再生医療へつながる 幹細胞培養の最新テクノロジー 製品特集

製品特集
再生医療へつながる
幹細胞培養の最新テクノロジー
新しい技術はサイエンスの発展を加速させますが ,そのよ
うな技術開発には企業が大きく貢献しています .そこで「製
品特集」コーナーでは最新のテクノロジーに注目し ,第一線
のアカデミア研究者にサイエンスの動向をレビューいただく
とともに,開発側の各企業には具体的な製品やサービス,ア
プリケーション例をご紹介いただきます.
今回,再生医療をめざした細胞外環境の知見に基づく幹細
胞培養や,立体組織構築のための技術の最前線にフォーカス
します.
< Review >再生医療の実現に向けた幹細胞培養技術
の開発 中川誠人……… 2958
<協賛企業記事>
株式会社 ニッピ… ……………………………… 2964
<協賛企業>
株式会社高研
三洋貿易株式会社
株式会社ニッピ (五十音順)
〈Review〉
再生医療の実現に向けた
幹細胞培養技術の開発
中川誠人
幹細胞を臨床応用するには品質が十分に担保された安全な細胞をつくることが必要である .そのために
は,われわれは培養システムが一番重要であると考え,真に応用可能な培養液やコーティング剤の開発を
進めてきた.幹細胞の応用は今まさにはじまったところであり,今後の発展に向けて,さらなる改良が必
要である.多能性幹細胞には ES 細胞や iPS 細胞がある.iPS 細胞は自分の体の細胞からつくり出せる細
胞で,細胞移植治療や創薬などのオーダーメイド医療への活用が期待されている.本稿では ES/iPS 細胞
培養技術の現状と今後の展開について考えてみたい.
はじめに
他の解説を参照していただきたい.
幹細胞はわれわれの体を構成するさまざまな細胞へ
と分化する能力をもっている .このような特徴から ,
ヒト多能性幹細胞の培養技術
病気や怪我で失われた細胞を補完する移植治療への応
背景と歴史
用が期待されている.本稿ではヒト多能性幹細胞であ
ヒト ES/iPS 細胞の培養はフィーダー細胞との共培養
る ES 細胞および iPS 細胞の培養技術の最新情報と今後
系で行われてきた.フィーダー細胞を用いることでヒ
の医療への応用について説明する.なお,幹細胞には
ト ES/iPS 細胞が状態良く培養できる 1)2).ヒト ES/iPS
体性幹細胞という医療応用に有用な細胞も存在するが,
細胞のための培養液(培地)は血清代替物と数種類の
Development of stem cell culture system for regenerative medicine
Masato Nakagawa:Department of Life Science Frontiers, Center for iPS cell Research and Application, Kyoto University
(京都大学 iPS 細胞研究所 未来生命科学開拓部門)
2958
実験医学 Vol. 33 No. 18(11 月号)2015
< Review > 再生医療の実現に向けた幹細胞培養技術の開発
サイトカイン・成長因子などで構成されている.フィー
要となる.また,使うときに毎回同じ細胞の状態にす
ダー細胞の培養にはウシ胎仔血清(F B S)を含んだ培
ることは難しく,ES/iPS 細胞の性状に影響することは
養液を用いられている.
明白である.
ヒト ES/iPS 細胞の培養に使われているフィーダー細
胞の多くはマウス胎仔線維芽細胞の初代培養細胞,あ
るいはそれらを株化した細胞が使われている.他には,
最新の細胞培養技術
Feeder-free でのヒト ES/iPS 細胞の培養
ヒト細胞をフィーダー細胞として用いることも可能で
われわれは臨床応用可能なES/iPS 細胞の培養法の開
あることが報告されている 3).フィーダー細胞を使用
発をはじめた.規制をクリアすることはもちろんだが,
するときの注意点としては,毎回同じ状態のフィーダー
臨床用細胞を準備する(製造する)現場で運用しやす
細胞を準備することである.そうでないと ES/iPS 細胞
い方法であることをめざした.これまで研究目的で利
の状態にも影響が出てしまう.
用していたフィーダー細胞を用いた培養方法では限界
これらの培養条件はヒト ES/iPS 細胞を基礎研究の中
で使うために築き上げられてきたものである .
