アミノ酸とタンパク質代謝 Text p.71-p.76 生化学講義 20151021 同化作用 anabolism 生合成 異化作用 catabolism 分解 タンパク質の代謝概観 食事で得るタンパク質よ りも新たに合成されるタ ンパク質が断然多い a-アミノ基と 炭素骨格は別々 に代謝 体タンパク質の代謝回転 体の中のほとんどのタンパク質は常に合成される一方で分解されている.これに より,異常なタンパク質や不要なタンパク質は除去されている.多くのタンパク 質は生合成の制御が細胞内の濃度を決定しており,分解制御の役割は小さい.但 し一部のタンパク質では生合成の速度は比較的一定で,その濃度が選択的分解に より調節されているものもある.健康な成人では体を構成するタンパク質の総量 は一定である.タンパク質合成速度が,分解されたタンパク質を補うのに十分で あるように調節されているからである.この過程をタンパク質の代謝回転protein turnoverと呼び,毎日300~400 gのタンパク質の加水分解と再 合成から成り立っている. タンパク質の代謝回転速度は個々のタンパク質により大きく異なる. 短命のタンパク質:調節タンパク質やミスフォールドタンパク質など. 長命のタンパク質:細胞内の大多数のタンパク質.コラーゲンなどの構造タンパ ク質は代謝的に安定で,月,年単位の半減期. 傷害を受けたタンパク質や不要なタンパク質を分解するための二つの酵素系あり. オートファージ-リソソーム:細胞外タンパク質,膜タンパク質および寿 命の長い細胞内タンパク質をATP非依存性に分解する. ユビキチン‐プロテアソーム機構:折りたたみが異常,あるいは誤った タンパク質,および半減期の短いその他のタンパク質の分解は細胞内で起こり, ユビキチンとATPを必要とする.アミノ酸に分解する. タンパク質の消化吸収 胃 胃底腺 幽門前庭部粘膜G細胞 ガストリン(ホルモン):胃酸分泌促進 塩酸(pH 1.5):タンパク質の変性,殺菌 胃液 ペプシノーゲン → ペプシン:タンパク質の分解 エンドペプチダーゼ 粘液 胃腺主細胞 (内部) 小腸 十二指腸 S細胞 小腸上皮 小腸上皮 微絨毛膜 セクレチン(ホルモン):炭酸水素イオン分泌刺激,胃のHCl分泌抑制 GIP(ホルモン):インスリン分泌増大 コレシストキニンCCK(ホルモン):胆嚢収縮,膵酵素分泌促進 エンテロペプチダーゼ:膵酵素前駆体の活性化 特異的 炭酸水素イオン(pH 7~8) トリプシノーゲン→トリプシン (C末端から) キモトリプシノーゲン→キモトリプシン 膵液 プロエラスターゼ→エラスターゼ プロカルボキシペプチダーゼ→カルボキシペプチダーゼ アミノペプチダーゼ ジペプチダーゼ エキソペプチダーゼ(端から) エキソペプチダーゼ(端から) プロテアーゼとペプチ ダーゼがタンパク質を アミノ酸に分解する アミノ酸とジペプチドの吸収 遊離アミノ酸はNa+依存性能動輸送 系によって小腸上皮細胞に取込まれる. ジペプチドとトリペプチドはH+依存 性の輸送系により取込まれ,腸管上皮 細胞の細胞質でアミノ酸に分解され, 門脈系へと放出される. ①肝臓で代謝されるか,循環血中に放 出. ②分岐鎖アミノ酸 肝臓で代謝されず,血液に放出.お もに筋肉で代謝される.グルコースーア ラニン経路で糖原性アミノ酸のアラニ ンとなり,糖新生に利用され,エネル ギー源となる. 余剰のアミノ酸は体内に蓄積されることなく, 速やかに分解処理される 一部のアミノ酸は肝でアルブミンに合成され,プールされる 余剰アミノ酸はアミノ基転移反応により炭素骨格部分(α-ケト酸) とアミノ基とに分割され,それぞれ別の方法によって処理される a-ケト酸は最終的にエネルギー産生(クエン酸回路のメンバーやア セチルCoAとなる)に使用されるか,糖質,アミノ酸あるいは脂質 の合成に利用される アミノ基は尿素に変換され,体外に排出される.