斜め堆積スパッタリング法により作製した微細構造化 FeSi 系薄膜の特性評価 機械サイエンス学科 先端材料工学コース 井上研究室 1021069 太田有祐 1. 研究目的 鉄シリサイド(β-FeSi2)は構成元素が無毒性の Fe,Si であり,資源的に豊富に存在し,半導体特性を示す Fe-Si 系化合物である.また,光吸収係数・ゼーベック係数も高く,太陽光発電や熱電変換材料などへの 応用が期待され,「環境半導体」として盛んに研究が行われている.しかし,その組成が Fe や Si という 高融点元素から成ることや,安定相の α 相,準安定相の γ 相など,Fe-Si 系化合物はさまざまな結晶形態 を持つために,高品質な薄膜の作製は困難であることが知られている.一方で,Fe-Si 二元型状態図にも 記載のない 400℃以下の低温相,プラズマプロセスのように熱力学的に非平衝な過程によって作製される 準安定相などに関する研究は十分ではなく,未発見の新たな特性を示す FeSi 相を創成できる可能性があ る.そこで本研究では,Fe と Si の化合物である鉄シリサイドの新たな結晶相探索を目的として,スパッ タリング法を用い,堆積方法・基板温度を変えて鉄シリサイド薄膜を作製し,物性評価を行う. 2. 研究方法 試料の作製には,高周波マグネトロンスパッタリング装置を用いた.成膜チャンバー内を 2×10-4 Pa 程 度まで真空排気後,Ar ガスを導入し成膜圧力を 0.3Pa とし,β-FeSi2 ターゲットに 13.56 MHz の高周波電 力 150W を印加し,成膜を行なった.ターゲット上に Si(100)小片を設置し,Si/Fe 組成比を制御した.タ ーゲット法線に対して基板を大きく傾ける斜め堆積法を適用し,基板付近にランプヒーターを設置して, 成膜中の基板温度制御を行った.作製した試料の評価には蛍光 X 線分析(XRF),走査型電子顕微鏡(SEM),X 線回折装置(XRD), 紫外可視赤外分光光度系を用い,それぞれ組成,微細構造,結 晶性評価,反射率を評価した. 3. 結果及び考察 図 1,2 に,斜め堆積法により基板温度 235℃で作製した鉄シ リサイド薄膜の SEM 観察画像と XRD プロファイルを示す.断 面を見ると,平滑な膜の上から柱状の結晶相が成長しているよ 図 1.斜め堆積膜(235℃)の断面及び表面 うに見える.結晶性評価では,2θ=25.72°付近に回折ピークが 検出された. これは, Fe2Si の 100 回折ピーク(2θ=25.32°), Fe5Si3 の 110 回折ピーク(2θ=26.32°)に対応しているが,1 本のピーク しかでていないため同定はできない.垂直堆積膜及び室温での 斜め堆積膜では共に回折ピークは得られず,アモルファスであ った.光学反射率の結果は,垂直堆積膜の反射率は 60%程度と なり,室温での斜め堆積膜は 10%程度反射率が低下した.基板 温度 235℃の斜め堆積膜は,可視光領域で 2%以下と大幅に低下 図 2.斜め堆積膜(235℃)の XRD プロ した.これは,図 1 に示すように,膜の表面に微細な凹凸が形 ファイル 成されているため,膜表面で光の強い散乱が起きていると考え られる. 4.学会発表等 表協第 129 回講演大会,○太田有祐,石井琢,加藤正鷹,井上泰志,高井治(P-34,予定,東京理科大)
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