ジオグリッドの接点構造が土中引抜き抵抗に及ぼす影響

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №305
ジオグリッドの接点構造が土中引抜き抵抗に及ぼす影響
神戸大学
1.はじめに
未由希
を測定した.なお,引抜試験時に引抜き力のピークが
近年,地震や異常気象による盛土の被害が絶えない
1)
田口
出なかった場合には,引抜き変位量が 50mm の時を最
.盛土内に水平方向にグリッド状や面状の高分子ジオ
大引き抜き力とした.
グリッド補強材を敷き詰めて自立させ,法面が前方に
3.試験結果と考察
変位し水平方向に伸びようとするのを補強材によって
拘束し,引張り力を発生させることで盛土を安定させ
図-3 に上載圧 50kPa のときの各ジオグリッドの変位
るジオテキスタイル工法が普及している.このジオグ
量と引抜き力の関係を示す.なお変位量は土層内中心
リッドと試料の摩擦特性は,ジオグリッドの引抜けや
となる変位点 2 の値を用いた.図より,引き抜き力は
補強土のすべりに対する安定性を検討する上で重要な
一体型が接着型より大きくなった.また,同じ一体型
要因となる.一方, 実際の盛土材は,所定の締固め管理
で比較したところ,一体型 A が最も大きくなった.こ
値をクリアーしても局所的な密度のばらつきがある
2)
.
の原因として,接着型は破断強度が小さいため交点部
そこで,自然の盛土材料の代替材料として,粒子の噛
分にスラグが挟まると接着部が剥がれてしまい,横ス
み合わせが良く,内部摩擦角が大きい製鋼スラグに着
トランドで引き抜き抵抗力が発揮されず引抜けたこと
目した.本研究では,基礎研究の一貫として,室内引
が考えられる.次に,一体型 A,B に対して,試料の
抜き試験機を用いて,ジオグリッドと製鋼スラグの引
粒径に着目して各々結果を検討する.粒径が 9.5mm 未
き抜き抵抗特性を比較検討した.また,製鋼スラグの
満の場合には,一体型 A は破断して引抜き力のピーク
粒径の大きさが引抜き特性に与える影響や,使用する
が現れる一方で,一体型 B はピークが現れずに引抜け
土試料の工学的特性の違いが引き抜き特性に与える影
ている.一方で,9.5mm~30mm の場合は双方の引き抜
響についても考察した.
け 方 に 大 き な 差 は な か っ た . こ れ よ り , 9.5mm ~
30mm の製鋼スラグでは使用したジオグリットの目合
2.試験材料と試験概要
いに対して粒径が大きすぎたため,横ストランドに製
本研究で使用した製鋼スラグは,土粒子密度
鋼スラグがかみ合わず引き抜けたことが考えられる.
s=3.294g/cm3 , 初 期 含 水 比 wo=5.2% , 最 大 乾 燥 密 度
dmax=2.319g/cm3,最適含水比 wopt=11.2%である.また,
土試料には福井県大野道路建設の際に光明寺付近で排
出 さ れ た 建 設 土 ( s=2.694g/cm3 , wo=30.9% ,
dmax=1.425g/cm3 ,wopt=29.8%,以下,光明寺と示す)
を使用した.ここで,製鋼スラグに関しては粒径によ
る引抜き特性の与える影響を検討するために,9.5mm
未満と 9.5mm~30mm の 2 種類の製鋼スラグを使用した.
各試料の粒径加積曲線を図-1 に示す.また,粒径 2mm
以下の製鋼スラグで行った一面せん断試験の結果を図2 に示す.製鋼スラグの粘着力 c と内部摩擦角は各々,
図-1 各試料の粒径加積曲線
c=43.2kPa, °となり,一般の土に比べて非常に
試験手順は澁谷ら
3)
の報告に準じて実施した.まず
最適含水比状態の各試料に対して締固め度 90%になる
ように下箱に試料を敷き詰めた後,ジオグリッドを敷
設した.なお,ジオグリットには任意の 3 か所(前,
真ん中,後ろ)で変位測定を行った.その後,上箱を
置いて下箱同様に試料を敷設したのちに蓋を閉めて空
製鋼スラグ
せん断応力(kPa)
高い値であることが分かる.
c=43.2kPa, =40.6°
200
100
気圧により上載圧(50,100,200kPa)をかけた状態で
引き抜き試験を実施した.ジオグリッドの引抜き速度
は 1mm/min とし,引抜き力 F(kN)と変位量(mm)
- 251 -
0
0
100
200
鉛直応力(kPa)
図-2 一面せん断試験結果
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学生発表アブストラクト №305
ストランドでの引抜き抵抗力は小さくなり,製鋼スラ
40
グの時と異なり一体型 A と接着型 A に大きな差は見ら
れなかった.
