地域の足をどうする - 北海道東北地域経済総合研究所

North East Think Tank of Japan
NETT
89
No.
2015
Summer
地域の足をどうする
CONTENTS
▪羅針盤
▪元気企業紹介
▪特集寄稿
▪国連防災世界会議
▪地域活性化連携支援事業成果報告
▪地域アングル
▪地域トピックス
▪現場だより
▪海外調査研究
▪東日本大震災復興関連情報
▪共同研究
▪連載 ・ 歴史研究
▪ほくとう地域の文化資本
横手市交流センター「Y2ぷらざ」
(秋田県横手市)
ほくとう総研
E
N
N
W
N
E
W
羅 針 盤
SE
SW
北海道東北の生活交通を
創生することの意味
S
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
教授
森 栗 茂 一
生活交通を確保し、学校を守り、地域を維持することは、ひとり、僻地の高齢者移動確保のみならず、
少子高齢化のなかでも豊かな国土を守りきるという、崇高な使命をおびた挑戦である。各地で、数多の
努力がなされている。
戦前、東北から徴兵された兵士に乙種が多かった。陸軍省軍医総監小泉親彦は、東北の貧しい生活に
こん
気づき、1935年「東北地方衣食住改善調査」を、同潤会の今和次郎に依頼した。今は農村生活改善運
動を始めた。西山卯三も同潤会に入り、
『住宅問題』(1942年)を出した(『學士會会報』第893号、
2012年)
。戦後、GHQ が農村民主化を指示し、農林省に農村生活改善の助言をしたのも今和次郎であっ
た。一方、西山卯三は、戦後の公団住宅(寝食分離の2DK)を提案し、高度経済成長を支えた。
地域の暮らしを守り、考えるということは、今や西山のように、国土計画の未来形成を描くことであ
る。単にコミバス、コミュニティタクシーの整備、地方鉄道の収支向上、LRT(低床高規格トラム)・
BRT(高規格バス)の計画といった交通モードに矮小化してはいけない。少子高齢化でも、いくつもの
誇りある暮らしを創る、地方創生の課題なのだ。
なかでも、地域の希望の核である学校を守りぬく島根県隠岐島海士町のとりくみは感動的である。超
高齢化した地域に地域支援員を送り込み、村ごと安心して暮らしつづける、まるごとターミナルケアと
いう大胆なむらづくりが、九州にある。多様な挑戦が各地ですすめられている。クルマがなくとも安心
して暮らせる地域づくり、緊急車両の短時間到達による総合的な交通計画は、このような挑戦するむら
づくりの基盤である。
自治体は、安心して暮らせる誇りあるまちづくりのビジョンを掲げ、道路 ・ 自転車も含めた交通条例
をさだめ、社会資本整備費を活用し、事業者協力、市民協力を求め、総合交通政策運営体(上下分離の
上:経営体)に公共交通の経営をさせることである。茨城県では、ひたちなか海浜鉄道に公募社長を求
め、鉄道によるまちづくりがすすんでいる。
道路特定財源は社会資本整備費としてその運用裁量が自治体に任されており、公共交通と道路を有機
連関させた計画は自治体、首長の責務である。紀伊半島の過疎地を抱える奈良県は、県が公共交通条例
を作って取り組んでいる。ところが、
(公共)交通条例を定めている自治体は未だ8にすぎず、北海道東
北には新潟市を除けば、一つもない。
フランスは交通税による赤字補填があるから、LRT が整備され、BRT は太平洋のニューカレドニア
にまで計画されているといわれるが、違う。フランスは、条例にもとづく交通協力金であって税ではな
い。あるのは、交通投資によってグリーンニューディールをすすめるというサルコジ政権のビジョンで
あり、それを実行する自治体の条例である。
福島交通、茨城交通、北近畿タンゴ鉄道など投資会社との連携、鉄道の上下分離も重要であるが、バ
スや道路も含めた上下分離の経営が求められ、法的環境も整いつつある。交通事業者との連携で、道の
駅をハブとしたまちづくりを進める自治体もある。ないのは、道路を含めた総合交通ビジョンと、条例
による制度的担保、事業運営体の整備といった自治体の覚悟である。ビジョンが明確で制度的担保があ
れば、内外のファンド公募が可能となる。
大阪大学では、道路 ・ 交通を活かした総合的交通まちづくりの PPP など地域投資の実践を研究して
いる。ファイナンスも含めて、新時代に挑戦する自治体と、ぜひ議論したい。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
1
NETT
NETT
CONTENTS
No.89●2015 Summer
特集
地域の足をどうする
羅針盤
・北海道東北の生活交通を創生することの意味
大阪大学コミュニケーションデザイン ・ センター 教授 森栗 茂一 ………………   1
元気企業紹介
・十勝バス株式会社(北海道帯広市) 代表取締役社長 野村 文吾 氏 ………………   4
一軒ずつ訪問してお話を伺うところから始まった 特集寄稿
・地域公共交通の面的な再構築に求められる視点
福島大学経済経営学類 准教授 吉田 樹 ………………   8
・地域統合型「当別ふれあいバス」の実践
北海道大学大学院公共政策学連携研究部 教授 高野 伸栄 ……………… 13
・上下分離を用いた地方鉄道運営の再考
大同大学情報学部 准教授 小澤 茂樹 ……………… 18
・「わ」の鉄道 ~青い森鉄道線の長い路線がつなぐもの~
青森県企画政策部 青い森鉄道対策室 主幹 辻 貴子 ……………… 23
・「地域公共交通システムのあり方に係る調査」報告書について
~地域にとって重要な足の確保のために~
株式会社日本政策投資銀行 地域企画部 参事役 伊藤 陽 ……………… 26
国連防災世界会議
・「第3回国連防災世界会議パブリ
ック ・ フォーラム」開催について
株式会社日本政策投資銀行 東北支店東北復興支援室 課長 有賀 正宏 ……………… 32
地域活性化連携支援事業成果報告
・北海道の公共施設の現況と課題
公共施設マネジメント研究会 北海道大学公共政策大学院 教授 石井 吉春 ……………… 36
・東北加速器関連産業戦略ビジョン ~ Accelerating Japan ~
東経連ビジネスセンター センター長 西山 英作 ……………… 42
・地方都市のニュータウンの居住実態と住宅継承意向 ~福島市蓬莱団地の事例調査~
福島大学共生システム理工学類 准教授 川﨑 興太 ……………… 46
地域アングル
・「あるもの」を活かそう ~北海道新幹線開業へ向けて~
北海道新聞函館支社報道部 次長 中川 大介 ……………… 51
地域トピックス
・フードバレーとかちで取り組む魅力ある地域づくり
フードバレーとかち推進協議会 事務局主査 藤芳 雅人 ……………… 52
・苫東工業基地内での植物工場によるイチゴ栽培について
一般社団法人北海道食産業総合振興機構 販路拡大支援部長 成田 裕幸 ……………… 56
現場だより
・「民の視点」で進める港湾運営
株式会社新潟国際貿易ターミナル 総務部次長 鶴田 立一 ……………… 60
東日本大震災復興関連情報
・復興トピックス ~復興特区支援利子補給金制度の活用~
株式会社日本政策投資銀行 東北支店東北復興支援室 副調査役 板倉 理沙 ……………… 68
共同研究
・「新幹線ほくとう連携研究会」の活動について
一般財団法人北海道東北地域経済総合研究所 事務局 ……………… 69
連載 ・ 歴史研究 北方の王 奥州藤原氏四代
・第4回 基衡の平泉王国樹立
福島県立医科大学 非常勤講師 佐藤 健治 ……………… 70
ほくとう地域の文化資本
・「人と人とが つどい、つながる 交流拠点」を目指して ~横手市交流センター「Y2ぷらざ」~
横手市まちづくり推進部地域づくり支援課市民協働係 上席副主幹 佐藤 英晃 ……………… 74
HOKUTOU DIARY/編集後記
特集
地域の足を
どうする
元気企業紹介
十勝バス株式会社(北海道帯広市)
代表取締役社長 野村 文吾
氏
一軒ずつ訪問してお話を伺うところから始まった
平日の帯広駅前バスターミナル。特急から
降り立った観光客やビジネス客がスマホを操
作した後で路線バスに乗り込んでいく。操作
していたのは路線検索のアプリ。最寄りのバ
ス停、出発時刻、到着時刻はもちろん、運賃
も表示される。
一軒ずつお客さま訪問、バスの乗り方チラ
シ、
「日帰り路線バスパック」
、アプリ。成功
体験を積み重ねお客さまを増やしている「黄
色いバス」十勝バス株式会社の野村文吾社長
にお話を伺った。
○出張の際に路線バスも使いたいのですが、最
寄りのバス停の名前もわからないし、どこを
通るかもわからずバスに乗るのは恐いもので
す。そうした中、御社のアプリはパッと情報
が出て感銘を受けました。
観光プロモーションはイベントの際にステー
ジから不特定多数を対象に行うのです。でも、
不特定多数だと響かないですよね。そこで、
ステージの上から1対1のプロモーションに
切り替えたら成果が上がったのを感じて、1
お客さまのニーズを探って、その原理原則
対1でやれば物事は伝わるのだな、という感
をついていけば、必ず利用につながるような
触を得たのです。戸別訪問は1対1に持ち込
アイテムや商品ができるという確信がありま
む手段ですから、戸別訪問が素晴らしいので
す。供給側が自己都合でサービスや商品をつ
はなく、1対1でやろうと思ったら戸別訪問
くっている場合がありますから、そうではな
だったという流れなのです。
くてお客さまの都合にあわせてつくっていく
それと、道東自動車道が帯広まで延伸する
ことが重要なのではないでしょうか。
際、十勝への入り込みを多くし経済効果を生
むため利用促進の運動をずいぶん行いました。
○バス停周辺のご家庭を戸別訪問してチラシを
配ることから営業を始めたと聞きました。不
特定多数のお客さまを対象とする公共交通機
関で営業をかけるというのは珍しいと思いま
すが。
私は、当社に入社する前、西武グループの
企画宣伝部にいたので宣伝業務が主でした。
4
NETT
NETT No.89●2015 Summer
2年間の取り組みの後、道東道が開通した。
開通後はたくさんの方が訪れる十勝に生まれ
変わったのを目の当たりにしたものですから、
これはいける、という感触を自社の取り組み
に持ち帰った。私の中ではある程度の手応え
があったのです。
○各地のバス会社が御社のように取り組むなら
ば、どのような地域でもお客さまが増えてい
くのでしょうか。それとも、御社だからうま
くいったのでしょうか。
どこでやっても同じ結果になると考えてい
ます。ただ、成果をどう捉えるかではないで
しょうか。当社も最初は一つの停留所で1~
2人しかお客さまが増えていないと落胆して
「黄色いバス」十勝バス
いたのです。でも、パーセント表示に切り替
えると200%だ、300%だ、という話をした瞬
間、誰もが可能性を感じ始めた。もし全ての
ければモチベーションが湧きませんから、モ
停留所で同じことが起こったら、当社のお客
チベーションが湧かなければ取り組めません
さまは2倍、3倍になっていく、もしかした
よね。成果が出ないような取り組み方をして
ら可能性があるのではないかと。
モチベーションを下げているのではないかと
もともとバス会社というのは、長い間お客
思うのです。
さまが減り続けているので、増やすのは不可
帯広の人口は17万人です。利用率を10%ま
能だと思い込んでいる。お客さまがどういう
で上げたいとなると、お客さまを1万7千人
環境にあるのか知らずにこちらの都合で営業
まで増やさなければいけません。本当に1万
政策を打っている。当社が突き止めたのは、お
7千人がバス路線上にいるのか、1時間に1
客さまはバスの乗り方が分からないというこ
便しかない場所で本当に10%まで増やせる
とでした。なぜ突き止めたかというと、バス会
のかということを細やかに考える中で、お客
社はお客さまがバスの乗り方を知っている前
さまニーズを取り入れていかなくてはなりま
提での営業戦略しか打っていないからです。
せん。
そこに乖離が生じていたのです。このため、当
社はバスの乗り方を示したチラシを「おびひ
○「白樺通19条」の停留所から戸別訪問の取り
ろバスマップ」の後ろに入れて配ったのです。
組みを始め、停留所を使うであろうお客さま
○人口が減少して、かつ地方ではモータリゼー
形で営業強化してこられたのですね。
ションも進んでいます。バスを使うお客さま
の需要を取り込んでいくのは大変だと思うの
ですが。
の声を聞いて、だんだん停留所ごとに広げる
そうです。一つの停留所から始めて、その
路線上の隣りの停留所、反対側の停留所と一
つずつ増やしていって、1年かけて一つの路
全然そうは思わないです。どこをどう切り
線をやり終えた時、お客さまが20%増えてい
取るかだと思いますよ。例えば、一家で車を
たのです。でも、他の路線は全部マイナスだっ
4台持っているとしても、バス路線上にある
たので、全体ではプラスになりませんでした。
一家と、バス路線上にない一家では全く意味
私達の中では確実にこのやり方は合っている、
が違います。成果を測る時に、バス路線上に
もっと磨きをかけていくべきだと思ったので
ない一家も含めて増えていないと議論するの
すが、全体ではマイナスですから世の中から
では、成果を取り違えてしまいます。
評価されなかった。お祭りがあったとか、バ
だから、一般的にバス会社は総売上や総乗
ス路線上に大きな商業施設ができたとか、何
降客数に縛られ過ぎて、動けなくなっている
か偶然があったから増えたのでしょう、と言
のだろうと私は想像しています。成果が出な
われました。だけど、そんなことはないのは
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
5
元気企業紹介
私達が一番よく知っています。それをいくら
当社が最初に「バスパック」に取り組んだ
伝えても誰も信じてくれないのです。これが
時は、各施設の方々からは精算に手間がかか
一番つらかった。当社は3年取り組んで、よ
るので遠慮したいという声が多かったのです。
うやく全事業でプラスにしました。その時初
その中でも、十勝シーニックバイウェイの仲
めて世の中がソロッと動き始めたのです。
間と議論している中で、今まで定期観光バス
3年間信じてもらえなかったけれども当社
が走っていなかったので回してみようとチャ
としては売上がプラスになっているから何も
レンジしたところお客さまが増えたのです。
痛くはないのです。ただ、世の中には当社と
なぜ増えたのか分析したら、各施設もプロモー
同じように苦しんでいるバス会社があって、
ションしてくれていた。今までは自家用車、
どこも良くなれる要素があるのに、その方法
レンタカーでないと来られなかったのだけど、
を信じられない、というのですから、それが
定期観光バスがあるので来てくださいと各施
つらかったですね。
設がプロモーションしてくれたことによって
総数が増えたのです。そこで、施設がセール
○帯広駅前バスターミナルで「日帰り路線バス
パック」の案内をもらいました。施設利用券
とバス往復乗車券がセットで、行ってみたく
なりますね。
スするとお客さまが増えるという実体験があ
りますから、他の施設でもやりましょうとい
うことで「バスパック」のコースが作りやす
くなりました。
そうですね。昨年は4,300人にこの商品を利
皆さんメディアを通じて十勝バスと組めば
用して頂いて、6~7割は地元以外の方です。
良いことになると思って頂いています。そう
そもそも、自分の地域でバスの乗り方が分か
いう意味では善循環に入っているのだろうと
らないから乗らないのに、知らない土地に行っ
思います。
て乗る人はいません。そこをぶち破った商品
なので、私はこの商品はバス活性化の切り札
だと思っています。
○人口減少、少子高齢化の中でも、全国の地方
の路線バスはまだまだやれるとお考えでしょ
うか。
もちろんです。全国のどこの都市を見ても、
交通のしっかりしているところが街としてき
ちんと機能しています。地方に行くと、悪循
環の中で公共交通がしっかりしていないとこ
ろが多いのです。それに対して、行政も市民
も公共交通をしっかりさせればうちの街は良
くなるとは誰も考えていない。ここに問題点
があるのです。素晴らしい事例がたくさんあ
るにもかかわらず、前例主義なのか誰も目を
向けません。非常に残念なことをしていると
思います。良いところだけを組み合わせれば、
必ず良いものができると思うので、是非チャ
レンジしていただきたいものですね。
「日帰り路線バスパック」ご案内
6
NETT
NETT No.89●2015 Summer
○最初に大きな目標を掲げ過ぎて動けなくなっ
○他のバス会社やタクシー会社はライバルでは
ているからでしょうか。
ないのですか。
おっしゃるとおりです。当社はそこを全て
ライバルにお客さまを取られると社内から
変えました。初めてやるものは全てできるだ
も反対が出ました。でも、パイを増やしシェ
け小さくして、削って、削って、余計なもの
アすればお客さまをお互いに増やせるのです。
は一切付けない。成功事例を分析してこれに
私は、四方善し理論を実践しています。お客
行き着いた。小さくすると失敗も小さいから
さま善し、競合相手善し、自社善し。この三
批判されない、小さくすると負荷が小さいの
つが善くなれば四つめの地域が善くなります。
で取り組みやすい。かける時間も短く労力も
本当にパイが増えたとして、仮に競合相手
小さいので PDCA が早く回ります。
にパイが流れて当社が駄目になったとします。
成功したら、何をどうすればうまくいくか考
それでも、当社の社員はこの様に率先して取
えながら次の取り組みを組み合わせていきま
り組むことによりスキルアップしていますし、
す。10年経ったら大きく変わります。その進化
パイが増えて他社がとても伸びているはずで
系が使って頂いたアプリです。最初は一軒ずつ
すから、当社の社員は引っ張りだこになりま
訪問してお話を伺うところから始めました。
す。そうすると、経営者である私はその責任
を取らなければなりませんが、当社の社員は
○絶対にこれをやりたい、というものを教えて
ください。
必ず幸せになれます。万が一最悪の事態が起
きたとしても社員は豊かに幸せに暮らせる。
私は、十勝をグアムのような観光地に、東
社員を愛する、大切にすれば、そういう発想
北海道をハワイのような観光地に、北海道を
になっていくと思うのです。
ヨーロッパのような観光地にしたいと思って
今はスピードの時代ですから、アプリの普
います。北海道を日本で最大の観光地にした
及と十勝圏二次交通活性化推進協議会の取り
いのです。そのためには、それぞれの会社が
組みを進めるには時間は短ければ短いほど良
やっている全ての交通網をネットワーク化し
い。当社が最初に営業強化をやり始めた頃は、
て、誰もが、行きたいところに、いつでも、
方法は間違っていないだろうけれどもこれが
簡単に、しかも便利に行けるようにすれば必
きちんと成就するのが早いか、当社が燃料高
ず実現できる。それを実現するのがアプリで
で駄目になるのが早いか、賭けだと思ってい
す。アプリを普及させたい。北海道庁が、多
ました。もうあのような賭けはしたくないの
言語化の予算をつけてアプリの開発支援をし
で、短期間にやれるように最善を尽くしたい
てくれています。海外からのお客さまを呼ぶ
と考えているのです。
ことに使えれば海外でも使える訳ですから、
(文責:ほくとう総研)
アプリで世界進出していきたい。そして当社
のノウハウを取り入れていってもらいたいと
思っています。
それから、旅行の方々が何の不安もなく行
ける「バスパック」をもっとくまなくやりた
い。そのために、他のバス会社やタクシー会
社に仲間になってもらい十勝圏二次交通活性
化推進協議会を立ち上げ、ノウハウを全社に
提供してエリア全体で攻めるというやり方を
しています。
【会社概要】
設 立:1926年
代 表 者:代表取締役社長 野村文吾
資 本 金:5,000万円
本 社:北海道帯広市西23条北1丁目
1番1号
TEL 0155-37-6500(代表)
従業員数:255名
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
7
特集
地域の足を
どうする
地域公共交通の面的な再構築に求められる視点
福島大学経済経営学類
准教授
吉 田 樹
関わった栃木県内の事例をケーススタディと
1.
はじめに
して検討したい。
地域の鉄道や路線バスをはじめとした地域
公共交通は、市民の日常社会生活に欠かせな
い移動を支える重要な役割を担っているが、
わが国における乗合バスの輸送人員は、1968
2.
「おでかけ」の機会を提供する
地域公共交通
年度の年間101億人をピークに漸減傾向とな
地域公共交通の「利用者離れ」が進んだ要
り、2013年度は年間42億人弱に止まっている。
因として、モータリゼーション(自動車利用
しかし、近年では、こうした「利用者離れ」
が市民生活に浸透した現象)と少子高齢化が
にも歯止めがかかりつつあり、地域公共交通
よく挙げられる。確かに、自家用車を利用す
の「あり方」を変える好機ともいえる。他方
れば、
「利用したいときに」
「どこへでも」行
で、交通政策基本法の施行(2013年12月)を
けるため、時刻や停留所が定められた地域公
受け、地域公共交通活性化 ・ 再生法が一部改
共交通は「不便なもの」と思われがちである。
正され(2014年11月)
、
「国土のグランドデザ
また、少子化により通学者が減少すれば、公
イン2050」
(2014年7月)に示された「コンパ
共交通需要の縮小にも繋がりかねない。しか
クト+ネットワーク」の形成に寄与するため
し、地域公共交通が「高齢者の足」として欠
に、地域公共交通網の「面的な再構築」が求
かせないのであれば、むしろ、高齢化により
められるようになった。
需要が増進する可能性もあるのではないか。
そこで本稿では、地域公共交通の「面的な
図1は、わが国における高齢者の運転免許保
再構築」に求められる視点について、筆者が
有者率を年齢階級別に求めたものである*1。
図1 高齢者の年齢階級別運転免許保有率の推移
80.0%
運転免許保有者率
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
75.8%
57.0% 58.8%
61.2%
45.5%
42.4%
45.0% 30.7%
20.0%
10.0%
27.2%
17.3%
5.1%
9.9%
0.0%
65-69歳
8
NETT
NETT No.89●2015 Summer
70-74歳
75-79歳
80-84歳
85-歳
運転免許統計(警察庁)で75歳以上の年齢階
相当するが、2004年末時点の運転免許保有者
級が細分化された2005年以降を対象にすると、
率は57.0%であったのに対し、2014年末には
すべての年齢階級で運転免許保有者率が上昇
41.2%に低下している。同様に、2004年末の
傾向にある。特に65~69歳では、58.8%(2005
時点で70~74歳だった階級も45.0%の保有率
年)から75.8%(2014年)と17ポイントの増
から2014年末(80~84歳の階級)には27.2%
加、70~74歳でも15.7ポイント増加し、前期
となった。一方で、2014年末の時点で65~69
高齢者では多くの市民が自家用車を運転して
歳の階級では75.8%の保有率となったが、2004
交通できる状況にある。一方で、85歳以上で
年末の段階*2
(55~59歳の階級)では79.1%で
も5.1%(2005年)から9.9%(2014年)と4.8
あり、減少率は明らかに低い。すなわち、高
ポイント上昇したが、前期高齢者と比較して
齢者は加齢に伴い、更新見送りや返納により
緩やかな変化である。また、近年では高齢者
運転免許を手放す傾向にあることが分かる。
の運転免許返納も増加傾向にあり、2014年中
その一方で、先に述べたように、高齢者の運
に返納した85歳以上の運転免許保有者は20,762
転免許保有率は、特に前期高齢者では増加傾
人と3年前の倍以上になったが、割合として
向にあり、
「運転しようと思えば外出できる」
は保有者の4%強に止まっている。しかし、
高齢者も増えているのである。
図中からは興味深い傾向を読み取ることがで
こうしたなかで、地域公共交通は、どのよ
きる。例えば、2004年末に65~69歳であった
うな役割を果たしていくべきか。地域の路線
年齢階級は、2014年末では75~79歳の階級に
バスやデマンド交通*3は「生活交通」と称さ
図2 足利市地域公共交通総合連携計画における「ゾーニング」
運行サービスの
段階構成イメージ
河北郊外部
市街地部
市役所
A赤十字
病院
中心部
河南の商業
集積地
JR
A駅
東武
A市駅
【中心部・市街地部】
JR線
公共交通サービスの戦略的
提供
W川
> 大幅な増便
(一日数往復
から1~2便/時)
を図る
河南郊外部
【河北郊外部・河南郊外部】
地域住民の「用足し」を支えるサービスの提供
> 日赤病院の外来受付時間、河南の大型商業施設、
鉄道駅、温浴施設にアクセス可能に。
*1
運転免許統計(警察庁)から集計した毎年末時点の年齢階級別運転免許保有者数を翌年1月1日現在の
住民基本台帳人口(総務省)で除することにより求めた。なお、2015年1月1日現在の人口は、本稿執
筆時点では確定値が発表されていないことから、推計値を用いた。
*2
2005年1月1日現在の人口(9,807,000人)に対する、2004年12月末の運転免許保有者数(7,756,908人)の
割合(いずれも55~59歳)
。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
9
特集 地域の足をどうする
れることがある。しかし、生活交通を維持す
し、人口も集中する市内中心部と市街地部で
ることが、ただちに市民の日常社会生活の確
は、従来の一日数往復の運行から、一時間に
保につながるというわけではない。現に路線
1~2便の大幅な増便を図る一方、人口希薄
バス等が運行されている地域であっても、生
の郊外部では、赤十字病院の外来受付時間に
活者にとって「頼りにされる」公共交通サー
間に合うダイヤを設定するなど、地域住民の
ビスが提供されていなければならない。運転
「用足し」を支えるサービスを提供する代わり
免許を手放した高齢者にとって、
「代わりとな
に、増便は実施していない。その結果、路線
る」移動手段をどう確保するかは大きな課題
再編実施前(2010年度)には年間100,448人で
となる。家族等による送迎も有力な選択肢で
あった利用者数が、2013年度には同164,915人
あるが、先に施行された交通政策基本法で「交
に増加し、とくに、高齢者 ・ 障害者以外の利
通が、国民の自立した日常生活及び社会生活
用者は、年間24,116人(2010年度)から同
の確保(中略)を実現する機能を有する」
(第
63,645人(2013年度)へと2.6倍に増加した。
2条)と記されているとおり、自立した「お
先述の通り、足利市は民間の乗合バス路線が
でかけ」の機会の提供を目指すことが地域交
撤退した自治体であるが、そのような場合で
通政策には求められる。そのためには、公共
も、みんなが「好んで」マイカーで外出して
交通サービスが買物や通院といった日常の生
いるわけではない。だからこそ、
「需要に応え
活活動を達成するうえで「使える」ことが重
る」だけではなく、
「おでかけ」の機会を提案
要である。
する地域公共交通計画を立案し、施策を実践
栃木県足利市(人口約15万人)では、1990
していくことが必要である。
年代に市内の民間路線バスが全て撤退し、同
市が運営する「足利市生活路線バス」が長ら
く3台の車両で市内の全域をカバーしてきた。
3.