4)
があると考え,フィーダーフリーの培養方法(feederfree 法,Ff 法)の開発を行うことを決めた.また,培
養液などの試薬類には生物由来原料基準に則ったもの
ヒト ES/iPS 細胞の臨床応用と培養の課題
を使用することとした.
細胞移植治療を考えた場合,患者の体に入る分化細
われわれがフィーダー細胞の代わりになる基材(コー
胞のもとになる細胞がヒト ES/iPS 細胞であることか
ティング材)を探していたときに laminin-511 という細
ら,臨床応用に適した細胞にする必要がある.適した
胞外マトリクスのタンパク質がヒト ES/iPS 細胞の培養
細胞とは質はもちろん重要だが,ここでは培養方法の
に有効であることが報告された 5).国内では ,大阪大
点から考えてみたい.
学の関口清俊教授が一歩進んだ同様の研究を行ってお
ES/iPS 細胞由来の分化細胞を使って臨床応用を行う
り,laminin-511 の活性断片を用いたヒト iPS 細胞の培
には,治療の安全性を担保するためのルールを遵守す
養に関する共同研究を開始した 6)7).検討の結果,この
る必要がある .厚生労働省が出している「生物由来原
laminin-511 の活性断片がヒト iPS 細胞の樹立から維持
料基準」はその 1 つであり,
「医薬品等の品質,有効性
培養までコーティング剤として有効であることがわかっ
及び安全性を確保することを目的とする」,と冒頭に書
た(表)
.現在では,iMatrix-511 という製品名で販売
かれている.ES/iPS 細胞の場合,安全が担保された培
されている〔㈱ニッピ〕
.
養液やフィーダー細胞を使わなくてはならないという
ことになる.
次に,laminin-511 の活性断片をコーティング剤に用
いたときに最高のパフォーマンスを発揮する培地の開
動物由来の成分,例えば FBS や血清代替物などは使
発をはじめた.ヒト ES/iPS 細胞の未分化能を維持する
用できないわけではないが,未知のウイルスのリスク
ためには bFGF などのいくつかの成長因子が必要であ
などを考慮するとできるだけ量を減らすか,使わない
ることが報告されていた 8)9).他にも細胞の生存,培地
ことが望ましい.使用する場合は採取元の動物の飼育
の安定化に必要な因子をリストアップし,それぞれの
環境から製品の製造,出荷工程まで,そして製品その
濃度と組み合わせを検討した . 300 もの候補培地の検
ものの安全性などに関して膨大な資料を準備する必要
討からプロトタイプの培地が完成し,ヒト ES/iPS 細胞
がある.
の培養に有効であることが確認できた.プロトタイプ
フィーダー細胞を用いる場合は,セルバンクを構築
では動物由来成分を含んでいたため,一つひとつの成
する必要があると考えられる.セルバンクの構築には
分を組換タンパク質などの非動物由来成分に変更して
細胞調製施設(クリーンルーム)で大量の凍結ストッ
いった.最終的にStemFit AK03〔味の素㈱との共同開
クの作製が必要である.また,詳細なウイルス試験も
発〕という培養液の開発に成功した(表)
.この培養液
行うため,最終的にかなりの労力,時間とコストが必
は独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(P M D A)
実験医学 Vol. 33 No. 18(11 月号)2015
2959
製品特集
表 フィーダーフリー培養法の特徴
フィーダーフリー法
フィーダー法
支持細胞/基質
iMatrix-511(組換えラミニンタンパク質)
〔㈱ニッピ〕
マウス SNL 細胞(マイトマイシン処理)
培地
StemFit AK03(生物由来原料を含まない)
〔味の素㈱〕
動物由来成分を含む血清を含む
播種
シングルセル→カウントして一定数を播種
小さめの塊にして播種
継代率
1:100
1:3
培地交換
一日おき
ほぼ毎日
凍結保存
STEM-CELLBANKER 緩慢法(-80 ℃)
DAP213 ガラス化法(液体窒素)
新たに開発したフィーダーフリーの培養法と従来法(フィーダー法)の比較表.
との対面助言において生物由来原料基準の適用対象外
と考える.医療グレードの iPS 細胞の場合はさらにハー
であるという見解を得ている.つまり,臨床応用に用
ドルが上がってしまう.ここでは,i P S 細胞の最大の
いるにあたって同意を得ることができたと考えている.
