Get together!

Get together!
い
よいよ本特定領域研究も,今年度から計画班員に公募班員を加えて,
本格的な研究フェイズに入りました.今回は,若い研究者の方々も公募
班員として多数採択され,
フレッシュで意欲的な研究の展開が楽しみです.すで
に分野としては広く認知されるようになってきた,
「タンパク質の一生・社会」,あ
るいは
「in vivo タンパク質科学」
ですが,成熟にはまだまだほど遠く,教科書が
書き換えられ,新しいパラダイムや原理の登場が期待される分野です.皆さんの
活躍を期待しています.
前回の巻頭でタンパク質はほとんど奇跡のような分子と言いましたが,タンパ
ク質のもう一つの奇跡は,それが「方向性をもって変わっていくことができる分
子」であることではないでしょうか.すなわち分子進化の能力を備えている
(?)
と
いうことです.タンパク質は<設計図としてのDNA →タンパク質→タンパク質
がつくるシステム→設計図としての・・・>というフィードバックシステムに組み
込まれ,設計図にごくまれに起こる変化(変異)
にシステムレベルの淘汰圧とい
う方向性を与えることによって,自発的にある方向に向かって変化していくこと
ができます.こんな能力を備えた分子は,タンパク質
(と若干のRNA)
以外,地
球上にはあり得ないでしょう.
人工的な分子進化は,たとえばリボソームディスプレイ等の進化工学の手
法として実験室で利用されています.しかしこうした手法は,多くの場合タンパ
ク質自身の性質
(リガンド結合能など)
によって変化の方向づけがなされています
(淘汰圧がかけられる)
.一方実際のタンパク質の分子進化においては,方向
づけすなわち淘汰圧は,タンパク質自身の性質ではなく,そのタンパク質が属す
るより上のレベルのシステム,細胞や個体レベルでの性質(表現型)で行われ
ます.そのことによって,タンパク質の変化はタンパク質自身の機能の変化に
留まらず,上位のシステム全体に「複雑性」
をあたえ,システムそのものの進化
にも貢献してきたことになります.
システムの生き残り,という観点で見れば,個々のタンパク質の些細な変化
の多くは
「中立」になってしまうのでしょうか.私たちはしばしば,細胞内プロセス
のエネルギーコストについて議論しますが,細胞レベルで見れば,生産される
ATPの多くはたとえば細胞内外のイオン濃度差の維持に使われており,タンパ
ク質の高次構造形成や移動や品質管理に必要なATPコストなぞは,進化的
淘汰圧にはあまり寄与できなかったのかもしれません.
さらに生物がいったんレダ
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パク質の分子進化に近いモデルだと言えるでしょう.タンパク
質社会の洗練された見事なシステムがどうやって進化の過程
で獲得されたのか,そんなこともそのうち明らかになってくるかも
しれません.
今回の写真は,タイトルの「Get Together」というありふれ
たフレーズから連想したものです.連想した先は,60 年代末の
「あの頃」
・・.Youngbloodsというサンフランシスコのグルー
プのその名もズバリ
「Get Together」
という曲(YouTubeで検
索すると聴けます)
がヒットし,
「Be-in」
や「Summer of Love」,
「Flower Power」などの言葉が飛び交った時代です.人が
ただ集まるということに,特別の意味が付与される.運動と
結びついた身ぶりが文化を先導し,しかしそれゆえに身ぶりが
資本に絡めとられることにより,あっという間にその力を失った
カウンターカルチャー
対抗文化が席巻した時代のことです, .実は単なるノスタルジ
「Flower Power」By Bernie Boston - The Washington Evening Star,
1967.10.21 米ペンタゴン
アを越えて,当時の「サイケデリア」
(ドラッグ等にインスパイア
された意識・芸術革命)
を密かに再評価している今日この頃の
私であったりします.
ンダントな,あるいはフェールセイフな仕組みを作ってしまうと,
シ
ステムはロバストになり,さらに多くの変化がシステムに影響を
与えない,すなわち中立になっていくでしょう
(逆にシステム内の
要素間の相互作用ネットワークが複雑になり過ぎると,
あるタン
パク質の変化がとんでもなく離れたプロセスに影響を与えてし
まうこともあるわけですが)
.
領域代表:遠藤 斗志也
(名古屋大学大学院理学研究科)
「自己複製するコンピュータプログラム」
を使って,
「進化」
が
in silico で再現されています.個々の計算ステップではなく,
シ
ステム全体にかかわる「ご褒美」をあげるような方向づけを行う
と,複雑な機能が中間段階を経ずに突然現れるなど,驚くべき
不連続進化を見せたりもするそうです.これはかなり現実のタン
1. 人々の相互関係ネットワークをweb 上で検索するspyseeというサイトがある(http://
spysee.jp/)
.バイオインフォマティクスとの関連が興味深い検索システムだが,
まだまだ
不完全.一例として,なぜか私(遠藤)
がデーモン小暮閣下とつながっている.スモール
ワールドネットワーク
(世界中のどんな二人でも,6 人程度を介せば,つながる)
の好例か
と思って調べてみると,遠藤→吉田賢右(東工大)
=吉田賢(NHKアナ)→デーモン小
暮閣下となっている.要するに,二人の吉田氏を区別しそこなう,という検索ソフトのお
粗末さが原因のようだ.
3. 本特定領域研究のタイトルを英訳するにあたって,海外アドバイザーの方々からは,
「Protein Community」のほかに
「Protein Society」,
「Protein Commune」
なども候
補にあがった.
「Protein Society」
は学会みたいなので却下し,
「Protein Commune」
は,私にとってはヒッピーたちのコミューン(体制からドロップアウトして自給自足を目指し
た共同体,
しかし実際は持てる国の寄生物 4)
のネガティブなイメージがあったのでやはり
落選.しかし,吉田さんには
「パリ・コミューン」
から来るポジティブなイメージがあったそう
で,ちょっと驚いた.
2. Lenski, R.E., Ofria, C., Pennock, R.T., and Adami, C. (2003) Nature 423,
139-144.
4. ダグラス・ラミス
「ドロップ・アウトその後」
(展望 75 年 5月号)
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