地域公共交通を支える主体は誰か?
しかし、2011年7月に足利赤十字病院が郊外
地域公共交通を取り巻くステークホルダー
移転することを契機に、同市地域公共交通会
は、行政(とりわけ地方公共団体)と公共交
議は、
「足利市地域公共交通合連携計画」を策
通事業者に加え、市民や利用者など多様であ
定し、
「足利市生活路線バス」の大規模な再編
る。わが国の乗合バス事業は、2002年2月に
を実施した。主な内容として、足利赤十字病
規制緩和が図られるまでの間、公共交通事業
院の外来受付時間帯に路線バスで到着できる
者は、需給調整規制に基づき、事実上のエリ
区域を拡大し、市内の大型小売店である「ア
ア独占が認められてきた一方で、黒字部門(採
ピタ」を各路線のターミナルとするものであっ
算路線や貸切バスなど)の収益で不採算路線
た。また、こうした路線再編を実施するため
を維持する内部補助を強いられてきた*4。そ
には、従来の3台の車両で市内全域をカバー
のため、いわゆる「コミュニティバス」や「自
することは困難であることから、車両数を増
治体バス」を導入するほかは、地方行政が積
やすことを決断したが、あわせて公共交通サー
極的に公共交通政策に関与する場面が少ない
ビスの段階構成(ゾーニング)を定めた。移
状況が長らく続いた。しかし、乗合バス事業
転した赤十字病院と河南地区のアピタ、JR 足
の規制緩和を受け、地方行政が不採算路線を
利駅、東武足利市駅といった「拠点」が位置
マネジメントする責務を負うことが求められ
*3
利用者からの事前予約に応じて、その都度、運行経路やスケジュールを設定して運行する公共交通。
*4
したがって、乗合バス事業者に対する運行費補助は、現行の路線(系統)単位ではなく、赤字事業者が
対象となっていた。
10
NETT
NETT No.89●2015 Summer
図3 大田原市地域公共交通総合連携計画における路線再編イメージ1)
大高前
・大高
入口
西那須
野駅
東野交通 黒羽線
奥
沢
入
口
JR東北本線
日赤
入口
市役
所
五峰
の湯
福祉
大学
東野
交通
市
営
現 況
市営 黒羽線
馬頭
線
やすらぎの
湯
湯
津
上
線
なかがわ
水遊園
再編
大高前
・大高
入口
西那須
野駅
那須
日赤
JR東北本線
市役
所
至 那珂川町
五峰
の湯
新 黒羽線(交通軸)
奥
沢
入
口
旧日赤
入口
保健
センター前
黒羽
高校
黒羽
郵便局
保健
センター前
福祉
大学
黒羽
郵便局
バ
ス
停
な
し
黒羽
高校
事業2での
再編路線
再編後
・再編前の運行経路が異なる
区間については、バス停乗
降車数等を踏まえ、別途協
議により運行経路を決定。
・市役所等での乗り継ぎによ
り那須日赤病院へのアクセ
スを可能とする。
新
湯
津
上・
馬
頭
線(
交
通
軸
)
やすらぎの
湯
なかがわ
水遊園
至 那珂川町
るようになり、2006年10月の道路運送法改正
組織や各地で策定されている地域公共交通計
で創設された「地域公共交通会議」や、翌年
画では、ステークホルダーのリスク分担が明
に施行された地域公共交通活性化 ・ 再生法に
確に定められていないケースも多く、
「事業者
基づく法定協議会(地域公共交通活性化協議
任せ」か「自治体丸抱え」のいずれかに陥り
会)などの組織が多くの市町村で設置され、
がちである*5。
地方行政や公共交通事業者といったステーク
栃木県大田原市(人口7万5千人)は「大
ホルダーが参画し、地域公共交通の計画立案
田原市地域公共交通総合連携計画」に基づき、
や運営を担うようになった。だが、これらの
民間の路線バスと地域内の市町村運営有償運
*5
近年では、地域住民が組織化し、行政や公共交通事業者とともに、移動手段の確保を模索するケースも
増えている。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
11
特集 地域の足をどうする
送(自治体バス)を一体に再編したうえで、
くの市町村では、域内交通のみを維持や活性
路線の維持に対する、同市と公共交通事業者
化の対象として捉えているが、広域バス路線
のリスク分担を明確にした事例である。同市
と一体に議論することが、地域公共交通網の
の公共交通ネットワークは、JR 西那須野駅
「面的な再構築」を図るうえで重要である。
(那須塩原市)と大田原市役所を拠点に形成さ
れているが、JR 西那須野駅から大田原市街地
を経由して、旧黒羽町内および旧湯津上町内
4.
さいごに
までの区間は、東野交通の路線バスと市町村
本稿では、筆者が再編に関わった栃木県内
運営有償運送とが半ば並行する形で運行され
の事例をもとに、地域公共交通網の「面的な
ていた。しかし、双方とも不採算であること
再構築」に必要な視点について述べてきた。
から、大田原市にとっては「二重投資」となっ
足利市と大田原市の事例に共通していること
ていたのである。そこで、高校生の通学など、
は、地方行政と公共交通事業者がリスク分担
多くの需要が見込まれる JR 西那須野駅から
を明確にしたうえで、公共交通サービスの利
旧黒羽、旧湯津上町内までの区間を「交通軸」
便性を高める区域や区間(幹線軸)を定めた
と位置づけ、東野交通に運行を一本化したう
ことが、新たな公共交通需要に結びついたこ
えで、市町村運営有償運送は、市内循環線の
とにある。
「コンパクトシティ」は、集約型都
充実や交通不便地域におけるデマンド交通の
市構造の形成を指向するものであると捉えら
導入に振り向けることで、リスク分担を明確
れがちであるが、
「国土のグランドデザイン
にしつつ、ネットワークの充実を図った(図
2050」では、新たに「ネットワーク」という
3)。また、市内における東野交通の運賃は、
キーワードが付加された。すなわち、地域交
市町村運営有償運送にあわせ200円を上限に低
通政策をトリガーとして市民の交流機会を増
廉化させたが、公共交通事業者の運行する路
やし、ヒトと目的地(拠点)を結びつけるこ
線が「赤字」だから補助するという考え方で
とで、地域内経済内循環を高める一助とする
はなく、市町村運営有償運送との一体的な再
ことが「コンパクト+ネットワーク」の実現
編を推進する「トリガー」として、公的支援
には欠かせない視点であると筆者は考えてい
を位置づけたのである。その結果、東野交通
る。そのためには、どちらかと言えば、不採
と市町村運営有償運送(デマンド交通を含む)
算の公共交通サービスや公共交通空白地域を
を合わせた年間利用者数は、再編前の820,427
どうするかという点に注力されてきた従来と
人(平成24年度)から921,815人(平成25年
は異なり、まちづくりや地域政策との「接点」
度)に増加した
に着目した地域交通政策の立案が求められる。
。自治体バスやデマンド交
*6
通が域内交通の主体となっている市町村で
あっても、大田原市のように、隣接自治体を
参考文献
結ぶ広域バス路線が民間事業者によって維持
1)大田原市:大田原市地域公共交通総合連携
されているケースは少なくない。しかし、多
計画、2012.
*6
再編に合わせ、国際医療福祉大学への市町村運営有償運送を同校のスクールバスに移管しており、利用
者数には、当該数値も含まれている。
12
NETT
NETT No.89●2015 Summer
特集
地域の足を
どうする
地域統合型「当別ふれあいバス」の実践
北海道大学大学院公共政策学連携研究部
高 野 伸 栄
教授
て、当別ふれあいバスを紹介する。
1.
はじめに
地方都市においては、今後本格化する高齢
2.
当別町の交通概況
化社会に向けて、生活の足である公共交通を
如何に確保するかが大きな課題となっている。
当別町は札幌市と隣接しており、JR 学園都
このため、各都市においては地域の特性を踏
市線で40分という通勤圏内であり、町内に JR
まえて様々な取組みが行われている。一方、
石狩当別駅 ・ JR 石狩太美駅を中心とした市街
従業員、生徒 ・ 学生、患者、客等を対象とす
地が2箇所存在する。一方、市街地以外は農
る無料送迎バスは各地域で運行されている。
地が広がり、住宅が分散している。公共交通
これらを統合交通システムとして活用できれ
は当別町と江別市を繋ぐバス路線(当江線)
ば、事業者にとっても利用者にとっても有益
1本と町内のバス路線(青山線)1本のみで
になると考えられる。しかし、一般的に事業
あった。また、町運営のコミュニティバス ・
者側の制約は強く、これらを調整し、ひとつ
スクールバス ・ 福祉バスのほか、無料送迎を
のシステムとしてまとめ上げることはとても
行っている計6つの企業、大学、病院が存在
難しく、これまでに本格的な成功事例は乏し
していた(図1、表1参照)
。
い状況であった。本稿ではこの実践事例とし
表1 当別町内の運行バス一覧(平成17年6月時点)1)
路線名
青山線
当江線
スクールバス
福祉バス
住民バス
患者・学生送迎
運行主体
町営
(運行を貸切事業者に委託)
乗合事業者が運行する路線
(町が補助金を支出)
町営
町営
民間企業
(運行を貸切事業者に委託)
大学独自
バス保有台数
定員
運行本数
運賃徴収
利用者
統合バス参加
1台
15人
5.5往復
有り
不特定
参加
1台
41人
6 往復
有り
不特定
不参加
無し
特定(児童)
不参加
9台
特定
2台
41人
2 往復※ 1
無し
1台
29人
12往復
無し
特定(一部住民)
参加
無し
特定(患者・学生)
参加
無し
特定(患者)
参加
無し
特定(患者)
不参加
無し
特定(従業員)
不参加
無し
特定(従業員)
不参加
2台
29人
13回
41人
(循環)
(福祉施設利用者)
参加
4 往復
患者送迎
病院独自
1台
患者送迎
病院独自
2台
従業員送迎
工場独自
3台
従業員送迎
工場独自
1台
29人
20人
10人
7回
(循環)
6回
55人
8回
46人
(循環)
28人
1 往復
29人
1 往復
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
13
特集 地域の足をどうする
図1 当別町交通現況(統合化前)2)
3.
バス交通の統合サービスの実現
存の送迎バスの運行状況を踏まえ、統合型コ
ミュニティバスの運行路線や運行ダイヤ、実
民間の送迎バスを統合的に管理し、重複路
証実験期間中の運行主体、企業の負担金等に
線を減らすことで、新たな路線の整備や運行
ついて検討した。委員会での議論は、
「これま
便数の増加が可能になると考えられ、この検
でよりサービスが減少しないこと」
、
「複合化
討に際し、当別町バス交通体系調査検討委員
後の運行委託金が現在の運行コストよりも減
会が設置された。この委員会の主導は当別町
少すること」という条件に最も焦点があてら
が行い、最初に送迎バスを所有する企業を集
れた。結果として、民間送迎バスからの参画
めて説明会を行った後、参画の可能性がある
は、町内に本校があり札幌市あいの里地域に
企業と町と学識経験者が主な構成員となり、
分校がある医療系大学、地元の病院、宅地開
平成17年6月から平成18年1月までに4回の
発企業の3事業所の合意を得た。さらに、自
委員会と1回の勉強会を開催した。
治体バスとして、福祉バスの参画が決定した。
委員会では、住民アンケート調査結果や既
(表1参照)
図2 統合型バスコンセプト2)
14
NETT
NETT No.89●2015 Summer
当時を振り返り、当別町企画課長は3)
「バス
表2 統合前後のコスト比較1)
の運行は複数の事業主体からなるものを一元
複合化前
化し、今まで別々の事業者が走らせていたバ
スの本数を確保し、かつ別の路線も作り、それ
を限られた台数のバスで市街地を回そうとい
自治体
うものでしたから、当時の担当者はかなり頭
民間送迎
バス事業者
を抱えたと思います。役場の企画課の職員が
計
受け持つことになり、いかんせん運行ダイヤ
なんて組んだ経験もなく、最初は随分検討す
複合化後
コスト減少分
1,200万円
1,200万円
0万円
5,000万円※ 1
2,500万円
2,500万円
6,200万円
3,700万円
2,500万円
※1:車両購入費は含まない
る部分があったようです。それでも順次改善
され、大変良いダイヤになっていきました。産
算である。この表から、自治体は統合前後の
みの苦しみをしっかり味わいました。」という。
コストに増加はなく、民間送迎バス事業者の
コストは2,500万円と、大きく減少している。
一方、公共交通として、一般住民が使えるバ
4.
実証実験運行の概要
スのサービスエリア及び運行便数が拡大した
図3に示すように、医療系大学と病院、福
ことは大きな成果であり、利用者と事業者の
祉バスの重複区間を統合し、
「市街地循環線」
。
ウイン ・ ウインの関係ができあがったと考え
病院と青山線の重複区間を統合し、「みどり
られる。
野 ・ 青山線」
。医療系大学と宅地開発企業の重
運賃は一乗車200円の定額運賃であるが、全
複区間を統合し、
「西当別 ・ あいの里線」とし
路線乗り放題の定期券代わりの「応援券」を
て、4路線、7系統、87便を4台のバスで運
設定した。運行当初はバス交通がなかった地
行開始した。
域もあることから、利用を促すために一カ月
表2に、統合化前後の各主体の概算コスト
1500円と格安な料金としたが、運行収入の確
を示す。ここで、自治体の統合化前のコスト
保のため二度の値上げを行い、現在は一カ月
は町運営の路線バスと福祉バスのコストの合
4000円の料金としている。また、利用者の意
図3 平成18年実証運行路線2)
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
15
特集 地域の足をどうする
千 12,000
円
10,000
8,000
9,752
10,699
8,404
10,428
10,020
9,729
10,351
130,301
135,815
133,820
145,000
135,000
131,043
134,160 130,000
125,000
120,000
4,000
115,000
110,000
2,000
0
150,000 人
140,000
140,501 139,979
135,407
6,000
10,312
105,000
H18
H19
H20
H21
収入
H22
H23
H24
H25
100,000
利用者
図4 当別ふれあいバス収入と利用者数推移
見を取り入れプレミア率の高い回数券の作成
ごろく」や、
「交通日記」などを通じて、意識
や、小中学生対象の夏休み ・ 冬休み限定格安
の変容を促し、公共交通利用の利用促進の土
応援券も発行を試み、利用者の確保に取り組
台作りを行う。
んでいる。
利用者及び収入の推移は図4に示すとおり
⑶ バス祭りの開催
で、H22/H17で約6%人口が減少する中で、
公共交通と地球温暖化をテーマに、JR 北海
利用者、収入ともほぼ横ばいの傾向となって
道やバス事業者の協力を得て、① DMV(Dual
いる。
Mode Vehicle)
、②ハイブリッドバス、③ CNG
バス、④当別ふれあいバスで導入した小型ノ
5.
さらなる活性化に向けて
ンステップバス―などの展示と体験乗車をメ
インイベントとしたバス祭りを実施している。
平成20年度から三年間、国土交通省の補助
を受け、さらなる活性化に向けた以下の取組
⑷ バイオディーゼル燃料の活用
みを行った
当別ふれあいバスでは、バイオディーゼル
。
4)5)
燃料を軽油の代わりとして使用している。学
⑴ 予約型深夜バスの運行
校 MM においてもこれを題材として取り上
当別町方面の JR 札沼線の最終便は札幌市
げ、バスの体験乗車とともに、身近なてんぷ
内が終点で、当別町が最終となる便はそれよ
ら油が燃料に変わる仕組みを学ぶことにより、
り一時間早い。この解消に向け、札沼線最終
児童からの強い興味を引く題材となっている。
便の終着駅からふれあいバス停留所に向けて
なお、平成23年度からは国土交通省からの
走る、金 ・ 土曜日限定の予約型バスを試験運
補助金がなくなり、実証運行から本格運行と
行した。
なり、地域公共交通活性化協議会が中心とな
り、サステイナブルな交通システムに向けた
⑵ 小中学生向けの MM 教育の実施
学校 MM(Mobility Management)を展開
し、スライドを使用した授業のほか、
「交通す
16
NETT
NETT No.89●2015 Summer
さらなる取組みが進められている。
今後の行政の役割は自らの予算で事業を起
6.
おわりに
こしていくことから、地域のコーディネータ
当別ふれあいバスは、平成19年に地域公共
となり、新たな社会システムを構築すること
交通活性化 ・ 再生優良団体として、国土交通
が中心となると思われるが7)、本事例におい
大 臣 表 彰 を 受 け た。 ま た、 平 成 22 年 に は
ては、北海道庁から派遣された副町長が地域
JCOMM(日本モビリティマネジメント
会
の問題を見据え、強いリーダーシップを発揮
議)から、プロジェクト賞を受賞している。
し、地域のしがらみにとらわれずに事業者と
この時の受賞コメントは以下のとおりである。
の対等な立場で自ら交渉、調整に当たり統合
6)
「工夫とやる気次第でバスモビリティの改善プ
交通システムの取りまとめを行ったものであ
ロジェクトがここまで成功するということを
り、今後の地方における政策推進に大きな示
示した好例であり、この事例を学ぶことで勇
唆を与えるものであると考えられる。
気付けられる地域の数ははかりしれません。
イベントや関連する様々な工夫も豊かで、楽
参考文献
しく参加できるという MM の本質も体現して
1)大井元輝 ・ 高野伸栄、
「地方都市におけるモ
います。非常に完成度が高く、同時に更なる
ビリティ ・ マネジメントの挑戦」、都市計画57
発展可能性も期待できる他に模範となるプロ
ジェクトとして JCOMM プロジェクト賞に選
定されました。
」また、平成25年にも同マネジ
メント賞を受賞しており、以下のコメントが
なされている。
「住民ニーズにあった路線見直
し、ダイヤ改善が行われ、平成22年度のプロ
ジェクト賞を受賞後も、国の助成に頼らない
持続可能な運行の仕組みを法定協議会を通じ
て構築するとともに、地域性に配慮した普及
啓発も一層促進が展開されています。取り組
みが地域自体を変えつつあることが伺われる
とともに、大きな都市でなくともこれだけの
活動とその継続が可能であるということは評
価される。」
⑸、60-63、2008
2)当別町コミュニティバス運行事業の概要、
当別町
3)国土交通大臣表彰当別町ふれあいバス、北
の交差点 Vol.26、18、2010
4)鰐淵真太郎、
「官民共同のコミュニティバス
運行」、月刊地域づくり第248号、2012
5)http://www.town.tobetsu.hokkaido.jp/site/
koukyoukoutsu/、当別町地域公共交通活性化
協議会ホームページ
6)http://www.jcomm.or.jp/、JCOMM ホーム
ページ
7)北海道 成熟社会総合フォーラム、「「成熟
社会」の姿と実現に向けた取組」、2015
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
17
特集
地域の足を
どうする
上下分離を用いた地方鉄道運営の再考
大同大学情報学部
准教授
小 澤 茂 樹
れるが、その内容は EU 諸国のそれとは大き
1.
はじめに
く異なる。本稿では、先ず EU 諸国と日本の
1970年代から1980年代にかけて、モータリ
上下分離の違いや EU 諸国における線路使用
ゼーションの進展や国鉄(独占体)による運営
料の現状を示す。その上で、EU 諸国の上下
などが起因し、ヨーロッパにおける多くの鉄
分離を通し、日本における地方鉄道の今後の
道は利用者の減少や赤字に苦慮していた。こ
運営方法について若干の示唆を述べたい。
のことは、当時の大きな経済問題および社会
問題であり、その解決が急務であった。これら
の問題に対応すべく、1990年代以降、欧州連合
(EU)の政策として EU 加盟国(EU 諸国)で
2.
