新課程時代の英語指導を考える 【英コミ通信】vol.10

新課程時代の英語指導を考える
10
vol.
【英コミ通信】
ベネッセコーポレーション GTEC for STUDENTS 英語コミュニケーション能力テスト編集部
http://www.fine.ne.jp/info/english/
CONTENTS 英コミ通信 vol. 10
<進路指導>
国公立大の90%以上でリスニングが必要
<新課程時評> 英語教育改革における成績「評価」の重要性とは
<指導事例>
読解力を高める LL 授業
飯塚 信(ベネッセ教育総研)
髙塚成信(岡山大学教育学部)
山形県立山形西高等学校
<進路指導>
国公立大の90%以上でリスニングが必要
飯塚 信(ベネッセ教育総研)
2006 年度入試からのセンター試験・英語リスニング
利用をはじめ、入試科目の公表が国公立大学 2 月末
から行われている。東京大は 2 月以前に「センター試
験リスニングテストの成績は利用しない」と公表し、また
京都大では「センター試験リスニングテストの成績を利
用する学科と利用しない学科が混在」している。
そこで今回、弊社では全国の国公立大学:英語リス
ニングテストの利用状況を集計した。
国立大学法人においては、現時点では、全 83 大学
中、リスニングテストの成績を『利用する』 77 大学
(93%)、『利用しない』 3大学、『検討中』 2大学、『未
公表』 1大学である(ベネッセコーポレーション高校事業部
情報本部調べ)。 概況をまとめて報告する。
各大学のセンター試験・リスニング利用概況
2004 年度 4 月までに発表された国公立大学の 2006
年度入試科目より集計を行った。
おおよそ、2つのポイントが見えてくる。(表 1)
(1) 国公立大学のうち、全募集単位で課す大学は、
2006 年度入試科目発表済みの中の 80%(全大学の
72%)。一部でも課す大学を含めると 90%(全大学の
80%)となる。
(2) 全学部で全く課さない大学は、東京大をはじ
め4大学(全大学の3%)に留まっている。東京大は個
別試験ではリスニングを課すため、センター試験・個別
試験を通じてリスニングをまったく課さない大学は非常
に少ない状況である。
【表 1】センター試験・リスニング利用についての公表状況(センター試験を利用
する・外国語を課す募集単位の中で集計)
国立大
69
2
公立大
41
1
計
110
3
一部募集単位で課さない
全募集単位で課さない
6
4
10
3
1
4
全募集単位で未決定
2
7
9
大学ごとセンターで外国語を利用しない
未発表
0
1
1
15
1
16
全募集単位で課す
一部で課す 一部募集単位で未決定
備考
東京芸大・山梨大・札幌医大
弘前大・千葉大・京都大・鳥取大・島根大・九州大・京都府立大・兵庫県
立大・尾道大・高知女子大
東京大・東京海洋大・滋賀医大・長野県看護大
滋賀大・広島大・岩手県立大・群馬県立女子大・神奈川県立保健福祉
大・大阪府立大・神戸市外大・岡山県立大・熊本県立大
会津大
*北海道教育大は1大学とカウント
*東京都立大、都立科学技術大、都立保健科学大については首都大学東京としてカウント
*広島県立大、県立広島女子大、広島県立保健福祉大については県立広島大としてカウント
*大阪府立大、大阪府立看護大、大阪女子大については大阪府立大としてカウント
(ベネッセコーポレーション高校事業部情報本部調べ) 上記の状況から、2006 年度入試以降の「リスニング
対策」は欠かせないと言える。センターリスニングにつ
いては、経過(移行)措置などは、現時点では特に用
意しないとの方向であり、現3年生も 2006 年度入試で
のリスニング利用状況には当然注意しなければならな
い。
各大学のセンター英語リスニング配点発表状況
今回最終的な配点を公表した大学は 22 大学に留ま
っている。多くは 2005 年の7月(選抜要項公表)時点の
公表になる見込みである。既に公表した大学の中から、
いくつかのパターンを検証してみたい。
<英語リスニングテスト利用パターン・1>
大半の大学は、外国語のその他科目と配点をそろえる
必要もあり、筆記試験とリスニングの合計 250 点を圧縮
して、外国語の配点に換算する方式をとっている。
北海道大・・・筆記試験(200 点満点)とリスニングテスト(50 点)の合
計得点を 200 点満点に圧縮して利用
名古屋大・・・筆記(200 点満点)とリスニングテスト(50 点)をそれぞれ
8:2 の割合で 200 点満点に換算する
英コミ通信 May 2004
したがって、仮にリスニングテストの部分のみ受験しな
かった(解答しなかった)受験生があった場合、リスニ
