2008 年度 京都女子大学 HP 過去問題集解説 国語(現代文) 出題の

2008 年度
京都女子大学 HP 過去問題集解説
国語(現代文)
出題の概説
2008 年の本学の一般入試は,前回も解説したように,4日程のいずれも,基本的に現代文1題
と,古文1題の合計2題(ただし、B方式の二は現代文と古文の選択)で,問題文の量も設問の
数量もだいたい同じです。
現代文の文字数は 2,800 字前後で,私大の一般並み。内容的については,2007 年以前は小説や
エッセイなど文学的文章もあったのですが,2008 年は比較的最近の学者・研究者の手になる評論
が主流で,テーマ的には今の受験生・若者にもなじみがあるものでした。
古文の出典はそれほど著名でないものの,受験生の読解力を試す好個な内容で,適切な出題。
出典に関する文学史問題が最後に出されており,文法や古文単語力とともに,文学的な知識も問
われています。
今回は,現代文は一般入試前期B方式(1/31 実施)から,古文は一般入試前期A方式(1/29 実
施)から,それぞれ1題を分析し,勉強の対策を考えましょう。問題をいかに読むか,また設問
にいかに答えるかを考えるのにちょうどよい問題です。
現代文
【問題文について】
2008 年度の出典からみると,どの日程も〝現代のテーマ〟ともいうべき重要・喫緊な課題を取
り上げていると前回も書きましたが,今回取り上げる,前期B方式(1/31 実施)一の増田直紀『私
たちはどうつながっているのか―ネットワークの科学を応用する―』も,現代社会の基本軸とな
っている〝情報〟についての話です。しかし,話の基本は,人間どうしの〝信頼〟についてであ
り(これがポイント),異次元の情報のネットワークの意味を強調しています。
現代文は,ただ単に設問を解いて〝能事おわれり(なすべきことは終わった)〟とするだけで
なく,積極的に課題文の意図するところを汲んで,視野を広げましょう,と前回も書きましたが,
今回の文章では,特にそのことが言えます。きちんとした読解力は,どこに注意して読めば培え
るのか,文章のポイントはどこにあるのか,などの観点から見ていきましょう。
【設問および解答方法について】
今回は,本文自体の読み方から考えましょう。これが正しくできれば,設問もおのずから正解
できるというものです。
まず,文末の出典,
『私たちはどうつながっているのか―ネットワークの科学を応用する―』の
タイトルを確認してみましょう。
「私たちはどうつながっているのか」とあります。学校でも会社
でも,この「つながり」が,サブタイトルにもある「ネットワーク」というものです。皆さんは,
どういう友達,知り合いがいますか,同じ趣味ではない人も,通じ合っていますか(つまり,
「ネ
ットワーク」をどれだけ,持っていますか?)
本文はネットワークを持つこと,本文2行目の言葉で言えば「人づきあい」の話が書かれてあ
るのだと,まずわかります。
さて,本文をきちんと読みこなすには,まずキーワードが大事になります。部屋に入るにはキ
ー(鍵)が必要ですね。本文の場合,それは何でしょう。
キーワードというのは,本文で頻繁に用いられています。そしてそれも,要(かなめ)のとこ
ろで用いられています。
実は,本文の冒頭にもう使われているのです。「北海道大学の山岸俊男は,『信頼の解き放ち理
論』をテイショウする」,―この中で選ぶとしたら,キーワードはどれですか。さらに次の文でも,
前文を受けて使われています。「アメリカ人は日本人よりも他人を信頼する,というのだ。」もう
わかりますね。「信頼」が本文のキーワードです。
「信頼」ときいて,皆さんはどういうことを思い浮かべますか。そう,信頼は人間関係にとっ
て,基礎となる大事なこと,ですね。それがわかっていればよろしい。
全部で 13 の形式段落で成りたっていますが,大きく二つの段落(意味段落)に分けられます。
すなわち,1~8段までの前半と9~13 段までの後半です。前半には「信頼」がいかに大事であ
るか,また,人への信頼の持ち方について,日米の比較がなされています。そして後半では,そ
の「信頼」をもとに,いかに人との「ネットワーク」を作るかについて書いてあります。
では前半の要旨から考えていきましょう。日米でどう違うか,5段まで一気に読んでしまいま
しょう。
まず,山岸先生の引用があります。「信頼の解き放ち理論」,つまり「アメリカ人は日本人より
も他人を信頼する」とあります。これは,
「アメリカ人の人づきあいは日本人よりも浅い」という
通念とは逆です(いい文章は,まず社会通念を出して,批判していきます)。
「赤の他人を信頼できるか」という観点から,筆者は尺度をひきます。これによると,アメリ
カ人の方が赤の他人をも信頼する。日本人はというと集団主義で,内輪びいきをする。同じ出身,