上下分離に関する
EU 諸国と日本の違い
は上下分離(線路の保有 ・ 管理と列車の運行
青森県と青い森鉄道の関係に代表されるよ
を分離した鉄道運営)を用いた鉄道運営が導
うに、現在、日本でも約25の区間で上下分離
入された。現在、EU 諸国における殆どの国鉄
による鉄道運営が実施されている。鉄道の運
は民営化され、旧国鉄が保有していた路線の
営が線路を保有 ・ 管理する主体(インフラ会
大部分では上下分離による鉄道運営が行われ
社)と列車を運行する主体(列車運行会社)
ている。多くの問題が存在するものの、EU 諸
に分離されている点において、日本と EU 諸
国の鉄道利用者からは「上下分離導入後の鉄
国の上下分離に違いはない。しかし、上下分
道は良くなった」という評価が得られている。
離の目的に着目すると、両者には大きな違い
上下分離を用いた鉄道運営は日本でも見ら
が見られる(図1)
。
図1 上下分離の分類
上下分離導入の背景に
ある鉄道政策
(上下分離の目的)
新線の
円滑な整備
導入の対象と具体例
都市鉄道の整備(北総開発鉄道-都市基盤整備公団、
阪急電鉄-神戸高速鉄道)
空港アクセス鉄道の整備(JR東日本-成田空港高速鉄道、
JR 西日本-関西国際空港株式会社)
都市間鉄道の整備
上下分離
既存線の
円滑な維持
新幹線(整備新幹線)
在来線(青函トンネル)
経営悪化への対応(北神急行-神戸電鉄)
新幹線の延伸等への対応(青い森鉄道-青森県)
地域分割(国鉄の分割民営化)の円滑な実施(JR 貨物会社- JR 旅客会社)
競争原理を用いた鉄道事業の活性化(EU 諸国)
18
NETT
NETT No.89●2015 Summer
⑴ 日本における上下分離の目的
ズ制)である。前者はヨーロッパ大陸の EU
上下一体の鉄道運営から線路の保有 ・ 管理
諸国の多くで導入され、後者は主にイギリス
を切り離し、列車運行会社の費用負担を軽減
で導入されている。なお、紙面の制約から以
することが、日本における上下分離の主目的
下ではオープンアクセスによる上下分離を対
である。言い換えれば、補助金の受け皿とし
象に述べるとする。
てインフラ会社を形成し、既存路線の維持や
競争による効率性を求める限りにおいて、
新線の整備を行うことである。一方で、従来、
列車運行会社間の競争は公平な条件の下で実
既存路線の維持や新線整備にかかる費用を公
施されなければならない。EU 諸国では、
「線
的機関が負担する仕組みが十分に整っていな
路は誰もが利用でき、差別的扱いを受けない」
かったことが、上下分離を進展させてきたと
ことが大原則であり、便宜が図られるような
も解釈できよう。
列車運行会社とインフラ会社の関係は禁止さ
日本の上下分離においてインフラ会社と列
れている。また、EU 諸国の政府は、インフ
車運行会社は相対関係にあり、また、両者は
ラ会社に対して公平な競争を実現させるよう
株式の保有などで強く結びついている。この
監視している。更に、混雑区間における列車
ように、インフラ会社と列車運行会社が運命
運行会社間の利害対立などの問題に対応すべ
共同体であることが、日本における上下分離
く、解決のルールや手順が設定されている。
の特徴の一つである。
⑵ EU 諸国における上下分離の目的
EU が鉄道政策として上下分離を導入した主
3.
線路使用料が果たす役割と
経済理論に立った線路使用料の設定
目的は、鉄道事業に競争原理を導入することで
⑴ 線路使用料の役割と設定のあり方
ある。つまり、線路の保有 ・ 管理と列車の運行
上下分離による鉄道運営においては、
「列車
を分離することで、列車運行会社間で競争が
運行会社はインフラ会社に線路使用料を支払
生じる環境を形成し、競争により補助金の削減
い、線路を利用する」という構造が生じ、そ
や運賃の引き下げ、輸送サービスの質(運行頻
こでは線路の使用に対する対価、すなわち線
度や定時性、使用する車両など)の向上をもた
路使用料が必要となる。一方で線路には以下
らすことが狙いである。EU 諸国では、比較的
のような特徴があり、経済理論の視点に立て
需要の大きい都市内鉄道でさえ日本と比べ輸
ば線路使用料の設定に対し、これらを考慮す
送需要は少ない。そのため、独立採算での鉄道
る必要がある。
運営は潜在的に困難であり、多くの鉄道運営に
①線路は希少な資源である(走行できる列
は補助金が不可欠である。この状況を踏まえ、
車の本数は有限である)
EU は鉄道への補助が回避できない前提の上
②大きな固定費が存在する
で、列車運行会社間の競争を通じ鉄道の効率
③補助金が交付されなければ、インフラ会社は
性を高めることを求めているのだ。
線路使用料で費用を賄わなくてはならない
上下分離による競争には、2つの形態が存
同一の線路を複数の列車運行会社が利用す
在する。1つは同一の線路(区間)において
る状況において、線路使用料には2つの役割
複数の列車運行会社が列車を運行することで
が存在する。1つはインフラ会社の費用を回
生じる競争(オープンアクセス)であり、も
収する機能であり、もう一つは線路という希
う1つは競争入札を実施した上で、特定区間
少資源を効率的に列車運行会社に配分する機
において一定期間の列車運行を1つの列車運
能である。なお、日本の上下分離については
行会社に使用させるシステム(フランチャイ
競争という概念が存在しないため、線路使用
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
19
特集 地域の足をどうする
料の役割は費用の回収に限定される。
ように、EU 諸国における線路使用料の設定方
異なる形式の車両が同一の線路を利用する
法や水準(単価)は各国ごとに異なる。その背
場合、重量や速度、走行性能などの違いによ
景には、費用を厳格に反映した線路使用料の
り、線路に対するダメージは異なる。また、
設定が極めて困難であることと共に、各国の
線路の状態(直線区間や曲線区間、平野地帯
輸送需要や財政の状況、交通政策などを線路
や山岳地帯など)によっても線路に対するダ
使用料に反映せざるを得ないことが存在する。
メージは異なる。一方で、混雑区間において
図3は各国において線路に係る費用を線路
は、混雑料金などを課し、線路を効率的に配
使用料で賄う割合を示している。バルト諸国に
分する必要がある。このように、線路使用料
おいては、国家財政が逼迫しているため、イン
の設定に際しては、数多くの費用要素を加味
フラ会社に対する補助金が十分に交付できず、
しなければならず、現実において経済理論に
その結果、線路使用料は高い。対照的に、ス
基づき、費用を厳格に反映した線路使用料の
ウェーデンやノルウェーでは人口が少ないこと
設定は極めて困難である。
から潜在的に輸送需要が小さく、インフラ会社
の独立採算が困難である。そのため、線路にか
⑵ 線路使用料の現状
かる多くの費用は補助金で負担され(線路使
EU 主要国における線路使用料の設定方針
用料で賄う割合は小さい)
、線路使用料の水準
(プライシング政策)を示したのが図2である。
は低い。なお、オランダでは鉄道は万人が利用
また、EU 主要国における線路使用料の水準を
できなければならないとの意識の下、社会政策
示したのが表1である。図2および表1が示す
の側面から線路使用料が低く設定されている。
図2 EU 主要国における線路使用料の概要
・ドイツ
ドイツにおける基本的なプライシング政策は、限界費用を参考に可能な限り線路利用の効率性を高める工夫をし
つつも、線路にかかる費用は全て使用料で賄うことである。プライシングは一部料金で構成され、限界費用にマー
クアップすることでインフラ会社の収支均衡を実現させようとしている。現在、インフラの総費用に対して使用料
で賄う割合は約60%であるが、将来においては100%を目指すことが目標とされている。この背景には、政府の補
助金に依存せず持続的な鉄道の運営を実現したい(将来においてはインフラ会社の民営化も視野に置かれている)
というドイツ政府の意図がある。
・フランス
フランスの基本的なプライシング政策は、限界費用を参考にしつつ可能な限り線路利用の効率性を高める工夫を
しつつも、線路にかかる費用は全て使用料で賄うことである。プライシングは二部料金で構成され、基本料金を設
定することで収支均衡を実現させようとしている。現在、インフラの総費用に対して使用料で賄う割合は約65%で
あるが、フランスではインフラの総費用のうち、オペレーションコストとメンテナンスコストについては全てを使
用料で賄うことが目標に設定されている。
・スウェーデン
スウェーデンの基本的なプライシング政策は、使用料を限界費用で設定することである。プライシングは一部料
金で構成されており、混雑に加え環境負荷や事故に関する費用も加味されている。このように、スウェーデンでは
他国に比べ、社会的費用を使用料に反映させることが意識されている。スウェーデンにおいて、インフラ会社の収
支均衡は目指されておらず、限界費用価格形成で設定されたプライシングから発生する赤字については政府が補填
する。そのため、インフラの総費用に対して使用料で賄う割合は約 5 %である。この背景には、スウェーデンで
は、イコールフッティングの考え方が政策に大きく反映されており、道路と同様に、使用料はインフラ利用者の限
界費用に設定されている。
・イギリス
イギリスの基本的なプライシング政策は、限界費用を基本としつつ、可能な限りインフラ会社の収支均衡を実現
させることである。旅客列車(フランチャイズを有した列車)については二部料金、貨物列車やフランチャイズを
有さない旅客列車については一部料金が適用され、基本料金を設定することで収支均衡を実現させようとしてい
る。現在、インフラの総費用に対して使用料で賄う割合は約50%である。かつて、イギリスではインフラ会社の民
営化が目指され、これに伴い、線路にかかる費用は全て使用料で賄う目的が立てられたが、Railtruck 社の破綻を
踏まえインフラ会社を政府から切り離す意図は薄れている。
20
NETT
NETT No.89●2015 Summer
表1 EU 主要国における線路使用料の水準
近郊
都市間
高速
貨物*2
フランス*1
1.404
~6.895
1.433
~6.578
5.019
~14.894
0.464
~5.609*3
ドイツ
2.624
~4.247
3.069
~7.416
8.889
~17.474
1.287
~6.798*3
スウェーデン
0.400
0.800
---
1.030
イギリス
0.887
2.365
---
9.229
単位:ユーロ/列車キロ
*1:フランスの数字に基本料金は含まれていない
*2:960トンの数値
*3:ドイツにおける最大値「6.798」およびフランスにおける最大値「5.609」は、高速線区(250㎞以
上)を利用した場合のものであり、現実には高速線区を利用した貨物列車は殆ど見られていない。この
点を踏まえれば、実質的なドイツにおける値は1.287-2.850、フランスの値は0.464と想定される。
図3 線路にかかる費用を使用料で賄う割合
リトアニア
ラトビア
エストニア
ポーランド
ハンガリー
デンマーク
ブルガリア
フランス
ドイツ
チェコ
ルーマニア
イギリス
スロバキア
スイス
オーストリア
ポルトガル
ベルギー
イタリア
スロベニア
オランダ
スウェーデン
ノルウェー
0%
20%
40%
60%
80%
100%
出典:ECMT(2005)を参考に筆者作成
4.
上下分離を用いた
EU 諸国の地方鉄道維持
企業が存在し、これらの企業が地方鉄道に参
入しているケースは少なくない。これらの列車
運行会社は新型車両を使用したり、新たな割
現在、EU 諸国では地方鉄道に新たな列車運
引サービスの提供、定時性の向上を実現して
行会社が参入するケースが見られている。ま
おり、利用者からの評価は「概ね好評」である。
た、EU 諸国の多くでは「鉄道の地域化」とい
地方鉄道の維持において重要になるのが、
う政策の下、地方鉄道の維持は地方自治体が
参入を促すことである。参入が自由であって
所管するケースが多く見られる。同一区間で複
も、参入者が登場しなければ競争は生じない。
数の列車運行会社が競争するケース(写真1)
参入障壁の解消や参入し易い線路使用料の設
もあれば、入札を通じて一定期間独占的に列
定、参入者の確保などを行い、競争環境を整
車を運行しているケース(写真2)もある。EU
えることが、地方鉄道の維持に対して政府や
諸国においては、Veolia や Keolis、Arriva の
地方自治体が頭を捻る処である。各国の輸送
ように列車運行事業をグローバルに展開する
需要や財政状況などにより線路使用料を設定
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
21
特集 地域の足をどうする
写真1 Verona(イタリア)近郊の地方鉄道に 参入した Trenord の列車
写真2 Venlo(オランダ)~ Düsseldorf(ドイツ)間を運
行するEurobahn(Keolis の子会社)の新型車両
※以前、同路線は旧国鉄を引き継いた FS のみが運行していたが、
現在では、FSと Trenord の車両が同一の線路を利用している。
※以前、同路線は旧国鉄を引き継いた DB のみが運行していたが、
現在では新規参入した Eurobahn が殆どの列車を運行している。
せざるを得ない事実だけを取り上げても、適
能力を有する人材の確保、鉄道運営に関する
切な競争環境の構築は容易ではない。しかし、
ノウハウの会得は新規参入者にとって参入を
容易ではないこそ、EU 諸国においては、こ
阻む要因となる。
こに政府や地方自治体の力量が試されている。
一方で、これらの問題への対応策が考えら
れる。例えば、運転手などの専門職人材をプー
5.
おわりに
22
ルする機関(会社)や車両のリース会社の設
立により参入の阻害要因を解消させ、多くの
EU 諸国の上下分離を踏まえた上で、最後
企業が列車運行事業に参入できる状況を形成
に、日本における地方鉄道の今後の運営につい
することが挙げられる。地方鉄道の問題は金
て、若干の示唆を述べたい。インフラ会社と列
太郎飴の如く全国に散見されるため、こうし
車運行会社が相対関係の下で、線路の費用を
た会社を地方自治体の連合体で設立 ・ 運営す
公的機関が補填し鉄道事業を維持する状況で
ることが考えられる。もちろん、国としては、
は、列車運行会社が効率的な運営を行うインセ
安全を担保しつつ参入が容易になる工夫を併
ンティブが十分に生じない懸念が残る。確かに
せて実施する必要もある。容易に列車運行事
ヤードスティック方式のように、現実の競争が
業に参入できるようになれば、地方自体体が
存在しなくても、効率性を向上させる考え方が
列車運行会社となり、競争を活性化させるこ
ある。しかし、現実を見る限り、鉄道において
とも一案になるであろう(
「公は交通事業がで
この考え方が十分に機能することは疑わしい。
きない」や「公=非効率、民=効率」という
これを解消する一つの施策として、競争を
固定観念が正しくないことは、京都府綾部市
目的とした上下分離は一考する価値があると
のバス運営が示している)
。
思われる。
「既存路線の維持に補助金が不可欠
人口減少 ・ 少子高齢化、就業人口の減少、
である」と許容されるのであれば、補助金の
経済の低成長など、地方鉄道の維持を取り巻
削減や同額補助金の下での輸送サービス向上
く環境は今後更に悪化することは明らかだ。
を求めることが合理的となる。その手法の一
こうした状況の下で、地方鉄道の今後を考え
つとして、列車運行会社間の競争は意義があ
る際には、新たな概念や思考、アイディアな
ろう。しかし、現状において、競争を活用し
どを検討する必要があるであろう。新たな思
た地方鉄道の維持には解決すべき課題がある。
考を検討する中で、本稿が僅かながらでもそ
特に、高い初期投資額や費用の埋没化、専門
の一助になれば幸いである。
NETT
NETT No.89●2015 Summer
特集
地域の足を
どうする
「わ」の鉄道 ~青い森鉄道線の長い路線がつなぐもの~
青森県企画政策部 青い森鉄道対策室
主幹
新幹線開業が生んだ「わ」の鉄道
辻 貴 子
新駅開業と新型車両の導入
平成27年度末には北海道新幹線新青森 ・ 新
平成26年3月、新駅「筒井駅」が開業した。
函館北斗間が開業する。新駅「奥津軽いまべ
青い森鉄道として新規に開業した初めての駅
つ駅」の開業は、本県にとっては、平成14年
である。住宅地が広がり、地元の小 ・ 中 ・ 高
の東北新幹線八戸駅開業、平成22年の新青森
校が位置する筒井地区と中心部の青森駅を約
駅開業に続く「第三の開業」となる。
5分で結び、通学 ・ 通勤にはもちろん買い物
青い森鉄道線は、この東北新幹線延伸とと
などにも便利な駅として、開業以来多くの方
もに JR 東北本線から移管され、平成14年12
に利用していただいている。
月1日に目時~八戸間が、平成22年12月4日
新駅開業日に導入された待望の新型車両「青
には八戸~青森間が開業した。路線の運営は
い森703系」は、ゆとりある車内とバリアフ
上下分離方式をとり、第3セクター青い森鉄
リーに対応した車両で、利用者にとって心地
道株式会社が車両を保有し、青森県が鉄道設
よい時間を提供している。その車体の1箇所
備を保守管理している。
だけに、ピンク色の「モーリー」が配置され
ているという遊び心が心憎い。
地域の足と物流の
大動脈を守るという使命
青い森鉄道の旅客列車は、上下合わせて1
日101本(平成27年3月14日改正時)運行し、
I GR いわて銀河鉄道線(盛岡~目時)
、JR 大
湊線、JR 奥羽本線、JR 八戸線との直通運転
も行っている。さらに貨物列車が1日に約50
本運行され、地域住民の日常生活の足として
重要な旅客鉄道線であるだけではなく、北海
道と首都圏を結ぶ我が国の物流の大動脈とし
ての貨物鉄道線の役割も担っている。青森と
新型車両「青い森703系」
岩手県境に近い目時~青森間の121.9㎞の路線
は第3セクター鉄道の中では最長の営業距離
であり、27の駅がある。複線電化のレール上
を、イメージキャラクター「モーリー」がラッ
沿線地域の心強いサポーター
ピングされた愛らしい車両が最高速度110㎞/h
青い森鉄道の沿線には、青い森鉄道を盛り
の高速で駆け抜ける姿には逞しさを感じる。
上げようと自主的に活動してくださる心強い
サポーターがいる。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
23
特集 地域の足をどうする
青森開業の平成22年、応援組織「青い森鉄道
プラットホーム~ぷらっとプラット~」が設
立された。事務局のパワーで長い沿線の中核
団体を取りまとめ、関係機関が一体となり鉄
道と駅舎の利活用を軸に沿線地域間の交流に
よる元気事業を創出している。事務局に対す
る地元からの信頼も厚く、沿線地域のネット
ワークが深まってきている。青い森鉄道を盛
り上げたいという会員の思いがこの会の活発
な意見交換にも現れている。この会の総会の
場で会員の思いがぶつかり合うくらい熱くなっ
地元の高校生と町内会による駅舎等環境整備
た時、理事長の一言があった。
「青い森鉄道株
式会社、行政、民間、それぞれが沿線地域でそ
れぞれの立場で盛り上げていき、この思いを
環境変化に対応するために
いかにひとつひとつ形にしていくかというこ
青い森鉄道の沿線には、鉄道を盛り上げよ
とが大事だと思う」と。いつも全力で青い森鉄
うと活動してくださっているサポーターも多
道を応援してくれるこの組織の存在は大きい。
いが、人口減少が進む中、青い森鉄道を取り
また、おいらせ町の向山駅をこよなく愛す
巻く環境変化も大きく、利用者の拡大は課題
る会員で組織する「向山駅愛好会」は、自分
となっており、現状は厳しい。
たちの手で駅舎の事務室を「向山駅ミュージ
しかし、今だからこそ、これまで培ってき
アム」に改装し、無人駅に新たな風を吹き込
たノウハウやネットワークを生かして、定期
んだ。平成23年11月にオープンしたミュージ
券以外の利用を創出しようと、青い森鉄道を
アムでは、国鉄時代に向山駅で使用されてい
インパクトのある話題で知ってもらい、お付
た案内板や切符類など、かつての向山駅をし
き合いではなく本気で応援してもらい、実際
のばせる多くのお宝の展示を行っている。会
に乗車してもらうことを目指し、県では様々
員手作りの鉄道ジオラマは子供たちにも大人
な乗車のきっかけづくりや沿線の魅力発信に
気で、今では全国に会員を持ち、全国の鉄道
取り組んでいる。また、青い森鉄道株式会社
ファンから注目される存在となっている。
においても、積極的に商品開発に取り組み、
その他にも、駅舎周辺の草取りや花壇の整
沿線の温泉施設とコラボした企画切符や土日
備など環境整備に取り組んでくださっている
祝一日乗り放題の「青い森ホリデーフリーきっ
沿線地域の方々は心強いサポーターでもある。
ぷ」のコンビニ券発売などを展開している。
毎年、年2回、沿線の農業高校の生徒たちと
地元町内会の方々が一緒に県南の各駅の一斉
環境整備活動を実施しており、この活動が長
24
走る市場「あおてつマルシェ」
年続いている。活動の参加者から「毎年、参
昨年度、利活用担当として青い森鉄道の沿
加しているが、いつも次の活動が楽しみだ」
線の方々とやりとりをする中で、沿線には魅力
との声もあり、この関わりの奥深さを実感し
が多いのだが、駅から沿線の観光施設へのア
ている。無駄な動きひとつない手つきで次か
クセスが難しいことを実感していた。それで
ら次へと作業を進める地元町内会の方々や高
も、もっと沿線のサポーターの協力で地元を巻
校生の姿には、地域を支えているという地元
き込んだ取り組みができないかと考えていた
の誇りと心意気を感じる。
ところ、沿線のサポーターや鉄道ファンの言葉
NETT
NETT No.89●2015 Summer
に導かれ、産直列車にたどり着い
た。観光施設が駅から離れている
ならば、逆に施設や地元の方に列
車に乗り込んでもらえればいいの
ではないか。それが、走る市場「あ
おてつマルシェ」の企画となった。
「あおてつマルシェ」とは、家族
やグループで青い森鉄道に乗車し
てみたいと思える商品づくりにつ
なげるため、昨年度から実施して
いるものである。定期列車の一部
を貸し切り、移動中の車内では、沿
線住民等が各駅から乗り込んで沿
線の地元食材等の車内販売を行う
平成27年度「あおてつマルシェ」告知ポスター
産直列車を楽しみ、時には列車内
をステージ等として活用しながら、列車を降り
会いがあるかと思うとワクワクしてくる。
てからも沿線の観光施設等をツアー形式で巡
るおいしさと楽しさを詰め込んだ列車である。
昨年度は10月から2月まで、計5回モデル
沿線を輝かせる場づくり
的に実施したところである。
「野菜収穫と畑レ
「あおてつマルシェ」の産直列車は、沿線の
ストランツアー」
、
「歌声列車と駅前食べ歩き
協力で成り立っている。短時間の車内販売の
ツアー」、「クリスマスファンタジア」
、
「温泉
間にもたくさんのエピソードやふれあいが生
巡りとうまいランチツアー」
、
「三沢スカイプ
まれている。また、昨年度はコスチュームや
ラザアメリカンランチツアー」と心躍るタイ
販売方法を工夫して、場を大いに盛り上げて
トルが並んだ。列車内でのギターとピアノ演
くださる地元の産直隊に、参加者が心打たれ
奏やクリスマスダンスには、スタッフでさえ
る場面もあった。思わず、販売している方に
目の前の光景に驚いてしまった。参加者の中
握手を求める参加者や、歌声列車で一番盛り
には全てに参加してくださっているリピー
上がっていた一般のビジネスマンとの出会い
ターもいる。女性3人組はこのツアーで出会
も忘れられない。
い、月1回の再会を楽しみにしているという。
地元を地元から盛り上げ、青い森鉄道と地
「県外にも海外にも旅行に行ったけれど、今は
域の一体感がさらに強まり、産直列車「あお
地元をもっと知りたくて、毎回、このツアー
てつマルシェ」が青い森鉄道の代名詞として
の前日はワクワクして眠れないのよ」と恥ず
定着すれば、外からも注目されるかもしれな
かしそうに話してくれた。2月の最後のツアー
い。青い森鉄道のキャッチフレーズ「わ」に
では、
「来年も楽しみにしていますよ」という
は、青森県内の方言で「私」を表す「わ」
、地
エールをもらい、そして、これから今年度の
域をつなげる「輪」などたくさんの意味が込
「あおてつマルシェ」の前半がスタートすると
められている。全線開業5周年という節目を
ころである。今年度は、さらに子供から大人
迎える青い森鉄道にとって、地域の足として
まで幅広く参加していただけるよう、新たに、
安全 ・ 安心にお客さまを運ぶことは重要な任
車両基地見学と沿線でのランチを楽しめる親
務である。そして、列車の沿線を輝かせる場
子ツアーを企画している。今年度も新たな出
をつなげる底力に期待したい。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
25
特集
地域の足を
どうする
「地域公共交通システムのあり方に係る調査」報告書について
~地域にとって重要な足の確保のために~
株式会社日本政策投資銀行 地域企画部
参事役
伊 藤 陽
掲題レポートは、人口減少時代の社会経済
て専ら民間乃至公営の事業者によって独立採
環境を踏まえ、活力のあるまちづくりモデルを
算を前提に運営されてきた。しかし、事業の
推進すべく、まちづくりの一端としての鉄道、
特性として固定費負担が重い一方で、高度経
乗合バスを中心とする地域公共交通システム
済成長期以降はマイカーの普及などによる利
のあり方に係る調査を実施したものである。
用者減少などを要因として、経営への影響が
深刻化しており、今後も人口減少時代に直面
1.