ングテストの点数がゼロとなるのは当然ですが、筆記
試験の部分まで無効となるのではなく、筆記試験の点
数は志望大学に提供されます。」
確かに従来から、「国語」のうち「近代以降の文章」の
み利用することとしている大学に対して、当該部分の
成績を提供しており、仮に受験生が「古典」の問題を解
答しなかったとしても「国語」全体がゼロ点となるわけで
はなかった。「英語のリスニングテストについても、これ
と同様の扱いだと考えていただければ分かりやすいか
と思います。」(大学入試室 松川室長)
センター試験受験登録では「英語+リスニングテス
ト」の受験しか認められず、未受験者の救済措置は現
時点では考慮されていない。
<英語リスニングテスト利用パターン・2>
信州大の一部学部のみだが、
「筆記試験のみ」と「筆
記+リスニング」の2つの得点からの高得点採用とい
う方法も見られた。
信州大・人文、教育(理数科学専攻)・・・
(1)(2)のうち得点の高い方を英語の得点とする
(1)筆記試験(200 点満点) (2)筆記試験とリスニングテストの合
計 250 点を 200 点満点に圧縮したもの
個別大学でのリスニング実施状況
2004 年度とは変わって、2006 年度入試で個別試験で
のリスニングを取りやめる国公立大学は 19 大学ある。
(表 2) 名古屋大、北海道大、岩手大、岡山大、大阪
大(理)といったところが含まれる。一方、これまで通り
個別試験でもリスニングを課す大学は 31 大学。東京大
は個別学力試験のみだが、センター試験・個別学力試
験ともに課すのは一橋大、大阪大、京都大、熊本大等
が挙げられる。また、語学系の大学・学部では継続し
て課すところが多い状況となっている。特に、京都大で
はこれまでは総合人間学部(後期日程)のみ、個別学
力試験でリスニングを課していたが、2006 年度入試か
らは医学部(医学科)においても新たに個別試験での
リスニングを課すことになる。
経過措置について
2006 年度センター試験において、旧教育課程履修
者に対しての経過措置はどのように考えられているの
か。
「必要に応じて経過措置を講じることとしています。
その具体的な内容(どの教科・科目でどのような措置を
講じるか)については、現在、大学入試センターで検
討中です。2004 年度6月頃にはその内容が明らかに
なる見込みです。」(松川室長)とする。
【表2】 2004 年度入試でリスニングを課していた大学の状況
個別試験でリスニングをやめる大学
全募集単位
一部
個別試験のリスニングを継続する大学
未定・未発表・改組(一部未発表を含む)
全募集単位
14
19
5
25
一部
5
一部未発表
1
31
9
リスニング不採用大学を志望する受験生について
このように、リスニング不採用大学も出てくる 2006 年
度入試だが、文部科学省はどう捉えているのだろうか。
文部科学省によれば、「不採用大学が出たのは残念で
あり、今後も継続してリスニング採用に向けて働きかけ
ていく」というのが、基本姿勢の模様だ。
こうした基本スタンスのもと、英語+リスニングテスト
の位置づけは極めて明確である。
「リスニングテストは『英語』の一領域の位置づけで
すから、筆記試験のみやリスニングテストのみといった
受験登録は認めず、英語の受験者は全てリスニングテ
ストも受験する仕組みとなります。」(文部科学省 大学
入試室 松川室長)
では、実際にリスニングテストを受験しなかった場合
はどうなるのだろうか。
「入試センターから各大学へは、筆記試験とリスニン
グテストの成績を区別して提供することとしています。
9
試行テストの実施
試行テストの実施要領については、現在なお大学入
試センターにおいて検討中の模様だ。実施日程は9月
26 日が候補日となっている模様だが、規模について
は、全ての県で実施し、計5万人程度の規模となる見
込みだ。これは、当初想定された3万人程度とした受
験規模を上回るものになりそうだ。実施時間について
も、20 分なのか 30 分なのかは最終討議中である。これ
もまた、公式発表が待たれる状況である。
2006 年度入試配点の取り扱いについて
センター試験を含めて学力検査における各教科・科
目の配点については、国公立の各大学で来年の7月
末までに決定し、発表することとなっている。現時点で
は各大学ともまだ固まっていない。
ただし、国立大学法人も 4 月から本格スタートしてい
る。その検討のプロセスを踏まえ、継続的に情報収集
の必要があろう。個別大学の入試選抜改革への基本
姿勢については、今後も継続してレポートする。
GTEC for STUDENTS 英語コミュニケーション能力テストを
「資格・単位認定要件」としている大学・短大は
現在、14 大学!
