不動産開発と持続可能性アセスメント -新国立競技場計画の事例から

不動産開発と持続可能性アセスメント
-新国立競技場計画の事例から考える-
代表者
原科幸彦(千葉商科大学 政策情報学部長・教授)
討論者
五十嵐敬喜 法政大学名誉教授、弁護士
風見正三 宮城大学 事業構想学部・教授
桑原洋一 チェンジデザインワークス、千葉商科大学 大学院政策研究科博士課程
小泉秀樹 東京大学 大学院工学研究科都市工学専攻・教授
【ワークショップの概要】
昨年の学会設立 30 周年記念シンポジウムでは「高齢社会における不動開発」と題し、持続
可能な開発のために必要な事業者,行政,新旧の住民が計画情報を共有して合意形成していく
プロセスはどうあるべきかを探るため、多様な分野からのパネリストによる議論を展開した。
この成果を踏まえ、不動産開発によるインパクトを事前にチェックして、合理的で公正な開発
となるよう、地域の合意形成を図る方法を議論する。
開発行為は便益とともにコストが生じる。このコストは直接的な経費だけでなく多様な影響
もあり、その適切な測定が必要である。特に人々が懸念する事項(public concerns)に対して
は、それを予め予測、評価し、対策を講ぜねばならない。公共施設の計画では公衆意見への配
慮が必要で、その手段がインパクト・アセスメント(IA)である。十分な情報公開と参加によ
り、人々の懸念事項に正面から答える「意味ある応答」が求められる。
本 WS では、計画の透明性をいかに確保して持続可能な都市や地域をつくるかを主題に、そ
のための支援手段である IA において最新の方法である、持続可能性アセスメント(SA)に焦
点を絞る。SA はプランニングプロセスと統合させて、一体化したシステムとして考えなければ
ならない。
【新国立競技場計画の事例から考える】
2020 年東京五輪のメインスタジアムとなる新国立競技場の計画はアセスをしないまま計画
が決められたが、これは IOC のアジェンダ 21 に抵触する。そこで、都は計画の決定後なので
効果はあまりないのだが、自主アセスを実施している。また、1625 億円とされた費用のうち、
500 億円の負担を求められた東京都の舛添知事は、説明が不十分だと難色を示した。その後、
政府は 2520 億円まで膨張した建設費用を負担すると決めたという。
ところが、その後、7 月 17 日に安倍首相は突然、この計画の白紙撤回を表明した。このため、
合理的で公正な判断がされうるものと期待された。だが、この期待は外れるかも知れない。
7 月 21 日には整備計画再検討推進室を設置、見直し案を作成し、関係閣僚会議において審議
の結果、8 月 28 日に見直し案が決定された。だが、このプロセスは再び不透明な形で進んだ。
アスリートや一部有識者のヒアリングを行い、ウエブでパブリックコメントを求め、アンケー
ト調査も行ったが、いずれも意見を聞くというもので、公開の場での議論は一切なかった。民
主主義社会では「公共空間での議論」が不可欠だが、この考え方が全くない。
環境、社会、経済 3 面での持続可能性の検討がなされないまま、旧国立競技場は解体され、
見直したとはいえ、再び巨大な新競技場の建設に取り掛かろうとしている。延べ床面積はいま
だにロンドン五輪競技場の 2 倍ほどもの 20 万平米近くと、以前の計画の 9 割ほどもあり、費用
上限もロンドンの施設が 2 つ以上造れる 1550 億円という巨額に設定された。首相は白紙撤回と
は言ったが、実際は従来の枠組みが色濃く残っている。このような不透明な意思決定過程をど
う直してゆくか。容易なことではないが、日本が民主主義社会であるなら、それにふさわしい
透明なプロセスを作ってゆかなければならない。
今回、風致地区である神宮外苑地区の地区計画が非常な短期間で作られ、都の都市計画審議
会では高さ変更に関する審議はされないまま計画が決定された。ここは風致地区で、建築物の
高さ規制は本来の 15 メートルが 20 メートルに緩和されていた。それが一気に 75 メートルまで
大幅な緩和がされたが、この重大な変更について都からの口頭説明はなく、十数分の審議時間
では委員も資料を詳細に見ることはできず、この変更に対する議論は全くされなかった。ここ
に現在の計画手続きの欠陥が現れている。行政の裁量がきく構造になっている。
これで説明責任は果たされるのか。このような問題には IA を適用し「公共空間での議論」
を実現するよう、適切な運用がされるべきである。とりわけ、環境、経済、社会の 3 面を総合
的に評価する SA の役割は大きい。本 WS では、この事例を参考に、不動産開発における合意
形成を支援する手段である、SA のあり方について議論を深める。
参考図書:
原科幸彦・小泉秀樹編著『都市・地域の持続可能性アセスメント』学芸出版社、2105