精神的不調による退職「13%」 特に派遣、契約社員に多い“労務実態

産経新聞
15.1.29 精神的不調
精神的不調による退職「13%」
特に派遣、契約社員に多い“労務実態”
「こんなはずじゃなかったのに…」
。いつの間にか抱えてしまった精神的な不調がきっか
けとなり、勤め先を退職せざるを得ない人が後を絶たない。休職して適切な治療を受けた
としても、社内制度の不備や周囲の無理解などが“再発”を呼び込んでしまう。精神的・
肉体的に健康なまま働き続けられる人はむしろ少数ともいえる中、労使間をはじめ相互理
解が求められている。
(日野稚子)
■退職者に目立つ派遣、契約
精神的な不調で退職した人は13.3%で、就業形態別では派遣社員や契約社員は正社員
より高い割合だった…。独立行政法人労働政策研究・研修機構(東京都練馬区)が昨年行
った「第2回日本人の就業実態に関する総合調査」で、こうしたデータが明らかになった。
昨年1~2月、20~65歳の男女4573人から回答を得たという。
過去3年間で「落ち込んだり、やる気が出ない」など精神的不調を感じたことがある人
は25.7%で、このうち76.5%が「通院治療無しで日常生活を送れる」状態と答えた。
一方、通院治療を受けて日常生活が「送れる」状態の人は16.2%、
「困難な状態」が3.
3%。性別や世代での大差は見られなかった。
このうち、雇用者として働いているときに不調を感じたと答えた894人にその後の仕
事の状況を聞くと、
「休職・通院せずに働いている」人が72.0%。「休職せず退職」(8.
6%)、
「休職を経て退職」
(3.2%)
、
「休職、復職を経て退職」
(1.5%)と、結局は退職
した人の合計は13.3%。このうち正社員が12.6%に対し、派遣社員27.3%、契約社
員21.6%、アルバイト19.9%、パート10.9%…となった。
派遣社員や契約社員といった非正規社員では働き続けられないのか?
そんな疑問がわ
き上がる結果だが、同機構調査・解析部の担当者は「非正社員は雇用に対して有期契約で、
傷病後に働き続ける制度がない。また、正社員と比べ、今までの職歴や病歴が問われるこ
とが少ない分、入職のハードルは低い。通院加療が必要だが働きたい人の受け皿にもなっ
ている」と指摘する。同機構の調査面談を受けた、精神疾患を抱える派遣社員は「派遣と
いう形態があるからこそ、通院しながら働ける」と訴えたという。契約、派遣社員だから
退職しがちという社会通念がある一方で、長い目で見ると自分で“働き方”を調整できる
というメリットもあるのだろう。
「派遣社員などは休職制度などが未整備で退職せざるを得ないのが実情だが、正社員も
退職せざるを得ない状況は、職業生活と通院治療の両立が難しさの一端を示している。さ
まざまな状況を抱えた人が混在する職場が成り立つような環境が必要だ」
(担当者)
■8年間に4回の転職を経験して
関東地方在住の会社員、田中一郎さん(仮名、32)は大学卒業後、精神的不調がもと
で、8年で4回の転職を経験、今は5つ目となる職場で3年働き、自身の最長記録を更新
中だ。
ネットビジネスに将来性を感じた田中さんは、中規模商社のネットビジネス担当として
新卒入社した。3年後には起業したいと考えていた田中さんは、東京で知り合ったIT起
業家と意気投合し、商社は2年で退社。自らネットビジネスで起業したが、半年ほどで精
神的不調に見舞われ、再就職することに。十数人規模のウェブ制作会社で営業職として働
き始めた。
直属の上司は営業責任者でもある「社長」だった。「朝8時に家を出て帰宅は午前様。社
長は提案力で仕事を落とす実力派だが、僕には感覚的にモノを説明する社長の言葉が分か
らない。だから自分の仕事の範疇が、どこからどこまでなのか見えなくなった」。質問した
いのに尋ねられない“質問下手”になり、社内の他部署の人にさえ質問できず、仕事を抱
え込んだ。
そして入社半年で、疲れて起き上がれないなどの鬱症状を起こして休職した。「社長はじ
め皆さん心配してくれた。僕の復職後のためにと、誰がどの仕事をするのか、仕事の分業
