女性の創業を後押し、「WISやまぐち」が本格始動

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女性の創業を後押し、
「WISやまぐち」が本格始動
山口県では、人口流出が激しい。男性だけで
● 資金提供とインキュベーション
なく女性も大きく流出しているから、県内に女
WISやまぐちの主な事業は、女性創業者に
性の働く場を創出することが重要だ。
対する資金提供と経営支援だ。
女性が県内に留まって働くについては、自ら
まず資金提供は、業務委託の形でおこなう。
が創業するという手もある。しかし女性の場合、
つまり、採択した事業計画に対して、WISや
一旦家庭に入ったあとでの創業になると、信用
まぐちが委託契約して必要経費(ほぼ、売上原
やキャリア(ノウハウ・ネットワーク)が不足
価と販管費に相当)を事業費として提供する。
しがちだ。そこで4月、山口県に女性の創業(第
そして売上は、事業者がWISやまぐちに納め
二創業を含む)を支援する会社が設立された。
る。事業が黒字であれば、必要経費よりも売上
高の方が多いから、資金提供した以上にWIS
●女性創業応援会社の設立
やまぐちにお金が戻ってくる。つまり、WIS
その会社の社名は「女性創業応援やまぐち株
やまぐちとしても、会社の運営が十分に回って
式会社」
。愛称は「WIS(ウイズ)やまぐち」
。
いくことになる。
資本金1億円で、山口県が5千万円出資し、残
ただし、採択した事業が皆、初年度から黒字
り5千万円は、山口銀行を中心とした民間企業
になるとは限らない。WISやまぐちに入る売
が共同出資した。県と民間とでこのような会社
上金が提供した必要経費分を下回ることも当然
を設立したケースは、全国で初めてだ。
ありうる。しかし、そういったケースが発生し
WISやまぐちは5月、広く女性から創業ビ
ても、事業者に差額を求めることはしない(W
ジネスプランを公募し、7月に今年度の支援対
ISやまぐちの持ち出しとなる)。
象として6件のビジネスプランを採択した(応
その意味でも、WISやまぐちとしては、黒
募は14件)
。採択事業の業態は、
カフェ、鍼灸院、美容院、物産販
売、セミナー講師などで、多くが、
地域問題解決型(ソーシャルビジ
ネス)の意味合いを持ち、旧来の
業態に他の要素を組み合わせた斬
新なビジネスモデルとなっている。
この結果、今年度の採択先への資
金提供金額(資金提供については
後述)は、合計4,800万円(資本金
の約半分)となった。
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やまぐち経済月報2015.9
字が出るよう経営指導していかねばならない。
WISやまぐちによるこのような支援は、原
またそもそも、
(資金も提供しながら)独り立
則1年間。来年度はまた新たな創業ビジネスプ
ちできるように事業者を育てていく(経営支援
ランを採択して、同様の支援をしていく。
する)のがWISやまぐちの本来の目的でもあ
る。同社社長の杉山敏美氏(東京でIT系企業
●関連施策との連動
も経営している)をはじめとする経営陣が、自
山口県では昨年度から、女性に創業を促す
身のネットワークも活用しながら情報発信や販
「女性創業セミナー WITTY(ウイッティ)」
路開拓、経営ノウハウの伝授など、強力にサ
が開かれている(今年度委託事業者6名のう
ポートしていく。これを女性創業者の側からみ
ち2名は、昨年度のWITTY修了者だった)。
れば、たしかに売上は全額納付しなければなら
また東京でも今年度から、山口県で創業するこ
ないものの、必要経費(本人や従業員の人件費
とを想定したUJIターン創業セミナー「おい
を含む)を提供してもらえる上に、独り立ちに
しい創業やまぐち」が開催されている(ここか
向けてのコンサルティングも無料で受けられる
ら県内創業に結びつけば、新たな女性の人口流
仕組み、とみることもできるわけだ。
入が実現することになる)。県内各地の商工会
なお、逆に当初の事業計画以上に売上があっ
議所等も創業支援事業に取り組んでおり、創業
た場合は、その計画を超えた売上部分は事業者
支援コーディネータを配置して、創業計画段階
とWISやまぐちが折半することになっており、
を含む一貫支援をしている。開業時の資金調達
計画以上に売上を伸ばす(頑張る)モチベーシ
面では、山口県には低利の協調融資制度等があ
ョンは配慮されている。
るし、クラウドファンディング(CF)で資金
7月に採択された今年度事業は、8∼9月に
調達することもできる(4月、山口銀行などが
かけて続々と開業が始まったところであり、創
CFを運営する「山口ソーシャルファイナンス
業支援がいよいよ本格化してきたところだ。
株式会社」を設立)。
このように、創業にあたっては、セミナーか
ら融資制度等まで、一連の支援の仕組みがある。
この中でWISやまぐちによる支援は、セミナ
ー等を受けても、創業時に資金調達力や経営ノ
ウハウ面でまだ不安のある女性創業者を支援し
て、1年後には融資やCF等の対象となるよう
な独り立ちした状態にしていこうという位置づ
けのものである。
女性の夢を形にできる体制、夢だけでは終わ
らない仕組みが、山口県ではきめ細かく工夫
されている。県も、「創業するなら山口県」と、
WISやまぐちに採択され、7月に開業したカフェ
「KOTI」(山口市徳地町)
スローガンを掲げているところである。
(宗近 孝憲)
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