メリットである自己多能性幹細胞の活用を近い将来実
iMatrix-511 も同様に PMDA による同意を得ている.
現させるためのポイントについて考えてみたい.
新たに開発したFf 培養法とこれまでの培養法(フィー
ダー法)の比較を表に示した
まずは i P S 細胞をつくるうえで一番重要な初期化の
.コーティング剤と培
ステップに関して問題となっているのは,誘導効率が
地は前述の通りである.Ff 培養法では細胞のコロニー
低いことである.体細胞に初期化因子を導入すること
を完全にバラバラにし,シングルセルにした後に播種
で i P S 細胞への誘導を行うが,そのときにベクターと
する方法で継代を行っており,細胞の数をカウントし,
いう遺伝子の運び屋を使うことが一般的である.ベク
一定数の細胞を播種できることがメリットである(図
ターを使用する際に重要なことは,初期化される細胞
1)
.このことにより,作業者間,施設間でのばらつき
のゲノムにベクターが入り込まないこと(非挿入)で
を減らせることが期待され,運用でのメリットは大き
ある.つまり,ゲノムに変化を起こさないということ
いと考えられる.継代率は 1:100 とこれまでの方法を
が重要である.われわれは現在,エピソーマルベクター
大きく上回っており,容易に大量培養を行うことが可
というものを主に使用している 11)12).ヒト iPS 細胞を
能となった .培地交換は 2 日に一度で十分であること
樹立した当初に用いていたレトロウイルスとは異なり,
を確認しており,作業者の負担軽減につながることも
エピソーマルベクターを用いた場合は導入遺伝子がホ
大きな利点である .凍結保存は市販の試薬 S T E M -
ストゲノムに組み込まれることがほとんどないことが
CELLBANKER〔日本全薬工業㈱〕を用いて,-80 度
知られている.また通常のプラスミドベクターとは違
での緩慢法で行えるため,一度に多量のストックを作
い,細胞分裂に伴って導入遺伝子が複製される特徴か
製する場合にも有用である.
ら,iPS 細胞の樹立に有効であることがわかっている.
10)
効率の点ではセンダイウイルスベクターが非常に有用
未来の培養技術
である 13).また,RNA による初期化は非常に有用な技
多能性幹細胞の培養に関して現状と未来について図
術であるが ,効率の点で今後の改良が期待される 14).
2 にまとめた.
現状では,よくても 1 %程度の初期化効率であるので,
i P S 細胞は自分自身の体の細胞からつくることがで
将来的には 10 %を超える効率の実現が望まれる.
きるため,免疫拒絶反応のない移植治療のソースとし
維持培養については,前述の Ff 培養法が有用と考え
て期待されている.また,疾患 i P S 細胞を用いた病態
る .この方法は臨床での使用も可能であることから ,
モデルの構築と創薬の進展は大いに期待される分野で
基礎から臨床を一貫して同じ培養法で行えるのが大き
ある.しかしながら,個々人の i P S 細胞をつくるのに
なメリットである.培養試薬は大量に使用するためコ
は,コストと時間を考えると現状では技術的に難しい
スト面が懸念材料であるので,十分なベネフィットが
2960
実験医学 Vol. 33 No. 18(11 月号)2015
< Review > 再生医療の実現に向けた幹細胞培養技術の開発
0日目
1日目
2日目
3日目
4日目
5日目
6日目
7日目
図 1 シングルセルでのヒト iPS 細胞の培養
ヒト iPS 細胞のコロニーをシングルセルにし ,新しい培養皿に播種した . 0 日目の矢頭が播種直後の 1 つの細胞を示す .経時
的に観察することで ,シングルセルから 7 日間で十分な大きさのコロニーを形成できることが確認できた .スケールバー=
300 μ m〔IncuCyteZOOM(エッセンバイオ)で撮影〕
得られるかどうかを考慮する必要がある.今後はより
スに結合したり,多くの場合は両者の様式で何かにくっ
安価で高性能な培地の開発が望まれる.コーティング
ついて増殖および分化をしていると考えられる.くっ
剤に関しては,将来的に完全合成の物質で代替できる
つくことによりさまざま刺激を受けており,この刺激
ことが望まれる.
が重要である.
