平成 26年度 京都第一赤十字病院 臨床研修報告会抄録集 平成 27 年 1 月 8 日(木)・9 日(金) 京都第一赤十字病院 多目的ホール 平成26年度 臨床研修報告会プログラム ~ 平成27年1月8日(木)~ 座 長 : 平田 島 学(麻酔科) 孝友(循環器内科) <発表7分、質疑応答3分> (1)頻回の抗菌薬投与にて発症したサイトメガロウイルス腸炎合併メチシリン耐性黄色ブドウ球 菌腸炎の 1 例 発表者 : 宇田 紗也佳 指導医 : 奥山 祐右(消化器内科) (2)心破裂の診断に造影 CT が有効であった 1 例 発表者 : 梶原 真理子 指導医 : 伊藤 大輔(循環器内科) (3)全身倦怠感を主訴に来院し、造影 CT で診断された心臓腫瘍の 1 例 発表者 : 石村 奈々 指導医 : 伊藤 大輔(循環器内科) (4)MRI にて一側大脳半球広範囲の信号変化を認めたシェーグレン関連脳炎の 1 例 発表者 : 中村 拓真 指導医 : 今井 啓輔(脳神経・脳卒中科) (5)注意喚起を要した周産期心筋症の 3 例 発表者 : 喜多 結 指導医 : 平田 学(麻酔科) (6)TUR-IS(TRANS-Urethral Resection In Saline)麻酔管理におけるピットフォール 発表者 : 鳥谷 亮平 指導医 : 平田 学(麻酔科) (7)ヒドロキシエチルデンプン 130000 導入に伴う術中アルブミン使用量の変化 発表者 : 石川 大基 指導医 : 平田 学(麻酔科) (8)子宮体癌を合併した卵巣顆粒膜細胞腫の 1 例 発表者 : 冨本 雅子 指導医 : 大久保 智治(第一産婦人科) (9)保存的治療にて治癒した S 状結腸穿孔による骨盤内膿瘍の 1 例 発表者 : 加藤 千翔 指導医 : 谷口 史洋(肝臓・膵臓外科) 1 ~ 平成27年1月9日(金)~ 座 長 : 尾本 篤志(総合内科) 下村 克己(消化器外科) <発表7分、質疑応答3分> (1)Lenalidomide 休薬後も持続する 5q-症候群の細胞遺伝学的寛解 発表者 : 川路 悠加 指導医 : 兼子 裕人(血液内科) (2)単冠動脈主幹部に stent を留置した 1 例 発表者 : 革島 定幸 指導医 : 白石 淳(循環器内科) (3)総合感冒薬服用後に胸痛、心筋障害を繰り返した若年男性の 1 例 発表者 : 庄司 圭佑 指導医 : 横井 宏和(循環器内科) (4)tacrolimus 投与中に急速に空洞性病変を認め呼吸状態の悪化を呈した 1 例 発表者 : 吉村 彰紘 指導医 : 弓場 達也(呼吸器内科) (5)皮膚形質細胞増多症の 2 例 発表者 : 中川 弘己 指導医 : 永田 誠(皮膚科) (6)脾サルコイドーシスの 1 例 発表者 : 中村 慶 指導医 : 下村 克己(消化器外科) (7)EUS-FNA で術前診断が可能であった膵腺房細胞癌の 1 例 発表者 : 小川 聡一朗 指導医 : 下村 克己(消化器外科) (8)低異型度虫垂粘液性腫瘍の 2 切除例 発表者 : 髙畠 和也 指導医 : 下村 克己(消化器外科) 2 平成27年1月8日(木) (1)頻回の抗菌薬投与にて発症したサイトメガロウイルス腸炎合併メチシリン耐性黄色ブドウ球 菌腸炎の 1 例 発表者 : 宇田 紗也佳 指導医 : 奥山 祐右(消化器内科) 共同演者: 奥山 松村 祐右、陶山 遥介、太田 崇之、三本木 麻衣子、安田 宗司、 晋矢、吉田 寿一郎、寺崎 慶、中野 貴博、川上 巧、 中津川 善和、山田 真也、鈴木 隆裕、世古口 悟、戸祭 直也、 中村 英樹、佐藤 秀樹、木村 浩之、吉田 憲正 症例は 85 歳女性。多系統萎縮症のため長期にわたり間欠的自己導尿を施行しその間、慢性膀胱 炎・腎盂腎炎を繰り返し近医において抗菌剤内服投与を受けていたが、嘔吐・下痢を主訴に救急 外来を受診しイレウスの診断で入院した。入院時より絶食・抗菌剤とプロトンポンプ阻害剤の点 滴投与を継続していたところ 10 回/日以上の頻回水様下痢を認め、血液検査では WBC7230/μl、 CRP3.7mg/dl、Alb1.7g/dl、BUN/Cre 22/1.04 と著明な低 Alb 血症・脱水傾向を呈した。