まき網で獲るさかな

まき網漁業とは
1そうまき網投網図 2そうまき網投網図 大中型まき網漁業では、網船、探索船、運搬船などの 4 〜 6 隻で、また
は省エネ・操業コスト削減等の観点から網船と運搬船の2隻で船団を組み、
わが国周辺沖合の広大な水域において、周年、アジ、サバ、イワシ、カツオ、
マグロなど多獲性浮魚を漁獲しています。
魚群探知機、ソナー、目視などで魚群を発見すると魚種にあった漁網(イ
ワシ、サバ、イナダ、カツオ、マグロ網など)で巻き、運搬船に積上げて漁
獲します。操業方法により、1そうまき、2そうまきがあり、集魚灯の使用
が認められている場合もあります。
大中型まき網漁業のトン数階層は網船が 15 トン以上 760 トンまでで、
船団構成は操業の方法、船の積載量(網や漁獲物)等により異なります。
網の大きさは対象魚種、漁場状況で異なりますが、1そうまきでは 1,600
〜 1,800m 程度で、深さはいずれも 100 〜 250m 程度です。2そうまき
では長さが 1,000m 程度です。 1
まき網の主漁獲対象である浮魚資源の特徴
水産大学校 名誉教授 原 一郎 海にすむ魚は、概ね浮魚(うきうお)と底魚(そこうお)とに分けることができる。浮魚は海面近くの
表層から中層に、底魚は海底およびその付近の底層に生息することからそう呼ばれる。
多獲性で温帯性沿岸回遊魚である浮魚の特徴は、長期的な変動を繰り返すこと、卓越種が入れ替る(魚
種交替)こと、資源の増減にともない分布域が拡大縮小すること、大きな群れを形成すること、北に索餌場、
南に産卵場があること、春〜夏に索餌・北上回遊、秋〜冬に南下・産卵回遊することである。
我が国周辺を大まかにみると、太平洋側の黒
潮・親潮域の沿岸よりに分布する浮魚と東シナ
海から日本海(主に西部)にかけての対馬暖流
域(西日本海域)に分布する浮魚とに大別され
る(系群と呼ばれる)
。前者の卓越種はマイワシ・
マサバ・サンマ、後者のそれはマイワシ・マサバ・
マアジで、マイワシ・マサバは両者に共通して
いる。
近年みられた卓越種の変化は、ニシン→マイ
ワシ→マアジ+サンマ→マサバ→マイワシ→マ
アジ+サンマの順である。サンマとマアジの変
動はほぼ同期している。これらが魚種交替の主
役である。現在は高水準の卓越種はなく、1950
年代の状況によく似ている。
万 トン
500
マイワシ (1988)
400
300
200
マイワシ
サバ類
100
0
ニシン
1910
サンマ
20
30
40
50
アジ類
アジ類
60
70
80
90
2000
2010
日本周辺の多獲性浮魚の漁獲量
卓越種の変動幅
(振幅)
は魚種により異なるが、 万トン
特にマイワシの変動は大きい。また、分布の縁 15 0
辺域において特に変動が大きい。例えば、縁辺
域のまき網漁場である北海道釧路沖の道東海域 10 0
(索餌・北上回遊に相当)では低水準期には漁獲
量がゼロの年が続く。しかし 1960 年代後半か
ら 1970 年代前半のマサバ
(1974 年 28 万トン) 5 0
や 1980 年代のマイワシ(1987 年 120 万トン)
のように高水準期にはまき網により多獲される。 0
1960
最近は資源回復の兆しがあり、直近の 2013 年
漁期にはマサバ 2 万トン、マイワシ 1.7 万トン
に、2014 年はマサバ 2.3 万トン、マイワシ 3.9
万トンと特にマイワシの漁獲量が急増している。
4
マイワシ
万トン
下図の拡大
2
0
2000
2005
2010
マサ バ
カタクチイワシ
65
70
75
80
85
90
95
2000
2005
2010
道 東 海 域 に おけ る魚 種 別 漁 獲 量 の 経 年 変 化
浮魚資源はマサバ2系群の低位水準を除くと、他は中位(ゴマサバ太平洋系群のみ高位)で横ばいか、
増加である。浮魚資源は回復基調にあるといえよう。
大中型まき網の漁獲量は我が国海面漁業の 18.8 〜 22.7%
(2003 〜 2013 年)
を占める主要漁業
(2013
年は 21.5%)である。1997 年からTAC(漁獲可能量)が開始され浮魚(マアジ、サバ類、マイワシ、