以上の結果から,試料の粒径の大きさと角張り具合
は引抜き特性に影響することが示され,それぞれのジ
交点一体型A 50kPa
変位点2
60
:9.5mm未満スラグ
:9.5mm~30mmスラグ
:光明寺
20
0
60
交点一体型B 50kPa
変位点2
40
20
オグリッドの目合いに対して,引抜き力が大きくなる
20
0
60
交点接着型B 50kPa
10
図-4 に 9.5mm 未満の試料における有効面積法を用い
20
30
40
0
0
50
10
ん断力からジオグリッドの粘着力 cp と内部摩擦角p を
求めた.
まず,内部摩擦角 p に関しては全体的に一体型が大
:有効面積法
200
cp=3.2kPa
100
p=35.8°
300
0
交点一体型B
200
100
30
40
50
cp=0kPa
交点接着型A
:有効面積法
200
cp=33.7kPa
p=33.8°
100
0
交点接着型B
200
cp=24.2kPa
p=18.4°
100
p=29.8°
0
0
100
きくなっている.これは,ジオグリッドの破断強度が
高く,最大引抜き力も大きかったことが一因になって
300
交点一体型A
引抜きせん断力pmax(kPa)
と想定して算出したものである.また,求められたせ
300
引抜きせん断力pmax(kPa)
み,試験片の両面で有効な引抜き抵抗力が発揮された
20
変位量(mm)
図-3 各試料における引き抜き力と変位量の関係
て各種ジオグリットの最大引き抜きせん断力 pmax(kPa)
法とは,ジオグリッドの引抜き限界抵抗長の範囲での
変位点2
40
変位量(mm)
と垂直応力 σ(kPa)との関係を示す.ここで,有効面積
変位点2
:9.5mm未満スラグ
:9.5mm~30mmスラグ
:光明寺
20
0
0
試料の粒径が存在することがわかった.
交点接着型A 50kPa
40
引抜き力F(kN)
60
引抜き力F(kN)
また,光明寺試料においては細粒分が多いため,横
200
300
0
0
100
垂直応力(kPa)
図-4
いるものと考えられる.一方,接着型 A,B に関して
200
300
垂直応力(kPa)
9.5mm 未満製鋼スラグにおける引抜きせん断力と
垂直応力の関係
2
は,p が接着型 A で 33.8°,接着型 B で 18.4°となり,
一体型A
一体型B
接着型A
接着型B
引抜き強度比
両者の値に差が生じた.この原因として,接着型 A は
製鋼スラグによってジオグリットの被覆部分が剥がれ
やすく,根詰まりしたことが引き抜き時の抵抗になっ
てせん断力が増加したのに対して,接着型 B は被覆部
分ではなくジオグリッドの交点部分が剥がれやすく引
1
抜けたためせん断力が増加しなかったからだと考えら
れる.粘着力 cp は,一体型 A,B は,ともに小さくな
0
0
っており,一体型 A,B は材質が高密度ポリエチレン
で出来ており被覆部分が滑らかなので接着型に比べて
摩擦強度が発現されなかったためと考えられる.一方,
接着型 A,B を比較すると,目合いの大きい接着型 A
の方が粘着力 cp は大きくなっており,ジオグリットの
目合いが大きいと製鋼スラグ同士の粒子間力が大きく
なり粘着力 cp の値も大きくなったと考えられる.
桑野ら
4)
は各上載圧での最大引抜きせん断応力 pmax
を各上載圧での土自体のせん断強度 で除した引抜き強
度比(=pmax/)を用いてジオグリッドの特性と引抜き
強度の関係を検討しており,本研究でも各ジオグリッ
ドの引抜き強度比を求め,各ジオグリッドにおける上
載圧と引抜き強度比の関係を示した(図 5 参照).図
から,どの上載圧の時でも一体型 A が補強材として最
も適していることが分かる.また上載圧 200kPa の時,
一体型の方が接着型より引抜き強度比が高くなること
から,上載圧が大きい高盛土の盛土材料に製鋼スラグ
材用いる場合には,一体型のジオグリッドを使用すべ
きであると言える.
100
200
300
垂直応力(kPa)
図-5 各ジオグリッドの上載圧と引抜き強度比の関係
4.まとめ
鉄鋼スラグのような強度定数の高い材料に補強材を
用いる場合には,接着点が引抜き時に剥がれない交点
一体型が適しており,かつ使用する製鋼スラグの粒径
と目合いとの関係が重要であることが確認できた.
参考文献
1) 森友宏,風間基樹,佐藤真吾:東日本大震災におけ
る仙台市の大規模造成宅地の地震被害調査―5 つの造成
地における全域調査―,地盤工学ジャーナル,Vol. 9,
No. 2,pp.233-253,2014.
2) 龍岡文夫:盛土の締固め管理と設計の協動の必要性,
基礎工,Vol.37,No.7,pp.2-9,2009.
3)澁谷啓,片岡沙都紀,植松尚大:格子交点溶着型お
よび一体型ジオグリッドの土中引抜き抵抗特性の比較,
ジオシンセティックス論文集,Vol.29,pp.19-26.2014.
4)桑野二郎,高橋章浩,木村博憲:日本で使用されて
いるジオグリッドの材料特性と引き抜き特性,ジオシ
ンセティックス論文集,Vol.14,pp.13-18,1999.
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