腹部造 影 CT では小腸全域と右側大腸を中心とした腸管壁の肥厚と粘膜・粘膜下層での著明な造影効果 を認めた。便細菌培養よりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のみが検出されたことより MRSA 腸炎と診断し、バンコマイシン内服投与を開始した。入院第 18 病日に施行した直腸・S状 結腸内視鏡にて大腸粘膜は一部正常の血管透見を認めるものの、全体的には発赤・浮腫を呈し、 直腸粘膜には比較的境界明瞭な小潰瘍を認めた。 直腸粘膜生検組織での免疫染色によりサイト メガロウイルス(CMV)感染細胞を確認し、MRSA 腸炎に CMV 腸炎を合併したと最終診断しガンシ クロビルの追加投与を行った。治療開始後、約 1 ヶ月にわたり 10 回/日程度の下痢を認めたが 徐々に臨床症状は改善し、入院第 53 日目の腹部造影 CT にて腸管浮腫の軽減を認め、直腸・S 状 結腸内視鏡にて粘膜浮腫・小潰瘍の改善を認めた。本症例は、入院前の頻回の抗菌薬投与、酸分 泌抑制剤の内服に伴う腸管内での菌交代現象がすすみ、MRSA の定着と腸炎発症を引き起こし、 さらに栄養状態の悪化と高齢による免疫機能低下により CMV の再活性化が起こったものと考えら れた。様々な侵襲的治療後の抗菌剤投与例や高齢・免疫機能低下症例においては、便細菌培養に おいて MRSA を検出する症例も少なくはないが、その中で治療に難渋する MRSA 腸炎症例を経験す ることは稀である。当院における便細菌培養にて MRSA の検出状況を提示し、MRSA 腸炎発症のリ スク因子について検討・考察する。 本演題は、日本消化器病学会近畿支部第 108 回例会(平成 26 年 10 月 4 日)にて発表した。 3 (2)心破裂の診断に造影 CT が有効であった 1 例 発表者 : 梶原 真理子 指導医 : 伊藤 大輔(循環器内科) 共同演者: 伊藤 白石 大輔、柳内 隆、橋本 翔、木村 雅喜、横井 宏和、松井 朗裕、 淳、兵庫 匡幸、島 孝友、沢田 尚久、河野 義雄 症例は 88 歳男性。数日前からの黒色吐物、全身倦怠感を自覚していた。当院受診時に左前下行枝 領域の壁運動低下、高度貧血、うっ血性心不全の状態であった。輸血での貧血改善、循環作動薬、 利尿薬にて全身状態は安定した。心不全の原因精査のため、冠動脈造影検査を行い、#6.90%狭窄 を認めた。同部位に対する経皮的冠動脈形成術施行中に、胸痛症状と心電図変化を認め、意識レ ベル低下、ショックバイタルとなった。心臓超音波検査にて心タンポナーデを認め、心嚢穿刺ド レナージによって速やかに意識レベルとバイタルは改善した。原因検索として造影 CT を施行した ところ、左室からの造影剤漏出を認めており、心破裂による心タンポナーデと診断した。今回、 造影 CT にて診断し得た心破裂の 1 例を経験したので報告する。 本演題は、日本循環器学会近畿地方会にて発表した。 4 (3)全身倦怠感を主訴に来院し,造影 CT で診断された心臓腫瘍の 1 例 発表者 : 石村 奈々 指導医 : 伊藤 大輔(循環器内科) 共同演者: 伊藤 大輔 72 歳女性。1 ヶ月前より労作時息切れを自覚。全身倦怠感、食欲不振を認め受診。腫瘍マーカー (CA19-9、CA125)陽性のため悪性腫瘍の存在が疑われた。胸腹部造影 CT では心臓腫瘍、甲状腺 腫瘤、膵腫瘤など複数の腫瘤性病変を認めた。亜急性の経過であり、全身評価の後に心臓血管外 科で腫瘍摘出術を治療方針とした。心エコー図では左房内に 74×40mm の可動性腫瘤,重症三尖弁 逆流、肺高血圧(TRPG 75mmHg)を認めた。内分泌疾患を除外した上で、入院第 9 病日に左房腫瘍 摘出術・三尖弁輪形成術を施行し、病理検査で粘液腫と診断された。合併腫瘍は甲状腺乳頭癌、 膵嚢胞性腫瘤であることが判明した。今回、CT で存在診断を行い、また心臓腫瘍に甲状腺悪性腫 瘍が合併した 1 例を経験したため報告する。 本演題は第 116 回日本循環器学会近畿地方会(平成 25 年 11 月 30 日)で発表した。 