家庭科・公民科の教科間連携による法教育の提案

法と教育学会
第 6 回学術大会
第 5 分科会-⑤
家庭科・公民科の教科間連携による法教育の提案
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子どもの権利条約と意見表明権に注目して
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小牧美江(大阪司法書士会)
本報告は、第5回学術大会での自由研究発表「家庭科・公民科の教科間連携による法教育の提
案-法教育としての消費者教育を例として-」の続報である。
1.前報の成果
報告者は、法教育によって養成すべき基礎的な法的リテラシーとして、法的なものの考え方だ
けでなく、法の諸原則等の諸知識に照らして何かおかしいと感じたときに、調べたり、相談した
り、法律を活用したり、法創造に参加したりといった「法的な疑問・被害を感じたときに動ける
力」が必要だと考えている。そこで、この「動ける力」の最も初歩的な行動である「相談する力」
を身に付けることを全ての生徒に基礎学力として保障するために、各学校の必履修教科において
実践できる法教育の授業を、学校関係者と共に考え、開発することを目指している。
具体的には、高等学校の各学科必履修の共通教科のうち「家族・家庭と社会とのかかわりを理
解させる」目標を持つ家庭科と「現代社会について主体的に考察させ、理解を深めさせる」目標
を持つ公民科の学習を、法教育としての観点から連携させる授業の提案を検討している。例えば、
(1)男女平等・家族法・子ども、高齢者(家庭科)と基本的人権・国際人権(公民科)、(2)福祉・
生涯設計(家庭科)と労働法・社会保障(公民科)、(3)契約・消費(家庭科)と経済・消費者保
護(公民科)の各領域等で、連携授業の検討ができそうである。前報では、上記のうち(3)の領域
から、「契約」をテーマとした「法教育としての消費者教育」の連携授業例を紹介した。高校教
員に授業方法を提案し、共に授業案(家庭総合5校時、現代社会2校時)を開発して実施した事
例で、このような教科間連携による法教育としての授業に一定の効果があることも確認した。
2.本報の報告要旨
本報では、上記(1)の領域から、「子どもの権利条約」をテーマとした連携授業の提案を試みる。
家庭基礎、家庭総合の教科書では「子どもの権利と福祉」等の項目で、現代社会の教科書では
「基本的人権(人権のひろがり)」「国際的な人権保障」等の項目で、それぞれ「子どもの権利
条約」を取り上げている。ただし、実際の授業では、両教科(各科目)とも当該テーマに1校時
(またはその一部分)程度しかあてられていないのが現状のようである。
しかしながら、同条約が保障する子どもの権利、とりわけ「その子どもに影響を与えるすべて
の事柄について自由に自己の見解を表明する権利」
(12 条:意見表明権)を行使できるよう、子
ども(18 歳未満)である生徒の発達を保障する観点からも、このテーマに法教育として取り組む
ことは重要である。これを権利主体者である生徒の立場から換言すると、
「自分には子どもとして
の権利がある。法的な権利行使をし、法を活用して政治参加していける 18 歳へと成長、発達する
権利がある。だから、法教育を受ける権利を保障せよ。」ということでもある。家庭科と公民科の
教科間連携によって同条約を法教育として学ぶことを通じて、身近な日常生活や体験に根ざした
自身の子どもとしての権利を知り、人権の視点から、また同条約の国内実施状況から「法的な疑
問・被害を感じたときに動ける力」を実践的に身に付け、権利の主体者として意見表明権を行使
できるような授業を作っていくことが求められているのではないだろうか。