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<新課程時評>
英語教育改革における成績「評価」の重要性とは
髙塚成信(岡山大学教育学部)
教養教育外国語科目(英語)の再編
岡山大学では、平成 15 年度に英語教育課程の変
革を行い、全ての学生に、英語を専門としない学部
教員が担当する英語(
「英語(学部)
」
)が 2 単位必
修となった。その狙いは、各専門分野においてどの
ような英語を学ぶ必要があるのかを理解し、英語学
習への動機付けを図ることにある。
同時に、
ネイティブ教員が担当する英語
(
「英語
(ネ
イティブ)
」も 2 単位必修となった。また、英語教
員が担当する授業も、オーラルコミュニケーション
をはじめ、作文、読解、検定など6種類の内容から
学生が選択することができるようになった。
新たな問題は成績「評価」
教育課程の再編から 1 年を経て、新たな問題とな
っているのは、成績評価のあり方である。
新しい授業科目である「英語(ネイティブ)
」につ
いて、教育効果を高めるために、プレイスメントテ
スト(リスニングテスト)によるレベル別のクラス
編成を行った。教育学部(学校教育教員養成課程)
について言えば、上級 1 クラス、中級 3 クラス、初
級 1 クラスを編成した。
問題が生じたのは学期末の成績評価時である。同
一科目なので、当初のレベルが高く、難しい課題に
チャレンジしている上級クラスほど「優」を高い割
合で与えるよう取り決めていたのに、実際には、各
担当教員が独自基準で評価したために、上級クラス
よりも中級クラスのほうが「優」を取りやすいとい
う事態が生じた。また、各教員が作成した期末試験
の成績を検証したところ、プレイスメントテストや
外部テストスコアとの相関がなく、試験として適切
だったかどうかも疑問視せざるを得なくなった。共
通の評価基準がなく、評価の観点も統一されていな
いことが問題なのである(表1)
。
等化の取れるアセスメントを導入する
異なるクラスに配属された学生の学力を同一の基
準で測るため、今回、ベネッセの「GTEC for
STUDENTS 英語コミュニケーション能力テスト
(以下 GTEC-ST)
」を利用した。プレイスメントテ
ストと GTEC-ST のスコア間の相関は高かったが、
教員の作成した期末試験との相関は非常に低かった。
英コミ通信 May 2004
【表 1】 岡山大学で実施した各テスト間の相関関係
(数値が高いほど強い相関関係にある)
前期末試験
GTEC-ST
プレイスメントテスト
-0.36(負の相関)
0.654(高い正の相関)
前期末試験
---
0.153(低い正の相関)
このことは、各教員が作成し実施する試験の妥当
性及び信頼性に問題があることを示している。各教
員は自分が教えたことを学生が学習したかどうかを
確認するためにテストしているが、本来は、目標に
照らし合わせて学生がどこまで到達したかを評価す
べきである。そのためには、
「等化されたテスト」
、
つまり、いつ受験しても同じ力なら同じ結果の出る
テストを利用する必要があるが、GTEC-ST はその
要件を満たしている。
今回受験したGTEC-STの結果は、
Reading 177.3、
Listening 215.2、Writing 91.8、Total 484.3 であっ
た(表2)
。
【表 2】 GTEC-ST スコア
大1
高2
高1
Reading
調査母体
320
280
大1:
240
200
岡山大学 教育学部1
160
120
年生 176名
80
40
高1・高2:
0
H15年度岡山大学合
Listening
Writing
格者の高1・高2時点の
GTEC-STスコア
大1
Total
Reading
Listening
Writing
スコア
484.3
177.3
215.2
91.8
標準偏差
75.7
36.0
28.5
30.4