5 (4)MRI にて一側大脳半球広範囲の信号変化を認めたシェーグレン関連脳炎の 1 例 発表者 : 中村 拓真 指導医 : 今井 啓輔(脳神経・脳卒中科) 共同演者: 傳 和眞、今井 上島 康生、尾本 啓輔、濱中 正嗣、山田 丈弘、山﨑 英一、山本 敦史、 篤志、池田 栄人 症例は 24 歳女性。発熱と頭痛のため第 10 病日に他院入院。髄液検査で単核球優位の細胞増多が あり、アシクロビル(ACV)点滴を開始された。第 11 病日に一旦退院後も症状が持続し右上肢異 常感覚も加わり第 21 病日に再入院。治療再開されるも第 22 病日から意識障害が出現し第 25 病日 に当院転院。意識障害、失語、右上下肢異常感覚があり、頭部 MRI T2WI/FLAIR にて左大脳半球広 範囲の高信号域をみとめた。ACV 点滴とステロイドパルス療法にて症状は改善し第 43 病日に退院 した。髄液の HSV、VZV、EBV の PCR は陰性、血清の抗 VGKC 抗体と抗 TPO 抗体は陰性も抗 SS-A 抗 体は陽性であった。唾液腺生検所見と合わせシェーグレン症候群と診断した。なお、胸部 CT で胸 腺腫瘤があり、胸腺摘出術後に MALT リンパ腫と診断された。本例はシェーグレン症候群関連脳炎 が考えられ、MRI にて辺縁系や脳幹ではなく、一側大脳半球広範囲の信号変化を認めたことが特徴 的であった。 本演題は日本神経学会第 101 回近畿地方会にて発表した。 6 (5)注意喚起を要した周産期心筋症の 3 例 発表者 : 喜多 結 指導医 : 平田 学(麻酔科) 共同演者: 平田 学、藤本 佳久 周産期心筋症とは、心疾患の既往のない妊・産婦に拡張型心筋症に類似の心不全を呈するもので、 時に致命的となる。同症 3 例を経験したため報告する。 【症例 1】36 歳、初産婦、心疾患の既往なし。二絨毛膜二羊膜双胎で妊娠 34 週 6 日に入院。妊娠 36 週 0 日に SpO 2 低下、胸水貯留を認め全身麻酔下に緊急帝王切開術施行し挿管下に ICU 入室。左 室駆出率 40%、心筋の拡張を認め周産期心筋症と判断。心不全治療を行い5ヶ月後には左室駆出 率は 59%まで改善した。 【症例 2】31 歳、1 経妊 0 経産、心疾患の既往なし。一絨毛膜二羊膜性双胎、切迫早産で妊娠 26 週 4 日に入院。35 週に SpO 2 低下、胸水貯留を認め硬膜外併用脊髄くも膜下麻酔で緊急帝王切開施 行。術後さらに呼吸状態は悪化し、左室駆出率 30%、びまん性壁運動低下を認め ICU 入室となっ た。利尿薬投与中心の心不全治療を行い、左室駆出率は 56%まで改善、術後 21 日に退院し現在も 経過観察中である。 【症例 3】37 歳、初産婦、心疾患の既往なし。妊娠 29 週 3 日に子宮内胎児発育不全、心室性期外 収縮を認め入院となった。32 週に呼吸困難を伴い心室性期外収縮は増悪。左室駆出率は 60%と保 たれるも左室壁運動低下と拡大を認め、周産期心筋症と診断。36 週 4 日に全身麻酔下に帝王切開 施行。術後経過問題なく、二ヶ月で壁運動は改善した。 【考察】周産期心筋症を疑う場合、術前の綿密な心機能評価と術後の ICU 管理が望ましい。帝王 切開の際はそれぞれの麻酔法の特徴を理解し、症例に合った麻酔法を選択すべきである。 本演題は日本臨床麻酔科学会第 34 回大会にて発表した。 7 (6)TUR-IS(TRANS-Urethral Resection In Saline)麻酔管理におけるピットフォール 発表者 :鳥谷 亮平 指導医 :平田 学(麻酔科) 共同演者:平田 学、喜多 結 【はじめに】近年 Trans-urethral resection of the prostate(TUR-P)時の潅流に生理食塩水を 使用する TUR-IS(in Saline)が開発されたが、これで問題点は解決されたのであろうか。 TURIS の安全性につき検証した。 