Title 酵母Saccharomyces cerevisiaeにおける圧力感受性機構の解明 ( 内容と審査の要旨(Summary) ) Author(s) 野村, 一樹 Report No.(Doctoral Degree) 博士(農学) 甲第645号 Issue Date 2015-03-31 Type 博士論文 Version none URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/51019 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 [14] 氏 名(本(国)籍) 野村 一樹 (新潟県) 学 位 の 種 類 博士(農学) 学 位 記 番 号 農博甲第645号 学 位 授 与 年 月 日 平成27年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第3条第1項該当 研 究 科 及 び 専 攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻 研究指導を受けた大学 岐阜大学 学 位 論 文 題 目 酵母 Saccharomyces cerevisiae における圧力感受性 機構の解明 審 査 委 員 会 論 文 主査 岐阜大学 教 授 鈴 木 徹 副査 岐阜大学 教 授 岩 橋 均 副査 静岡大学 教 授 小 の 内 容 の 要 川 直 人 旨 高圧は、微生物の不活性化を引き起こす物理的ストレスであり、食品加工への高圧利用が 提唱されている。しかし、処理圧力の上昇は高圧装置コストの上昇に比例しており、高圧の 普及が妨げられている。そこで、申請者はより低い中高圧を用いて発酵を制御する(Pressure Regulated Fermentation: PReF)技術の確立を提案している。 本研究では、酵母 Saccharomyces cerevisiae KA31a 株および紫外線照射法により取得し た圧力感受性変異株 a924E1 株を用いて圧力感受性機構を解析した。 遺伝子発現量の変化を DNA マイクロアレイ法により解析した。a924E1 株は、“Energy”機 能に関連するタンパク質をコードする遺伝子および“Mitochondria”に局在するタンパク質を コードする遺伝子の発現が最も有意にアップレギュレート(p < 0.01)し、“Protein synthesis”機 能に関連するタンパク質をコードする遺伝子が有意にダウンレギュレート(p < 0.05)していた。 これらの遺伝子の発現は RT-PCR 法により確認した。これらの結果は、圧力感受性変異によ りミトコンドリア機能に影響が生じ、タンパク質代謝機能が低下していることを示唆している。し かし、a924E1 株において、アップレギュレートした COX1 遺伝子の発現が例外的に確認でき なかった。COX1 遺伝子のプローブの相同性および COX1 遺伝子の他領域を対象とした発 現の再解析により、見かけ上のアップレギュレーションはクロスハイブリダイゼーションであるこ とが示された。 ミトコンドリア機能を TTC 染色法により評価したところ、a924E1 株の呼吸機能の低下が示さ れた。ミトコンドリア DNA を PCR 法により解析した結果、COX1 遺伝子領域の欠失が明らかと なった。a924E1 株と野生型株の二倍体株を作出したところ、COX1 遺伝子欠失は呼吸欠損ミ トコンドリアと共に細胞質遺伝した。COX1 遺伝子欠失ミトコンドリアを持つ二倍体株は、野生 型二倍体株よりも有意に高い圧力感受性能を示したことから、COX1 遺伝子の欠失が圧力感 受性に強く関連することが示唆された。 メタボロミクスにより代謝物を解析したところ、a924E1 株において、TCA サイクルやアルギ ニン生合成に関連する化合物の相対的な減少が示された。DNA マイクロアレイの結果からも これらの化合物の代謝に関連する酵素をコードする遺伝子の発現がダウンレギュレートして いることが示されている。これらの遺伝子発現の低下を RT-PCR 法により確認した。アルギニ ンを添加して培養した結果、未添加と比較して a924E1 株の圧力耐性の向上が認められたこ とから圧力耐性へのアルギニンの寄与が示唆された。 本研究において、a924E1 株の COX1 遺伝子の欠失による呼吸機能の低下が圧力感受性 に強く関連することが示された。また、それによるアルギニンの欠乏が、圧力感受性能を付与 した一因であることが明らかとなった。