地域公共交通の現状と経緯
して回復が見込み難い(図表1,2)
。しか
し、高齢化の進行でますます交通弱者が増加
地域公共交通は、地域社会を骨格として支
することを踏まえれば、今後は、インフラと
えるインフラであり、従来は、営利事業とし
して必要な地域公共交通の機能を一定の公的
関与の下で維持していく必要がある。
図表1 鉄道事業者の経常損益状況
赤字事業者
50.0%
乗合バス事業者の経常損益状況
黒字事業者
50.0%
黒字事業者
27.3%
赤字事業者
72.7%
地域別には、地方鉄道では関東、近畿、乗
合バスでは東京圏、京阪神を除き、全ての地
域で損益が経常ベースで赤字となっているよ
うに、大都市圏を除いた多くの地方鉄道 ・ バ
ス事業者の経営基盤は脆弱である(図表3,
4)
。その結果として、全国で地方鉄道 ・ バス
路線の廃止が相次いでいる。
(出典)国土交通省「平成24年度乗合バス事業の収支状況について」
(http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_
hh_000152.html)、鉄道統計年報
図表2 ブロック別人口の推移及び将来推計
110%
2010年=100%とする
105%
100%
沖縄, 98%
95%
首都圏, 91%
90%
東海, 86%
全国, 84%
関西, 84%
九州, 81%
中国, 80%
北関東甲信, 80%
北海道, 76%
新潟, 75%
四国, 74%
東北, 74%
85%
80%
75%
70%
1980年 1985年 1990年 1995 年 2000年 2005年 2010年 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年
(出典)国立社会保障人口問題研究所推計(死亡中位 ・ 出生中位)をもとに日本政策投資銀行作成
26
NETT
NETT No.89●2015 Summer
図表3 地方鉄道地域別収支マトリクス(平成23年度)
経常損益(億円)
単位:億円
250
地 域
近畿
200
150
関東
100
50
0
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
-50
3,000
収入(億円)
収 入
経常損益
北海道
23
1
東 北
248
-32
北陸信越
443
17
関 東
2,465
105
中 部
883
-14
近 畿
2,191
213
中 国
287
7
四 国
192
7
九 州
130
-4
図表4 地方バス地域別収支マトリクス(平成25年度)
経常損益(億円)
単位:億円
100
京浜
80
60
40
千葉
20
0
-20
0
200
400
武蔵・相模
600
800
1,000
1,200
-40
-60
収入(億円)
(注)北関東:茨城県、栃木県、群馬県
武蔵 ・ 相模:東京三多摩地区、埼玉県、神奈川県(京浜を除く)
京浜:東京特別区、三鷹市、武蔵野市、調布市、狛江市、横浜市、川崎市
(出典)鉄 道統計年報、国土交通省「平成25年度乗合バス事業の収支状況について」
(http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000188.html)より
日本政策投資銀行作成
2.
欧州(英仏独)の現状と示唆
地 域
北北海道
南北海道
東 北
羽 越
長 野
北関東
千 葉
武蔵・相模
京 浜
山 梨
東 海
北 陸
北近畿
南近畿
京阪神
山 陰
山 陽
四 国
北九州
南九州
収 入
80
304
161
109
40
125
320
1,078
945
185
229
95
169
111
474
26
306
60
585
159
損 益
-20
-19
-39
-33
-6
-10
25
20
83
-16
-28
-7
-22
-13
6
-14
-40
-25
-12
-49
国ごとに見ると、サッチャー政権以降の英
国では、日本と同様に規制緩和の掛け声の下、
日本政策投資銀行では、欧州における先進
民間事業者が交通サービスを運営してきたが、
事例調査として、平成26年11月に、英国、フ
ドイツとフランスは自治体が独自の権限と財
ランス、ドイツの事例調査を行った。
源を有し、英国と比べ地域公共交通にも深く
欧州では、モータリゼーションが日本より
関わっている。ただしいずれの国でも、イン
先行して進行してきたが、現在では3ヵ国に
フラ整備や運営は、日本のように事業者が独
共通する特徴として、地域公共交通は自治体
立採算で行うのではなく、行政による助成措
が提供する「公共サービス」であるとの考え
置が不可欠なものと捉えられており、特にイ
方が基本となっている。
ンフラの保有は基本的に公有となっている。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
27
特集 地域の足をどうする
また、ドイツの鉱油税やフランスの交通税等、
ていくことが大切で、そのためには、関係者
地域公共交通の整備 ・ 運営費用に充てられる
において交通や都市計画分野での専門的スキ
独自の財源が確保されている。
ルの他に、プロジェクト ・ マネジメント、財務
マネジメント、人材マネジメントといった分野
また、ドイツに特有の取り組みとして運輸
での高度なスキルが必要となる。我が国の地
連合がある。運輸連合は、自治体(都市圏)
域公共交通に関わる官民の人材は、欧州の取
と交通事業者が協調し、運賃収受やダイヤ編
組事例を積極的に学び、自らの課題解決に向
成など各種の施策や取り組みを共通して行う
けた糸口を探っていくことが求められよう。
ものである。収益優先の交通事業者だけで解
決が難しいような課題について、政治的な観
点も踏まえ、自治体も関与して取り組んでい
くプラットフォームであり、利用者の利便性
を高め、地域公共交通の利用を促進すること
を目的としている。
3.
地域公共交通システムの
あり方に係る提言
⑴ 日本と欧州の公共交通
○日本と欧州の比較
日本と欧州3カ国の地域公共交通に対する
さらに、欧州の事例から得られる示唆とし
考え方は大きく異なっており、民営が中心の
て、以下のような点がある。
日本の地域公共交通維持への財政負担は、国、
⑴ 地域公共交通は、一定の財政負担を前提
自治体支出分を含めても1,000億円に満たず、
として担っていくべき公共サービスと見な
欧州主要国に比べるとかなり小さく、国内の
されており、地域住民に対する良質の地域
道路財源(約1兆7000億円)等と比べても少
公共交通サービスの維持と利便性の向上が
ない。しかし、日本も欧州と同様に成熟社会
重要視されている。
の段階にある現在、東京をはじめとする大都
⑵ 重要なキーワードは、
「持続可能なモビリ
市圏を除いては、事業者の自助努力にも限度
ティ」や「都市のモビリティ」である。こ
があり、民設民営を前提とするシステムは現
れらは、地域の活力を維持し、地域の魅力
実的ではなく、欧州のように、公的インフラ
を高める上で必要不可欠な要素と捉えられ
として公共がより強く関与する仕組みが必要
ている。
と考えられる。
⑶ 自治体は、都市計画と整合している中長
一方、財政制約の観点から、公的関与を強
期の交通発展計画を策定し、コンパクト ・
めた上で、地域の実状に応じた様々なステー
シティの概念が重要視されている。
クホルダーの資金の拠出と意思決定への参加
⑷ 自治体は、地域公共交通の運営の面でも、
による、公民連携手法(PPP)の推進によっ
交通事業者と積極的に対話を展開してきて
て地域公共交通を維持することも必要である。
おり、信頼関係が構築されている。
⑸ 自治体の交通担当者は、交通や都市計画
⑵ インフラ整備主体
の専門家であり、長年に亘り交通関連業務
今後の日本における公民の役割分担を踏ま
に携わってきている場合が多く、その経験 ・
えた地域公共交通の運営スキームは、地域の
知見は深い。
状況により、大きく分けて以下の3つの形態
が中心になると考えられる。
28
これらの点から、我が国においても自治体
○民有民営
が「持続可能な都市モビリティ計画」を、地
大都市圏など、ある程度の乗車密度が将来
域の交通事業者や住民との対話を通じ策定し
に亘って継続すると予想され、採算確保に支
NETT
NETT No.89●2015 Summer
障がない場合は、民間事業者が経営を行うこ
○公有公営(民間委託)
とが合理的であり、実際に運行を担う事業者
過疎地域等、乗車密度が低いため、公有民
もあることから、財政負担を伴わない「民設
営方式でも事業が成り立たず、参入事業者が
民有民営方式」で運営することが望ましいで
見当たらない地域で交通サービスを維持する
あろう。さらに公営バスと民間バスが同一地
必要がある場合には、交通サービスは住民へ
域内で競合している場合は、民間事業者の方
の社会福祉(行政サービス)と位置付け、税
が経営効率で勝っていることも多く、こうし
金を使って維持するしかない。ただし、運行
たケースでは民営化を検討すべきであろう。
客数や経営改善の成果を、時間軸を含めて他
一方、現時点では「民設民有民営方式」が
地域と比較できるような客観的なデータで示
望ましくても、将来は人口減少により乗車密度
すことと、交通空白を避ける手段(デマンド
が低下し、事業者だけではインフラ保有コスト
交通など)を住民対話型で検討することが重
を負担できなくなることもあり得る。適切なス
要である。また、この場合でも民間委託が可
トラクチャーのあり方は事業環境に応じて可変
能な場合は、インフラ部分は公有にしつつ、
であり、地域の実情を知り得る自治体を中心に
運行は事業者のインセンティブが保てるスキー
ステークホルダーが参加する法定協議会が、
ムを組み、民間活力を活用した住民サービス
タイムリーな意見集約と以下の公有民営方式
の向上に繋がる形が望ましい。
を含む運営方式の選択をする必要があろう。
○公有民営
⑶ 新たな資金調達方法
欧州では、地域公共交通のインフラ部分を
地域公共交通については、公共インフラと
公有にすることは、当然のことと考えられて
して、一定の公共負担により維持していくこ
いる。日本でも、鉄道を中心に既に公有民営
とが必要であることを見てきたが、一方、我
の動きは始まっており、平成27年度からは、
が国の公共部門の財政状況から、今後、大幅
公有民営を含む地域の独自の取り組みに対し
な負担増を求めていくことは限界があり、コ
国が産業投資資金を入れられるようになる等、
ストの負担方法について、様々な工夫をして
その流れは加速している。公有にすべきイン
いくことが重要である。例えば、車両の「オー
フラは、例えば欧州でみられたように、共通
ナーシップ制」や使途を地域交通に限定した
のバス停、駐車場、ターミナルや結節点、I T
個人からの寄付金(ふるさと納税)
、購入型ク
関連投資などが対象になるであろう。また、
ラウドファンディング、地域企業の社会貢献
ハードの新設だけでなく、道路の使い方(バ
的な観点からの出資や資産保有(交通事業者
スレーン等)など既存インフラの資源配分の
へのリース)
、ネーミングライツの販売による
問題も議論する必要がある。より高次元で、
資金集め等が考えられる。また、ふるさと納
全体最適的な「長期交通計画」を策定する中
税を原資とした行政によるコミュニティバス
で、個々の媒体や負担について議論がなされ
購入や、鉄道でのファンを対象としたクラウ
るべきであろう。
ドファンディングは既に始まっている。
図表5 地域公共交通についての公民の役割分担のイメージ
「公設」の場合
建設
公
保有
公
民
管理
「民設」の場合
民
運行
公
民
民
民
民
公
建設
公有公営 行政
公有民営 民間委託
公有民営 包括的民間委託
民有民営 民営化
民
保有
公
民
管理
公
民
民
運行
公
民
公有公営 行政
公有民営 民間委託
民
民
公有民営 上下分離
民有民営 民間
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
29
特集 地域の足をどうする
⑷ 生産性改善に係るイノベーション
公営バスと民営バスが重複している場合の民
○路線の改廃
営体制への移行、バスや LRT(次世代型路面
乗合バス事業については、全国各地で非効
電車)
、自転車、徒歩など異モードの組み合わ
率な系統配置やダイヤ編成により、また、郊
せ等全体の最適解の検討が必要であり、併せ
外地では減便などによる運行頻度の低下や乗
て公共車両優先の信号システムや、駐車場政
り換えの不便などで利便性の問題が生じてい
策、街づくり計画等、各種政策とのリンケージ
る一方、都市の中心部では、多くの系統が集
を図るため、自治体を中心としつつ市民や民
中して乗り入れ、過密なバスによる渋滞が慢
間 NPO を含めた、広範な関係者が参画する欧
性化している。この問題の背景には、利用客
州型の意思決定システムが必要となろう。
のニーズが、自らが居住する郊外の住宅地等
○ I C カード
と都市機能が集積する中心地を、乗り換えな
I C カードの導入は、日本のみならず、英国
しで直結することにあり、その前提としてバ
など欧州でも進みつつあるが、費用対効果の
スの乗り換えは不便だという事実がある。事
観点から、売上の少ない小規模な事業者では
業者の側でも中心部に乗り入れると、競合に
投資回収が困難であるという問題がある。そう
より乗車密度が低下して経営効率は下がるが、
した地域では地域公共交通についてのプラッ
それでも一般に郊外部や山間部よりも乗車人
トフォームである地域の法定協議会(※)が受け皿
員が多く、国からの幹線補助金等の獲得でも
となって整備すれば、各社の投資負担が少な
有利になることから、各社が中心部へ乗り入
くなり、導入が容易となろう。このようなケー
れ、結果として渋滞を生み出している。
スでは、国の補助制度である確保維持改善事
こうした問題の解決のためには、路線の再
業の採択でも優先されてしかるべきであろう。
配置により、輸送力のキャパシティを維持し
○観光振興策との関連強化
つつ渋滞を緩和し、バスを適正な水準に減車
地域の沿線住民のために存在する地域公共
して付加価値生産性(付加価値/従業員数)を
交通は、年間を通じて運行され、固定費がほ
向上させるべきである。ただし事業者だけで
ぼ決まっている。観光客利用で売上が増加す
は調整がつかないため行政が間に入ることや、
れば、事業者にとって収益の底上げ効果が大
きい。折しも既存の観光ルートに囚われない
インバウンドの個人旅行者が増えていること
から、いまこそバス&タクシープランなどで
周遊できる顧客満足度の高いコースを設定す
る等の工夫をすべきであろう。
○人 材
地域公共交通事業、とりわけバス事業につ
いては、極限まで省力化し、人員削減の余地
は乏しく、むしろ人手不足の顕在化により安
定的な運行の継続が危ぶまれる状況である。
各種事業を総合的に実施することにより、売
(※)法定協議会 市町村、都道府県が主宰し、地域の公共交通の問題を議論する際の、プラットフォームの役割を与えられてい
るもので、市町村、都道府県、運輸局、交通事業者、住民等の利用者代表、道路管理者といったステークホル
ダーに参加応諾義務が課せられ、また協議を経て合意した内容に対しては尊重義務が生じ、事業者とともに補
助金の申請主体ともなっている。
30
NETT
NETT No.89●2015 Summer
上増加や効率化によるコスト低減を実現するこ
祉、商業などの都市機能を誘導するための都
とによって、従業員の待遇、報酬改善を実現
市機能誘導区域と、居住推進区域を定めた都
し、モチベーションを高めることにより、良質
市計画と、それらの機能をネットワークでつ
な人材を安定的に確保することが可能になる。
なぐ公共交通のための交通計画を一体的に策
自治体の交通企画部門についても、より高
定することが不可欠であろう。
い専門的知識を持った人材が必要である。例
より人口の少ない中山間地域では、鉄道の
えば、人事ローテーションで公共交通のプロ
駅や主要なバス停など交通の結接点を中心に、
フェッショナルとして、専門性を持ち異動な
日常生活に最低限必要な機能を集約し、デマ
く働ける職制を作ったり、既に一部で行われ
ンド交通などでネットワーク化することが必
ているが、自治体職員と交通事業者の人事交
要であろう。
流、また自治体の交通担当者同士の人事交流
などが有用と思われる。
○補助金改革
⑹ 「運輸連合」的な取り組みと日本
モードを越えたシームレスな移動のための
日本の補助金は、これまで損失補填目的の
結節点の改善、物理的な段差が解消されるこ
ものが中心であり、事業者にインセンティブ
とや I C カード決済などハード面に加え、乗
がわきにくいものであった。運行の成績や品
り換え抵抗の少ない一元的なダイヤ編成と、
質によって委託費として支払われる金額が変
運賃抵抗が少なく何度も初乗り運賃を支払わ
動することを予め自治体と交通事業者が契約
なくて済むゾーン運賃制などは、利用者にとっ
したり、定額渡し切りの補助金制度によって、
ての利便性を大いに向上させるであろう。こ
事業者の努力により目標を過達した分は、事
の様な対策を行うに際しては、ドイツなどで
業者の収支改善になる様な仕組みが求められ
行われている運輸連合の取り組みなどは大き
る。また、補助金受給のタイミングを、事業
な参考となろう。
者の資金需要に合わせて、月割りなど分割支
ただし、これについては、日本では事業者
給にしたり、国際市況品である軽油価格の急
の自由意思と競争に基づくプライシングや商
激な変動など、個別の事業者の努力範囲を超
品設計を妨げると解釈され、独占禁止法の扱
えた部分は公的にカバーする仕組みの導入な
いで違法カルテルになる怖れがある(ドイツ
ど、運用面で改善できる点もあるだろう。
は独占禁止法を改正して運輸連合を合法化)
。
複数の既存事業者だけがカルテルを結んで競
⑸ 公共交通と連携した街づくり
争を阻害しているのではないことを示すには、
日本でも公共交通のネットワークを維持す
法定協議会等の場で活発な議論と合意形成を
る包括的な施策によって、特に一定規模以上
得ることはもとより、最終的には公益を代表
の人口を擁する地方の都市圏を中心に、これ
する自治体と、各事業者が個別に話し合って、
まで進んできた都市のスプロール化に歯止め
結果として地域にふさわしい交通体系を作る
をかけ、環境負荷が少ないネットワーク型の
必要がある(自治体主導の運輸連合であれば、
コンパクト ・ シティを構築する必要がある。
独禁法上の問題は原則として生じないとされ
そのためには、中心街には自転車や徒歩中心
ている)
。
で活動しやすいようにベンチなどを備えた快
適で回遊できる空間があることを前提に、コ
以上は、
「地域公共交通システムのあり方に
ンパクト ・ シティ形成に向けて策定された改
係る調査」の要約版である。詳細については
正都市再生特別措置法上に位置づけられる立
日本政策投資銀行のウェブサイトをご覧頂き
地適正化計画に沿って、居住機能や医療、福
たい。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
31
国 連 防 災
世 界 会 議
「第3回国連防災世界会議パブリック・フォーラム」
開催について
株式会社日本政策投資銀行 東北支店東北復興支援室
有 賀 正 宏
課長
1.
国連防災世界会議について
2.
パブリック・フォーラムの概要
国連防災世界会議(以下「世界会議」とい
仙台市、東北の被災各県及び諸団体の主催 ・
う。
)は、国際的な防災戦略を策定する国連主
参画により、復旧 ・ 復興、災害対応、防災 ・
催の会議であり、前回の世界会議は2005年に
減災に関する350以上のシンポジウム、セミ
兵庫県神戸市で開催され、国際的な防災の取
ナー、展示会等がパブリック ・ フォーラムと
組 指 針 で あ る「兵 庫 行 動 枠 組 2005-2015
して実施された。当行でも2件のパブリック ・
(Hyogo Framework for Action)
」が策定され
フォーラムを開催しているので、その概要と
ている。第3回となる今回の世界会議は2015
成果について、以下紹介することとしたい。
年以降の新たな国際防災の枠組を策定するた
め、2015年3月14日 ㈯ から18日 ㈬ にかけて
【パブリック ・ フォーラム ⑴ 】
東日本大震災の被災地である仙台市で開催さ
レジリエントな社会を実現する
れ、兵庫行動枠組の後継となる今後15年間の
金融イニシアティブ
新しい国際的防災指針である「仙台防災枠組
―災害リスク管理や災害発生後の
( Sendai Framework for Disaster Risk
復興における金融の役割―
Reduction 2015-2030)
」と今回の会議の成果
当行は、株式会社七十七銀行及び内閣府と
をまとめた「仙台宣言(Sendai Declaration)
」
の共催、復興庁、公益財団法人地域創造基金
が採択された。防災の新しい国際的指針の中
さなぶり及びミュージックセキュリティーズ
に、防災投資の重要性、多様なステークホル
株式会社から後援をいただき、防災 ・ 減災や
ダーの関与、
「より良い復興(Build Back Bet-
復興に果たす金融の役割をテーマとした
ter)
」など日本政府から提案した考え方が取
フォーラムを、TKP ガーデンシティ仙台勾当
台ホール1において、3月16日 ㈪ 14 : 30~
り入れられるとともに、防災に対する国際社
会のコミットメントを得て、防災の主流化を
進める上で、大きな成果を上げた世界会議と
なった。
世界会議は「本体会議」、「パブリック ・
フォーラム」、
「歓迎行事」で構成される。今
回の本体会議には、187の国連加盟国が参加
し、元首7か国、首相5か国を含め6,500人以
上が参加した。また、パブリック ・ フォーラ
ム等の関連事業を含めると国内外から延べ15
万人以上が参加し、日本で開催された史上最
大級の国連関係の国際会議となった。
32
NETT
NETT No.89●2015 Summer
〔会場の様子〕
18:00に開催し、金融機関、国、自治体等の関
〔開会挨拶〕
係者、民間企業など、約150名の方々にご参加
頂いた。
本フォーラムは、第Ⅰ部では、名古屋工業
大学大学院渡辺研司教授の基調講演、当行環
境 ・ CSR 部 BCM 格付主幹の蛭間芳樹の講演
を通して、企業における災害リスク管理の重
要性が指摘された。具体的には、渡辺教授か
らグローバル化 ・ 多様化する災害による被害
がサプライチェーンを介して広域化すること
に対して、企業が BCM を通じて如何に対応
していくべきか、またそこに金融機関はどの
〔基調講演〕
ように貢献していくべきかについて、蛭間か
ら、近年の災害事例から得られる教訓を踏ま
え、事業継続対策の重要性と当行 BCM 格付
融資のソリューション、保険やリースも含め
た金融機関 ・ 機能間の連携による対応につい
て指摘された。
第Ⅱ部では、当行東北支店長海津尚夫から
震災復興の現状と課題、当行の復興支援業務
について紹介した後に、公益財団法人地域創
造基金さなぶり理事長の大滝精一氏、株式会
社七十七銀行専務取締役の神部光崇氏及び
ミュージックセキュリティーズ株式会社代表
〔パネルディスカッション〕
取締役社長の小松真実氏にパネリストとして
登壇頂き、当行常務執行役員橋本哲実のファ
シリテートによりパネルディスカッションを
実施した。
パネルディスカッションでは、大滝氏から
はコミュニティ財団として大手企業と NPO の
寄付の仲立ち等の取り組みについて、神部氏
からは震災発生時の柔軟な顧客対応、復興に
向けたアセット ・ ベースド ・ レンディングを
始めとした資金支援の紹介のほか、金融機関
のコーディネート機能を活かした関係機関の
連携の必要性について、小松氏からはクラウ
本パブリック ・ フォーラムの開催により、
ド ・ ファンディングによる資金支援や金融機
レジリエントな社会の実現のためには、平時
関等との連携事例についてのご説明があり、
のリスクマネジメントと有事のクライシスマ
その後震災復興に果たす金融の役割について
ネジメントを統合した「総合的な危機管理戦
ディスカッションを行った。
略の推進」が重要であること、防災への民間
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
33
国連防災世界会議
の参画を促すとともに、公民連携や地域レジ
援プラットフォームに後援をいただき、災害
リエンスの強化のために金融機関が有する評
対応力強化に向けて被災地で見られた官民連
価機能 ・ コーディネート機能の発揮が必要で
携等による特徴的な取り組み等を採り上げ、
あること、投資や新たな金融手法の活用にお
そこから導き出される示唆と今後の取り組み
いて「金融の機関/機能間の連携促進」を図
のあり方などをテーマとしたフォーラムを、
ることが重要であり、また、新しい防災モデ
ルの「国内外への情報発信」を適切に実施す
TKP ガーデンシティ仙台勾当台ホール1にお
いて3月17日 ㈫ 10:15~15:00に開催し、国、
ることが併せて重要であることが共有された。
自治体等の関係者、金融機関、民間企業、一
般参加者など、約150名程度の方々にご参加頂
【パブリック ・ フォーラム ⑵ 】
いた。
東北内外の連携 ・ 相互協力による
なお、東北復興連合会議とは、東北支店東
災害対応力強化に向けて
北復興支援室が平成25年4月にとりまとめ発
―東北復興連合会議における
表したレポート「東北一体となった復興の方
東北一体となった取り組み―
向性」における提言を具現化する取り組みで
当行が事務局を務める東北復興連合会議は、
あり、東北内外の多様な主体による連携プラッ
岩手県、宮城県、福島県、東北大学災害科学
トフォームである。
国際研究所、東北経済連合会及び国際復興支
本フォーラムは、第Ⅰ部では、災害時の広
域支援や災害対応における産官学民連携の動
〔開会挨拶〕
向や広域連携の課題などについての東北大学
災害科学国際研究所教授の丸谷浩明氏の基調
講演、東北復興連合会議の取り組みについて
の当行東北支店東北復興支援室課長有賀正宏、
同副調査役大沼久美からの報告を行った。第
Ⅱ部では、民間企業側の災害対応における官
民連携状況の事例報告として東北電力株式会
社常務取締役の向田吉広氏から同社の震災時
の対応とそこから得られた知見を如何に活か
していくかについて、株式会社ウェルシィ取
締役の渡辺愛彦氏から同社の地下水膜ろ過シ
〔基調講演〕
34
NETT
NETT No.89●2015 Summer
〔パネルディスカッション〕
ステムの活用事例とその効果についての説明
重要性 ⇒「役割分担がなされた連携」
、②協
をいただいた。また、東松島市長の阿部秀保
定/マニュアルを踏まえた災害状況に応じた
氏、特定非営利活動法人遠野まごころネット
実践的オペレーション、有事に対応可能な現
理事長の多田一彦氏及び相馬市企画政策部情
場力養成の重要性 ⇒「実践への十分な備え」、
報政策課システム運用係長の田原秀雄氏にパ
③情報発信 ・ 共有 ・ 議論のための場 ・ 仕組み ・
ネリストとしてご登壇頂き、当行東北復興支
ツールの必要性 ⇒「場の設定」の3点に集約
援室長佐野成信のファシリテートによりパネ
され、平時からの顔の見える関係づくりが重
ルディスカッションを実施した。パネルディ
要であるという認識が共有された。
スカッションでは、官民連携を共通のキーワー
ドとしつつ、阿部氏からは東松島市の震災復
興の取り組みと JICA が仲立ちしたインドネ
シア共和国バンダ ・ アチェ市との交流につい
3.