【対象と方法】2006 年 4 月~2011 年 7 月の D-ソルビトールを用いた TUR-P 群(D 群)33 例と生 理食塩水を用いた TUR-P 群(S 群)23 例につき背景、最低 pH、base excess(BE) 、PCO 2 、ヘモグ ロビン(Hb)、Na 値および最高乳酸値を計測、対応のない T 検定で比較を行った。 【結果】年齢差なし。手術時間(D 群;90.1±29.6 vs S 群;109.0±30.1 分)は S 群が長かった。 pH、BE(D 群;7.390±0.046 vs S 群;7.396±0.042、D 群;-1.55±2.72 vs S 群;-2.09±2.27 mmol/L)には有意差がなく、Na 値(D 群;132.1±8.2 vs S 群;138.1±2.1mmol/L)は D 群が低かっ た。また Hb、PCO 2 、乳酸値(D 群;12.1±1.7 vs S 群;11.4±1.5g/dl、D 群;38.1±5.1mmHg vs S 群;35.3±5.4mmHg、D 群;1.60±0.98 vs S 群;0.73±0.20mmol/L)は S 群が低かった。 【考察】BE に差はなかったが、Hb 値、PCO 2 が S 群で低く、潅流液循環流入による希釈性アシド ーシスと呼吸性代償が S 群で強い可能性がある。乳酸値は D 群で高く、低 Na 血症の関与を考え る。TUR-P 症例は虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患の合併も多く、安全といわれる TUR-IS でも 重篤な問題を生ずる場合があり注意が必要である。 本演題は日本臨床麻酔学会第 33 回大会にて発表した。 8 (7)ヒドロキシエチルデンプン 130000 導入に伴う術中アルブミン使用量の変化 発表者 : 石川 大基 指導医 : 平田 学(麻酔科) 共同演者: 平田 学 従来大量出血を伴う高侵襲手術でよく用いられていたヒドロキシエチルデンプン 70000(HES70) に対し、最近開発されたヒドロキシエチルデンプン 130000(HES130)は有効性、安全性が高く、 副作用が少ないと考えられる。添付文書上も前者の使用上限が 20ml/kg であるのに対し、後者は 50ml/kg と許容使用量に大きく差を認める。厚生労働省のアルブミン製剤使用指針では、すべての 血液製剤について使用適正化の推進が不可欠であるとされ、安全な人工膠質液による代替に期待 がよせられている。当院手術室では、本年 1 月より HES130 を導入した。それに伴い術中アルブミ ン製剤使用量に変化を生じたか否か、また使用に伴う問題点がないかどうかを検証することとな った。 【対象と方法】2014 年 1 月の HES130 を導入前 9 か月間の膵頭十二指切除 15 例(H 群)と導入後 9 か月の 13 例(V 群)につき 5%アルブミン使用量および術後 1 日の血液検査結果を中心に後方視的 に比較した。血液透析例は除外した。 【結果】 H 群(n=15) V 群(n=13) P値 年齢(歳) 72.6±8.4 68.9±9.3 0.16 男性(人) 10 9 0.79 全身麻酔単独管理数(例) 1 3 0.73 622±95 617±139 0.37 出血量(ml) 1418±698 1322±717 0.31 輸液量(ml) 74131±947 6565±1565 0.11 尿量(ml) 1868±1057 6565±1565 0.38 輸血量(ml) 1064±791 713±724 0.12 5%アルブミン製剤使用量(ml) 840±737 365±363 0.02 AST(IU) 133±69 124±76 0.37 ALT(IU) 90±40 108±62 0.37 血清クレアチニン値(mg/dl) 0.73±0.20 0.73±0.17 0.37 血清ヘモグロビン値(g/dl) 10.3±1.0 10.0±1.0 0.18 血清アルブミン値(g/dl) 3.1±0.5 3.0±0.5 0.27 231±53 191±97 0.12 67.0±8.9 61.9±13.4 0.09 手術時間(分) 3 血小板数 ×10 PT% 術中 5%アルブミン製剤使用量以外に有意差を認めなかった。 