積とかいった形式的評価ばかり で、いいケアかどうかというもっとも大切なことはわかりません。 それも無理はありません。何がいい介護なのかというのはとても難しい問題です。 データに表せるものではありませんし、なにより、一人ひとりの人生観や人間観に よって大きく違ってくるのです。だから、そこまで踏み込んで、いい施設を見分ける 方法を示した本は今までなかったと言っていいでしょう。 私は、本書でそれを示したいと思いました。多くの医療、介護現場を取材してこら れた東田勉さんの知見と、介護職になって以来 40 年になる私の体験が重なることで、 この本はどこにもなかったものになりました。 人生観や人間観が反映せざるをえない「よい介護施設選び」については、特養から 始めて、通所、訪問をとおして在宅介護に関わり続けてきた私の、いささか独断的な 見方を基準としました。もちろん異論、反論があって当然です。なにしろ人生観の数 だけ介護観もあるのですから。 皆さんに「いざという時」がやってこないことを願っています。でも、もしそう なったら、入所した施設を家庭と同じような生活の場に変える「施設の在宅化」を やってしまいましょうね。 三好春樹
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