震災の教訓共有と
被災地の復興に向けて
て、多田氏からは震災時に沿岸部のバックアッ
今回の世界会議は、上述の通りこれまで日
プ拠点となった遠野市におけるボランティア
本国内で開催された国連関係の国際会議では
コーディネートと災害支援の検証の必要性に
史上最大級のものとなっただけでなく、今後
ついて、田原氏からは GIS(地理情報システ
15年間の国際的な防災指針において「Sendai」
ム)を活用した罹災証明書発行などの相馬市
の名が冠されることとなった点においても、
の震災対応と復興フェーズにおける GIS 活用
開催地である仙台市にとっても非常に有意義
について、それぞれ被災地の特徴的な取り組
なものになったと思われる。
みの報告があり、これらを踏まえ災害対応力
国内最大級の国際会議を開催したことによ
強化に向けた官民連携のあり方についてディ
る知名度の向上や経験を活かし、観光振興や
スカッションを行った。
コンベンション誘致などを通して、今後の東
本パブリック ・ フォーラムは官民連携によ
日本大震災の被災地の復興、そして成長につ
る災害対応力強化を共通テーマとして、これ
なげていくことが期待される。そして何より
までの東北復興連合会議における議論を集約
も、国際的な防災指針に「Sendai」の名が冠
するものとなった。災害対応力強化に当たっ
されたということは、震災の経験 ・ 教訓から
て連携が非常に重要なキーワードとなること
得られた知見を活かした防災 ・ 減災先進地域
が確認されたが、その連携は官民間、民民間
として、今後来るべき国内外の防災 ・ 減災に
(異業種 ・ 同業種)
、同一地域内又は他地域間
貢献していくことが、震災時に受けた支援に
かに応じて、様々なバリエーションが考えら
対する恩返しともなろう。
れ、それぞれで成功要因、失敗要因は異なる
当行としても、企業理念「金融力で未来を
と考えられる。他方、バリエーションが様々
デザインします~私たちは創造的金融活動に
な中でも、その連携を実効性のあるものとす
よる課題解決でお客様の信頼を築き、豊かな
るキーワードは、①平時 ・ 災害時 ・ その後の
未来を、ともに実現していきます~」に基づ
復興時期において、多様な主体がそれぞれの
き、引き続き東日本大震災からの復旧 ・ 復興
得意分野を生かして対応する一方で、その分
や地方創生に向けた取り組みを積極的に支援
野が得意分野では無い周囲はサポート役に徹
してまいりたい。
するという明確な役割分担がなされた連携の
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
35
地域活性化
連携支援事業
成果報告
北海道の公共施設の現況と課題
公共施設マネジメント研究会
北海道大学公共政策大学院 教授
石 井 吉 春
題となっている。
1.
はじめに
本稿では、こうした問題意識をもとに、基
北海道における公共施設整備については、
礎自治体として多くの公共施設の管理に当たっ
札幌オリンピックが開催された1970年代と
ている市町村を対象に、人口規模別に道内市
1990年代に施設建設のピークを持つ自治体が
町村の主要な公共施設の現状をみた上で、今
多いとみられ、本格的な更新期を迎えるのに
後想定される更新費用の試算などを通じて、
は多少時間的な余裕もあり、施設の維持 ・ 更
施設更新にかかる課題や対応方向についても
新問題はあまり差し迫った問題と認識されて
検討している。
こなかった。
なお、本稿は、ほくとう総研の支援を受け
しかしながら、現実には手厚い国の支援の
て実施された公共施設マネジメント研究会の
下で、人口1人当たりでみたときに、他都府県
報告として取りまとめた論文の要点を紹介し
とは比較にならないほど多くの施設を抱えて
たものである。
いることに加え、急速に進む人口減少により
利用率の低下などが顕在化しており、他地域
よりも切迫した問題として捉える必要がある。
2.
北海道の施設整備水準
特に、上下水道などのネットワーク型のイ
内閣府の「日本の社会資本2012」によれば、
ンフラに関しては、北海道における人口密度
北海道における国と地方を合わせた社会資本
が本州以西とは比較にならないほど低い上に、
ストック(15部門)は、定額法による資本減
さらなる人口減少が進むと見込まれるなかに
耗を控除した純資本ストックベースで2009年
あって、どこまでの範囲を更新し、残りの範
に35兆円となっており、全国に占める比率は
囲はどうするのかといったぎりぎりの政策判
人口を大きく上回る7.6%に達している。
断を迫られる場面も想定され、より深刻な課
これに対して、総務省の「公共施設状況調」
をもとに、北海道の市町村による主な施設の
整備状況を総括すると、市町村道実延長は80
年の60.9千㎞が11年には71.1千㎞まで増加して
表1 北海道の主な施設整備状況
北海道
全国
全国シェア
市町村道実延長
㎞
71,068
1,023,931
6.9
公園面積
㎢
162
1,177
13.8
下水道の管路延長は32.1千㎞となっており、
る。また、水道の導送配水管延長は46.9千㎞、
公営住宅面積
千㎡
11,073
90,862
12.2
対全国比は、それぞれ6.5%、6.7%と道路と同
学校面積
千㎡
9,365
178,113
5.3
程度の比率となっている。また、建物に関し
その他施設面積
千㎡
12,862
191,845
6.7
ては、全体で33,300千㎡となっており、全国
建物施設計
千㎡
33,300
460,821
7.2
に占める比率は7.2%に達しており、なかで
水道導送配水菅延長
㎞
46,923
727,079
6.5
下水道管路延長
㎞
32,081
478,459
6.7
も、公営住宅は対全国比で12.2%と、際立っ
建
物
36
おり、全国に占める比率は6.9%に達してい
単位
NETT
NETT No.89●2015 Summer
て高い整備水準となっている。
図1 北海道の人口1人当たりの施設整備水準
人口1人当たり市道延長
350
300
現在水洗便所設置人口1人当
たり下水道管路延長
319人口1人当たり公園面積
250
200 161
129
150
100
給水人口1人当たり水道管路
延長
50
150
282
0
人口1人当たり住宅面積
122
167
155
人口1人当たり建物計
人口1人当たり学校面積
人口1人当たりその他面積
また、北海道と全国の人口1人当たり建物
全国平均を大きく上回っており、なかでも、
延面積を比較すると、全国の3.6㎡に対して、
3区分の1.8倍、2区分の1.6倍が突出してい
北海道は6.1㎡と全国の1.7倍の整備水準にあ
る。この区分で、北海道の市町村における人
る。人口規模別にみると、人口1,000千人以上
口減少が全国よりも顕著なことなどが、背景
の9区分が全国平均を下回っている以外は、
要因として考えられる。
表2 人口規模別にみた用途別の建物延面積
1
延
面
積
3
4
5
6
7
8
9
計
16,893
16,809
30,082
41,474
21,729
13,916
30,108
178,160
9,468
6,805
10,411
15,678
10,245
7,468
25,765
90,862
23,851
20,726
33,558
40,855
19,500
11,838
26,290
191,799
50,211
44,340
74,050
98,007
51,474
33,222
82,163
460,821
1,614
472
784
1,737
472
2,311
9,365
1,400
3,104
522
798
1,693
373
1,924
11,073
2,347
2,862
2,869
750
847
1,646
293
1,247
12,862
4,462
5,381
7,587
1,744
2,429
5,075
1,139
5,482
33,300
教育
3.6
2.7
2.0
1.8
1.6
1.3
1.3
1.3
1.1
1.4
公営住宅
3.1
1.7
1.1
0.7
0.5
0.5
0.6
0.7
0.9
0.7
その他
9.4
5.0
2.8
2.2
1.8
1.3
1.1
1.1
0.9
1.5
計
16
9.3
6.0
4.7
3.9
3.2
3.0
3.0
2.9
3.6
北
海
道
教育
4.0
3.2
2.3
1.9
1.5
1.5
1.3
1.2
1.7
公営住宅
5.9
3.9
4.4
2.1
1.5
1.4
1.1
1.0
2.0
その他
11.0
8.1
4.1
3.0
1.6
1.4
0.8
0.7
2.3
計
20.8
15.2
10.7
7.0
4.7
4.3
3.2
2.9
6.1
対
全
国
比
教育
111
119
114
107
96
110
108
113
122
公営住宅
192
236
390
292
282
284
180
110
282
その他
117
161
143
137
93
106
75
70
155
計
130
162
180
149
121
136
110
98
167
全
国
北
海
道
全
国
1
人
当
た
り
面
積
2
(千㎡ ・㎡/人)
教育
2,349
4,801
公営住宅
1,987
3,035
その他
6,085
9,098
計
10,421
16,934
856
1,119
公営住宅
1,259
その他
計
教育
(資料)上記3図表とも総務省「公共施設状況調」「地方公営企業年鑑」などをもとに作成。
(注)
人口規模については、1が5千人未満、2が5千人以上10千人未満、3が10千人以上30千人未満、4が30千人以上50千人未満、5が
50千人以上100千人未満、6が100千人以上300千人未満、7が300千人以上500千人未満、8が500千人以上1,000千人未満、9が
1,000千人以上で区分している。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
37
地域活性化連携支援事業成果報告
人口規模別の平均値を用いて、x軸に可住地
3.
人口規模と施設整備水準
人口密度、y軸に人口1人当たり施設整備水
人口1人当たりの公共施設整備水準は、種
準(建物の延面積、道路実延長、水道及び下
類を問わず、人口規模が減少するにつれて急
水道の管路延長)をプロットしている。
速に整備水準が上がっていることが確認で
これをみると、建物、道路、水道、下水道
きる。
ともに、明確に対数的な関係性が見出され、
図2では、全国の市町村を9区分した上で、
可住地人口密度が上昇するにつれて、急速に
図2 可住地人口密度と施設整備水準(全国)
60.0
人口1人当たり施設整備水準(㎡・m)
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
y =-3.387ln(x) + 31.088 y =-3.108ln(x) + 28.702
R² = 0.9562
R² = 0.9388
0
1,000
-10.0
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
建物
対数(建物)
8,000
y =-10.68ln(x) + 87.962
R² = 0.8267
y =-2.618ln(x) + 23.265
R² = 0.7247
-20.0
7,000
可住地人口密度(人/㎢)
道路
水道
対数(道路)
対数(水道)
下水道
対数(下水道)
図3 可住地人口密度と施設整備水準(北海道)
70.0
人口1人当たり施設整備水準
(㎡・m)
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
y =-3.982ln(x) + 33.837 y =-1.869ln(x) + 17.786
R² = 0.8444
R² = 0.9022
10.0
0.0
0
500
1,000
-10.0
1,500
2,000
2,500
3,000
3,500
y =-3.694ln(x) + 29.842
R² = 0.7907
-20.0
建物
対数(建物)
可住地人口密度(人/㎢)
道路
水道
対数(道路)
対数
(水道)
4,000
y =-12.12ln(x) + 91.233
R² = 0.7732
下水道
対数(下水道)
(資料)上記2図ともに、総務省「公共施設状況調」などをもとに作成。
38
NETT
NETT No.89●2015 Summer
4,500
5,000
1人当たり整備水準が下がっていることが見
て取れる。1区分の値は道路が最も高く、水
4.
更新費用と市町村財政
道、下水道、建物の順番となっており、建物
本稿で取り上げた建物施設、道路、水道、
が最も線形に近い関係になっている。また、
下水道について、北海道の市町村における更
北海道の市町村についても、同様にみたのが
新費用について、総務省が提供している更新
3であるが、ほぼ同様の関係が読み取れる。
費用試算ソフトで設定している数字をベース
人口規模が小さくなるにつれて、道路であ
に試算を試みる。
れば、可住地を超えて整備されることも多く
試算ソフトでは、建物の更新単価について
なるとみられるのに対して、他の施設では効
は、市民文化系 ・ 社会教育系 ・ 行政系施設400
率性が大きく下がる結果として、整備水準が
千円/㎡、スポーツ ・ レクレーション系施設
上がっているものと考えられる。1区分や2
等360千円/㎡、学校教育系 ・ 子育て支援施設
区分では、すでに人口減少の影響も大きく表
等330千円/㎡、公営住宅280千円/㎡としてい
れているとみられ、そうした部分については
る。更新時期等については、30年経過したら
今後調整を図っていく必要があると考えられ
大規模改修を行った上で、60年後に更新する
るが、規模が小さくなるほど効率性が下がる
としている。
ことを、全体としてどこまで許容していくか
一方、道路については、15年毎に舗装打換
については、様々な視点からさらに議論して
が必要として、一般道路の単価を4,700円/㎡
いく必要がある。
としている。水道の管路更新費用については、
耐用年数の40年を更新時期として、更新単価
表3 道内市町村における主要施設の更新費用試算
建物施設面積(千㎡)
更新費用(億円)
教育施設
公営住宅
その他
計
教育施設
公営住宅
その他
千㎡
計
50年平均
更新費用計
(年間)
億円
億円
千㎡
千㎡
千㎡
億円
億円
億円
億円
1
856
1,259
2,347
4,462
2,823
3,526
9,389
12,915
258
606
2
1,119
1,400
2,862
5,381
3,692
3,920
11,448
15,368
307
523
3
1,614
3,104
2,869
7,587
5,328
8,690
11,477
20,167
403
708
4
472
522
750
1,744
1,557
1,462
3,000
4,463
89
184
5
784
798
847
2,429
2,587
2,233
3,388
5,622
112
349
6
1,737
1,693
1,646
5,075
5,732
4,739
6,583
11,322
226
623
7
472
373
293
1,139
1,559
1,044
1,173
2,218
44
200
9
2,311
1,924
1,247
5,482
7,627
5,388
4,989
10,376
208
697
計
9,365
11,073
12,862
33,300
30,905
31,003
51,448
82,451
1,649
3,891
道 路
道路面積
水 道
05年舗装率 舗装更新費
千㎡
%
億円
1
2,409
48.0
54
2
4,365
50.0
103
下水道
15年平均
管路延長
更新費用
40年平均
管路延長
更新費用
50年平均
億円
㎞
億円
億円
㎞
億円
億円
3.6
10,205
10,205
255
3,584
4,444
89
6.8
6,354
6,354
159
2,024
2,510
50
3
5,978
52.5
147
9.8
8,286
8,286
207
3,531
4,378
88
4
7,267
50.8
173
11.6
1,714
1,714
43
1,629
2,020
40
5
7,418
73.7
257
17.1
5,216
5,216
130
3,594
4,457
89
6
13,555
66.3
422
28.1
7,001
7,001
175
7,802
9,674
193
7
27,329
62.6
804
53.6
2,213
2,213
55
1,892
2,346
47
9
58,481
78.0
2,144
142.9
5,907
5,907
148
8,025
9,951
199
計
126,803
56.0
4,105
273.7
46,896
46,896
1,172
32,081
39,780
796
(資料)総務省「公共施設状況調」などもとに作成。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
39
地域活性化連携支援事業成果報告
表4 更新投資と市町村財政
標準財政
規模a
普通建設
事業費b
b÷a×100
同全国
平均
(億円 ・ %)
cを見込んだ
10〜30年
普通建設
人口増減率c
事業費d
更新
投資額e
d÷e×100
1
1,664
438
26.3
31.1
-29.9
307
606
50.7
2
2,047
541
26.4
26.3
-27.2
394
523
75.2
3
2,712
611
22.5
21.9
-23.8
465
708
65.7
4
723
236
32.6
21.1
-14.1
203
184
110.1
5
1,227
264
21.5
19.9
-12.8
230
349
66.0
6
2,909
518
17.8
19.5
-18.9
420
623
67.4
7
821
172
21.0
18.7
-17.0
143
200
71.5
9
4,340
707
16.3
26.2
-3.6
682
697
97.8
計
16,442
3,487
21.2
21.8
-14.3
2,988
3,891
76.8
(資料)総務省「市町村決算状況調」をもとに作成。
40
は菅径などにより100~923千円/mとしてい
更新費用の大きさをみるために、表4では、
る。下水道の管路更新費用については、同じ
2011年度の普通建設事業費を足下の投資的経
く耐用年数の50年を更新時期として、更新単
費の予算規模としてとらえ、今後50年という
価は124~134千円/mとしている。
更新期間の平均的な予算規模を簡便に求める
本稿では、こうした数字をベースにする一
ために、2010年から2030年までの人口減少率
方で、建設時期が把握できていないことも考
だけ減額した水準として試算している。少子
慮して、建物については、更新単価を教育施
高齢化が進展するなかで、社会保障関連経費
設330千円/㎡、公営住宅280千円/㎡、その他
の大幅増が見込まれるほか、人口減少が税収
施設400千円/㎡とする一方、耐用年数50年と
減に直結するとともに、地方交付税の減少に
して、年平均の更新費用を試算している。
もつながると考えられるため、こうした前提
また、道路については2005年の舗装率を用
は必ずしも厳しい想定とはなっていないと言
いて、試算ソフトの打換単価を用いて年平均
える。
の舗装費用を試算している。水道の管路更新
人口減少分だけ減少した普通建設事業費と
については、40年を耐用年数とする一方、更
水道や下水道を含む年平均の更新投資額とを
新単価を100千円/mとして、年平均の更新費
比較すると、北海道全体で普通建設事業費が
用を試算している。下水道の管路更新につい
更新投資額の76.8%となり、2割以上の施設
ても、50年を耐用年数とする一方、更新単価
の更新が進まないという数字が得られる。普
を124千円/mとして、年平均の更新費用を試
通会計と別枠で整備されてきた水道と下水道
算している。
を含めて試算している点については、現在は
試算結果をみると、建物の年平均更新費用
一定のキャッシュフローが得られている水道
が1,649億円、道路の年平均の舗装打換費用が
でさえ、人口減少による収益減で更新費用の
274億円、水道の年平均管路更新費用が1,172
相当額を普通会計から投入するという事態を
億円、下水道の年平均管路更新費用が796億円
想定せざるを得ないことなどによる。
となり、これらを合計すると3,891億円とな
ちなみに、水道、下水道の更新費用を普通
る。人口規模別にみると、区分3が708億円、
会計とは別枠で賄うとした場合、更新費用は
区分9が697億円、区分6が623億円、区分1
1,923億円に減少し、普通建設事業費の64%と
が606億円などとなっている。
なる。この場合でも、橋梁や、ごみ処理施設、
NETT
NETT No.89●2015 Summer
消防などの本稿でみてきたもの以外の施設更
施設の統廃合のみならず、転用、複合化など
新を全く見込んでいないことや、普通建設費
の様々な取組みを推進していく必要がある。
の一定額は少子高齢化に対応した新規施設の
例えば、学校施設を核としてコミュニティ施
投資に回さざるを得ないことなども考慮すれ
設を集約化するといった取り組みが出ている
ば、全ての施設の更新を行うのは困難という
が、これまでの縦割りの考え方を超えた発想
財政状況に変化はないものと考えられる。
により、施設の見直しが多世代交流という新
たな動きにつながることも期待されている。
5.