サンマ)の資源管理が適正に実施されている。持続的生産を目指すTAC管理下では量産型漁業といわれ
るまき網漁業が乱獲に陥ることはないであろう。浮魚資源の季節的な来遊状況に応じて漁場を移動しつつ
効率的な操業により、まき網漁業は国民への水産物の安定供給、自給力の維持・強化に寄与している。
2
鯵
アジの仲間は種類が多く、代表
的なマアジ属で 12 種、ムロアジ
属は 10 種以上を数え、世界の暖
海域に分布しています。日本近海
ではマアジ 1 種、ムロアジ 7 種
が獲られています。
その他、
ニュー
ジーランド北部沿岸のニュージー
ランドマアジや大西洋東部沿岸で
獲れるニシマアジ(ドーバーマア
ジ)などがあります。
マアジ
マルアジ
マアジ
北海道南部以南の沿岸に広く分布していますが、東シナ海や九州近海を主
な産卵場とする大きなグループがあります。また、
沿岸各地に産卵場があり、
地域的な小さな群れがあります。ゼンゴ(縦長の硬い鱗)が頭部後方から尾
部にまで側線全体に連なっていることから他のアジ類と区別されます。単に
アジと呼ぶ場合が多い。体長 40cm。
マルアジ
九州沿岸と東シナ海西部にそれぞれ大きなグループがあり、そのほか本州
の各地に地域的な小さな群があります。近年紀伊・豊後水道周辺域にも多く、
地域よってはマアジと肩を並べるくらいの漁獲があります。資源水準は低位
です。体長 30cm。
クサヤモロ
伊豆七島、小笠原、薩摩諸島、沖縄等の島や瀬の周辺に分布します。伊豆
七島などで「くさやの干物」にされます。体の背中側は濃い青色であること
から伊豆七島ではアオムロとも呼んでいます。体長 35cm。
3
鯵の文化・伝統
・夏祭りの宵宮(7 月 21 日)に鯵の塩焼きを食べる
・大分では 5 月 5 日の節句に関あじ、関さばの「のぼり」を掲げる
鯵を使った伝統的な加工食品
・焼き干し [ 津軽 ]、鯵節(ムロアジ)
鯵の郷土料理
料理名
地域
説明
奥能登
塩漬け魚と米を 5 月より 2、3 ヶ月醗
酵させ、農繁期の秋祭りに祭りずしとし
ます。
千葉県房総半島
あじのたたきを青しそ、しょうが、ね
ぎと一緒にふきの葉に包んだり、あわび
の殻に詰めて焼く料理を焼きさんがと
呼びます。
あじの押しずし
神奈川県大船市
明治末期、湘南海岸で大量に獲れたの
が発端。東海道線大船駅の駅弁が有名。
関東風に握り、関西風に押した独特の寿
司。
あじの開き干し
静岡県沼津市
全国の半数以上が静岡産。原料はマア
ジ、マルアジ、ムロアジ。種類により異
なった味わいがあります。
あじのまぜずし
愛知県三河地方
海産魚類と野菜を合わせたものが海
岸地域の寿司の特徴。
愛知県尾張地方の行事食
尾張の河川のイナ(稚ボラ)を使った
いなりずしは、夏祭りに必ずつくられま
した。現在は塩漬けあじを用います。
宮崎県延岡市
農繁期の農民や洋上での漁師の簡単
な食物が発端。ほぐしたあじの身、
胡麻、
味噌を擦ってだし汁で溶き、しそ、きゅ
うり、豆腐などと共に麦飯にかけて食べ
ます。
あじのひねずし
あじの焼きさんが
あじの姿ずし
冷や汁
4
マアジの水揚げベスト5
主な産地
北海道南部以南の太平洋、日本海のほぼ全域
マアジ漁港別水揚げ順位(2014 年度)単位:
(t)
第1位:
境
港 [ 鳥取県 ]
34,202
第2位:
松
浦 [ 長崎県 ]
20,433
第3位:
長
崎 [ 長崎県 ]
15,227
第4位:
唐
津 [ 佐賀県 ]
9,699
第5位:
浜
田 [ 島根県 ]
6,890
参照データ:「水産物流通調査」
アジの漁獲時期
旬の時期
4
月
10
月
月 3月 秋
9月
冬
8月
夏
春
11 月
3 月〜
4 月頃→駿河湾沖
5・6 月頃→山陰沖
〜8
月
2
7
4 月から 8 月→九州
11
月
5 月頃→房総
9 月頃→三陸沖
----
5月 6月 地付きのアジは 5 月から 8 月
-----------------------------------------8月
------月〜
4
---月
月
月
5
12 月
1
マアジ
----------- シ