体制も構築してくれていた」。1カ月後に復職したが、繁忙期を迎え、以前と変わらぬ職場
環境に逆戻りした。
「実はその職場、精神的不調で休職と復職を繰り返している女性がいたんです」
。社長が
「(働き続けるのは)あの子は難しいかも」と話していたのが頭の片隅に残った。そして数
カ月後、再び自身が鬱症状を起こして2度目の休職に至ったとき、
「もう次は(休職状況に)
ならない、という保証がないと困る」と言われ、さらに傷病手当申請をしようとして拒否
されたことで退職の覚悟を決めた。
「次は不調にならないなんて、僕には保証がない」。創
業から働く人は幹部だけ、ウェブ制作業務に関わる社員は激務などのため数年で入れ替わ
る職場と後から知ったが、働き続けようと思っていた会社を1年で辞めることになった。
4カ所目は教育系ベンチャー企業で、友人からの紹介だった。自社ウェブサイトの運営
担当で、専門家である田中さんの仕事内容を理解できる人はほぼ皆無の中、サイトがきち
んと稼働していれば同僚は安心した。猛烈に働いたが、半年後に鬱症状に見舞われ、1カ
月の休職を経て復帰。そして1年後に2度目の休職をした際、人事担当者が面談にやって
きた。「田中君はもしかしたら、鬱病ではなくて双極性障害ではないか?」
田中さんは大学4年の就活後、自分の進路決定に悩んだことがきっかけで外出できなく
なり、鬱病の診断を受けていた。自営を含め勤務4カ所目で2度目の鬱症状による休職に、
自信を喪失。社会不適合なのではないかとさえ思った田中さんだが、人事担当者の説明を
受けて、
「エネルギーが切れるまで活動的に過ごす軽躁(けいそう)状態が続いて、ガス欠
になって鬱に転じて休職する。そして転職など職場環境が変わり、軽躁状態になって元気
に働く…。思い当たることばかり」と話す。会社の指導で受診した精神科医の診断はやは
り双極性障害II型だった。
治療と復職に向け、会社はさまざまな配慮をしてくれた。それでも、田中さんは退職を
決めた。
「際限のない仕事をしながら、自分で自分を管理する“裁量型職種”は僕の鬱症状
を起こしやすいと思った。もう一度、仕事との向き合い方、働き方を見直したかった」と
振り返る。
■「制度」だけでなく「マニュアル」も
鬱病など気分障害の人の復職・再就職支援事業を展開するリヴァ(東京都豊島区)取締
役の青木弘達さんは、
「鬱病や双極性障害との診断を受けた人はしっかり休み、日常生活が
できるようになったら職場復帰トレーニングに取り組むべき。少し休んだだけですぐ職場
復帰すると、また症状を悪化させてしまって休む。それを繰り返すと、あっという間に傷
病休職期間を使い切って退職せざるを得なくなる」と指摘する。
復職・再就職を目指す人を対象に、グループワークなどをしながら体力とコミュニケー
ション能力などを回復させるための支援施設を都内3カ所で運営。平成23年6月~26
年10月で200人が社会復帰を果たした。
休職中の利用者で、復職条件として「元通りに仕事ができるようになったら」と言われ
る人がいた。勤務先の人事担当者の合意のもと、青木さんは利用者との間の仲介に入った
が、会社側も本人も、復職までに何をどうすればいいのか分からない状況だったという。
産業医の診断だけで時期を決めるのか、いきなり以前と同じ働き方を求めるのか、通院
の必要性をどう考慮するのか…。休職者が復職するまで、配慮すべき段階は多い。
「休職・
復職制度を用意するだけでは、制度利用者が出たときに同僚も労務担当者も本人も迷う。
運用マニュアルも用意すべきだ」(青木さん)
冒頭の労働政策研究・研修機構の調査で、精神的不調の経験者に希望する支援策を聞い
たところ(複数回答)、
「業務内容や業務量への配慮」42・3%▽「職場の同僚・上司と
の人間関係を配慮した配置」34.9%▽「日常的な声かけ」29.6%…が挙げられた。
医学の進歩に伴い通院治療で慢性疾患と二人三脚を続ける人は多い。人材活用の観点か
らも、多様な働き方ができる職場づくりの模索が続いている。
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