(満点は Total=800、Reading=320、Listening=320、Writing= 160)
「目標への到達度を測定する」テストへ
各教員が独自に作成するテストでは、授業を通じ
て学生に培われた学力を適切に測定することには限
界がある。予め設定した目標への到達度を厳密に測
定できるテストを導入することによって、指導と学
習がうまく行ったかどうかを評価することができる
のである。
(取材: 国際教育事業部 百々岳夫、吉川 幸)
<指導事例>
読解力を高める LL 授業
山形県立山形西高等学校 山口和彦先生の実践報告書より
進度第一主義がもたらしたもの
山形西高校は女子のみの進学校である。国公立大
学への現役進学率も非常に高く、進学校としての役
割を果たすために授業進度を重視し指導してきた。
4技能の伸張を図ることが重要だということはわか
っていても、進度を考えるとリスニングやスピーキ
ングに多くの時間を割けないというのが、多くの進
学校の本音ではないだろうか。
山形西高校でもそれは同様で、山口先生が担当さ
れている学年でも普段の授業で音読やリスニングに
多くの時間は割かず、音読も最低限しか行わずに、
多量の英文をこなすことによって1年生時の成績を
順調に伸ばしてきた。ところが、2年7月に行われ
た外部模試で、成績は初めて下降した。それまでの
指導の振り返りとしては、従来と同程度以上の分量
を読ませており、文法力も例年と差がある訳でもな
かった。そこで、山口先生が立てた仮説は次の通り
である。
進度重視+音声面指導の不足+生徒の変容
・論説文や和訳や説明の得点率は県内トップ校との
差はない
・発音・アクセント問題と読解問題での得点力の伸
びがない
⇒音韻符号化(=文字から音声を喚起する過程)※
ができず、速読力の妨げになっているのではないか
仮説検証:生徒の音読能力を確かめる
【検証内容】
LL 教室にて、Reading の授業で使っているテキ
ストの音読を練習させ、生徒の音読力を検証してみ
たところ次のような結果になった。
【検証結果】
・発音できない語が多い
・チャンク単位で読むことができない
・意味を理解しながら読めない
・音読のペースが遅い
・モデル・リーディングをしっかり聞き取れない
指導実践:生徒の音読能力を高める
このような結果を受けて、
「LL教室での音読練
習が改善につながる」という更なる仮説に至り、以
下の取り組みを行った。
①LL 教室は個別練習の出来る空間であるから、できるだけ
個別練習の時間を作る
※その時間創出のために、プレゼンテーションソフトを用
い、本文の板書、解説の短縮化・効率化を図る。
②意味理解は先に行っておく
③1文1文、モデル(テープ)をテキストを見ながら聞き
(音韻化と同時にチャンクを理解)
、ポーズにスラッシ
ュを入れ、その後に音読する
④慣れてきたら shadowing にまで発展させる
=LL での音読指導が音韻符号化をより自動化し、リ
スニング力も向上、引いては速読力の向上につながる
結果検証:音読練習が持つ速読力の効果を確
かめる
【検証内容】
授業の最初と最後に速読力を試すテストを行う。
教材は「E-COM」
(ベネッセ)
。5問の T/F。
但し、音読練習を行ってから2回目のテストを行う
組と通常の授業後に行う組とを作り、
その差を見る。
【実践結果】
下の表のような結果となった。
【結論】
①生徒の英語力伸張には音韻符号化を強化するこ
とがやはり重要で、模擬試験の結果の一因であ
った可能性は高い。
②音韻符号化を強化するのに、LL での演習は効
果的である。
また今回の取り組みにより、外部模試による全国
偏差値も7月から1月にかけて2ポイント以上上昇
した。今後も今回の取り組みを様々なかたちで発展
させていきたいと山口先生は考えている。
※音韻符号化についての参考文献
『英語リーディングの認知メカニズム』門田修平、野呂忠司
(くろしお出版)
(東北支社山形県担当 木村悠人、
国際教育事業部 丹野典子)