------------------------------------------------------------------- - -ジ
--ア
サヤ モ ロ
マ
ク
--- -
ブランド ( 順不同 )
5
旬(とき)あじ
[ 長崎県 ]
関あじ(豊後水道)
[ 大分県 ]
ごんあじ(黄金あじ)
[ 長崎県 ]
どんちっち
[ 島根県 ]
マアジの資源状況
水産大学校 名誉教授 原 一郎 長期的な大変動、卓越種が入れ替わる魚種交替などが特徴である浮魚の定義は
明確ではないが、0歳魚(未成魚)が表層性であること、まき網が漁獲対象とす
ることから、この仲間に含めた。
マアジは暖海性の回遊魚で太平洋側(太平洋系群)では少なく、日本海西部〜
東シナ海(対馬暖流系群)にかけての西日本海域で主にまき網により漁獲される。
日 本 海 西 部 〜 東 シ ナ 海 で の ま き 網 に よ る 漁 獲 量 は 全 体 の 70 〜 80% で あ る。 我
が国の漁獲量の 3 〜 13% を占める太平洋側では中部以南に多い。日本周辺では
1960 年の 55 万トンが最高漁獲量である。
対馬暖流域では漁獲水準が高かっ
10 0
た 1960 年 代 に は 大 中 型 ま き 網 漁 獲
量 は 30 〜 40 万 ト ン 前 後 で 推 移 し
て い た。 そ の 後 に 減 少 し、1980 年
に は 最 低 の 4 万 ト ン、1981 年 に は
5 万 ト ン と な っ た。 こ の 両 年 は マ イ 5 0
ワシの大卓越年級群の発生年に相当
す る。1994 年 に は ピ ー ク の 24 万
ト ン と な っ た が、 そ の 後 は 減 少 傾 向
で 2013 年 は 12 万 ト ン(2012 年
0
10.9 万トン)であった。
万トン
マアジ 合計
対馬暖流系群
太平洋系群
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
日本 周 辺 のマアジ資 源 量 の経 年 変 化
太 平 洋 側 で は 1980 年 が 最 低 の 1
(水 産 庁:魚 種 別 系 群 別 資 源 評 価 より)
万 ト ン で、1994 年 に は 8 万 ト ン と
な っ た が、2002 〜 2005 年 の 5 万
ト ン 水 準 か ら 2011 年 以 降 は 2 万 ト ン 水 準 に 落 ち 込 ん で い る(2011 年 2.7 万
トン、2012 年 2.2 万トン、2013 年 2.8 万トン)。
対馬暖流系群の資源量は近年では最低水準であった 1980 年以降に増加傾向を
示 し、1993 〜 1998 年 に は、50 万 ト ン 台 の 高 水 準 と な っ た。2001 年 に は 一
時的に 28 万トンに急減したが、2004 年は 54 万トンと高水準となった。2005
年 以 降 は 40 万 ト ン の 水 準 に 減 少 し た が、2014 年 に は 再 び 52 万 ト ン の 高 水 準
にまで回復した。資源量、漁獲量ともに前年よりも増加しているにもかかわらず
資源の水準・動向は中位・増加(前年 2003 年評価)から中位・横ばいに変更さ
れている。なお、資源水準が高位と判断されないのは、1960 年代の大中型まき
網漁獲量、30 〜 40 万トンの水準に及んでいないことからである。
太平洋系群の資源量は 1996 年の 16 万トンをピークにゆるやかな減少傾向で
あったが、2009 年以降は 6 万トン前後の横ばいで、資源は中位・横ばいと評価
されている。
6
鯖
マサバ
ゴマサバ
日本の沿岸に広く分布し、イワシ、
アジ、サンマとともに大衆魚と呼ば
れる、私たちに最も身近な魚の一つで
す。日本で漁獲されるのはマサバとゴ
マサバの2種類で、最高時は 1978 年
に 163 万トンも獲れましたが、90 年
代に入り 25 万トンまで減少したもの
の、最近になって復活し、2010 年(平
成 22 年)には 49 万トン、2011 年
(平成 23 年)には 39 万トン、2012
年には 44 万トンの水揚がありました。