一部はほかの aケト酸に渡され,新しいアミノ酸(非必須アミノ酸)の合成に利用 される 陸棲動物 尿素 (NH4)2=O 硬骨魚類 アンモニア NH4OH 鳥類 尿酸 アミノ基の異化①~③ ①アミノ基転移 アミノ基転移反応は,a-アミ ノ基をa-ケト酸(a-グルタル 酸やピルビン酸)に移し,新 しいa-ケト酸とアミノ酸を生 成する 補酵素としてPLP(ピリドキ サールリン酸)が必要 リシン,トレオニン,プロリ ン,グルタミン以外のすべて のアミノ酸は最初にアミノ基 転移反応を行う この反応を触媒する酵素はアミノトランス フェラーゼであり,ピリドキサールリン酸 (PLP)を補酵素とする グルコース‐アラニン回路 図4-17 筋肉において, 解糖 グルコース → タンパク質 → ピルビン酸 アミノ基+炭素骨格 アミノ基はピルビン酸に転移してアラ ニンに変わる. アラニンは血中に放出され,肝臓に取 込まれる. アラニンの炭素骨格(ピルビン酸)が 糖新生でグルコースに再変換され,血 中に放出され,筋肉に取込まれ,利用 され,ピルビン酸を生じる. アラニンは,主要な糖新生アミ ノ酸である.肝臓でのアラニン からの糖新生は他のすべてのア ミノ酸よりもはるかに多い. 分岐アミノ酸は空腹時には,脳のエネルギー源を供給し,食後は主に 筋肉に取込まれ,肝臓に備蓄される. アミノ基転移酵素の例 肝臓や心臓に多く存在 肝臓,心臓に炎症があると血中に遊離(逸脱) 補酵素 aspartate transaminase (AST) (glutamic-oxaloacetic transaminsase, GOT) alanine transaminase (ALT) (glutamic-pyruvic transaminase, GPT) ピリドキサールリン酸は補酵素と して原子団(アミノ基)を受取り, 別の分子に渡す働きをしている ②酸化的脱アミノ アミノ基転移反応によりアミノ基を受け取ったグルタミン酸は肝臓で, グルタミン酸デヒドロゲナーゼによって酸化的脱アミノ反応を受け, アンモニア(NH3)を遊離する.自身は a-ケトグルタル酸に戻る. 遊離したアンモニアは強い毒性があるので,肝臓にある尿素回路により, 無毒で水に溶けやすい尿素に変換されて尿中に排泄される. ③肝臓,筋肉以外の組織アンモニアの輸送 a-アミノ基窒素で はなくアミド窒素 が除去される グルタミンの合成と分解 ほとんどの組織では,アンモニアの肝臓への輸送は, アンモニアとグルタミン酸が結合して グルタミンを 生成し血中を肝臓まで輸送される. グルタミナーゼでグルタミン酸とアンモニアになる. 筋肉の場合は,ピルビン酸にアミノ基が転移して ア ラニンを生成し,血中を肝臓まで輸送され,再びピル ビン酸とアンモニアになる. 肝臓で,糖新生経路によりピルビン酸はグルコースに 変えられ,グルコースは血中に入り筋肉で利用される. (グルコース―アラニン回路) アンモニアの代謝 ④尿素回路は二酸化炭素とアンモニアからの 尿素サイクル グルタミン生成 カルバモイルリン酸の生成反応を起点とし, グルタミン酸生成 直接排泄 4つの中間体を経て,尿素が生成する経路 図4-18 細胞質 ミトコンドリア 最初の2つ(①,②)の 反応はミトコンドリア で起こる. 尿素は肝臓から拡散し, 血中を腎臓まで輸送さ れ,ろ過され,尿中に 排泄. 尿素の一部は血中から 腸に拡散し,細菌ウレ アーゼによりCO2とアン モニアになる.アンモ ニアは一部は便中に, 一部は血中に再吸収さ れる. アスパラギン酸 + NH3 + CO2 + 3 ATP + 2 H2O → 尿素 + フマル酸 + 2 ADP + AMP + 2 Pi + PPi 炭素骨格の異化 アミノ酸の炭素骨格部分(a-ケト酸)の代謝様式 により,糖原性とケト原性アミノ酸に分類される ピルビン酸もしくはTCA回路の中間体(α-ケトグルタル酸,オキサロ酢酸)は糖新 生の原料としてグルコースに変換され得るので,これらを生み出すアミノ酸を糖原 性アミノ酸と呼ぶ.ロイシンとリシン以外のアミノ酸. 糖原性アミノ酸の炭素骨格は,異化により脂質,エネルギー,グルコースになりう る. 6つのアミノ酸(イソロイシン,ロイシン,トリプトファン,リシン,フェニルア ラニン,チロシン)から,アセチルCoAやアセトアセチルCoAが生じ,脂肪酸やケ トン体などの合成材料になり得るので,これらをケト原性アミノ酸という. ケト原性アミノ酸の炭素骨格は,異化により脂質,エネルギーになりうる (チロシン,フェニルアラニン,トリプトファン,イソロイシンはケト原性でもあ り,糖原性でもある.) 