凍結保存については,試薬 ,凍結条件 ,長期保存 ,
神経細胞への分化誘導では 96-well プレート(U 底)
などさまざまな条件の改良が必要である.具体的には,
にバラバラにした細胞を多数入れ込み,ボール様構造
より安定した生存率を達成可能な凍結保存液,最適な
(スフェア)をつくらせることでそのなかで神経細胞を
凍結温度条件やそのための装置,より高温で長期保存
つくることができる 17)18).同様にスフェアをつくらせ
が可能な凍結保存容器,などについて技術の発展が望
ることで拍動する心筋細胞をつくることができる.ス
まれる.
フェアの形成により培地に触れる表面とその内側で細
分化細胞をつくる直前の段階での大量培養は応用に
胞の性質に違いが出てくることで,さまざまな細胞へ
向けて克服しないとならない重要な技術である.スピ
の分化誘導が可能となっている.細胞外シグナルの種
ナーフラスコなどを用いた浮遊培養系が主流であると
類(=培地に含まれる成分など)により内部の細胞社
考えられるが,他にはバッグ培養系でも大量培養が可
会の行く末が決まってくることは興味深い現象である.
能である
.ポイントは均質な細胞を培養できること
最近ではラミニンなどの細胞外マトリクスに接着させ
である.最近では培養装置だけでなく培養を安定させ
て,平面培養で神経細胞や心筋細胞をつくることもで
る試薬の開発など総合的な開発が進んでおり,将来的
きるようになり,より目的の細胞にフォーカスした分
に工場規模で稼働させることが可能な技術の開発が望
化誘導が可能となってきている 19).
15)
まれる 16).
多能性幹細胞から体細胞を分化誘導する研究におい
ES/iPS 細胞などの多能性幹細胞から分化細胞をつく
ての最終目標は組織構築ではないだろうか.組織は多
るときの培養方法についても簡単に考えてみたい.細
種類の細胞からなる複雑な構造をしている.組織を構
胞はシングルセルで培地のなかに浮いたままでは上手
成する多種類の細胞をそれぞれつくるのは現在の技術
く分化することは難しい.体のなかをみるとわかるよ
では難しい.効率,純度,成熟度,性質,などわれわ
うに,他の細胞とくっついていたり,細胞外マトリク
れにはほとんど制御することはできない.しかし,最
実験医学 Vol. 33 No. 18(11 月号)2015
2961
製品特集
iPS 細胞
初期化
重要なポイント
分化細胞の製造
未分化細胞の製造
体細胞
(血液など)
ゲノムへの非挿入
維持培養
フィーダーフリー・
ゼノフリー
凍結
拡大培養
緩慢法(−80℃)
大量培養
現状で使われている技術
(試薬など)
エピソーマル
センダイウイルス
RNA
レトロウイルス など
iMatrix-511
STEMStemFit AK03 CELLBANKER
Vitronectin
プログラム
TeSR2 など
フリーザ など
スピナーフラスコ
培養バッグ
安定化剤 など
今後の改良において
重視されるべきポイント
高効率
短期間
安定性
操作の簡略化
均質性
高密度化
高い生存率
操作の簡略化
自動 化
自動 化
▪個別化医療に向けたハイスループットでの iPS 細胞の樹立・維持培養装置の自動化
▪高い生存率・長期保存安定性・自動化を可能とする凍結システムの開発
▪大量培養から目的分化細胞の製造までの一連の作業の自動化
▪大量生産した分化細胞を使ったハイスループットスクリーニング技術の開発
図 2 ヒト iPS 細胞の培養技術の現状と今後
i P S 細胞技術を応用するためには ,血液などの体細胞を初期化し ,維持培養し ,凍結ストックを作製し ,大量培養して必要な
分化細胞を準備する必要がある.それぞれのステップにかかわる事項をこの図に示した.
近の研究成果により自己組織化による組織構築技術が
これらは細胞移植治療であるが ,別の方向として i P S
発展してきている.この技術では,細胞の集まりが自
細胞技術を使った創薬研究が非常に活発である.大学
然にさまざまな細胞へと分化し ,組織が構築される .
と企業が連携して新たな薬を開発しようとする動きが
ES 細胞を使って眼杯様組織や小脳神経組織の構築が報
随所でみられる.
告されている
.自己組織化による分化誘導には外
少し先を考えたときに,移植治療でも創薬でも自己
部環境(=培地構成成分など)を上手に整えることが
i P S 細胞を使った応用の実現が望まれることは間違い
大切である.
