1.教員養成プログラムの開発と実施 (1)「教職実践演習」の授業開発 学校教育教員においては、教員としての資質能力の最終的な形成と確認を目的とする「教 職実践演習」が、平成 20 年度から本格的に導入されようとしている。教育実践演習は、 中央教育審議会「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」 (2006)によれば、 「教職課程の他の科目の履修や教職課程外での様々な活動を通じて学生が身につけた資質 能力が、教員として最小限必要な資質能力として有機的に統合され、形成されたかについ て、課程認定大学が自らの養成する教員像や到達目標等に照らして最終的に確認するもの」 である。また、中教審答申(2006)は、「教員として求められる四つの事項」として「① 使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項 ②社会性や対人関係能力に関する事項 幼児児童生徒理解や学級経営等に関する事項 ③ ④教科・保育内容等の指導力に関する事 項」を挙げている。保育者養成においても、実践力を身に付けるための「教職実践演習」 の導入は必要と考えられ、4年次後期に設定されるのが適切である。とりわけ保護者との コミュニケーションや協力の進め方は、初任者にとって困難な領域の一つでありながら、 従来のカリキュラムでは十分な実践力が必ずしも育まれてこなかった。したがって、「知 っていること」と「実践できること」の段差を埋めるために、志望学生や現職者の効力感 を育むことが一つの鍵となる。そこで、「教員として求められる四つの事項(中教審中間 報告)」に重点を置き、教職経験者を含めた複数教員の協力方式による効果的なカンファ レンスを展開して、問題解決を図る力量を培うと共に、教員としての資質能力を確認する ための総合的な実践演習にいかに取り組むかについて、授業研究に着手する。 平成 18 年度は、この科目を幼稚園教員養成において成立させるための必要条件とその 実現のための案について検討した。教育実践演習を成立させるための最初の必要条件は、 幼稚園教員としての最小限必要な資質能力の全体について、関係教員で検討し共通理解を 得ると共に、教員像や到達目標を明確にすることである。 実施可能な授業群を構想してみよう。答申で求められている授業方法は、役割演技、グ ループ討議、事例研究、現地調査等である。また、教科に関する科目の担当教員と教職に 関する科目の担当教員とが、責任を持って共同で実施し、教職経験者も指導に加わること が重視されている。これらを踏まえて構想した第1群は、幼稚園教員の使命や責任等に関 してグループ討議を行う授業群である。指導教員は、教科に関する科目と教職に関する科 目の担当教員であり、その役割は、グループ討議のテーマを示すことと最後のコメントで ある。司会及びまとめは学生自身が行う。第2群は、学生が教育実習で適切に対応できな かった実践場面を示す授業群である。その場面にどう対応したらよいかを授業のテーマと し、先ず、他の学生が対応の仕方について考え、役割演技によって表現する。続いて、そ の表現について、質疑応答しまとめる。この場合も、司会とまとめは学生が行う。指導教 員は、第1群と同様であり、その役割は、最後の対応方法についての助言ないし指導であ る。第3群は、各学生が得ていない理解・技能を幼稚園現場で調査したり習得したりする 授業群である。指導教員は、事前に大学教員と情報交換と共通理解を図った上で、豊かな 実践経験を有する幼稚園教諭に依頼する。 (岡山大学:高橋敏之・横松友義) - 18 - 岡山短期大学では、平成 15 年度より、「総合演習」(保育士資格必修科目)を1年次前 期に開講している。そのねらいとしては、1年次後期における「教養演習」とリンクさせ、 1年次において「保育者としての自分」像を形成してもらうことである。 授業運営に際しては、「保育者を目指す上での自己課題を明確にする」「自己課題の克 服法について探索を深める際に、コミュニケーション能力や問題解決力を高める」などの 目標を掲げ、さまざまなプログラムを用意した。 特に、ディベートには力を入れ、各クラス(40 名程度)に教員が2人ずつ張り付き、 活発なグループ活動を促すことを意識して取り組んでいる。この実践は、学生の「社会性 や対人関係能力」の向上に寄与していると感じている。 平成 18 年度の「総合演習」は、以下のような授業内容を実施した。 授業説明、自己評価記入/保育所・保育士に関する概要説明/グループ討論「保育所 長への質問」/保育所所長先生講演会/キンダーフェスティバル参加準備/キンダー フェスティバル参加のまとめ/模擬ディベート/保育に関するディベート/保育所見 学/グループ討論「自己課題と今後の学び」/保育所勤務の卒業生を迎えてのパネル ディスカッション/感想文作成、授業アンケート記入 (岡山短期大学:楠本恭之) 川崎医療短期大学医療保育科では、「教職実践演習」の授業開発に向けた試みとして、 チーム・ティーチングによる「保育実習指導」の授業計画の開発と実践を行った。