同じ会社だと信頼するが,赤の他人は,簡単には信頼しない。
赤の他人を信頼するということは,単なるお人よしではない,初対面の人が信頼に足る人物で
あるかどうかを見定めるという点で,見極める力,知性がある,というわけです。これに対して,
日本人はどうかというと,身近な人を信用するのは,
「信頼」ではなく「安心」があるからだ,と
しています。
さて,ここでいきなり設問にいきます。空欄 X にはどんな語句が入るのでしょう(問四)
。
実はこの設問は,日米の人の接し方の違いの,いわば対比をしているのであって,読解ができ
ているか否かのポイントとなる設問です。
「信頼」をするのはアメリカ人でしたね。それに対して,
日本人はどういう態度でしょう。そう,
「安心」です。でもこれは「身近な人に」対するものだけ
なのです。
次の段に「安心」(内輪びいき)に頼りすぎると,「出会い」と「信頼」の醸成は疎外される,
とあります。
「安心」の心情につかりきると,「信頼」という心の構えはいつまでも培えないとい
うことです。空欄 X に入る言葉は,
「安心」と「信頼」は,まったく正反対にあるもの,すなわ
ちウの「対極」が入ることがわかります。
さて,後半の趣旨ですが,7段に「新しい情報」は「自分と異なった人からもたらされやすい」
とありますね。すると,当然「内輪びいき」で「安心」できる人としか付き合わない人は,
「新し
い情報」には自然と疎遠になることになります。この付き合い方だと,商売でも,高い買い物を
いつまでもせねばならない。価格競争がないからです。
要するに筆者は,これからの情報社会では,こうした「内輪びいき」の社会ではよくない,こ
の「ヘンコウ(偏向)」を,他人を「信頼」することによって「解き放ち」(第1段の「信頼の解
き放ち理論」
),「一般的信頼の成立する社会」を目指さねばならない,と言っているのです。
本文は「一般的信頼の成立する社会」,すなわち「安心」の内輪社会から,「信頼」の開かれた
社会へ,ということを説いているわけです。その「効用」
(問五)や「結果」
(問六),
「教訓」
(問
八)は,それぞれ各設問にあるので,以下は設問を見ていくことで,内容を確認していきましょ
う。
設問は,八問まであって,漢字から,内容設問まで,文章展開に応じた設問構成で,選択肢な
どもよく練られた良問と言えましょう。
問一の漢字の書き。aは「提唱」,bは「過疎」
,eは「被験者」,hは「偏向」,iは「新陳代
謝」が正解です。それぞれ,文章内容を考えて書かせる良問です。h「偏向」は,
「内輪づきあい」
という「偏り」を理解できていれば分かるでしょう。
問二の漢字の読み。cは「いっちょういっせき」,dは「おおざっぱ」
,fは「じょうせい」,g
は「いっ」が正解です。fの「じょうせい(醸成)」の「じょう」は「かも・す(醸す)」と訓読
みします。gの「いっ(逸)」は「逸する」の読みですが,これには〝逃がす・なくす〟の意味が
あります。
問三は,語句の意味をきいてます。
「赤の他人」の「赤」が色彩の「赤」でないことは自明です
ね。当然,その意味になる(あるいはそれに近い)「赤道」「赤熱」「赤面」「赤字」は除外されま
す。それ以外の意味と思われる「赤貧」
「赤裸々」が該当します。したがって,正解はウとオにな
ります。この「赤」は「全くの・明らかな」という意味です。ウは「赤貧洗うがごとし」などと
使われますが,これは「全く貧しくて,洗い流したように持ち物が何もないさま」の意味です。
オの「赤裸々」は「赤裸」(まるっきりの裸。すっぱだか)を強めた語句です。「ありのまま」の
意味ですね。
問四は,語句の挿入で,内容読解に関係します。この設問は先ほど述べたように,本文読解の
ポイントとなるものです。空欄Xの上に「信頼と安心は」とあって,いままで述べてきたこの2
つの語句の〝関係〟をきいています。受験生は,選択肢問題だとそれに振り回されて,
「究極」と
か「無限」
「優位」などを入れて,適当にこれがいい,としたりしますが,これはみすみす誤って
しまうやり方です。正解を得るにはそれなりの根拠があります。きちんと本文を読めている人は,
日米の人への向き合い方の対比だな,とわかるはずです。空欄直後にも「信用という言葉は曖昧
に用いられて,すべて内容が違うのである」「安心には,身近な人なら裏切ることもないだろう」
とあって,日本人の「安心」の実態,いわば「信頼」とは縁のない実態が書かれています。要す
るに両者は「対極」(正反対)の関係にあるわけです。
さて問五~八は読解の設問で(問七は諺をきく,いわば語法の設問ですが),読解力が試されま
す。
問五,②「一般的信頼の成立する社会」の「効用」をきいています。
「効用」は〝ききめ・満足