糖新生gluconeogenesisとは, 乳酸 ピルビン酸 グリセロール a-ケト酸 から, ケトン体とは, アセト酢酸 アセトン 3-ヒドロキシ酪酸 アミノ酸炭素骨格 の異化により 生成する 両性代謝中間体 クエン酸回路 クエン酸回路 アミノ酸代謝物の相互変換 アミノ酸合成 糖新生 脂肪酸合成 オキサロ酢酸 a‐ケトグルタル酸 ピルビン酸 フマル酸 スクシニルCoA アセチルCoA Asp, Asn Glu, Gln, Pro, Arg, His Ala, Ser, Gly, Cys, Thr, Hyp Phe, Tyr Met, Val, Ile Leu, Ile, Lys, Trp, Phe, Tyr 同化 ①タンパク質の合成 ②非必須アミノ酸は,ほかのアミノ酸や糖質代謝 中間体,クエン酸回路の中間体から合成される 図4-19参照 3-ホスホグリセリン酸 → セリン セリン → グリシン セリン → システイン セリン + ホモシステイン →→ システイン (メチオニン → ホモシステイン) ピルビン酸 → アラニン a-ケトグルタル酸 → グルタミン酸 グルタミン酸 → グルタミン グルタミン酸 → プロリン グルタミン酸 → アルギニン オキサロ酢酸 → アスパラギン酸 アスパラギン酸 → アスパラギン フェニルアラニン → チロシン 緑字は 必須アミノ酸 ③アミノ酸から誘導される主要生体物質 クレアチン 1) アミン カテコールアミン:チロシンから誘導.神経伝達物質 ドーパミン カルニチン ノルアドレナリン (CH3)N+CH2CH(OH)CH2COOH アドレナリン(エピネフリン) ヒスタミン:ヒスチジンから誘導.神経伝達物質.即時型免疫反応.胃酸分泌 セロトニン:トリプトファンから誘導.神経伝達物質 メラトニン:トリプトファンから誘導.神経伝達物質 γ-アミノ酪酸(GABA):グルタミン酸から誘導.抑制性神経伝達物質.小脳等に 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) 9) グルタチオン:Glu-Cys-Gly 生体内に最も豊富なSH化合物 チロキシン (T4), トリヨードチロニン(T3):チロシンから誘導.甲状腺ホルモン ナイアシン(NADH, NADPH):トリプトファンから誘導.補酵素 ポルフィリン:グリシンとスクシニルCoAから誘導.胆汁色素,ヘムタンパク質 クレアチン:アルギニンとグリシンから生成.筋肉などでエネルギー貯蔵物質 カルニチン:トリメチルリジンから誘導.脂肪酸酸化における脂肪酸キャリア- プリン,ピリミジン:グリシン,アスパラギン酸とグルタミンから誘導.塩基 一酸化窒素(NO):アルギニンからNO合成酵素により誘導.血管内皮細胞弛緩 76頁 Support欄,図4-20参照 アミノ酸代謝異常症の例 フェニルケトン尿症(Ⅰ型) フェニルアラニンヒドロキシラーゼ 欠損により起こるアミノ酸代謝の先天性異 常(1万人に1人) フェニルアラニン,フェニルピルビン酸の 蓄積およびチロシンの欠乏 歩行障害,言語障害,痙攣,活動過多,振 戦,小頭症,発育不全などが特徴.未治療 では1歳になるまでに精神発達遅延の徴候を 示し,IQ50以上に達することは稀である. 食事療法により治療可能(生後7~10日 から)フェニルアラニンを最小限に制限 フェニルアラニンを含む人工甘味料のアス パルテームを摂取しないよう指示される 必須アミン酸 逆反応ない フェニル ピルビン酸 フェニル 酢酸 フェニル 乳酸 フェニル アセチルグルタミン アセチルCoA 髙フェニルアラ ニン血症 ジヒドロビオプ テリンレダク ターゼ欠損(Ⅱ 型,Ⅲ型) ジヒドロビオプ テリン生合成欠 損(Ⅳ型,Ⅴ 型) メイプルシロップ尿症 分岐鎖アミノ酸(ロイシン,イソロイシン,バリン)に由来するa-ケト酸の酸 化的脱炭酸反応が傷害される(a-ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体欠損) 18
© Copyright 2024 ExpyDoc