第 14 回日本不妊カウンセリング学会 2015.05.29、東京 卵子凍結の背景から考えるカウンセリングの課題 大野雅代、田中敦子、弘瀬美歩、佐々木幸子、竹内巧、京野廣一 2013 年 11 月に日本生殖医学会より「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関するガイド ライン」が掲示された。今まで実施されてきた「医学的適応(がん治療など)」に加えて,加齢 などの要因による健康な独身女性らの「社会的適応」に関しても留意点が示された。それにより 様々な背景を持つ卵子凍結希望者の来院が増加している。そこで現在までに対応した事例を通し て,卵子凍結を希望する女性の背景と治療転帰までの経過を振り返り,今後の卵子凍結のカウン セリングに関する課題を検討した。 結果として未受精卵子凍結に関するガイドラインが定められてまだ期間が浅いため,診療現 場では卵子凍結を希望する女性への心理的サポートのあり方がまだ手探りの状況にある。3 事例 とも加齢により妊孕性が低下するリスクを少なからず理解し焦りや危機感を感じていた。生殖医 療に対する理解度には差があり「自分は不妊とは違う」といった認識も混在する。また社会的背 景である晩婚化により,複雑な人生経験を抱えるケースが少なくない。年齢を重ねることで、自 身もパートナーも病気(がんなど)を抱えるリスクが高まり,生殖に影響を及ぼす。 対象の置かれた身体的,精神的状況を把握するのは初診時の関わりが重要である。複雑な思 いを自らの言葉で表出できるような関係性の構築を心がけたい。治療に入るまでの時間的猶予が ない事例も多いため,治療への迷いや不安を整理し意思決定に繋げるサポートが必要である。話 すことに辛苦を伴うことも考えられるため繰り返す必要がないよう,得られた情報は速やかに医 療スタッフで共有し診療やケアに役立てたい。卵子凍結に至るプロセス及び治療成績等の情報提 供はもちろんのこと,自らのライフプランを顧みて将来の妊娠へ向けた治療までイメージできる ようなカウンセリングが必要と思われる。ガイドラインを読み解き「妊娠・分娩時期の先送りを 推奨しない」理由である,高齢での妊娠・分娩による母児リスクなどを正確に説明できることも 不妊カウンセラーの重要な役割と考える。 パートナーの存在や関係性の前に,将来の妊娠を優先される「子どもが欲しい」感情は女性 の本能的で自然なことと顕在化してきたことを認識したい。かつてパートナー不在での挙児希望 は問題外視されてきたが,パートナーの有無は婚姻関係に関わらない多面的問題を孕むことが示 唆された。日本産科婦人科学会会告でも 2014 年 6 月に「体外受精・胚移植に関する見解」など から「婚姻」の表現が削除され改定された。様々なガイドライン提示により,漸く女性たちはス ティグマから解放され主張を述べる権利を得たのかもしれない。
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