基板温度変化が Ga 2O3 の結晶性に及ぼす影響

基板温度変化が Ga2O3 の結晶性に及ぼす影響
皆見憲亮,工藤淳,高原基,合田稜平,石橋和也,
角田功,高倉健一郎 (熊本高専),
中島敏之 (中央電子),渋谷睦夫 (エコマザー),村上克也 (日本ガスケミ)
1.はじめに
酸化物半導体の Ga2O3 は,現在注目されて
いる次世代半導体材料の一つである.Ga2O3
は 4.9 eV という広いバンドギャップを持って
おり,これは半導体材料では,ダイヤモンド
を除いて最も大きい値である.この特徴から,
Ga2O3 は主に,高出力パワーデバイスの材料
や生産性の良い GaN 用の LED 基板材料とし
て利用されている.また最近の研究では,
Ga2O3 を用いた MESFET の作製に成功したと
いう例も報告されており (1),Ga2O3 のデバイ
スへの応用に対する期待は更に高まっている.
Ga2O3 は 5 つの形態(α,  , δ ,ε)を持つが,そ
の中でも相は高温で安定であることが報告
されている (2). 相を得るためには,室温で
の堆積後に熱処理をする手法がある.先行研
究より,400℃では  相,900℃では  相を得
られることが既に明らかになっている (3).ま
た,Ga2O3 の結晶化の手法として,成膜時に
基板加熱を行う方法が考えられる.成膜時に
基板温度を高くし,堆積した原子や分子の拡
散長を増大させることで,結晶配向性や形成
相を変化させられることが期待できる.そこ
で,我々は半導体デバイスへの実用化を目指
し,良質なGa2O3 薄膜の形成を目的として
いる.
現在までに報告されている Ga2O3 薄膜の成
膜方法として,パルスレーザーアブレーショ
ン法(PLD 法)があるが (4),PLD 法は実験室レ
ベルでの小面積・少量の低速成膜に限定され
るため,産業性に乏しくデバイス化への応用
には不向きである.それに対し,スパッタ法
は,大面積基板上に高速で安定した成膜を行
うことが出来る実用的な方法として知られて
いる.そこで本研究ではスパッタ法を用いて
Ga2O3 薄膜を成膜し,成膜時の基板温度の変
化が,Ga2O3 薄膜の結晶性に及ぼす効果につ
いて調査した.
2.実験方法
Ga2O3 薄膜は,室温下で RF マグネトロン
スパッタ装置を用いて,Si 基板上に成膜した.
比較対象として,室温にて成膜後,窒素雰
囲気で 400℃,500℃の熱処理を 15 分間,行
い結晶化させた試料をそれぞれ用意した.
基板温度を RT~500℃とし,Ar : O2 混合雰
囲気(6 : 4)で 30 分間,膜厚が約 100 nm にな
るように行った.
試料作製後に走査型電子顕微鏡(SEM)を用
いて断面の観察をし,X 線回折(XRD)装置を
用いて結晶性を評価した.
3.実験結果 及び 考察
図 1 に SEM 像を示す.(a)500℃の対照試料
の断面 SEM 像では,20nm から 60nm 程度の
結晶粒が確認できる.また,(b)500℃で堆積
した試料の断面 SEM 像では,結晶粒のよう
なものが確認できた.
図 2 に XRD の測定結果を示す.図 2(a)に
おいて,400℃の対照試料の XRD パターンで
は,  (311), (400)及び (440)面からの回折
ピークが確認できた.更に,500℃対照試料
の XRD パターンでは,相及び 相に起因す
る回折が観察できる.よって,500℃の対照
試料では, 相と  相の混相であると推察さ
れる.一方,図 2(b)において,室温で堆積し
た試料の XRD パターンからは,回折ピーク
を確認する事が出来なかった.したがって,
室温成膜した試料は,非晶質であると推察さ
れる.基板加熱しながら堆積した XRD パタ
ーンでは,いずれも,30°から 40°にかけ
て,ブロードなピークを確認できる.このピ
ークは,図 1(b)の 500℃で堆積した試料の断
面 SEM 像で確認できた結晶粒によるものだ
と推察される.したがって,成膜時の基板温
度を上げることで,結晶化が始まっていると
考えられる.以上の結果より,基板加熱によ
る成膜では,目的とする 相を得られなかっ
た.よって単相を生成するには,熱処理が
必要である.
断面 SEM 像及び X 線回折より,雰囲気や結
晶化時の圧力の違いが 相形成条件に影響し
ているのではないかと考えており,今後詳細
な検討を進めていく.
(a)対照試料500℃
Si Substrate
100nm
4.まとめ
本研究では,半導体デバイスへの応用を
目的として,Ga2O3 薄膜の結晶性について調
査を行った.室温で成膜した Ga2O3 薄膜は非
晶質であったが,基板加熱を行うことで結晶
化が進んだが,目的とする相は得られなか
った.しかし,室温堆積後に熱処理した場合,
相を得られた.したがって, 単相を生成
するには,室温堆積後の熱処理が必要である.
今後,室温堆積後の熱処理によりGa2O3 の
成膜し,デバイスへの応用を目指す.
(b)基板温度500℃
Si Substrate
100nm
図 1.(a)堆積後熱処理(500℃)した薄膜と,
(b)500℃で堆積した Ga2O3 薄膜の断面 SEM 像
20
30
熱処理温度
500℃
(440)
(400)
40
(712)/(440)
(603)/(113)/(801)
(400)
(311)
(411)
(311)
(400)
lntensity[a.u.]
(a)対象試料
RT-400℃
50
2θ[degree]
60
70
80
(b)基板温度変化
参考文献
(1) M. Higashiwaki, et. al, Gallium oxide (Ga2O3)
metal-semiconductor field-effect transistors on
single-crystal β-Ga2O3 (010) substrates, Appl.
Phys. Lett., 100, 013504 pp.1-3, (2012).
(2) R. Roy, et. al., Polymorphism of Ga2O3 and the
system Ga2O3-H2O, J. Am. Chem. Soc, 74, 719722, (1952).
(3) M. Takahara, et. al,
Improvement of the
Crystalline Quality of β-Ga2O3 Films by HighTemperature Annealing, Materials Science Forum,
725, 273-276, (2012).
(4) M. Orita, et. al, Preparation of highly conductive,
deep ultraviolet transparent β-Ga2O3 thin film at
low deposition temperatures, Thin Solid Films, 411,
pp.134-139, (2002).
基板温度
lntensity[a.u.]
500℃
[問合せ先]
熊本高等専門学校 高倉健一郎
TEL/FAX: 096-242-6074
E-mail: [email protected]
400℃
300℃
200℃
100℃
RT
20
30
40
50
60
70
80
2θ[degree]
図 2.スパッタ法にて成膜した Ga2O3 薄膜の
XRD(2θ スキャン)測定結果