また、近年ではノルウェーなどの外国
からも輸入されています。
マサバ
(別名ヒラサバ、ホンサバ)太平洋、日本海、東シナ海にそれぞれグルー
プを作って生息し、春 3 月から 5 月頃産卵し、夏には餌を求めて北上しま
す。その後、秋から冬にかけて体力をつけながら南下します。とくに秋のサ
バは脂肪が 20%から 25%もあり美味。尾叉長(頭の先端から尾びれの割
れた部分までの長さ)40cm 以上のものはめったにお目にかかれませんが、
50cm を超えるものが漁獲されたこともあります。
ゴマサバ
(別名マルサバ)本州中部以南から台湾迄分布し、やはりマサバと同じく
南北に回遊します。特徴はマサバと違ってお腹に黒い小さな斑点があり、そ
れがゴマに似ている事からゴマサバと言います。夏はマサバよりおいしいと
言われています。体型はマサバよりもやや小型ですが、尾叉長 50.5cm の
ジャンボゴマサバの漁獲例があります。
ニシマサバ
(別名タイセイヨウサバ、ノルウェーサバ)主に加工用としてノルウェーな
どから輸入されているサバで、ゴマサバのようにお腹の斑点はありませんが、
マサバよりも背中の縞模様が黒みがかってはっきりしているのが特徴です。
7
鯖の文化・伝統
・散飯(さば)。お盆に鯖の開きを頭で重ねお備えする。[ 奈良県山添村 ]
・鯖棒寿司は加賀祭り、祇園祭り、時代祭に欠かせぬ料理。[ 京都 ]
・秋祭りにバッテラを食べる。[ 北摂(大阪北部、兵庫南部)地方 ]
鯖を使った伝統的な加工食品
・へしこ [ 若狭地方 ]、鯖節
鯖の郷土料理
料理名
地域
説明
さばの馴れすし
若狭
昔は 4-5 月のサバを塩漬けにし、9 月の祭り
に使ったもので、土用の間に発酵するので美味
しいと言われました。
さばの棒ずし
京都
酢サバを棒状に固めた飯の上に昆布と共に貼
り、竹の皮で締めたもの。若狭の一本釣りの春
サバを用いるのが最高とされています。
大阪
大阪商人の代表的なお菜。問屋街の船場で塩
サバのアラと季節の大根の汁を奉公人に食べさ
せたのが発端。ゆずを添えて熱いところを頂き
ます。
大阪
箱を使ったサバの押しずしで。バッティラ(ポ
ルトガル語の平底ボートの意)に似ていること
から命名。明治時代に大量に獲れたコノシロを
使ったのが発端。
愛知県三河地方
サバの切り身と飯を柿の葉でくるみ、幾重に
も重ねてから重石をしたもの。古くから夏祭り
の保存食。香りの良い柿の葉には防腐効果もあ
ります。
博多
薄く切った後、ゴマサバは皮と血合肉を取り
除き、炒り胡麻、醤油、味噌と共に和える。ワ
サビ、揉み海苔をふりかけ茶漬けにすると、あっ
さりと食べられる。
船場汁
バッテラ
柿の葉ずし
サバの茶漬け
8
サバ類の水揚げベスト5
主な産地
日本各地で獲れるが、三陸地方、茨城、
千葉房州、静岡、長崎が有名。
サバ類漁港別水揚げ順位(2014 年度)単位:
(t)
第 1 位: 銚
子 [ 千葉県 ] 156,512
第2位: 八
戸 [ 青森県 ]
47,809
第3位: 石
巻 [ 宮城県 ]
35,712
第4位: 松
浦 [ 長崎県 ]
24,136
第5位: 境
港 [ 鳥取県 ]
19,576
参照データ:「水産物流通調査」
サバの漁獲時期
ブランド ( 順不同 )
月
11 月
12 月
1
サ
月
バ
〜
10
月 3月 ゴマサバは特に夏
月
月
10
6
----
---
マサバ(寒サバ)は 12 月から 2 月
-----------------------
秋
冬
9月
夏
8月
春
----
---
7
月
〜2
10 月
2
5月 6月 マサバ(秋サバ)は 9 月から 11 月
----
旬の時期
--------
月
サバ
月
4
ゴ マ
------------------
-----------------------------
マ
旬(とき)さば
[ 長崎県 ]
関さば(豊後水道)
[ 大分県 ]
金華さば(石巻市)
[ 宮城県 ]
八戸前沖さば(八戸市)
9
[ 青森県 ]
岬(はな)サバ
[ 愛媛県 ]
北釧鯖(ほくせんさば)
[ 北海道 ]
サバ類の資源状況
