市民エネルギー企業が地域の再生可能エネルギーの普及に及ぼす影響

市民エネルギー企業が地域の再生可能エネルギーの普及に及ぼす影響に関する研究
~ドイツ・フライブルク市の事例~
BR11034 笹本拓海
指導教員 中口毅博
1. 研究の背景・目的
再生可能エネルギーはドイツの国内電力におい
て最も重要な電力源となっている。ドイツでは市
民エネルギー企業の活動が活発であり、地域の再
生可能エネルギーの普及に大きな影響を持ってい
ると考えられるが、これまでに市民エネルギー企
業と再生可能エネルギーの普及に関しての研究は
少ない。そこで、本研究ではフライブルク市を事
例として取り上げ、ドイツの市民エネルギー企業
が地域の再生可能エネルギーの普及に関してど
のような役割、影響を持つのかを分析し、明らか
にすることを目的とする。
ム)と、行政が出資しているエネルギー公社であ
る badenova(以下バーデノーヴァ)が手がけたも
のである。バーデノーヴァはエコシュトロームの
プロジェクトに大きく関わっている。
エコシュトロームは、太陽光発電と風力発電を
中心としたプロジェクトを行っており、再生可能
エネルギーとは市民の手によってつくられるべき
であるという理念を抱いており、市民からの出資
を募り設備をつくっている。
2. 研究の方法
研究の方法は図 1 のようになる。
図 2 フライブルク市の再生可能エネルギー供給割合と各供給量
図 1 研究の方法
3. ドイツの再生可能エネルギーに関する現状
再生可能エネルギーの時代へ目ざすドイツでは
発電に占める再生可能エネルギーの割合が着実に
増加し、2013 年には 23%を超えた。これに対し
て原子力の割合は 15%あまりにまでに低下した。
さらに 2014 年には 25.8%に達し、各種エネルギ
ー源の中で重要な電力源となった。
4. フライブルク市の取り組み
フライブルク市の再生可能エネルギーの供給割
合とエネルギー源別の供給量を図 2 に示す。2013
年度の供給量は 6.4%となっている。これはドイツ
のバーデンヴュルデンベルク州の中では 3 番目に
高い数値である。
図 3 では、フライブルク市内にある再生可能エ
ネルギー発電設備の代表的な事例を示したもので
ある。ここで挙げた設備はいずれも主にフライブ
ル ク 市 で 活 動 す る市 民 エ ネ ルギ ー 企 業 で ある
Ökostromgruppe Freiburg(以下エコシュトロー
図3
フライブルク市内の発電所の事例
この 2 つの企業が関わっている市民出資により
つくられた設備を挙げる。1994 年につくられたサ
ッカースタジアムの屋上の太陽光パネル(図 3 の
D)は市や電力会社の助成もあり、出資者の負担は
5000 ユーロほどであった。風力発電は市内に 6 基
あり、500 人ほどの市民による 400 万ユーロの出
資と 800 万ユーロの銀行借入で 2003 年に建設さ
れた。これ以外にもフライブルク市内にはいくつ
かの市民出資による発電設備があり、これらの設
備にはエコシュトロームのような企業が深く関わ
っていることがわかった。このように、市民出資
による再生可能エネルギー設備があることで、出
資者への配当がその地域で循環して地域経済の活
性化や環境意識の向上が期待できる。
これらの事例を踏まえ、エコシュトロームとバ
ーデノーヴァが手がける設備の種類、規模、年間
発電量を表したダイアグラムが図 4 である。
エコシュトローム
再生可能エネルギー
の発電量
※数値は設備数
バーデノーヴァ
水力
太陽光
140
風力
7
29
太陽光
3084
風力
13
水力
38
バイオ
ガス
12
規模別の設備数
※設備容量0.5MW未満:小型
0.5MW以上1MW未満:中型
1MW以上:大型
年間発電量(MWh)
※2013年度
大
中
小
大
中
80,000
小
521,100
※再生可能エネルギーの種類に関しては、種類ごとに円の大きさ
でどのエネルギー源に力を入れているかを表している。
※設備の規模は、大型、中型、小型の発電設備のうちどの規模のも
のを主要としているのかを円の大きさで表している。
図 4 エコシュトロームとバーデノーヴァの特徴
5. 市民団体の活動事例からの影響分析
フライブルク市において、市民エネルギー企業
であるエコシュトロームに実際にヒアリングを行
った。ヒアリングからわかったエコシュトローム
の市民出資による事業の流れを図としてまとめた
ものが図 5 である。
また、市民団体や発電設備などについての文献
調査やエコシュトロームのヒアリング結果をもと
に、市民エネルギー企業が再生可能エネルギー普
及に及ぼす影響の全体像をまとめたものが図 6 で
ある。市民出資による再生可能エネルギー設備は
市民の環境意識を向上させ、さらにその設備から
の売電による利益は市民の手に渡る。その利益が
地域内で循環することにつながると考えられる。
図 5 エコシュトロームの出資型事業の仕組み
表 1 は図 6 の各要素の事例である。
6. まとめ
市民エネルギー企業が関わった再生可能エネル
ギー設備の事例やヒアリングの分析の結果から、
フライブルク市の代表的な再生可能エネルギー設
備は市民出資により作られており、それらが市の
エネルギー政策の推進において重要な存在となっ
ていることがわかった。また、市民出資は単純に
市民の環境意識が高いために行われているわけで
はなく、その地域へと配当が還ってくるので経済
効果があると考えられる。
本研究では、フライブルク市のすべての発電所
を把握することはできなかった。市民出資による
発電所がどの程度存在するのか把握するため、今
後更なる調査が必要になると思われる。
表 1 影響図の各要素の事例
参考資料
図 6 市民エネルギー企業の
再生可能エネルギー普及に及ぼす影響
1)フライブルク市 統計データ 2014(http://www.freiburg.de/pb/,Lde/205243.html)
2015 年 1 月 23 日閲覧
2)badenova(2014)再生可能エネルギー設備一覧
(https://www.badenova.de/web/de/privatundgeschaeftskunden/index.jsp)
2015 年 1 月 23 日閲覧