ないと考える.自己細胞移植であれば免疫拒絶反応の
20)21)
分化誘導技術は基本的に発生における組織や細胞の
リスクはかなり低いことから,大きな治療効果を得る
分化を模倣しており,細胞がもともともっている能力
ことも可能であろう.また,自己 i P S 細胞からさまざ
を上手く引き出していることになる.自己組織化技術
まな分化細胞をつくり,さまざまな薬の効果を検討す
はその際たるものであると考えられる.今後は発生な
ることで本当の意味でのオーダーメイド医療が実現で
どの基礎研究を基盤とした分化誘導培養技術の発展が
きるのではないだろうか.現在発展が著しいゲノム編
期待される.
集技術と組合わせることで,異常細胞を人為的につく
り,病態モデルを使った先行的ドラッグスクリーニン
今後の展望
グも可能である.細胞での結果とそれを人体に適用し
本稿ではヒト ES/iPS 細胞の培養技術について現状と
今後について述べてきた.
たときの効果がどれほど合致するかは今後の研究デー
タの蓄積が必要な点である.同時に,国内のロボット
国内ではヒト iP S 細胞を使った臨床研究がすでには
じまっており,今後はいろいろな疾患に対して i P S 細
技術などを活用した自動培養装置の開発が必須であり,
今後の発展が非常に期待される.
胞を使った臨床研究が行われることが期待されている.
2962
実験医学 Vol. 33 No. 18(11 月号)2015
< Review > 再生医療の実現に向けた幹細胞培養技術の開発
文献
18)Eiraku M & Sasai Y:Nat Protoc, 7:69-79, 2011
19)Doi D, et al:Stem Cell Reports, 2:337-350, 2014
1) Takahashi K, et al:Cell, 131:861-872, 2007
20)Eiraku M, et al:Nature, 472:51-56, 2011
2) Takahashi K & Yamanaka S:Cell, 126:663-676, 2006
21)Muguruma K, et al:Cell Rep, 10:537-550, 2015
3) Takahashi K, et al:PLoS One, 4:e8067, 2009
4) Suemori H, et al:Biochem Biophys Res Commun, 345:
926-932, 2006
Profile
5) Rodin S, et al:Nat Biotechnol, 28:611-615, 2010
6) Miyazaki T, et al:Nat Commun, 3:1236, 2012
7) Ido H, et al:J Biol Chem, 282:11144-11154, 2007
8) Levenstein ME, et al:Stem Cells, 24:568-574, 2006
9) Xu RH, et al:Nat Methods, 2:185-190, 2005
中川誠人
10)Nakagawa M, et al:Sci Rep, 4:3594, 2014
1997 年,上智大学理工学部化学科卒業.2002 年,奈
11)Okita K, et al:Stem Cells, 31:458-466, 2013
良先端科学技術大学院大学にて博士号取得(バイオサイ
12)Okita K, et al:Nat Methods, 8:409-412, 2011
13)F usaki N, et al:Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci, 85:
348-362, 2009
14)Warren L, et al:Cell Stem Cell, 7:618-630, 2010
15)Matsuura K, et al:Biochem Biophys Res Commun, 425:
321-327, 2012
16)Otsuji TG, et al:Stem Cell Reports, 2:734-745, 2014
17)Morizane A, et al:J Neurosci Res, 89:117-126, 2011
B o o k
エンス)
.学術振興会特別研究員(PD)
.奈良先端科学技
術大学院大学遺伝子教育研究センター,京都大学再生医
科学研究所再生誘導研究分野を経て,’09 年より京都大
学物質 - 細胞統合システム拠点 iPS 細胞研究センター 特
任講師.’10 年より京都大学 iPS 細胞研究所 講師.
I n f o r m a t i o n
骨ペディア
売中
好評発
骨疾患・骨代謝キーワード事典
編集/日本骨代謝学会
●骨粗鬆症,関節リウマチ,歯周病,がんの骨転移など,幅広い疾患群を含む骨疾
患.
これらを基礎も臨床もまるごと理解!
●収録用語は100以上! 骨代謝を司る重要な因子や,疾患,治療・診断を網羅し,
イ
ラスト入りで明解に解説.第一人者の先生にご解説いただいた決定版です.