【結語】HES130 の使用は膵頭十二指切除術中のアルブミン製剤使用量低減に有用であり、術後 1 日 の血清ヘモグロビンおよびアルブミン値、止血凝固能、肝腎機能に対する影響は従来と有意差はない 可能性が高いと考えられた。 本演題は第 4 回周術期医学講演会(平成 26 年 11 月 14 日)にて発表した。 9 (8)子宮体癌を合併した卵巣顆粒膜細胞腫の 1 例 発表者 : 冨本 指導医 : 大久保 智治(第一産婦人科) 共同演者: 冨田 八木 雅子 純子、菅原 拓也、秋山 鹿子、小木曽 望、松本 真理子、 いづみ、東 弥生、大久保 智治 顆粒膜細胞腫は性索・間質系腫瘍に分類され、ホルモン産生性の境界悪性腫瘍とされる。エスト ロゲンを産生し、月経異常・子宮内膜増殖症・子宮内膜癌などを合併することが知られている。 今回、閉経後女性の不正性器出血で、年齢に合致しない腟所見から顆粒膜細胞腫の診断に至った 症例を報告する。症例は 66 歳で、下腹部腫瘤感、不正性器出血で前医より当院紹介初診となっ た。視診では腟粘膜の所見が年齢に比して若い印象を受け、超音波検査で子宮腫大、内膜肥厚の ほかに、子宮体部筋腫、右卵巣に充実部を伴う 15 ㎝大の嚢胞性腫瘤を認めた。ホルモン産生腫 瘍の存在を疑い、エストラジオール値を測定したところ、138pg/ml と高値であった。また子宮 内膜細胞診では classⅢ、組織診では Endometrioid adenocarcinoma,G1 であった。胸腹部 CT 検 査では明らかな転移は認めなかった。PET-CT 検査では卵巣腫瘤充実性部分と一致する部位の集 積と子宮内腔の集積を認めた。本症例では卵巣癌に対する基本術式を採用し、腹式単純子宮全摘 及び両側子宮付属器切除術、大網部分切除術、傍大動脈・骨盤リンパ節郭清を施行した。病理組 織診断は、卵巣腫瘍は Adult granulosa cell tumor であり、stageⅠa,子宮体部 Endometrioid adenocarcinoma,Grade 2、stageⅠa であった。術後エストラジオール値は 15pg/ml と著名な低 下を認めた。本症例では内診所見からホルモン産生腫瘍の可能性を疑い内分泌検査を行うことで 診断に至ることができた。閉経後の不正性器出血で年齢に合致しない内診所見をみたらホルモン 産生腫瘍の可能性を念頭におくことが肝要である。 本演題は京都産婦人科学会平成 26 年度学術集会(平成 26 年 10 月 18 日)にて発表した。 10 (9)保存的治療にて治癒した S 状結腸穿孔による骨盤内膿瘍の 1 例 発表者 : 加藤 千翔 指導医 : 谷口 史洋(肝臓・膵臓外科) 共同演者: 久保 秀正、谷口 史洋 症例は 89 歳女性。心房細動と心不全の既往があった。今回、全身倦怠感、発熱、黒色便を主訴に 来院した。発熱が遷延し入院後 4 日目に CT を再検した所、骨盤内膿瘍と腸管外遊離ガスを認め S 状結腸憩室穿孔が疑われたため当科紹介となった。緊急手術を検討したが、腹膜刺激症状が無く 全身状態が安定していた事、貧血による心不全増悪で両側胸水貯留があり、かつ高齢であるため 手術リスクが高いと判断した事、画像上被包化されていると考えられた事から、CT ガイド下ドレ ナージによる治療を選択した。ドレナージ、抗生剤治療にて膿瘍は縮小し、留置後 19 日目に瘻孔 閉鎖を確認し食事再開となり、26 日目にはドレーン抜去となった。大腸穿孔は原則的に緊急手術 の適応であるが、膿瘍が被包化されることで汎発性腹膜炎に至らず、腹部所見や全身状態によっ ては CT ガイド下ドレナージによる低侵襲治療が有効な治療の選択肢となり得ると考えられたた め報告する。 本演題は第 195 回 近畿外科学会(平成 26 年 5 月 24 日)にて発表した。 11 平成27年1月9日(金) (1)Lenalidomide 休薬後も持続する 5q-症候群の細胞遺伝学的寛解 発表者 : 川路 悠加 指導医 : 兼子 裕人(血液内科) 共同演者: 兼子 裕人、藤野 貴大、桑原 沙絵子、大城 宗生、隄 康彦、岩井 俊樹、 京都府立医科大学 血液・腫瘍内科 谷脇 雅史 【症例】67 歳、男性。 