「保育 実習指導」では、幼稚園・保育所の経験者2名、教育学を専攻する教員3名、障害児保育 を専攻する教員1名、社会福祉を専攻する教員2名の計8名の教員が 77 名の学生の指導 にあたった。先ず教員を保育所実習担当(教員4名)と施設実習担当(教員4名)の2つ チームに分け、各々のチームが授業計画を作成した。その後、各々の計画を持ち寄り共通 部分は8名が合同で指導する授業計画を開発した。 授業計画は、事前指導・実習中の指導・事後指導の3つのパートから構成されている。 事前指導(1 ~ 10 コマ)では、実習への導入として学内において講義や視聴覚学習等を 用いた演習を行う。また、現場の保育者からの講演や実習施設見学を行い、実習に向けた 自己課題の発見をめざす。実習中の指導(11 ~ 19 コマ)では、乳児保育、社会福祉援助 技術などの科目と連携を図りながら各実習先に直結した学習を行う。実習中は、巡回指導 を行い実習指導担当者との連携のもとに指導を行う。事後指導(20 ~ 23 コマ)では、実 習の振り返りや実習課題をまとめ「実習成果発表会」を行う。 このような授業計画にもとづき実践を行った結果、①様々な専門領域の教員がチームと して指導にあたることによって、各教員が実習指導において自己の専門領域が果すべき役 割や、普段の講義と実習との関連性を自覚すること、②学内での講義と学外での実習を橋 渡しするうえで、現場保育者からの講演や保育施設の見学など保育現場の生の声を聴くこ とが必要であることなどが有効であることが明らかになった。 (川崎医療短期大学:中原朋生) - 19 - 順正短期大学では、教育実践演習の授業開発として、以下の2点を重要と考えた。 第1に、乳幼児期に人とかかわる力の基礎が形成されることを理解すると共に、保育者 としてどのようなかかわりや援助が求められるかを探る。第2に、学生自身が聞く力や他 者への共感や受容の大切さを体験的に学び、その体験を基に人的環境としての保育者の役 割について考える。 実践目的としては、以下の3点を挙げた。①体験を通して学ぶ。(友達と一緒に体験す る。自分の体験してきたことを思い出す。)②地域(高梁)の自然と文化と人に触れる。③ 人が人として育つために大切なことについて考える。 実践例としては、サツマイモの栽培から焼 き芋行事の実践まで、短大の敷地内で行った (写真)。高梁は大変自然に恵まれた環境にあ るため、都市部の出身学生も楽しんで参加で きる。また地域の観光名所でもある備中松山 城に徒歩で登山することも行っている。日本 一の山城であり、体力的に厳しい活動である が、学生全員が助け合って登頂できた。 これらの実践を通じて学生達は、保育現場 での共同の重要性を再認識することができた。 (順正短期大学:藤井伊津子) 今後の連携協力大学による「教職実践演習」の授業開発に関しては、以下のようなこと が課題として挙げられる。 「教職実践演習」の具体的な取組は、中教審答申に沿うものであるべきだろう。具体的 な手だてとしては、既存の授業内容で「教職実践演習」に応用できるものを挙げ、その成 果を蓄積していく方法が妥当である。それらを踏まえて、いかに展開していくかについて は、2つの方向が考えられる。1つは、中教審答申にある「四つの事項」のそれぞれにつ いて各大学の授業実践を示す方法で、もう1つは、各大学の授業実践を集約し、連携協力 大学でモデル授業を開発する方法である。 先ずは、「四つの事項」に基づいて推進するのが、適切だろう。「教職実践演習」を担 当する連携協力大学は4大学あり、例えば、概論及び「使命感や責任感等」を岡山大学、 「社会性・対人関係能力」を岡山短期大学、「幼児理解・学級経営等」を順正短期大学、 「保育内容等の指導力」を川崎医療短期大学とするような分担も可能であるので、検討し てみる価値はあるだろう。 上記のような構想を意識して、各大学でシラバスの作成とモデル授業実践を試行すれば、 連携協力大学間で一体感のある「教職実践演習」となるだろう。さらに、各大学で試行さ れた授業実践について工夫した点や学生の反応など質疑応答し、それを教材研究につなげ ることができれば、「教職実践演習」を進化・発展させることができる。 当面は、各連携協力大学で「教職実践演習」を含む卒業要件単位の再編成、実務家教員 を含む授業担当者の選定とシラバスの作成等から着手するとよいだろう。 (岡山短期大学:楠本恭之,岡山大学:高橋敏之) - 20 -
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