の度合い〟などの意味がありますが,選択肢の末尾にはすべて,「ことができる」とあるように,
「信頼の社会」になったらできる,メリット(良い点)をきいているわけです。ひとわたり,ア
からオまで選択肢の文を読みます。一見,ほとんど皆,正解のような感じがしますね。実はそこ
が落とし穴で,正解は一つしかないのが入試です。正解以外,みな〝キズ〟,つまり誤りがある
のです。それはあとで触れることにして,この設問の解き方を先に考えましょう。傍線部②「一
般的信頼の成立する社会」のあとに注目。
「一般的信頼がない社会」のことに言及しています。そ
れはどういう社会でしょう。次に「自分と異なるコミュニティとの情報交換がないネットワーク」
とあります。この逆を考えると,正解はアの「縁遠いコミュニティからも新しい情報がもたらさ
れ…」であることがわかります。こういうネットワークがあれば「より多くの価値を手に入れ」
られますね。イは「安心」が不可。これは「信頼」社会の対極にあるものでした。ウもやはり「日
本的な安心」が不適。
「合わせ持つ」のではありません。エは「国際社会の緊密なつながり」とま
では言っていません。オもやはり後半「有用な人材を活用」云々は言及していません。
問六は本文からの抜き出し問題ですが,やはり内容を問うています。③「複数のコミュニティ
に属するよう意識する」ことの「結果」をきいてます。本文の「すると」以下に,その展開があ
ります。
「近道ができ」
「自分とは異次元の情報を得られる」等々。その結果,11 段にあるように,
「いざというときの問題解決能力に差が出る」
(19 字)わけです。これが正解。
問七は諺を入れますが,諺の意味と,本文の内容の両方が分かっていないとできません。正解
はエの「諸刃の剣」(両刃の剣は,相手を切ろうと振り上げると,自分をも傷つける恐れがある)
です。空欄Yの前で,
「良い情報だけでなく,不要な情報,デマ,悪影響なども運んできてしまう」
と,「諸刃」の状況に言及しています。
最後の問八。初めて記述問題が出てきました。④「ネットワークの理論は,もう少し踏みこん
だ教訓を与えてくれる」の「教訓」の内容を具体的に書くのですが,ここでは読解力と記述力が
ともに試されます。
「教訓」の骨子となる文としては,直後の「自分自身は必ずしも近道を持って
いなくてもよい」
「近くに他のコミュニティへ抜け出す近道があれば…多くの人とつながっていら
れる」,そして段落末の「自分は世界と効率的につながっていられる」などが挙げられましょう。
これを 50 字以内にまとめるのです。模範解答例としては,次のようなものが考えられます。
「他
のコミュニティへの近道を持った人とつながりを保っておくと,世界と効率的につながっていら
れる」(という教訓)。(46 字)
【勉強法のアドバイス】
さて,勉強法ですが,現代文は何より読解しないことには始まりません。よく設問から解答の
ヒントを得る,ということを説く本などがありますが,それはあくまでも〝ヒント〟であって,
本文を読解できる力がつかなけば意味がないことは言うまでもありません。
「読解」には,先にも述べたようにキーワードを把握することです。
「ナニヲイッテイルノカ」
というテーマに関係するからです。そして,そのキーワードと対比される言葉(「信頼」に対する
「安心」)も探します。そして,何が問題で,どうすればよいのか,その展開をしっかり追うこと
です(内容を百字要約するのも,よい練習になります)。それから設問に向かいます。本学のよう
に「いい問題」なら,設問が読解を助けるようになっています。
こうした読解力には,〝慣れ〟も必要です。英語が出来る人は何度も英語を読み書きします。
「国語」であっても,読み書きする人は,その力が,やる量や質に応じてついてきます。
設問を解く力も,方法の会得とともに〝慣れ〟が必要です。数学が出来る人は頭がいいから解
法が分かるのだな,と思いがちですが,正しくは,何度もやっているからです。
「ああ,こうした
設問は見たことがある」となれば,解法が身についているので,正解を導けるのです。国語もそ
れと同じです。問五のような選択肢問題,問六のような抜き出し問題,問八のような記述問題,
どれも皆,いま説明したようにやっていけばいいのです。問八などの記述問題では,自分で文を
〝作成〟するのではなく,〝本文の部分を使って書く〟,いわば〝パッチワーク(継ぎはぎ)〟
が一般的方法です。あとは〝慣れ〟ですから,設問をいくつ解いたかが勝負です。
本学のように,一般的でオーソドックス(正統的)な問題構成の場合,過去問題をいくつか解
き,解法・解説をしっかり読んでいけば,読解力,さらに認識力も自然に涵養されていきます。
ただ漢字や語法の知識対策では,過去問題以外に,
「漢字帳」を1冊仕上げることが不可欠でしょ
う。