【既往歴】41 歳時、十二指腸潰瘍で胃亜全摘。 【現病歴】ふらつきを主訴に近医受診した際に貧血を指摘され当科紹介。 【理学所見】皮膚・可視粘膜の貧血。 【検査所見】白血球 7460/μl、芽球 0.5%、赤血球 272 万/μl、網状赤血球 38080/μl、Hb 8.6g/dl、 Ht 26.5%、血小板 19.3 万/μl、LDH 190IU/l。骨髄は軽度低形成性で、芽球は 2.4%、M/E 11.77。 核型は 46,XY,del(5)(q?)[12]/46,XY[8]。 【経過】Lenalidomide 10mg 21 日投与・7 日休薬の反復により血液所見の改善を得た。患者事情 から 12 か月で服用を終了。その後、2 年 11 ヶ月経過したが再増悪はみられず、骨髄では 5q-を 20 細胞中 3 細胞にのみ認める。 【考察】一部の 5q-症候群で lenalidomide 長期休薬の可能性が示唆され、対象条件を検討する必 要があると考えられた。 本演題は第 101 回近畿血液学地方会(平成 26 年 6 月 28 日)にて発表した。 12 (2)単冠動脈主幹部に stent を留置した 1 例 発表者 : 革島 定幸 指導医 : 白石 淳(循環器内科) 共同演者: 白石 横井 淳、柳内 隆、橋本 翔、伊藤 大輔、木村 雅喜、松井 朗裕、 宏和、有原 正泰、兵庫 匡幸、島 孝友、沢田 尚久、河野 義雄 74 歳、男性。14 年前に単冠動脈主幹部入口部病変に対して CABG(LITA-LAD、SVG-Dx)施行するも graft failure にて同病変に DCA 施行。今回狭心症再発にて CAG を施行したところ、左バルサル バ洞起始の単冠動脈で、LITA-LAD の flow は保たれるも、LAD 起始部の高度狭窄、LAD 中間部、LCx 近位部の閉塞および LAD 中間部より派生する RCA の末梢病変を認めた。上行、下行大動脈壁の高 度の硬化性変化、術中剥離処置による LITA graft 損傷のリスク等より redo CABG 施行は困難と判 断、IABP サポートなしでの TRI 施行の方針となった。循環動態の破綻に備えて大腿動静脈にシー スを留置の上 IVUS ガイド下に LAD 近位部から単冠動脈主幹部入口部にかけて XIENCE Xp 3.5/12 を留置、合併症なく翌々日に退院となった。主幹部に stent を留置した稀な単冠動脈症例を経験 した。 本演題は第 117 回日本循環器学会地方会(平成 26 年 7 月 12 日)にて発表した。 13 (3)総合感冒薬服用後に胸痛、心筋障害を繰り返した若年男性の 1 例 発表者 : 庄司 圭佑 指導医 : 横井 宏和(循環器内科) 共同演者: 横井 木下 宏和、西川 真理恵、柳内 隆、橋本 翔、伊藤 大輔、木村 雅喜、 英吾、白石 淳、兵庫 匡幸、島 孝友、沢田 尚久、河野 義雄 症例は 12 年前に感冒後の胸痛、心筋障害にて入院歴のある 28 歳男性。感冒にて総合感冒薬内服 2 日後の早朝に胸痛が出現し当院を受診。心電図にてⅡ、Ⅲ、aVF、V3-6 で ST 上昇、心エコーに て心尖部から後側壁の壁運動低下を認めたが、冠動脈造影では有意狭窄を認めなかった。peakCK は 1139U/L で、ニコランジル投与にて胸痛、心電図変化は改善した。第 6 病日のエルゴノビン誘 発試験では冠攣縮は認めなかったが、左冠動脈の造影遅延を認め、臨床経過と併せて冠微小血管 攣縮と診断した。また 12 年前も同様の経過で総合感冒薬を内服していたことが判明し、含有のエ フェドリンが攣縮の誘因となった可能性が示唆された。今回我々は、総合感冒薬服用後に胸痛、 心筋障害を繰り返し、その発症に冠微小血管攣縮の関与が疑われた症例を経験したので、文献的 考察を加えて報告する。 本演題は第 118 回日本循環器学会近畿地方会(平成 26 年 11 月 29 日)にて発表した。 