今後の施設更新に向けて
こうした新たな発想により、施設の見直しを
まちづくりにおける新たな可能性につなげて
公共施設の更新問題を考えるときに、ほと
いくという視点もより重要になっている。
んどの市町村にとって、人口減少が、施設の
投資余力が低下していくなかで、各市町村
利用率の低下のみならず、施設の更新に振向
の公共施設の持続的運営のためには、東京一
けることができる財源の減少をもたらすとい
極集中や札幌一極集中という人口の社会移動
うことを明確に認識することが、最も重要な
の流れを転換していくことがあらためて大き
視点となる。こうした視点で考えると、公共
な課題になるほか、それぞれの地域で若い女
施設の更新問題は、財政的な問題として捉え
性が安定した雇用を得て、安心して子供を産
る必要もあるものの、本質的には、施設サー
み育てることができる環境づくりによって、
ビスにかかる需給バランスの問題であり、サー
各市町村の人口動向が安定していくことが、
ビスの質とコストのバランスの問題であると
公共施設の更新問題にとって最も有効な対策
いう捉え方がより重要と言える。
であることも、あらためて認識する必要があ
また、これまで、各省庁の補助制度を前提
ろう。
に、公共施設整備はそれぞれの分野で着実に
進展してきたが、例えば、運営費負担が重い
(主な参考文献)
保育所では、大都市で多くの待機児童を抱え
石井吉春(2010)
「下水道の持続可能性を考える」
るなど、十分な整備が進んでいない状況があ
(村田和彦編著『企業社会と市民生活』中央経
るし、義務教育でも、最大の費用である教員
人件費を市町村が負担していないことから、
児童生徒数の減少に比して学校の統廃合が進
んでいない状況がある。施設の建設や運営に
かかる制度的な差異により、施設ごとに様々
な課題が生じているが、縦割りの制約を市町
村自らが乗り越えていくという方向性があら
ためて求められていることを認識することも
きわめて重要な視点となる。
いずれにせよ、日本全体の人口が減少して
いくなかでは、人口減少を前提として、公共
施設についても、人口規模に見合う水準に
ダウンサイジングを図っていくことが、地方
財政の持続性確保のためにも、重要な方策と
なる。
済社)
石井吉春(2010)
「地域経済の視点からみた公有
財産管理の課題」
(日本財政法学会編著『国公
有財産の管理』全国会計職員協会)
石井吉春(2013)
「上下水道事業の持続可能性と
公有施設マネジメント」
(地方財務協会「公営
企業」2013年1月号)
江夏あかね(2013)
「地方公共団体のインフラ更
新需要の本格化に向けた課題」
(野村資本市場
クォータリー2013Autmun)
宇都正哲 ・ 植村哲士 ・ 北詰恵一 ・ 浅見泰司編
(2013)
「人口減少下のインフラ整備」
(東京大
学出版会)
根本祐二(2011)「朽ちるインフラ」(日本経済
新聞出版社)
そのためには、地域の実情を踏まえながら、
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
41
地域活性化
連携支援事業
成果報告
東北加速器関連産業戦略ビジョン
~Accelerating Japan~
東経連ビジネスセンター
センター長
Ⅰ.
はじめに
西 山 英 作
「I LC の国内候補地として、北上サイトを最
適と評価する」との評価結果を公表した。
『国際リニアコライダー』
(
「I LC」
)の日本
さらに東北では、I LC に加え、I TER BA
誘致に向けて、政府は活発な検討を行ってい
国際核融合材料照射施設(青森県)
、山形大学
る。文部科学省は2014年5月1日に「国際リ
重粒子線がん治療施設(山形県)
、南東 北
ニアコライダー(I LC)に関する有識者会議」
BNCT 研究センター(福島県)
、東北放射光
を設置し、日本誘致の是非の政府判断に資す
施設(場所未定)といった最先端の加速器関
るための検討を開始した。
連プロジェクトも始動している。
本年度に入り、超党派で構成される「リニ
これらを踏まえ、東経連ビジネスセンター
アコライダー(先端線型加速器)国際研究所
では、I LC はじめ加速器関連プロジェクトの
建設推進議員連盟」も、欧米に対する議員外
誘致をきっかけに東北の産業競争力強化を目
交を積極的に展開している。
的とする、
「東北加速器関連産業戦略ビジョ
ン」を取りまとめた。
国際リニア
コライダー
I LC のイメージ(©rey.hori )
国際リニアコライダーは、建設費が8,300億
円ともいわれる世界最先端の素粒子物理学実
験施設構想であり、国際科学共同プロジェク
トとして進められようとしている。I LC が実
現すれば、我が国は世界最高水準の素粒子物
理の国際実験拠点となり、
『科学技術創造立国 ・
日本』の実現に大きく貢献をすることになる。
こうした中、研究者グループで構成される
「I LC 立地評価会議」は2013年8月23日に
42
NETT
NETT No.89●2015 Summer
図1 東北加速器関連プロジェクトマップ
我が国が海外に対して、持続的に優位性を
Ⅱ.
東北を取り巻く環境と
加速器関連プロジェクト
保つには、自国に重点を置いた研究開発だけ
では限界がある。我が国に海外の最先端の研
⑴ 東北を取り巻く環境
究者同士が交流する場を形成し、世界の情報
東北7県の人口は1998年の1,234万人をピー
が日本に集まるオープンな拠点を作り上げる
クにマイナスに転じ、2009年に高齢化率が人
ことが不可欠である。
口の25%を越え、人口減少超高齢社会に突入
海外諸国が世界の優れた人材の誘致合戦を
した。2013年時点で1,143万人の人口は、2040
繰り広げている今、本格的な『国際科学技術
年には、865万人となり、実に278万人が減少
イノベーション拠点』を我が国に形成しない
すると予想されている。
限り、優秀な研究者達の頭脳流出が加速し、
I LC 誘致が実現すれば、海外の素粒子物理
我が国の活力が急速に失われてしまう。これ
学者やエンジニア、その家族が東北を訪れ、
を食い止めるためにも、I LC の誘致が重要で
居住することになる。これは東北にとって交
ある。
流人口、定住人口を増やす大きなチャンスで
ある。しかしながら、I LC に関する研究者、
⑶ 東北のポテンシャル
エンジニア、その家族等の数は2040年で1万
① 高い製造技術集積
544人と見積られ、278万人の減少が予想され
東北の下請け企業はソニー等、グローバル ・
る人口を増加に転じさせることはできない。
企業との取引の中で、高い製造技術を獲得し
東北での人口減少超高齢社会の進展は、単
た。また、トヨタ自動車東日本㈱、東京エレ
に I LC を誘致するだけでは食い止められな
クトロン㈱との取引も広がりつつある。
い。I LC はじめ加速器関連プロジェクトへの
また、北関東から東北にかけて数多くの加
参入で得た技術を活かし、新製品等の開発に
速器関連研究機関や企業が分布している。東
取り組み、雇用創出につなげるべきである。
北には、シャランインスツルメンツ㈱(青森
例えば、㈱有沢製作所(新潟県上越市)では、
県八戸市)
、㈱千田精密工業(岩手県奥州市)、
ヒッグス粒子を発見した素粒子物理実験拠点
工藤電機㈱(宮城県仙台市)
、㈱クラレ(新潟
CERN(スイス ・ ジュネーブ)との連携で獲
県胎内市)等、加速器に必要な要素技術を開
得した技術を活かしてスマートフォン向けの
発に取り組む企業も多い。
部材を開発した。これが大きなビジネスになっ
ている。こうした取り組みこそが重要である。
② 強い産学連携ネットワーク
東北大学の産学連携の歴史は戦前から続き、
⑵ アジア諸国の研究開発分野での
キャッチアップ
1980年代後半から岩手大学、山形大学も本格
的に産学連携に取り組み、東北各県の大学も
一方、中国はじめアジア諸国の経済成長は
それぞれの特徴を活かした産学連携を展開し
著しく、まさに世界の成長センターとなって
ている。
いる。特に中国経済は2010年には日本の GDP
を抜いた。2009年には中国のR&D予算は日
③ 安全安心な豊かな都市
本を抜き去った。1995年に制定した科学技術
東北は犯罪率も低く、大震災直後でも社会
基本法に基づき、我が国は『科学技術創造立
的な混乱が起こらなかったヒューマニティが
国』を目指しているが、国際的には我が国の
高い、安全で安心な地域である。
科学技術創造立国としての地位は下がってい
政令指定都市 ・ 仙台市、新潟市の高都市機
るのが現実である。
能に加え、中核都市、さらに各地の都市にも、
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
43
地域活性化連携支援事業成果報告
ショッピングモール、中核病院が存在し、質
⑥ 深い歴史
の高い快適な生活空間を有している。
世界文化遺産 ・ 平泉、世界文化遺産候補の
縄文遺跡群、佐渡金銀山、世界産業遺産候補
④ 5つの新幹線網を有する
利便性の高い交通インフラ
の橋野高炉跡等、歴史資産が数多く存在する。
海外の研究者達が歴史資産を訪れ、再評価さ
東北は5つの新幹線網や数多くの国際空港
れることで新たな価値が生まれる可能性が
がある。また、東北は関東に隣接しており、
ある。
首都圏の国際空港等の活用も容易な利便性の
高い地域である。
Ⅲ.
加速器関連技術の可能性
⑤ 美しい自然とサステナビリティ
我が国の加速器技術は世界最高水準の一角
日本初の世界自然遺産 ・ 白神山地、ラムサー
を担っている。加速器技術は I LC に代表され
ル条約 ・ 伊豆沼等、東北全土に美しい自然が
る素粒子、原子核物理の実験や、放射光施設
ひろがるサステナビリティの実践にふさわし
に加え、医療診断、がん治療、検査、殺菌、
い地域である。
材料改良、分析等、幅広い分野に応用されて
いる。
巨大な高精度電子顕微鏡の役割を果たす放
射光利用は医療、食品、半導体、自動車等の
先端材料やデバイス開発等に活用されている。
I LC はじめ加速器施設は、加速器本体だけ
でなくその周辺装置等に加工や据え付け等に
も高精度な技術が要求される。このため、東
北企業が加速器関連プロジェクトに関わるこ
とは、高度な技術を獲得するチャンスとなる。
東北には最先端の加速器本体にデバイスを
納入する企業の存在に加え、周辺技術を含め
美しい自然を誇る岩手県
ると加速器関連技術の集積が高い。また、加
速器関連技術の周辺技術は、東北地域の産業
加速器業界のバリューチェーン
加速器
業界
・・
加工技術
主要機器
周辺機器
冷却水設備
通信設備
役務
維持管理
・・・
バリューチェーンカテゴリー1
・・・
・・・
液体He設備
・・・
光ケーブル
無線用
通信機
有線用
通信機
通信システム
図2 加速器関連産業のバリューチェーン
44
NETT
NETT No.89●2015 Summer
・・・
・・・
↑製品・技術をカテゴリー別の「小袋」に分類して登場↓
バリューチェーンカテゴリー2
・・・
電力設備
・・・
・・・
集積(エレクトロニクス、自動車、半導体、
界に向けて進化させるとともに、交流人口の
航空機、医療等)との関連が強く、東北の既
拡大や、人口の社会増を目指す。
存の産業集積に加速器関連技術を取り込むこ
第三は「世界最先端のサステナブルなライ
とでイノベーション創出を加速することが期
フスタイルを創造する東北」である。世界の
待できる。
研究者、企業家とその家族の定住を促し、世
このため、東経連ビジネスセンターは2014
界最先端のサステナブルなライフスタイルの
年9月にコーディネーターチームを立ち上げ、
創造を目指す。
加速器関連技術の東北企業への技術移転に着
手した。I LC の心臓部といわれる超伝導加速
空洞の製造に不可欠な電解研磨の大幅なコス
ト削減に取り組むマルイ鍍金東北工場(八戸
Ⅴ.『産
学官グローバル・イノベーション・
東北の創生』
に向けた戦略・アクション
市)と岩手大学の八代教授との共同開発のコー
新しい東北の将来像の実現に向けて、以下
ディネートも行っている。
の戦略 ・ アクションを提案する。今後、関係
なお、野村総合研究所は、I LC 建設期間(10
機関とも相談し、実行に取り組むものである。
年)
、運用期間(20年)で発生する経済波及効
◇グローバル ・ ブランド
果は生産誘発額4.3兆円、雇用数25万人と試算
“Accelerating Innovation Tohoku Japan”
している。また、日本生産性本部は、技術開
の確立
発による市場拡大等を含め、30年間で44.7兆
円との試算を出している。
◇東日本(東北+関東)によるマーケット志
向の国際的産学官連携プラットフォームの
構築
Ⅳ.
新しい東北の将来像
◇加速器関連技術を持つ企業誘致及び加速器
関連プロジェクトの継続的誘致
東北は、加速器関連プロジェクトの誘致を
◇サイエンスツーリズム、メディカルツーリ
契機に産学官が総合力を発揮し、自らのポテ
ズム等による国際的な観光プロモーション
ンシャルを最大限に活かし、イノベーション
推進
の創出の加速に取り組むべきである。このた
め、基本目標に「産学官グローバル ・ イノベー
ション ・ ゾーン東北の創生」を掲げ、3つの
新しい東北の将来像を提起する。
◇サステナブルなライフスタイルを実現する
国際学術研究ゾーンの創造
◇国際化推進と東北文化浸透で外国人研究者、
企業家とその家族の東北居住促進
第一は、
「国内外の研究者、企業家が躍動
し、イノベーションの創出を加速する東北」
である。
「強い産学官ネットワーク」や「高度
Ⅵ.
むすび
な製造技術の集積」等をベースに、イノベー
筑波学研都市は40年以上の月日を経て花が
ション創出の加速に取り組み、単なるシリコン
開き始めた。CERN(スイス ・ ジュネーブ)
バレーモデルのコピーではなく、戦略的に日
も60年の年月を経て大きく進化している。
本型の産業クラスターの形成 ・ 発展を目指す。
東経連としても時間をかけて戦略的に I LC
第二は「世界の研究者、企業家が交流する
はじめ加速器関連プロジェクトの誘致をきっ
ヒューマニティが高い東北」である。東日本
かけに、
「新しい東北創生」即ち「産学官グ
大震災直後の東北の人々の冷静な対応は世界
ローバル ・ イノベーション ・ ゾーン東北の創
の感動を呼んだ。安全で安心な快適な都市空
生」に取り組む覚悟である。
間を活かし、東北の高いヒューマニティを世
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
45
地域活性化
連携支援事業
成果報告
地方都市のニュータウンの居住実態と住宅継承意向
~福島市蓬莱団地の事例調査~
福島大学 共生システム理工学類
准教授
1.
ニュータウンの一昔前と今
戦後における急激な人口の増加は、膨大な
宅地需要を生み出した
川 﨑 興 太
政、NPO などが再生に向けて、さまざまな取
り組みを進めているが、どこも厳しい状況に
あるというのが実情である。
。膨大な宅地需要
⑴ 1)
は、政府が進める持ち家政策によって方向づ
けられ、また、土地神話に支えられて、都市
2.
親の思いと子どもの思い
郊外部に広がる山林や農地に向かっていった。
こうした状況にある中で、住民はニュータ
ニュータウンは、その受け皿として建設され、
ウン、とりわけ自分の土地 ・ 建物の現状と今
多くの人に幸せな人生を形づくるマイホーム
後について、どう考えているのであろうか?
を供給してきた。
住民のうち、ニュータウンの第一世代にあ
我が国において、ニュータウンが本格的に
たる世帯主の考えについては、多くの論文で
建設されるようになってから、いまだ半世紀
明らかにされている。しかし、先述の通り、
に過ぎないが、固有の構造的な問題から、既
新たな住民の転入を期待できない中にあって、
に衰退の危機に直面しているところが多い。
ニュータウンの将来を見定める上では、世帯
すなわち、ニュータウンでは、画一的な形式
主とあわせて、第二世代にあたる子どもの考
の住宅が同等の価格で供給され、同世代のファ
えを把握することが重要である。
ミリー世帯が同時期に入居したため、時間が
そこで、筆者らは、福島市の蓬莱団地を事
経過すると、住民は一斉に高齢期を迎えるこ
例として、世帯主と子どもの双方を対象とす
とになる。その間、子どもは進学、就職、結
るアンケート調査を通じて、定住意向、土地 ・
婚の時期を迎え、少なからず転出していくが、
建物の継承意向、生活環境評価などについて
親の寿命が延びているので、相続が発生する
把握することにした(表1)
。
頃には、既に子どもは別の地で自分の家を購
入しており、戻ってくることはあまりない。
表1 アンケート調査の概要
我が国全体で人口減少が進む中、ニュータウ
調査対象
⃝町内会に加入している全3,636世帯の世帯主
⃝世帯主と同居している高校生以上の子ども
(複数いる場合は 1 人)
調査内容
⃝世帯主:属性、土地・建物の状況、定住意向、
土地・建物の継承意向、生活環境評価など
⃝同居している子ども:属性、定住意向、土
地・建物の継承意向、生活環境評価など
配布・
回収期間
⃝平成26年10月21日~11月10日
配布・
回収方法
⃝各町会長が各世帯に配布し、郵送にて回収
配 布 数
⃝3,636件
ンのオールドタウン化と言われるものである。
回 収 数
⃝世帯主:998件
⃝同居している高校生以上の子ども:232件
全国各地のニュータウンにおいて、住民、行
回 収 率
⃝世帯主:27%
ンは市街地から離れており、自動車なしでは
買い物もままならないので、自然が豊かで道
路や公園が整っているといっても、新たな住
民の転入はそれほど見込めない。
こうして、住民の減少、少子高齢化、住宅
や施設の老朽化 ・ 陳腐化、空き家 ・ 空き地の
増加、店舗の撤退、バスの減便 ・ 廃止、治安
の悪化などが進展する。いわゆるニュータウ
46
NETT
NETT No.89●2015 Summer
3.
蓬莱団地
蓬莱団地は、福島市中心部から南に約7㎞
離れた山間地に位置する郊外住宅団地である
(写真1)。高度経済成長期における人口増加
を背景として、福島県住宅供給公社が昭和45
年から計画面積を225ha、計画戸数を4,075戸、
計画人口を15,100人として開発したニュータ
ウンである。戸建て住宅が中心であるが、県
営と市営をあわせて約1,600戸の公営住宅のほ
写真1 蓬莱団地の風景
か、小学校2校、中学校1校、市役所の支所
などが立地している。また、団地の中心部に
はショッピングセンター、近隣には福島県立
よび福島第一原発事故の発生後には、双葉郡
医科大学付属病院や福島大学が立地している。
からの避難者が団地内の住宅をみなし仮設住
住民基本台帳によると、人口は平成3年の
宅として借りて住んでいることもあって、空
11,659人をピークに減少し、平成26年には
き家はほぼ存在しない状況にある。
9,669人(4,096世帯)となっている。同時に、
高齢化が急激に進展しており、国勢調査によ
ると、60歳以上の割合は平成7年の11%から
4.
居住実態と土地・建物継承意向
平成22年の32%まで高まっており、かつては
⑴ 回答者の属性
ファミリー世帯が多かったが、現在では単身
アンケート調査の回答者の属性は、表2の
または夫婦のみの高齢世帯が増加している。
通りである。
なお、平成23年に発生した東日本大震災お
世帯主については、いわゆる第一次ベビー
表2 アンケート調査の回答者の属性
回答者の種類
設 問
男性:61%、 女性:39%
年齢
70歳代:35%、 60歳代:31%、 50歳代:12%
職業
無職:47%、 主婦・主夫:16%、 会社員:12%
居住開始年
1970年代:45%、 2000年以降:18%、 1980年代:18%
世帯構成
単身:33%、 夫婦のみ:27%、 夫婦と子:20%
世帯主(N=998) 子どもの有無
土地・建物を所有
している世帯主
(N=749)
回 答
性別
有:88%、 無:12%
子どもの同居・別居状況
同居している子どもがいる:35%、 別居している子どものみいる:54%
※同居している高校生以上の子どもがいる:23%
世帯の年収
200~400万円:45%、 200万円未満:20%、 400~600万円:16%
住宅の所有状況
土地・建物を所有:75%、 市営住宅:11%、 県営住宅:10%
自動車の所有状況
所有している:87%、 所有していない:11%
子どもの有無
有:92%、 無:7%
子どもの同居・別居状況
同居している子どもがいる:34%、 別居している子どものみいる:58%
※同居している高校生以上の子どもがいる:26%
住宅の取得方法
自分で購入:91%、 相続:7%、その他:1%
1ヵ月あたりの住宅ローンの返済額 0円:76%、1円~10万円:12%、 11~20万円:2%
同居している高校生 性別
年齢
以上の子ども
(N=232)
第何子か
男性:51%、 女性:48%
30歳代:29%、 40歳代:27%、 20歳代:22%
第1子:52%、 第2子:36%、 第3子:10%
注:選択肢が3つ以上の設問については、回答が多かったものを3つのみ記載しているので、合計値が100%にならない場合がある。また、小
数点第一位を四捨五入しているため、合計値が100%にならない場合がある。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
47
地域活性化連携支援事業成果報告
ブーマーを中心とする60~70歳代の男性が多
現在は土地 ・ 建物を所有している親と同居し
く、約半数が30~40歳代であった分譲時から
ていても、30%の子どもは転出を予定してお
戸建て住宅に住み続けている。88%の世帯に
り、年齢が若いほどその割合が高い。
は子どもがいるが、同居している子どもがい
る世帯は35%であり、54%の世帯には別居し
ている子どものみいるという状況にあるため、
⑶ 土地 ・ 建物の相続予定と継承意向
①世帯主の予定と意向
高齢の単身または夫婦のみの世帯が多い。す
土地 ・ 建物所有世帯の世帯主に対して、土
べての子どものうち、75%は結婚や就職など
地 ・ 建物の相続等の予定を聞いたところ、全体
を契機として転出しており、主として福島県
では「まだ決めていない」が56%で最も多く、
外で別居している状況にある。
次いで「相続する」が33%、
「処分する」が8%
他方、世帯主と同居している高校生以上の
であり、半数以上の世帯では未決定の状況に
子どもについては、いわゆる第二次ベビーブー
ある(図2)
。子どもの有無別および同居 ・ 別
マーを中心に、20~40歳代の者が多い。男性
居状況別に見ると、同居している子どもがいる
と女性がほぼ半分ずつであり、第1子が52%、
世帯では「相続する」が48%で相対的に多い
第2子が36%である。
が、それでも「まだ決めていない」がほぼ同数
の47%である。別居している子どものみの世帯
⑵ 居住継続の予定
と子どもがいない世帯では、
「まだ決めていな
世帯主については、全体では88%、土地 ・
い」がそれぞれ59%、70%で多く、
「処分する」
建物を所有する世帯(以下、
「土地 ・ 建物所有
もそれぞれ10%、16%を占めている。
世帯」)では94%が「住み続ける予定である」
また、土地 ・ 建物所有世帯のうち、子ども
と回答しており、年齢が高いほどその割合が
がいる世帯主に対して、子どもに土地 ・ 建物
高い(図1)
。理由としては、現在の住宅や住
を守ってもらいたいかと聞いたところ、全体
環境に満足しているからということが多く挙
では、
「守ってもらいたい」が22%、
「守らな
げられている。他方、「住み続ける予定はな
くてよい」が21%、
「どちらでもよい」が54%
い」と回答しているのは、全体では11%、土
である(図3)
。子どもの同居 ・ 別居状況別に
地 ・ 建物所有世帯では6%であり、理由とし
見ても大きな違いはないが、別居している子
ては、老後に備えるため、住宅や住環境が不
どものみの世帯の方が「守らなくてよい」の
満だからということが多く挙げられている。
割合が少し高く、25%を占めている。
世帯主と同居している子どもについては、
さらに、土地 ・ 建物所有世帯のうち、子ど
全体では64%、土地 ・ 建物所有世帯では68%
もがいる世帯主に対して、子どもが土地 ・ 建
が「住み続ける予定である」と回答している。
子ども
世帯主
(N=232) (N=998)
0%
20%
40%
60%
合計(N=998)
20% 40% 60% 80% 100%
合計(N=749)
同居している子どもがいる
(N=258)
別居している子どものみいる
(N=434)
土地・建物を
所有(N=749)
合計(N=232)
子どもがいない(N=56)
土地・建物を
所有(N=193)
住み続ける予定である
無回答(N=1)
住み続ける予定はない
図1 居住継続の予定
48
0%
80% 100%
NETT
NETT No.89●2015 Summer
無回答
相続する
処分する
まだ決めていない
その他
無回答
図2 子どもへの土地 ・ 建物の相続等の予定
物を守ってくれる可能性を聞いたところ、全
いきたいかを聞いたところ、
「守っていきた
体では「可能性は高い」が22%、
「可能性は低
い」が40%、
「守りたくない」が4%、
「わか
い」が35%、
「わからない」が40%である(図
らない」が55%である(図5)
。居住継続の予
4)
。子どもの同居 ・ 別居状況別に見ると、同
定別に見ると、
「住み続ける予定である」と回
居している子どもがいる世帯では、
「わからな
答した子どもでは、
「守っていきたい」が53%、
い」が47%で最も多いものの、「可能性は高
「わからない」が46%でほぼ同数であるのに対
い」が33%を占めている。これに対して、別
して、
「住み続ける予定はない」と回答した子
居している子どものみの世帯では、
「可能性は
どもでは、それぞれ11%、80%となっている。
低い」が45%で最も多く、
「可能性は高い」は
⑷ 生活環境の評価
16%にとどまっている。
0%
20% 40% 60% 80% 100%
合計(N=692)
れぞれ60%、46%となっている(図6)
。他
別居している子どものみいる
(N=434)
0%
守らなくてよい
どちらでもよい
無回答
図3 子どもによる土地 ・ 建物の継承意向
0%
20% 40% 60% 80% 100%
合計(N=692)
同居している子どもがいる
(N=258)
別居している子どものみいる
(N=434)
可能性は高い
可能性は低い
わからない
無回答
図4 子どもによる土地 ・ 建物の継承可能性
②子どもの意向
土地 ・ 建物所有世帯の世帯主と同居してい
る子どもに対して、親の土地 ・ 建物を守って
0% 20% 40% 60% 80% 100%
合計(N=193)
住み続ける予定である(N=131)
住み続ける予定はない(N=54)
無回答(N=8)
守っていきたい
守りたくない
わからない
無回答
図5 子どもの土地 ・ 建物の継承意向
と「少し満足」の合計)が最も高いのは、世
帯主でも子どもでも「自然環境」であり、そ
同居している子どもがいる
(N=258)
守ってもらいたい
生活環境に関して、満足度(
「とても満足」
自然環境
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
町並み
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
20% 40% 60% 80% 100%
世帯主
(N=998)
公園・
グラウンド 子ども(N=232)
歩行者
交通環境
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
自動車
交通環境
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
公共
交通環境
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
防災・
防犯対策
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
医療・
福祉施設
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
町内会の
活動
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
買い物
環境
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
子育て
支援施設
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
住宅の
広さ
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
住宅の
間取り
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
住宅の
設備
世帯主
(N=998)
子ども(N=232)
とても満足
少し満足
普通
少し不満
とても不満
無回答
図6 生活環境の評価
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
49
地域活性化連携支援事業成果報告
方、不満度(
「少し不満」と「とても不満」の
格的な代替わりの時期を迎えることになる中
合計)が最も高いのは、世帯主でも子どもで
にあっては、団地の居住者の大半を占める第
も「買い物環境」であり、それぞれ36%、44%
一世代の高齢者の考えのみならず、団地外で
となっている。次いで不満度が高いのは「公
暮らす者を含む第二世代の子どもの考えをしっ
共交通環境」であり、それぞれ31%、38%と
かりと把握しつつ、今後の団地のあり方を検
なっている。
討することが重要だと考えられる。本研究で
世帯主と子どもの評価を比較すると、基本
は、主として第一世代にあたる世帯主と第二
的には世帯主の評価が高い/低いものについ
世代にあたる子どもの居住実態と土地 ・ 建物
ては子どもの評価も高く/低くなっているが、
継承意向について、アンケート調査の結果に
世帯主よりも子どもの方が満足度が低く、不
基づいて分析したが、今後は、この結果を基
満度が高い。
礎として、さらに詳細な調査を継続的に行う
必要があるだろう。
5.