実験医学 Vol. 33 No. 18(11 月号)2015
ISBN978-4-7581-2056-2
発行
分子,細胞から疾患まで
骨研究のすべてが髄までわかる!
定価(本体 6,800 円+税)
2色刷り B5 判 328 頁
2963
製製品品特特集集
再生医療へつながる幹細胞培養の最新テクノロジー
協賛企業記事
再生医療を支える
臨床グレードの細胞培養用基質
およびタンパク質分解酵素の開発
株式会社 ニッピ プロテインエンジニアリング室
山本卓司
株式会社 ニッピでは ,コラーゲンを中心とする細胞外マトリクスの生物学上の機能や ,それらの抽出物
の物性や機能について研究を行ってきており,これらの研究成果をもとに細胞培養に応用できる製品の製
造販売を行ってきた.近年の再生医療分野の進展にともない,われわれは再生医療分野で利用できる臨床
グレードの製品づくりに注力をしてきた .ここでは ,われわれが開発してきた臨床グレードの試薬であ
る,1)ゼラチン,2)ラミニンおよび 3)コラゲナーゼについて紹介したい.
1)ゼラチン
ゼラチンは,動物の皮や骨に含まれるコラーゲンを
熱抽出,あるいは加水分解や酵素分解することによっ
て得られるコラーゲン分解物である .原料としては ,
ウシやブタの皮や骨がよく利用されているが,最近で
は魚の皮やウロコなどから抽出したゼラチンも利用さ
(図)
.これらの成形物は,骨の再生,結合組織の再生
や表皮の再生など,埋め込む組織に合わせて選択を行
うことが可能である.
2)ラミニン
ラミニンタンパク質は ,上皮・内皮組織や脂肪細
れている .医療用途としては古くから経口カプセル ,
胞・筋細胞と結合組織の境界を形成する基底膜の主要
貼付剤などに用いられてきたが,その高い生体親和性
な構成タンパク質であり, α,
βおよびγ鎖のサブユニッ
と生分解性により近年では,DDS 基材や scaffold など
として生体内への埋植用途にも使用されている.
われわれはこれら生体内投与の際に問題となる発熱
性物質(エンドトキシン)を低減させた低エンドトキ
シンゼラチン「メディゼラチン」を開発し ,生体への
埋植をターゲットとした応用開発を進めている.
エンドトキシンは生体内投与を行う医薬品,医療機
器では必ず規格値が設定されるが ,ゼラチンの場合 ,
動物組織を原料として製造されるため,相当量のエン
ドトキシンが含まれることが常であった.われわれが
ゼラチンフィルム
メディゼラチン
開発したメディゼラチンの場合 10 EU/g 以下を規格値
として設定しているため,医療機器の材料として利用
する際においてもエンドトキシンの規格値のコントロー
ルが可能である.
ゼラチンを医療用材料として考えたときのメリット
は成形の自由度であり,スポンジ,シートおよびフィ
ルムなどさまざまな形状で成形することが可能である
2964
ゼラチンスポンジ
ゼラチンブロック
図 ゼラチン
<協賛企業記事> 株式会社 ニッピ
写真 1 iMatrix-511MG
写真 2 ブライターゼ C
トから構成されており,さまざまな生物学的機能を発
由来原料基準への適合性について「異論はない」との
揮することが知られている. α, βおよびγ鎖の組合わ
判断をいただき , 2015 年 6 月から販売を開始した .
せによってアイソフォームが異なり,各ラミニンは細
iMatrix-511MG は,臨床応用を行うための幹細胞を in
胞表面のインテグリンなどのレセプターや他の細胞外
vitro で培養するための基質として使用されており,臨
マトリクス成分,ヘパリンなどと特異的に結合する.
床研究での使用が広がってきている.
このラミニンタンパク質は,全長が約 400 〜 800 kD
これらのラミニンの技術開発の成果が認められ,関
もある巨大分子であり,近年の遺伝子工学の技術を用
口清俊(大阪大学),中川誠人(京都大学)および服部
いても,組換えタンパク質の作製が容易ではない.大
俊治(ニッピ)は,第 13 回(平成 27 年度)産学官連携
阪大学の関口清俊らは,このラミニンタンパク質のう
功労者表彰の文部科学大臣賞を受賞した.
ちの,インテグリンと結合する部位を含む短い断片を
作製して細胞培養基質として応用することを考案した.