これらの発見は、COX1 遺伝子欠失ミトコンドリアの供 与により、容易に圧力感受性能を付与できることを示唆し、PReF 技術確立のための足掛かり となることが期待できる。 なお、これらの成果は、「Journal of Food Science」 「High Pressure Research」に公表した。 審 査 結 果 の 要 旨 高圧は、微生物の不活性化を引き起こす物理的ストレスであり、食品加工への高圧利 用が提唱されている。しかし、処理圧力の上昇は高圧装置コストの上昇に比例しており、 申請者は、より低い中高圧条件において発酵を制御する(Pressure Regulated Fermentation: PReF)技術の確立を提案している。このため、本論文では、圧力感受性 機構を解明する事を目的に、酵母 Saccharomyces cerevisiae 圧力感受性変異株を用い て、①圧力感受性変異導入による遺伝子発現レベルの網羅的解析、②ミトコンドリア機 能解析による圧力感受性変異遺伝子の特定、③メタボロミクスによる圧力感受性機構の 解析、の 3 項目に着目して解析している。 ① 圧力感受性変異導入による遺伝子発現レベルの網羅的解析 a924E1 株において、“Energy”機能に関連するタンパク質をコードする遺伝子および “Mitochondria”に局在するタンパク質をコードする遺伝子の発現が最も有意にアップ レギュレート(p < 0.01)した。“Protein synthesis”機能に関連するタンパク質をコード する遺伝子は有意にダウンレギュレートした(p < 0.01)。これらの遺伝子の発現を RT-PCR 法により確認した。これらの結果から圧力感受性変異導入によりミトコンドリ ア機能に影響が生じ、タンパク質の代謝機能が低下していることを示唆した。また、ア ップレギュレートしたがその発現を確認できなかった遺伝子において、プローブの相同 性および他領域を対象とした遺伝子発現の再解析から、見かけ上のアップレギュレーシ ョンがクロスハイブリダイゼーションであることを示した。 ② ミトコンドリア機能解析圧力感受性変異遺伝子の特定 ミトコンドリア機能を評価し、a924E1 株の呼吸機能の低下を示した。ミトコンドリア DNA を PCR 法により解析し、COX1 遺伝子領域の欠失が明らかとした。また、a924E1 株と野生型株 から二倍体株を作出し、COX1 遺伝子欠失が細胞質遺伝すること、COX1 遺伝子欠失ミトコン ドリアを持つ二倍体株が野生型二倍体株よりも有意に高い圧力感受性能を持つことを示し、 COX1 遺伝子の欠失が圧力感受性に強く関連することが示唆した。 ③ メタボロミクスによる圧力感受性機構の解析 a924E1 株において、アルギニン生合成に関連する化合物の相対的な減少が示した。また、 RT-PCR 法により、これらの化合物の代謝に関連する酵素をコードする遺伝子の発現がダウン レギュレートしていることを確認した。アルギニンを添加して培養した場合、未添加と比較して a924E1 株の圧力耐性が向上し、圧力耐性へのアルギニンの寄与を示唆した。 これらの結果から、申請者は、a924E1 株の COX1 遺伝子の欠失による呼吸機能の低下 が圧力感受性の獲得に強く関連することを明らかとした。この成果は、COX1 遺伝子欠 失ミトコンドリアの供与により、容易に圧力感受性能を付与できることを示唆し、PReF 技術確立のための足掛かりとなることが期待できる。また、アルギニンが圧力耐性へ寄 与することを初めて明らかとした。研究内容と関連する項目に関する知識等も十分である と判断できたことから、本学研究科の学位論文として相応しい内容と判断した。 尚、この研究に関しては、以下の 2 つの学術論文が受理されている。 基礎となる学術論文 1. Nomura K., Iwahashi H., Iguchi A., Shigematsu T. Barosensitivity in Saccharomyces cerevisiae is closely associated with a deletion of the COX1 gene. Journal of Food Science (in press). 2. Nomura K., Iwahashi H., Iguchi A., Shigematsu T. Depletion of arginine in yeast cells decreases the resistance to hydrostatic pressure. High Pressure Research (in press).
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