今後のために
以上で見てきたように、蓬莱団地では、既
⑴ 本稿は、筆者が研究代表者となって、今西
に多くの子どもは結婚や就職などを契機とし
一男氏(福島大学准教授)と小室和也氏(川
て別のところに住んでおり、また、土地 ・ 建
物所有世帯の子どもであっても、転出を予定
している者が少なくないことからすれば、今
後とも人口減少と高齢化が進展することが予
想される。しかし、その一方で、多くの世帯
では、まだ土地 ・ 建物の相続や処分などの予
定を決めておらず、子どもも親の土地 ・ 建物
を守っていくかどうかを決めていないという
状況にある。
蓬莱団地では、人口減少や高齢化をはじめ
とする様々な問題が露呈し始めた平成15年に、
住民が任意団体である「福島南地区を考える
会」を設立し、まち歩きや住民会議などを継
続的に開催している2)3)。また、平成21年には
「NPO ほうらい」を設立し、介護予防教室の
開催、他地域との交流事業、地域サロンの運
営などを行っているほか、地域循環バス「く
るくる」を運行している。
こうした住民による取り組みは、蓬莱団地
が置かれている厳しい状況を少しでも改善し
ていく上で重要である。しかし、これから本
50
【補注】
NETT
NETT No.89●2015 Summer
﨑興太研究室4年生 ・ 当時)と共同で実施し
た「平成26年度 ほくとう総研地域活性化連
携支援事業」に基づく研究成果について報告
するものであるが、より詳細な成果について
は、参考文献1)を参照していただきたい。
【参考文献】
1)小室和也 ・ 川﨑興太 ・ 今西一男(2015)
「郊
外住宅団地の居住実態と子ども世代の居住動
向に関する研究―福島市蓬莱団地を事例とし
て―」
『日本都市計画学会都市計画報告集』第
14巻第1号、21-26頁
2)福島南地区を考える会(2005)
『郊外住宅団
地の生活環境改善に向けた住民主体の「まち
づくり」活動―福島市蓬莱団地を中心に―』
公益信託うつくしま基金 実績報告書
3)今西一男(2010)
『地方都市郊外住宅団地再
生に資するコミュニティ ・ シンクタンクの成
立に向けた実践的研究』民間都市開発推進機
構 都市再生研究助成事業(2008 ・ 2009年度)
報告書
地 域 アング ル
「あるもの」を活かそう
~北海道新幹線開業へ向けて~
北海道新幹線の開業まで8カ月余。北海道、
特に函館を中心とする道南地域では新聞で新
幹線に関連した記事を見ない日はない。駅舎
の整備や車両の試運転、開業イベント、青森 ・
函館の行政、企業、団体などの連携―。JR 北
海道のトラブル多発などで北陸新幹線開業に
比べればあらゆる動きが遅れ気味なのは否め
ないが、開業への「熱」は高まりつつある。
ただ、気がかりは地元市民の関心度だ。旅
行客の増加、地域間交流の深化による経済効
果や雇用創出への期待は高いが、どこか「そ
れをするのは役所や企業の仕事」といった「人
頼み」感がぬぐえない。正も負もある開業の
インパクトを最大限にプラス化する動きが市
民に広がらなければ、開業効果は地域に浸潤
しないのではないか、と思う。
そうした中、将来につながる動きとして注
目するのは「はこゼミ」と「だいもん路地裏
探偵団」という市民主体の二つの試みである。
はこゼミの正式名称は「新幹線開業はこだ
て魅力創造ゼミナール」。函館市や函館商工会
議所でつくる「北海道新幹線新函館開業対策
推進機構」が2012年に開講した。会社員、自
営業者、行政職員らが仕事帰りに集う勉強の
場である。新幹線開業の「先輩」である青森
県からゲストを招いての討論に始まり、ゼミ
生による「おもてなしプラン」
「観光情報発信
強化」の企画立案と関係先への提言など、市
民自ら地域の魅力を見つめ直し、磨き上げよ
うとしている。
もう一つの「だいもん路地裏探偵団」は、
今や広く知られる青森県弘前市の「弘前路地
裏探偵団」に刺激されて2013年に始まった。
「探偵」の案内で函館駅前の大門地区の路地に
分け入り、必ずしも観光ルートではない場所
に刻まれた「街の記憶」
「街の物語」を堪能す
るのだ。これまでに10回ほど実施された。
6人ほどいる「探偵」の元締で、はこゼミ
の仕掛け人の1人でもあるプランナー田村昌
弘さん(44)に、私も大門地区を案内しても
北海道新聞函館支社報道部
中 川 大 介
次長
らった。観光客でにぎわう函館朝市に地元民
向けの品をそろえた店があり、それを見分け
るには年の瀬、正月の郷土料理「クジラ汁」
の材料となるクジラの身の有無がポイントに
なること。近代的な函館駅舎の中に、三角屋
根の旧駅舎の姿を伝えるものがわずかにあり、
その一つは駅弁販売店のイラストであるこ
と―。確かにひと味違う「街歩き」だ。
既存の観光ガイドと違って、
「路地裏探偵」
は歴史的建造物や史跡の解説が中心ではない。
街を織りなしてきた人々の物語に光を当てる
のだ。地区には既に失われた建物も多く、田
村さんは往時の姿を伝える写真を豊富に収め
たタブレットを手に説明してくれる。
「あるもの活かし」
。二つの試みを貫くキー
ワードだ。はこゼミの講師に招いた青森県弘
前市職員に学んだという。
「あるもの」を磨
き、活かすには行政や経済団体との連携、新
しい技術の活用なども大切だが、何より大切
なのは「関わる市民が『楽しい』と感じ、達
成感を得ること」だと、田村さんは言う。そ
して函館は、市民が街を楽しむためのステー
ジとして十分な魅力と奥深さを備えている、
と。実は函館には既にそうした事例がある。
全国各地に広がっている函館発祥の飲み歩き
イベント「バル街」だ。
新幹線開業には多くの課題が残されている。
新幹線新函館北斗駅からの2次交通の整備は
道半ばで、駅前開発も行政のもくろみ通りに
は進まない。自治体間の連携は円滑とは言い
切れず、3月に青函トンネルで特急の発煙事
故を起こした JR 北の安全対策も心配だ。
それらの解決へ関係者の努力はもちろん必
要だが、それにも増して大事なのは「非関係
者」を減らすこと、つまり「自分も開業の関
係者」と思う意識を市民に浸透させることで
あるように思う。
「楽しい」と思いながら地域
の「磨き上げ」にかかわる人の裾野を広げる
ことこそ、開業後も継続して取り組むべき大
きな課題と感じている。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
51
地域トピックス
フードバレーとかちで取り組む魅力ある地域づくり
フードバレーとかち推進協議会(事務局:帯広市産業連携室)
事務局主査
藤 芳 雅 人
な耕地となり、高品質の農作物をたくさん生
1.
十勝の概要
産できるようになりました。
⑴ 十勝地域の概要
19市町村で構成される十勝は、北海道の南
⑵ 十勝の産業について
東部に位置し周囲を大雪山国立公園、阿寒国
十勝では農林漁業が盛んで、特に農業では、
立公園、日高山脈襟裳国定公園に囲まれ、十
品種改良や肥培管理技術の向上、農地の基盤
勝川を水源とする肥沃な十勝平野を有してい
整備が進められ、わが国を代表する食料生産
ます。
基地として、大型機械を使った大規模で生産
本地域の総面積は約10,831平方キロメート
性の高い畑作 ・ 酪農が展開されています。十
ル、岐阜県とほぼ同じ広さがあり、北海道全
勝における販売農家1戸当たり経営耕地面積
面積の13%を占めています。
は約35ヘクタール(東京ドーム7~8個分)
また、太平洋沿岸を除き大陸性気候である
にもなり、都府県平均の約25倍で、EU 諸国
ことが特徴で、春にはフェーン性の乾燥した
の水準にも匹敵します。※1
季節風が吹き、夏は内陸部で比較的高温の日
主な農産物としては、小麦、馬鈴しょ、豆
が続き、冬は降雪量が少なく晴天の日が続き
類、てん菜の畑作4品目を主体とした輪作体
ます。十勝 ・ 帯広の年間日照時間は2,000時間
系を中心に、近年では野菜類の長いも、大根、
を超え、
「十勝晴れ」と言われるほどの国内有
スイートコーンなど多様な品目が生産されて
数の日照量があります。
います。また、長いもや枝豆、ゆり根などは
このような自然環境に恵まれた本地域は、
海外へも輸出されています。畜産では、乳牛
明治16年に民間の開拓団が入植してからの苦
が約23万5千頭、肉牛が約20万頭となってお
闘の道のりの成果として、十勝の大地は豊か
り、十勝の人口を上回る数の牛が飼養されて
います。※1
このような生産力を有する十勝では、カロ
1市16町2村
陸別町
新得町 上士幌町
鹿追町
清水町
足寄町
士幌町
音更町
本別町
池田町
芽室町
浦幌町
帯広市 幕別町
豊頃町
中札内村
更別村
大樹町
広尾町
リーベースの食料自給率が約1,100%と非常に
高く、また、年間約2,798億円の農畜産物を生
産※2しています。さらに、農業は食品加工 ・
農業機械 ・ 農産物輸送などの関連産業を支え
るなど、地域経済の基盤となる基幹産業とし
て重要な役割を担っています。
一方、十勝産の農産物は加工原料作物が多
いという特徴があります。そのため、十勝の
※1
出典:十勝総合振興局 HP「2014十勝の農業」
※2
出典:十勝総合振興局 HP「平成26年産農畜産物に係る十勝管内農協取扱高について(概算)」
52
NETT
NETT No.89●2015 Summer
小麦生産数量(H25)
十勝
215千t(26%)
全国
812千トン
全道
532 千t(66%)
馬鈴しょ生産数量(H25)
十勝
797千t(33%)
小豆生産数量(H25)
十勝
41千t(61%)
全国
2,408千トン
全国
68千トン
全道
64 千t(94%)
全道
1,876千t(78%)
てん菜生産数量(H25)
乳用牛飼養頭数(H22)
十勝
235 千頭(15 %)
十勝
1,630千t(47%)
全国
3,435千トン
全道
3,435千t(100%)
全道
866 千頭(56%)
肉用牛飼養頭数(H22)
十勝
200千頭(8%)
全道
467千頭(19%)
全国
1,558千頭
全国
2,496千頭
農産物が消費者の口に入るまでには、何段階
「食の価値を創出する」
「十勝の魅力を売り込
かの加工工程を経る必要がありますが、農産
む」という3つの柱でフードバレーとかちを
物の生産量と比べると当地で加工できる業者
推進しています。それぞれの取り組み内容に
が少ないなどの理由で、加工されずに本州な
ついては後述します。
どの大消費地へ送られている傾向があります。
このことは、十勝が十勝の強みを活かしきれ
農林漁業を
成長産業にする
ていないことを示しています。言い換えれば、
物
基本価値
十勝にはまだまだビジネスチャンスがあると
いうことだと考えています。
2.
産業政策「フードバレーとかち」の
推進について
⑴ フードバレーとかちとは
十勝型フードシステム
十勝の魅力を
売り込む
需要創出
~生産・加工・流通・販売
のバリューチェーン~
バイオマスと融合
食の価値を
創出する
高付加価値化
付加価値
前述したように、十勝は農業を基盤とした
⑵ フードバレーとかちの推進体制について
産業を展開していますが、経済のグローバル
フードバレーとかちをオール十勝で推進す
化、少子高齢化社会の到来など、地域を取り
るための枠組みとして、平成23年7月に「フー
巻く環境は大きく変化しています。このよう
ドバレーとかち推進協議会」を設立しました。
な状況の中、地域の活性化のためには、自ら
構成員は十勝管内の行政機関、農商工団体、
の意思と責任に基づき地域経済を確立してい
大学 ・ 試験研究機関、金融機関であり、地域
くことが必要です。
の産学官金が一体となって、地域の産業振興
そこで、十勝では地域の強みである「農林
に取り組んでいます。食関連ビジネスのパー
漁業 ・ 食」を柱として、十勝全体が同じ方向
トナー探しなどがワンストップで対応可能な
で地域振興を行うための旗印として「フード
体制を整備し、十勝の農林水産業の成長産業
バレーとかち」を掲げ、オール十勝で取り組
化、地域活性化、十勝産品の販路拡大などを
んでいます。
目指しています。
具体的には「農林漁業を成長産業にする」
また、オール十勝でフードバレーとかちを
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
53
地域トピックス
(平成23年7月~)
フードバレーとかち推進協議会(構成団体:41団体)
〈プラットフォームの役割〉
〈プラットフォームの体制〉
総合窓口
企業・農林漁業者等の相談窓口
(取組例)
・プレイヤー相互のマッチング
・プレイヤーへの情報提供
・プレイヤーニーズの把握
など
帯広市
連携
連携
協議会構成メンバー
とかち財団
情報共有
地域窓口
各町村は、地域の窓口として、農林
漁業者や企業等に対する相談支援
を行う
十勝管内市町村
連携
帯広畜産大学
地域の農商工団体
金融機関
等
計41団体
相談
情報共有
フードバレーとかち応援企業(H27年3月末現在 311企業)
フードバレーとかちの活動に賛同する企業・農林漁業者・団体等(十勝地域内外)
期待される効果
○農林水産業の成長産業化
○地域活性化
○販路拡大
○新商品開発
など
推進するための法的なバックグラウンドを持
物から取り出したメタンガスを使って発電す
たせるため、総務省の制度である「定住自立
るバイオガスプロジェクトなどを推進するこ
圏構想」に着目し、帯広市と管内18町村の間
ととしています。これまでも管内でバイオガ
で「フードバレーとかちを推進する」こと等
スプラントの整備が着実に進められていると
を明記した協定書に調印しました。これによ
ころであり、引き続き本構想を着実に実現す
り、個性ある19市町村が多様性を維持しつつ、
ることにより、エネルギー自給社会の形成を
同じ方向性をもって進んでいく枠組みを整備
目指していきます。
することができました。
これらの制度は、十勝の産業を強化してい
く上で非常に有効な手段となっており、今後
⑶ 国の制度の活用
とも有効に活用していく考えです。
十勝地域では、北海道、札幌市 ・ 江別市、
函館市等と連携し、平成23年12月に国から国
際戦略総合特区に指定されました。
「食料自給
3.
フードバレーとかちの取り組みについて
率の向上」
「農畜水産物 ・ 食品の輸出拡大」が
具体的な推進策として3つの柱に取り組ん
国家的な政策課題となっている中で、これら
でいくことは前述した通りです。ここでは各
の課題解決に向けた取り組みに対し、税制優
柱の取り組みについて紹介します。
遇や財政支援を受けることができるものです。
54
本制度を活用し、農業共同利用施設の整備な
⑴ 農林漁業を成長産業にする
どを進め、国際的な食の競争力強化を図って
十勝では大型機械を使った大規模畑作が展
います。
開されていますが、更なる効率化を進めるた
また、十勝の優位性の一つである地域バイ
め、民間企業と連携した農業への ICT 技術の
オマスを活用し、エネルギー自給が可能な地
活用や、土壌分析結果など科学的な根拠に基
域づくりを進めるため、
「十勝バイオマス産業
づいた適性施肥の徹底など、より賢く生産性が
都市構想」を国に提案し、平成25年6月に国
高い「十勝型スマートアグリ」を推進していま
からバイオマス産業都市に選定されました。
す。また、消費者に安全 ・ 安心で美味しい農
本構想では、地域に多く賦存する家畜排せつ
産物をお届けするため、減肥 ・ 減農薬による環
NETT
NETT No.89●2015 Summer
境保全型農業の実践にも取り組んでいます。
の直行便が就航したことを契機に、中京圏の
食関連企業の関係者を十勝に招き、畑でもぎ
⑵ 食の価値を創出する
たてのとうきびを食べてもらうなど、十勝の
十勝産農畜産物の付加価値を向上させるた
食を体感いただく機会を創出しました。その
めには、十勝での加工割合を上げることに加
結果、名古屋の一部の飲食店において十勝フェ
え、十勝特有の商品を作ることが重要です。
アが開催されるなど、中京圏との新たな商流
そのため、公益財団法人とかち財団を中心に、
につなげることができました。
十勝産農産物に由来する健康機能性素材を活
さらに、成長著しい東南アジア市場の旅行
用した商品開発を進めています。平成27年3
関連企業へ観光プロモーションを行うなど、
月には当協議会と食品製造大手の民間企業と
海外からの観光客誘致にも積極的に取り組ん
の間で包括連携協定を締結し、十勝で多く生
でいます。
産されている枝豆の葉から血糖値を下げる効
果があるとされる成分を抽出し、地域企業と
4.
おわりに
連携してその成分を使った商品開発を進める
こととなりました。これにより、十勝にしか
現在、地方創生が盛んに議論されています
できない商品が開発され、食の価値が高まる
が、これまで私達がオール十勝で進めてきた
ものと期待しています。
フードバレーとかちの取り組みは、地域の強
みである食と農林漁業を活かしながら自主自
⑶ 十勝の魅力を売り込む
立の地域経済を目指すというものであり、ま
十勝がどんなに素晴らしいところで、また、
さに「地方創生」と「フードバレーとかち」
いい物をたくさん作っても、それが知られな
の方向性は同じものだと感じています。
ければ成果は限定されてしまいます。そこで、
これからのフードバレーとかちは、産業政
十勝の魅力を外向けに発信していくことが重
策としてだけ推進するのではなく、ひとが安
要になります。具体的には、大消費地である
心して生活を営む上で必須である防災や医療
首都圏 ・ 関西圏のホテルや飲食店と連携し、
などの充実も図るなど、十勝19市町村という
十勝産食材を使ったメニューを提供するフェ
規模で地域資源の最適な組み合わせを模索し、
アなどを開催しています。また、昨年8月の
より高い効果を生み出すことで、これからも
1カ月間、とかち帯広空港と中部国際空港間
圏域の持続的発展を目指していく考えです。
産業・仕事づくり
エネルギー
医療
防災
健康
教育
子育て
福祉
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
55
地域トピックス
苫東工業基地内での
植物工場によるイチゴ栽培について
一般社団法人北海道食産業総合振興機構(略称:フード特区機構)
販路拡大支援部長
1.
はじめに
~「アジアのフードバレー」を目指して
成 田 裕 幸
2.
植物工場に適した苫東工業基地
新会社の名称は、進出先の苫東工業基地に
平成23年12月、北海道は日本で唯一、
「食」
ちなみ「苫東ファーム株式会社」とした。
の国際戦略総合特区として「北海道フード ・
工業基地のある苫小牧東部地域は、冬季は
コンプレックス国際戦略総合特区」に指定さ
日射量が多く降雪量も少ないことから暖房費
れた。
用を節約でき、夏季は比較的冷涼で、冷涼な
「北海道」をオランダのフードバレーに匹敵
気候を好むイチゴ栽培に適した気象条件にあ
する食の研究開発 ・ 輸出拠点とし、1,300億円
り、また、高速道路に隣接し新千歳空港や苫
の売上環境(事業)を創出することを目標と
小牧港にも近く、国内外への流通アクセスが
し、その推進母体として平成24年3月に当機
良好であり、道央圏からの労働力確保も見込
構が設立された。
められることから、植物工場の立地には最適
当機構では目標達成に向けて、北海道にお
の条件下にある。
ける植物工場クラスターの構築を目指し、事
業化の可能性や作物の選定、市場規模の推計
等の基礎調査を行い、イチゴおよびパプリカ
栽培によるビジネスプランを提示しながら、
★
生産に参入する企業へのアプローチ等に取り
組んできた。
こうした中、土木建築技術を通じて農業事
業への展開を目指す清水建設㈱と冷熱 ・ 省エ
ネ ・ I T 分野で栽培環境制御等の技術確立を目
苫小牧東部地域の位置図
指す富士電機㈱の2社が中心となり、新会社
を設立して植物工場を運営する構想が計画さ
れた。
3.