水産大学校 名誉教授 原 一郎 漁獲統計上はゴマサバとマサバの2種がさば類としてまとめて集計されている。最近はゴマサバの増加が目立つが、
漁獲の主体はマサバである。ゴマサバはマサバに比べると高温域(南方)に分布する。
マサバは太平洋系群と対馬暖流系群とに分けられている。資源が大きく変動するのは太平洋系群である。伊豆諸島
周辺海域で冬から春に産卵した太平洋系群のマサバ成魚は夏から秋にかけて三陸から北海道沖(高水準期のみ)に広
く索餌・北上回遊する。未成魚も同様な分布回遊を示す。一方、対馬暖流系群は、東シナ海の南部や九州西方海域の
広い範囲で冬から春に長期にわたり産卵する。夏季には東シナ海北部および黄海に達し、冬季に東シナ海南部に回遊
する群れや夏季に対馬海峡を経て日本海で索餌した後、冬季に日本海西南海域および九州西方海域を回遊する群れが
ある。また、一部に日本海北部に残留する群れが存在する。
ゴマサバは太平洋系群と東シナ海系群がある。マサバよ
万トン
500
りも南方域に分布するが、太平洋側ではゴマサバの増加に
ともない、ゴマサバの分布域はより北に拡大している。
400
サバ類 合計
300
日本周辺のさば類漁獲量は、1978 年の 163 万トンが最
高である。1991 年には最低の 26 万トンまで減少したが、 200
1997 年には 85 万トンに回復した。その後の変動を繰り返
100
しながらの減少傾向から、最近は 40 万トン前後(2012 年
44 万トン、2013 年 39 万トン)で推移している。
0
1965
マサ バ 太 平 洋
ゴマ太 平 洋
1975
1985
1995
2005
マサバ対 馬
ゴマ東 シナ 海
2015
日本周辺のサバ類資源量の経年変化
マサバ太平洋系群の漁獲量(漁期年:7 月〜翌 6 月)は、
( 水 産 庁:魚 種 別 系 群 別 資 源 評 価 より)
1978 年のピーク(147 万トン)後に、1990 〜 1991 年
に 2 万トン水準に減少した。その後は回復し、最近は 10
〜 13 万トン(2012 年 12.5 万トン)で推移していたが、2013 年には 22 万トンに急増している。資源量は 1970
年代の 400 万トン前後の高い水準から、1998 〜 2003 年の 20 万トン水準にまで減少した。2009 年以降は回復し、
2012 年には 103 万トン、2013 年には 136 万トン、2014 年は 195 万トンと増加傾向にある。しかしながら資源
動向は増加ではあるが、資源水準は中位から低位と評価されている。
マサバ対馬暖流系群の漁獲量(暦年)は、1970 年代後半は 30 万トンの水準を維持していたが、1990 年は 13.1
万トンに漸減した。1996 年には 41.1 万トンに一時急増したが、再び減少した。1999 〜 2012 年の水準は 8 〜 13
万トン(平均 10 万トン)の横ばいで推移していたが、2013 年には 6.4 万トンに急減した。一方、資源は 1970 年代
以降、変動はあるものの比較的高水準に推移し、1996 年は 137 万トンのピークに達した。1996 年には済州島西漁
場で冬季にマサバ南下群が多獲された。これにより資源が急増したものと思われる。その後に済州島周辺に主漁場が
形成されず、資源は急減し、2000 年以降は 43 〜 70 万トンの水準(2008 年 70 万トン、2013 年 43 万トン)で推
移している。資源は低位・減少であると評価されている。前回の資源評価では資源動向は横ばいと評価されていたが、
漁獲量の急減の影響により評価は減少となった。
ゴマサバ太平洋系群の漁獲量(漁期年:7 月〜翌 6 月)は 2009 〜 2011 年に 18 万トン前後の高水準を維持して
いたが、その後は減少傾向にある(2012 年 13.5 万トン、2013 年 10.7 万トン)
。また、最近の資源量は 2012 年
74.4 万トン、2013 年 78.5 万トン、2014 年 85.5 万トンで増加傾向にある。資源は浮魚の中で唯一の高位・横ばい
である。
ゴマサバ東シナ海系群は、変動はあるものの長期的にみると 5 万トン前後の水準で安定した漁獲量が持続している。