3)コラゲナーゼ
この断片化したラミニンタンパク質は,ラミニン -E8
細胞を用いた再生医療を行う場合には,いったん生
断片とよばれ,全長のラミニンタンパク質と変わらな
体外へとり出した細胞を in vitro で培養し患者の体内
いインテグリンとの接着活性をもつことがわかってい
に戻すというプロセスがとられる.自家移植において
る .α5,β1 およびγ1 鎖で構成されるラミニン 511
も他家移植においても,ドナーの組織から細胞をとり
タンパク質の E8 断片(ラミニン 511-E8 断片)は,内
出す際には,組織を分解する必要がある.コラゲナー
皮細胞や幹細胞などの細胞表面に存在するインテグリ
ゼは,コラーゲンを特異的に分解するタンパク質分解
ンα6β1と結合することが知られており,ES/iPS 細胞
酵素であり,再生医療において組織から細胞を分離す
の培養時には,フィーダー細胞の代替培養基質として
るために,他の酵素と組み合わせた上で使用されてい
使用することが可能である.さらに,ラミニン 511-E8
る.われわれが臨床グレードのコラゲナーゼを開発す
断片を使用した場合には,ROCK 阻害剤(Y27632)を
るきっかけとなった,Ⅰ型糖尿病の治療法である膵島
使用せずに幹細胞様の性質を維持することができ,か
移植手術においても,ドナーの膵臓から膵島を分離す
つシングルセルでの継代が可能である.ラミニン 511-E8
る際にコラゲナーゼを使用している.現在,試験研究
断片を製品化した「i M a t r i x - 511」は ,現在 ,広く
用途として広く使用されている細胞分散用コラゲナー
フィーダーフリー培養用基質として使用されている.
ゼは,Clostridium histolyticum 産生コラゲナーゼを精
iM a t r i x - 511 の臨 床 グレー ドである「i M a t r i x -
製した酵素製剤がほとんどであるが,精製度は高くな
511MG」は,2014 年 12 月に PMDA(独立行政法人 医
い場合が多く,コラゲナーゼ以外の酵素が含まれてい
薬品医療機器総合機構)との対面助言において ,生物
る場合が多い.また,C. histolyticum 産生コラゲナー
2965
製品特集
剤が広く使用されているが,各酵素の混合比は固定さ
れており,このことが個別化再生医療実現の壁となっ
ていることが指摘されている.われわれが開発した臨
床グレードのブライターゼ C は,他の酵素と自由に組
合わせて使用することができ,目的に合わせた最適な
酵素条件をカスタマイズすることが可能となり,再生
医療のさまざまな場面において活用されるものと考え
ている.
写真 3 研究所外観
まとめ
以上のように,われわれが研究開発してきた各種臨
床グレード試薬は,再生医療において使用する細胞を
ゼには,ColG と ColH の 2 種類のアイソフォームがあ
「分離」し,
「培養」し,体内に「埋植」するための試薬
り,それぞれの分解対象となる基質が異なることが報
として,広く活用されている.これからも,われわれ
告されている.また,その混合比により活性が変わる
の強みである細胞外マトリクスに関する研究を活用し
可能性があり,細胞分散効率に大きな影響を与えると
たさまざまな技術開発を行い,再生医療を支援する製
いう報告もある.われわれが開発したコラゲナーゼで
品づくりを行っていきたいと考えている.
ある「ブライターゼ C」は,アイソフォームが 1 種類で
ある G r i m o n t i a h o l l i s a e のコラゲナーゼ遺伝子を ,
Brevibacillus 発現系に組換えることによって,高純度
のリコンビナントコラゲナーゼとして作製される . 1
種類のリコンビナントコラゲナーゼを用いることによ
り,活性が安定な酵素製剤となり,臨床での使用にお
ける信頼度が高まると考えられている.
コラゲナーゼが分解する基質は,コラーゲン様配列
をもったタンパク質のみであり,細胞分散に使用する
際には,他のタンパク質分解酵素を最適な濃度で混合
して使用する必要がある.膵島移植手術における膵島
分離では,コラゲナーゼとサーモリシンの混合酵素製
2966
株式会社 ニッピ
プロテインエンジニアリング室
東京都足立区千住緑町 1-1-1
TEL:03-3888-5184 FAX:03-3888-5136
http://www.nippi-inc.co.jp/