14 (4)tacrolimus 投与中に急速に空洞性病変を認め呼吸状態の悪化を呈した 1 例 発表者 : 吉村 彰紘 指導医 : 弓場 達也(呼吸器内科) 共同演者: 弓場 平岡 達也、栗栖 直子、佐川 友哉、塩津 伸介、内匠 千恵子、 範也、寺崎 慶 、奥山 祐右 【症例】60 歳台、男性。 【主訴】呼吸困難。 【現病歴】2006 年に小腸型クローン病と診断された。ステロイドと複数の生物学的製剤による加 療中だがコントロール不良であった。2014 年 4 月上旬に原疾患の増悪で当院入院しステロイドを 増量し症状改善した。ステロイドの漸減中に再燃したため、5 月下旬にタクロリムスを導入し全身 状態はやや改善していた。 【経過】7 月上旬に発熱があり、呼吸状態の悪化を認め、呼吸器感染症を疑った。タクロリムスを 中止し、セフトリアキソンとフルコナゾールを投与開始したが改善せず当科紹介となった。生物 学的製剤、免疫抑制剤の使用歴および画像所見から肺真菌症を疑った。気管支鏡検査を施行し肺 胞出血と無数の白苔を認めた。抗真菌薬を変更し呼吸状態はやや改善したが、紹介時には認めな かった空洞性病変が 7 月下旬に出現した。8 月上旬に再度、呼吸状態が悪化し各種治療行うも奏 功せず永眠された。急速に進行する空洞性病変を認め、呼吸状態の悪化を呈した肺アスペルギル ス症の 1 例を経験したので報告する。 本演題は第 207 回近畿内科学会(平成 27 年 3 月 7 日)にて発表した。 15 (5)皮膚形質細胞増多症の 2 例 発表者 : 中川 弘己 指導医 : 永田 誠(皮膚科) 共同演者: 大下 彰史、村田 眞理子、貫野 賢、永田 誠 【症例 1】70 歳台、男性。10 年前から全身に自覚症状のない浸潤を触れる褐色斑を認め、次第 に数が増えた。 【症例 2】60 歳台、男性。2 年前から体幹を中心に自覚症状のない浸潤を触れる赤褐色斑を認 め、次第に数が増えた。 2 例とも、病理組織像では、真皮浅層を中心とした血管周囲に成熟した異型のない形質細胞浸潤 を認めた。全身 CT ではリンパ節腫脹など皮膚外病変を認めなかった。以上より皮膚形質細胞増 多症と診断した。また、症例 2 では IL-6 と IgG4 の上昇を認めた。皮膚形質細胞増多症は、一部 に全身性に移行するとの報告例もあり、IL-6 や IgG4 などの値を参考に慎重に経過観察を行う必 要があると考えた。 本演題は第 437 回京滋地方会(平成 26 年 9 月 6 日)にて発表した。 16 (6)脾サルコイドーシスの 1 例 発表者 : 中村 慶 指導医 : 下村 克己(消化器外科) 共同演者: 下村 池田 克己、亀井 武志、松原 大樹、名西 健二、植木 智之、窪田 健、 純、谷口 史洋、塩飽 保博 【症例】60 歳 女性 【既往歴】子宮体癌 【現病歴】子宮体癌術後フォロー中、FDG-PET で脾に中程度の集積と胆石を認めた。造影 CT に て、脾に低吸収域の多発結節性病変を認めた。MRI にて同結節は、T2 強調像で低信号であった。 以上より、サルコイドーシスを疑うも悪性腫瘍が否定できず、診断的治療として、ハンドアシス ト腹腔鏡下脾摘術、胆摘術を施行した。手術時間は 4 時間 5 分、出血量は 150g であった。大き な合併症なく経過し、術後 8 日目に軽快退院となった。 【病理所見】肉眼的には、脾実質内に 20mm 大の黄白色の結節性病変を多数認めた。病理組織学 的には、非乾酪性肉芽腫でランゲルハンス型巨細胞を伴っており、脾サルコイドーシスと診断し た。 【考察】一般に、サルコイドーシスは、肺門リンパ節、肺、皮膚、眼病変で発見されることが多 い。脾単独のサルコイドーシスは稀であり、その 1 例を経験した。 本演題は第 196 回近畿外科学会(平成 26 年 11 月 1 日)にて発表した。 17 (7)EUS-FNA で術前診断が可能であった膵腺房細胞癌の 1 例 発表者 : 小川 聡一朗 指導医 : 下村 克己(消化器外科) 共同演者: 下村 克己 京都府立医科大学 消化器外科 森村 玲、山本 有祐、小西 博貴、 小松 周平、村山 康利、塩崎 敦、栗生 宜明、生駒 久視、窪田 健、 中西 正芳、市川 大輔、藤原 斉、岡本 和真、阪倉 長平、大辻 英吾 【はじめに】膵腺房細胞癌は膵悪性腫瘍の 1%未満といわれる稀な疾患で、画像上多彩な所見を 呈するため術前に診断を得ることが困難である。