最高漁獲量は 1999 年の 8.8 万トンで、2005 年には 7.6 万トンとピークがみられた。その後の漁獲量は減少傾向で、
2011 年には 4.9 万トンと一時的に回復したが、2013 年は 3.8 万トンで減少している。1992 年以降の資源量は 10
〜 24 万トンの範囲で変動幅は他の浮魚と比べて小さく、2008 年の 9.4 万トンを底に 2013 年は 13.4 万トン(2012
年は 12.9 万トン)と増加傾向にある。過去3年の漁獲量は減少傾向にあるものの資源状況は中位・増加である。
10
鰯
イワシは、世界で 300 種類
以上、日本周辺では 26 種類も
ありますが、よく知られてい
るのは次の 3 種類です。
マイワシ
カタクチイワシ
ウルメイワシ
マイワシ
いわしと言えば、このマイワシを指すほどで、最盛期 ('88 年 ) には 450
万トンもの漁獲量があり、その後激減し一時は貴重品的存在でしたが、最近
は回復の兆しがみえています。体側に1列あるいは2列、7個くらいの黒斑
が並んでいるのが特徴で、別名は「7つ星」。成魚は全長 25cm 程度、日本
最高記録は 35.8cm です。
カタクチイワシ
下あごが上あごより極端に短いとこから「片口」と呼ばれており、体型は
マイワシよりもスマートで丸みがあり、成魚でも 15 センチ程度。シラスは
カタクチイワシの仔魚で、関西ではチリメンジャコと呼ばれます。正月料理
のゴマメ(田作り)は幼魚。
ウルメイワシ
体型はマイワシに似ているが黒斑がなく、目が大きく潤んで見えることか
らこの名がつきました。成魚は 30 センチ程度、マイワシやカタクチイワシ
のように大きな群れをつくらないため漁獲量は少ないですが、他のイワシと
比べると漁獲量は安定しています。冬場の塩干品は非常に美味で珍重されて
います。
11
鰯の文化・伝統
・ 節分の 2 月3日に、焼いた鰯の頭を柊に差して魔除けとして門口に
飾る風習「柊鰯」がある。
(東北、関東、関西)
鰯を使った伝統的な加工食品
[ 干物等 ] くさや、うるめ丸干し、煮干し、ごまめ、しらす、
ちりめん、 みりん干し、たたみいわし
[ 缶詰・漬物 ] 水煮、蒲焼、オイルサーディン、おろし煮、卯の花漬け、
明太子漬け、ぬか漬け、ママカリの酢漬け
[ 練り製品・つく田煮他 ] つみれ、蒸しかまぼこ、焼きちくわ、
すり身揚げ、角煮、しぐれ煮、昔煮、小魚アーモンド、
顆粒煮干し調味料、イワシエキス
鰯の郷土料理
料理名
握り寿司
地域
東京
じんだ煮(ぬか炊き) 北九州
いわしの塩煎り
いわしの胡麻漬け
説明
江戸前握りの代表ですが、その昔新鮮な鰯が手に入
り難かった地方では酢〆が主流でした。現代では、関
西でもイワシの握りは人気があるようです。
ぬか味噌、ぬか床をだし汁で炊いたもの。イワシの
新鮮さが美味しさの決めて。薄い酢水で一度湯でこぼ
す等の下処理で、特有の青臭さを抜くのがコツ。
金沢周辺
金沢から能登半島にかけての郷土料理。料理とも言
えぬ単純なものであるが、おかずというより箸休めの
ようなもの。大根おろしや醤油、酢を好みでかけて食
べる。
千葉
日本一のいわしの好漁場、九十九里浜ではいわしを
長く保存する方法が昔から伝えられています。胡麻漬
けは、おかずや酒の肴だけでなく、行事食として昔か
ら親しまれています。
「わが国の水産業 あじ・さば」(社団法人 日本水産資源保護協会)より
12
マイワシの水揚げベスト5
主な産地
日本各地の沿岸
マイワシ漁港別水揚げ順位
(2014 年度)
単位:
(t)
第1位:
銚
子 [ 千葉県 ]
46,769
第2位:
釧
路 [ 北海道 ]
20,523
第3位:
八
戸 [ 青森県 ]
12,848
第4位:
広
尾 [ 北海道 ]
9,763
第5位:
奈 屋 浦 [ 三重県 ]
7,261
参照データ:「水産物流通調査」
イワシの漁獲時期
旬の時期
ウ
4
月
10
11 月
12 月
1
ウルメイワシの旬は 5 月から 8 月
ブランド ( 順不同 )
--------------------------------------
5
月
月
月 3月 秋
冬
9月
夏
8月
春
月
〜
1
7
月
2
5月 6月 カタクチイワシの旬は 5 月から 8 月
-----------------------------------------------------------------------------------月
--〜8
マイワシの旬は 6 月から 8 月
月
月
4
-----------------イワシ
--- マ
-----クチイワシ
タ
---- カ
----シ
ワ
----イ
---メ
ル
5 月〜
月
11
13
入梅いわし(銚子市)
[ 千葉県 ]
大羽いわし(淡路島 )
[ 兵庫県 ]
マイワシの資源状況
水産大学校 名誉教授 原 一郎 浮魚の代表格であるマイワシは 50 年から 100 年程度の増減を繰り返し、大きく変動する。
近年の高水準期は 1930 年代と 1980 年代である。現在は低水準期ではあるが、ここ数年の
状況をみると回復の兆しがある。マイワシは資源の高水準期と低水準期には分布域が拡大・縮
小する。資源水準が高くなると、索餌場はより北方へ、産卵場は暖流域(黒潮、対馬暖流)の
より上流域へ(南方へ)拡大する。南北に大きく回遊するマイワシは、太平洋側(太平洋系群)
と日本海側(対馬暖流系群)の2つのグループに分けられている。両者を比較すると、同様な
変動パターンを繰り返すが、資源量・漁獲量ともに2倍程度の差がある。この差は分布域の広
さの違いなどが考えられる。
高水準期の太平洋側では夏の索餌期に、ま
き網の大漁場が形成される北海道釧路沖の道 2 0 0 0
東漁場が有名である。日本海側では反対に冬
の越冬期から産卵期に日本海西南部から九州
西岸の沿岸域に主漁場が形成される。さらに、
太平洋側では春には遠州灘にシラス漁場が形 10 0 0
成され、冬には未成魚南下越冬群(1歳魚)
を対象とした漁場が犬吠埼周辺海域(産卵場
の北側)に形成される。太平洋側と日本海側
とでは漁場形成・漁獲量水準には違いがみら
0
れる。
万トン
太平洋系群
対馬暖流系群
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
日 本 周 辺 の マイワシ資 源 量 の 経 年 変 化
かつての高水準期には 300 万トン近く漁
( 水 産 庁:魚 種 別 系 群 別 資 源 評 価 より)
獲した太平洋側の漁獲量は、1993 年には
100 万トンを、2002 年には 10 万トンを下回り、2005 年、2008 年には 2 万トン水準にま
で減少した。その後は増加傾向で 2013 年には 14.8 万トン(2012 年 10.1 万トン)であった。
一方、対馬暖流域では、1980 年代には 150 万トン以上漁獲されたこともあったが、その
後は急速に減少し、2001 年には 1 千トンまで減少した。2007 年の漁獲量は 1.4 万トンと近
年では最も多く、最近では 2010 年の漁獲量 5.6 千トンから 2013 年 8.6 万トン
(2012 年 3.4
万トン)に急増している。
太平洋系群の資源量は 1980 年代には 1,500 〜 2,000 万トンの高水準に達した後に急速に
減少し、2003 〜 2009 年は 10 万トン台の水準で推移したが、その後は急増し、2014 年は
77.3 万トンと推定されている。この急増にともない最北の道東海域のまき網漁場では 2014
年には 3.9 万トンの漁獲があった。資源は増加・回復の顕著な兆しをみせている。
対馬暖流系群の資源量は太平洋系群と同様な推移であるが、1980 年代の高水準期には
1,000 万トンと推定されている(ピークは太平洋系群の1年遅れである)。2001 〜 2004 年
には 1 万トン以下となったが、その後は微増傾向となり、2014 年の資源量は 29.2 万トンと
推定されている。資源は高水準期には及ばないが、中位水準で、太平洋系群と同様に増加・回
復傾向にある。
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