一方、超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA) は膵腫瘍に関して 90%前後の感度と正診率が報告されている。今回、我々は EUS-FNA によって 術前確定診断を得られた症例を経験したので報告する。 【症例】75 歳の男性。胸腹部 CT で膵頭部に乏血性腫瘤を認め、平成 24 年 9 月に当院へ紹介さ れた。ERCP と同時に行った膵管擦過細胞診では確定診断に至らなかった。そこで、EUS-FNA を 施行したところ、採取した組織は免疫染色で trypsin 陽性であった。腺房細胞への分化があると 判断し膵腺房細胞癌と診断した。平成 24 年 10 月に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術、2 群リンパ 節郭清を施行した。術後の病理組織学的所見でも腺房細胞癌 T3N0M0;stage3(膵癌取扱規約)と の最終診断であった。 本演題は第 193 回近畿外科学会(平成 25 年 6 月 22 日)にて発表した。 18 (8)低異型度虫垂粘液性腫瘍の 2 切除例 発表者 : 髙畠 和也 指導医 : 下村 克己(消化器外科) 共同演者: 下村 克己 【はじめに】原発性虫垂癌は全大腸癌中 0.22%と報告され比較的まれな疾患である。虫垂癌は大 きく粘液産生性腫瘍と腺癌に大別される。低異型度虫垂粘液性腫瘍は粘液産生性腫瘍の一型で異 型度の低い細胞からなる腫瘍である。今回その 2 例を経験した。 【症例 1】66 歳、男性。右下腹部痛を主訴に当院受診された。受診時、右下腹部に圧痛と反跳痛 を認めたので急性虫垂炎が疑われた。造影 CT 検査で上行結腸の背側に膿瘍形成と近傍に腫大し た虫垂を認めたため、穿孔性虫垂炎、後腹膜膿瘍と診断し緊急開腹術を施行した。術中所見では 虫垂は根部付近で穿孔しており、後腹膜に強固に癒着していた。さらにその根部に硬く腫大した 腫瘤を触知し、穿孔部から粘液の流出を認めた。悪性疾患を否定できないため回盲部切除+D2 郭 清を施行した。病理診断は低異型度虫垂粘液性腫瘍であり、明らかなリンパ節転移は認めなかっ た。術後経過良好で術後 11 日目に軽快退院した。 【症例 2】66 歳、男性。早期胃癌の内視鏡的粘膜下層剥離術後のフォロー中であった。食欲不振 を認めたので、原因精査目的に施行した造影 CT 検査で虫垂の壁肥厚と 14mm の虫垂の腫大を認 めた。明らかな周囲のリンパ節腫脹は認めなかった。虫垂の悪性疾患を疑い、PET-CT 検査を施 行したが、虫垂に集積は認めなかった。また、大腸内視鏡検査においても特記すべき異常所見を 認めなかった。虫垂癌を疑い患者にインフォームドコンセントを得たうえで腹腔鏡下虫垂切除術 を施行した。術中所見では回盲部の腸間膜及び後腹膜に多量の粘液を認めた。迅速病理診断にて 虫垂粘液産性腫瘍を疑う所見であったため回盲部切除+D1 郭清を施行した。病理診断は低異型度 虫垂粘液性腫瘍であった。明らかなリンパ節転移は認めなかったがリンパ節周囲の脂肪組織に粘 液塊をみとめた。術後経過良好で 13 日目に軽快退院した。 【考察】低異型度虫垂粘液性腫瘍は浸潤の有無や良悪性の判断はしばしば困難である。粘液を産 生する腫瘍は低悪性度でも腹膜偽粘液腫の原因となりうるため、切除範囲やリンパ節郭清の範囲 を含めた術式や術後の治療戦略の検討が必要と考えられる。 【結語】今回我々の施設において、急性虫垂炎を契機に診断された例と画像検索によって偶然に 診断された例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。 本演題は第 69 回日本消化器外科学会総会(平成 26 年 7 月 17 日)にて発表した。 19
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