施設整備の概要
また、平成25年度から農林水産省で「次世
次世代事業で整備される植物工場「次世代
代施設園芸導入加速化支援事業」
(以下、
「次
施設園芸北海道拠点」の構想は下図のとおり
世代事業」という。
)が創設されたことから、
で、太陽光利用型植物工場(軽量鉄骨フィル
これを活用し、地元金融機関や建設会社も加
ム温室2.0 ha)と木質チップボイラー施設
えた異業種連携の新会社を設立し、これを運
(200 kW)を平成26年と28年にそれぞれ1基
営主体として植物工場「次世代施設園芸北海
ずつ整備するとともに、26年に集出荷センター
道拠点」を整備し、イチゴ栽培に取り組むこ
兼管理センター、27年に完全人工光型苗生産
ととなった。
施設を整備し、全施設完成後は年間314tのイ
チゴ生産を計画している。
56
NETT
NETT No.89●2015 Summer
次世代施設園芸北海道拠点の構想図
植物工場は1基当たり、間口8m×奥行93
テン、冬季には2層の保温カーテンを組み合
m×軒高4mの栽培温室28棟の連棟で、各温
わせることで、イチゴの生育に最適な温度管
室の中央を貫く幅3mの通路は集出荷施設に
理を行う。
直結している。また、栽培環境制御は4棟を
また、これら温度 ・ CO2濃度等の栽培環境
1エリアとし、各エリア毎に独立した運用が
の管理は、設定数値に応じて自動制御され、
可能となっている。
施設内外の環境値や設定値の確認 ・ 設定は施
イチゴの栽培方式は、高設ベンチによる養
設内2か所の制御盤にあるタッチパネルのほ
液栽培で、培地にはロックウールを使用。一
か、事務所内のパソコンからも操作が可能と
棟当たり6列のベンチが通路を挟んで両側に
なっている。
並ぶ。
本施設の特徴としては、従来、施設内全体
に行っていた暖房や CO2(光合成の促進)施
用を局所(イチゴが生育する栽培ベンチ周辺)
で行うこととし、ベンチ上部のイチゴの株元
には養液(水分 ・ 栄養分)供給パイプと共に
CO2施用パイプを並べ、ベンチ内の底部には
温湯管を配管し、局所施用によるコスト低減
を図っている。
また、温湯管の熱源は木質チップボイラー
と室外ヒートポンプのハイブリッドとし、温
水は天井部の融雪にも活用するとともに、厳
施設内部の様子(平成27年5月撮影)
寒期の補助暖房には LP ガス温風機を併用
する。
また、施設内で収穫されたイチゴは、直結
また、夏季の防暑対策として、天井部には
する集出荷センターに運ばれた後、鮮度 ・ 品
気化熱で温度を下げる細霧冷房装置を設置す
質保持のため選果前は予冷庫で、選果後は保
るほか、左右独立した天窓の開閉や遮光カー
冷庫でそれぞれ保管される。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
57
地域トピックス
また、27年には完全人工光型苗生産施設を
イチゴ生産が行われているが、加温設備のな
整備し、苗生産から果実生産、調製 ・ 出荷ま
い施設での栽培が中心のため出荷時期は7月
で拠点内での一貫生産体制の確立を目指して
~10月までで、クリスマス需要で単価が高い
いる。
11月~12月には届かない。
今回整備された植物工場では、苫東地域の
4.
事業の推進体制
気象条件と、高度な環境制御かつ暖房コスト
の低減が可能な栽培設備を活用することによ
次世代事業の実施は、事業要件を踏まえ、
り、夏季が中心の「四季成り性品種」の生産
施設の整備 ・ 運営主体である苫東ファーム㈱
を年末まで延長するなど、需要動向を見据え
と北海道および当機構が中心となり、地元の
ながら周年での生産 ・ 出荷を目指している。
苫小牧市をはじめ工業基地を管理する㈱苫東、
また、生食用に適した甘くて柔らかい「一
木質チップ供給元や地元農協、洋菓子業界等
季成り性品種」は暑さに弱く、7月以降は生
を構成員として組織する「北海道次世代施設
産が難しいが、夏季に冷涼な苫東の気候と植
園芸コンソーシアム」を事業主体として推進
物工場での高度な環境制御技術の活用によっ
しており、当機構が事務局となって補助事業
ては、現在、端境期となっている夏期の生産 ・
の進行管理、関係機関等との調整などを行っ
出荷も可能と考えられ、現在、栽培試験を行っ
ている。
ているが、もしこれが実現されたら、国内イ
また、コンソーシアムには、技術実証試験
チゴ生産に「新たな1ページ」を開くことと
で協力いただく(地独)北海道立総合研究機
なる。
構や、施設園芸技術全般でアドバイスをお願
いする千葉大園芸学研究科の後藤英司教授に
平成24年東京都中央卸売市場
イチゴ月別取扱量(t)
もオブザーバーとして参加いただいている。
また、施設を運営する異業種連携の新会社 ・
6000
苫東ファームのイチゴ栽培をサポートするた
5000
め、北海道農政部および地元の胆振農業改良
4000
普及センターの普及指導員を中心として「次
3000
世代施設園芸北海道拠点イチゴ栽培プロジェ
クトチーム」が設置され、苫東ファームに対
2000
1000
0
するイチゴ栽培全般にわたる技術支援を行っ
ている。
平成24年北海道産
(t)
イチゴの道外出荷量(ホクレン扱)
5.
苫東でのイチゴ栽培が目指すもの
全国でのイチゴ栽培は、秋から開花 ・ 着果
する「一季成り性品種」による、12月~5月
にかけての収穫 ・ 出荷が中心で、6月~11月
にかけては殆ど生産されないことから、ケー
キなどの業務用需要を満たすため、年間3,500
t程度の生鮮イチゴが輸入されている。
近年、北海道では、この端境期に向けて、
夏でも生産可能な「四季成り性品種」による
58
NETT
NETT No.89●2015 Summer
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
14
12
10
8
6
4
2
0
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
6.
おわりに
~植物工場クラスターの展望
当機構では、
「1.はじめに」で述べた基礎
調査を踏まえ、3つのステップを経た上での
植物工場クラスター形成による新産業の創出
構想を、平成25年にまとめた。
STEP 1(概ね3年以内)は「採算性のある
植物工場ビジネスモデルの確立」として、最
大4 ha 規模の植物工場を整備することとし、
現在、次世代事業の活用により進行中である。
次の STEP 2(概ね5年以内)では「新規参
28連棟の植物工場の外観(平成27年5月撮影)
入の加速化」として、参入事業者を募り40 ha
規模の集積を目指すこととし、最後の STEP 3
当機構では、苫東工業基地を管理する㈱苫
(概ね7年以内)では「植物工場クラスターの
東との連携を深めながら、植物工場への参入
形成」として、100 ha 規模の生産施設の集積
意向を持つ企業への訪問や各種調査を基に、
に100 ha 規模の関連施設(集出荷 ・ 加工 ・ 貯
将来のクラスター化に向けた具体策の検討を
蔵 ・ 物流施設等)を加えた200 ha 規模の集積
進めるとともに、現在植物工場を操業してい
を目指し、最終的には1,000億円以上の市場創
る企業をはじめ、生産設備や資材の供給企業、
出と3,000人以上の雇用創出を目標としている。
加工 ・ 流通企業、さらには今後参入意向を持
当機構では植物工場クラスター構想の実現
つ企業等からなる研究会組織を立ち上げるな
を目指し、現在、STEP 2「新規参入の加速
どして、植物工場クラスターを形成する生産
化」に向けた取組を進めているが、既に苫東
企業および関連産業の参入スキームについて
工業基地内には苫東ファームの他にもう1社
も具体的な検討を進め、更なる植物工場の誘
が進出し、1.6 ha の植物工場でトマトとベビー
致に繋げていきたいと考えている。
リーフを生産している。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
59
現 場 だ より
「民の視点」で進める港湾運営
株式会社新潟国際貿易ターミナル
総務部次長
1.
新潟東港コンテナターミナルの
概要と沿革
新潟東港コンテナターミナルと対岸諸国(中
国 ・ 韓国)との間に定期コンテナ航路が13便/
週開設され、周辺に臨海工業地帯や LNG 基
新潟港は日本海沿岸のほぼ中央に位置し、
地等を擁する、国際物流拠点 ・ エネルギー拠
古くは北前船の寄港地として栄え、また函館
点となっています。
や横浜など幕末の開港5港の一つとして明治
この間、昭和42年には特定重要港湾(現 ・
元年に開港して以来、国際貿易港としても発
国際拠点港湾)に指定され、平成23年には国
展してきました。現在は、信濃川河口の古く
際海上コンテナ、LNG の日本海側拠点港及び
からの港である西港区と、掘り込み式の港と
総合的拠点港にも選定されるなど、日本海側
して昭和44年に新たに開港した東港区に分か
における重要な港湾として整備が進められて
れています。西港区は、佐渡航路や北海道フェ
きました。
リー航路などが就航し、また国際コンベンショ
新潟東港コンテナターミナルは、平成26年
ンセンター等が立地する人流、国際交流拠点
度には約18万 TEU のコンテナ取扱量を記録
となっています。また東港区は、港奥にある
しており、本州日本海側では最大、全国でも
コンテナターミナル全景
60
鶴 田 立 一
NETT
NETT No.89●2015 Summer
新潟東港コンテナターミナルの民営化
港湾運営に『民の視点』を導入
従来の運営体制(~ 26/3)
新潟国際
貿易ターミナル
(N-WTT)
賃貸料・使用料等
〇埠頭群の運営
・施設、設備、荷役機械等
の維持管理、使用許可、
貸付
・荷主・船社への営業活動
※対船社交渉力の強化、
対荷主サービスの充実、
港湾運営の合理化・効率
化による競争力強化、貨
物取扱量増大を目指す
港 湾 運 送 事 業 者 等
港湾運営会社
サービス提供
賃貸料
施設使用料
・岸壁、ガントリークレーン、
管理棟等
施設の貸付・
監督
新 潟 県 (港湾管理者)
賃貸料
〇独自業務(限定的)
・港湾荷役機械の賃貸
・定温庫の賃貸等
港 湾 運 送 事 業 者 等
〇指定管理業務
・施設、設備の維持管理
・施設の使用許可
機械等の貸付
新潟国際
貿易ターミナル
(N-WTT)
施設使用許可
指定管理料
新 潟 県 (港湾管理者)
指定管理会社
現在の運営体制(26/4 ~)
11番目となっています。東日本大震災の発生
いては、平成26年3月に当社が新潟県から港
した平成23年には、被災した太平洋側諸港湾
湾運営会社に指定され、同年4月より業務を
の代替機能も一部果たしています。
開始しております。
当ターミナルでは民営化以前にも、荷役機
2.
コンテナターミナルの民営化
械の賃貸など、部分的には当社の独自業務を
展開しておりましたが、基本的には県直営で
㈱新潟国際貿易ターミナルは、新潟東港に
運営されており、利用者である港湾運送事業
大型外貿コンテナふ頭が完成した平成8年に、
者等が負担する施設使用料は直接、県に納め
官民の出資により設立され、ターミナルの維
られていました。民営化後は、当社が県から
持管理や、荷役機械の賃貸等の業務を開始し
ターミナルの施設を一括して賃借し、利用者
ました。平成18年以降は、港湾管理者である
から使用料を受け取る仕組みに移行し、利用
新潟県から指定管理会社に指定され、ターミ
者へのサービス提供や営業活動など、港湾運
ナル施設全体の維持管理、港湾施設の使用許
営に「民の視点」を導入していくべく取り組
可、などを行ってきました。
みを始めております。
平成23年の港湾法一部改正で、港湾運営に
また民営化移行に合わせて、資本構成も株
「民の視点」を導入し、港湾の一体的かつ効率
式の異動を行い、新潟県など公的機関からの
的な運営を実現し、国際競争力を強化するた
出資比率を引き下げて50%未満とし、併せて
め、
「港湾運営会社制度」が創設されました。
役職員の増員、組織変更等を行い、これまで
港湾運営会社制度では、国又は港湾管理者
以上に民間色の強い企業に移行しつつあり
により指定された企業が、運営計画に基づき
ます。
港湾運営に関する業務を一元的に担う「民営
化」の仕組みが取られています。新潟港にお
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
61
現場だより
④ ポートセールス
3.
民営化後の新たな取り組み
行政の保有する有力荷主情報を基に、県
民営化後の新たな取り組みとして、ターミ
内外への行政の荷主訪問に同行してポート
ナルを通過する輸出入コンテナに係る集荷促
セールス活動を実施し、潜在ユーザーの発
進や、ターミナル内の一時保管場所であるコ
掘に努めています。
ンテナヤードの運営効率化等を進めています。
⑴ 集荷促進等の取り組み
① 「新潟東港コンテナターミナル
活性化協議会」の主催
⑵ ヤード運営の効率化等の取り組み
① 「新潟コンテナヤード運営会」の主催
コンテナヤード全体の機能的 ・ 効率的な
運営等を議論 ・ 検討する場として、各利用
港湾運送事業者、陸運事業者や周辺自治
者で構成する会議を主催し、業務改善に繋
体、金融機関、シンクタンク等からなる協
げています。
議会を主催し、そこで取りまとめられた活
動方針に基づいて、関係機関が連携 ・ 協力
② 除雪体制の強化
して集荷活動や航路誘致活動等を行ってい
積雪というハンディ克服のため、コンテ
ます。
ナヤード内の融雪ヤードを拡張し、冬季の
操業安定化に努めています。
② 船社向けインセンティブ制度の創設
既存航路の定着や新規航路の誘致を図る
ため、船社向けインセンティブ制度を創設
4.
地域社会への貢献を果たすために
し、本年1月から岸壁使用料(係船料)を
一民間企業として、より主体的に事業展開
減額しています。
を図っていくための行動規範を、経営理念と
して昨年5月に制定しました。
③ 荷主 ・ 船社に対するトップセールス
港湾運送事業者とともに、主要荷主及び
既存船社代理店を定期的に訪問し、集貨拡
大を図るとともに顧客ニーズの把握に努め
ています。
人の成長は、企業を成長させる。
会社にかかわるすべてのものへの
価値創造をめざし、
地域社会への貢献を果たす。
民として顧客の利益最大化を目指す一方で、
公共インフラを運営する立場として、地域社
会に対する責任を果たす、貿易の現場を通じ
て地域経済活性化に貢献していきたい、との
意思を示しています。
融雪ヤード
62
NETT
NETT No.89●2015 Summer
東日本 大 震 災
復興関連情報
復興トピックス
~復興特区支援利子補給金制度の活用~
株式会社日本政策投資銀行 東北支店東北復興支援室
副調査役
東日本大震災後、復興特区支援利子補給金
制度が平成23年度に創設された。公募要領に
よれば、当制度は、東日本大震災復興基本法
(平成23年法律第76号)第2条の基本理念を踏
まえ、少子高齢化、電力その他のエネルギー
利用の制約等の課題の解決に資する先導的な
取組み、被災地域における雇用機会の創出等
を図る事業の円滑な実施を支援することを目
的としている。当制度の具体的内容は、被災
地の復興に向け、地方公共団体が策定する復
興推進計画を実施する上で中核となる事業に
必要な資金の融資に対して、国が利子の補給
を行うものである(中小企業に対する利子補
給率は上限0.7%、中小企業以外の場合は貸付
金利×0.8と0.7%の何れか低い方が上限とされ
ている)。なお、当制度の利用には、東日本大
震災復興特別区域法施行規則(平成23年内閣
府令第69号)第2条各号に規定する何れかの
事業(例:地域産業の高度化又は活性化に寄
与する事業であって、雇用機会の創出に資す
るもの(第6号)
)に合致し、かつ当該地域に
おける中核的産業であることや雇用
要件など各号毎の必須要件等を充足
することが求められている。
復興特区支援利子補給金に係る復
興推進計画は、平成27年5月8日現
在、94件が認定を受けている(青森
県4件、岩手県12件、宮城県21件、
国
福島県46件、茨城県11件)
。復興庁に
よれば、この認定計画に基づく推薦
事業者による設備投資見込額は5,953
億円、新規雇用予定数は4,909人に上
ることから、これらの投資は、被災
地における当該企業の新製品の開発
や製造品出荷額の増加に繋がるだけ
68
NETT
NETT No.89●2015 Summer
板 倉 理 沙
でなく、地域での雇用拡大等に大きな効果を
もたらしていると考えられる。
震災直後から、特に沿岸部において人口流
出が懸念されている。住み慣れた“ふるさと”
に住み続けるために「働く場所」は必須であ
り、各地方公共団体は当制度に係る復興推進
計画の策定も含め、雇用機会の創出に向けた
施策に力を入れている。こうした国による利
子補給等の支援、一社一社の地道な努力、地
方公共団体 ・ 金融機関等の連携等の積み重ね
こそが、更なる復興の後押しとなると考えら
れる。当行としても復興特区支援 ・ 相談セン
ター(図1)を設置し、復興特区 ・ 復興プロ
ジェクト等のニーズ把握や調整等を通じて地
方公共団体や民間企業の取り組みの支援を
行ってきたところである。
今後は、当制度の活用を通じた設備投資の
実施だけに留まらず、その先の販路拡大、雇
用拡大にまで目を向けた取り組みが推し進め
られ、被災地の真の復興につながっていくこ
とを期待したい。
図1 復興特区支援 ・ 相談センター
復興推進計画・プロジェクト検討
復興推進計画応募・申請
復興推進計画認定
地方公共団体
民間実施主体
復興特区支援利子補給金
復興特区支援利子補給金
金融機関
日本政策投資銀行
国・地方公共団体・民間実施主体の復興特区・復興プロジェクト等の
ニーズ把握・調整等(地域協議会への参画など)
共 同 研 究
「新幹線ほくとう連携研究会」の活動について
一般財団法人北海道東北地域経済総合研究所 事務局
1.
研究会の概要
(公財)はまなす財団(札幌市)
、
(公財)東北活性化研究センター(仙台市)
、
(一財)青森地域社会
研究所(青森市)および弊研究所は、平成28年3月の北海道新幹線開業をひかえ、新幹線の直接
的、間接的な開業効果を洗い出し、経済、生活、文化など様々な視点から北海道と東北の交流 ・
連携の可能性について検討することを目的に、昨年11月、本研究会を立ち上げました。
次の8名の有識者と、㈱日本政策投資銀行函館事務所長、青森事務所長および4機関の研究員
らで研究を行っています。
石井吉春 北海道大学公共政策大学院 院長 ・ 教授 〈座長〉
大島直行 北海道考古学会 会長(札幌医科大学医学部 客員教授)
櫛引素夫 青森大学社会学部 准教授
高橋 功 ㈱北海道二十一世紀総合研究所 主席研究員
當瀬規嗣 札幌医科大学医学部細胞生理学講座 教授
永澤大樹 函館商工会議所新幹線函館開業対策室 室長
古屋温美 室蘭工業大学地域共同研究開発センター 准教授
末永洋一 青森大学 名誉教授 〈顧問〉
〈研究テーマ〉
①新幹線開業の意義と効果
・ 国土政策と地域振興策から見た東北 ・ 北海道新幹線の意義
・ 北海道と東北の地域連携の歴史的経緯
・ 新幹線による東北の地域構造変化と中枢都市仙台の役割、青森経済の変化 など
②新幹線による新たな交流 ・ 連携の可能性
・ 新幹線を活用した東北におけるインバウンド観光
・ 縄文遺跡を活かした地域連携 ・ 交流の可能性
・ まちづくり ・ 医療 ・ 企業活動等新たな広域連携の可能性と活用に向けた課題 など
③ほくとう地域の役割と長期的広域連携の視点(補論)
・ エネルギーと食の自立 ・ 連携の可能性
・ 食による地域立直しと移住促進の可能性
2.
研究会の活動
第1回研究会(東京、昨年11月)を手始めに活動を開始し、これまで、3回の研究会を開催し
て個別研究テーマについて討議しました。
5月13日の第3回研究会(札幌)では、有識者3名と研究員2名がそれぞれのテーマについて
発表を行っています。
このうち、札幌医科大学医学部の當瀬規嗣教授からは、医療分野における広域連携の可能性に
関し、①日本は高齢社会になり、慢性の病気を抱える人が多くなっている、②慢性病は長期の診
療が必要であり、医師はまだまだ足りない、③医師不足、遠距離通院、救急搬送に対応するため
にも、公共交通機関の再建が必要、等の発表がありました。
3.
今後の予定
第4回研究会(青森、8月)
、第5回研究会(函館、10月)において引き続き討議を行い、成果
を取りまとめる予定です。北海道新幹線が地域をつなぐ役割を発揮するとき、新しい時代を切り
開くことになると考えています。研究会の成果については、今後の NETT 誌上でもご紹介いたし
ます。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
69
連載 ・ 歴史研究
北方の王 奥州藤原氏四代
第4回 基衡の平泉王国樹立
福島県立医科大学
非常勤講師
佐 藤 健 治
こ たち
長男惟常は「小館」と呼ばれ、次男基衡は
兄弟合戦
おんぞう し
「御曹司」と呼ばれていた。このことからする
たち
前回は後三年合戦の勝利者としてただ一人
と、長男惟常はすでに清衡とは別に「館」を
残された清衡が、自らの戦争体験によって深
かまえ、一方の基衡は父清衡と同居していた
く仏教に帰依し、平泉において中尊寺を中心
ものと思われる。跡取りは彼らの名前からし
とする一大仏教都市の建設にあたったことを
て、基衡に決まっていたであろう。清衡には
述べた。清衡亡き後、清衡の遺志は誰が、ど
妻が複数いたようで、惟常の母は清衡の没後、
のように継承していったのであろうか。
平泉を去って上京し、検非違使の 源 義成と
1128年7月に清衡は73歳で没し、その喪が
再婚する。その後、彼女は「珍宝」を使って
あけるや否や内紛が起きた。1129年8月、清
要人、特に夫の上司にあたる検非違使別当 ・
衡の二子、長男惟常と次男基衡の間で合戦と
藤原実行に盛んに取り入り、ついには鳥羽院
なったのである。惟常は翌年、基衡の攻撃に
の御前にまで参上して、兄弟合戦の顛末を語っ
耐えられなくなり、子息 ・ 郎従20人とともに
たのであった。惟常母のこのような行為に対
越後から舟で逃げようとするが、風と波に押
して当時の京都の人々は批判的であるが、本
し戻されてしまい、陸地を追ってきた基衡軍
人の意図とは別に、結果として惟常母のこの
に捕まり父子ともに殺されてしまった。清衡
行為は、奥州藤原氏の財力と清衡亡き後の後
の周忌法要は営まれたであろうが、その直後
継者問題について、京都の上下の人々に宣伝
から息子二人の合戦が始まったのである。
することとなった。二代基衡の世は波乱含み
あの世の清衡の嘆きはいかばかりであったろ
で始まり、これ以後、奥州藤原氏と基衡の動
うか。
向は京都の人々の耳目を集めるようになる。
これつね
みなもとのよしなり
基衡と摂関家領荘園
前々回述べたように、1091年清衡は時の関
もろざね
白藤原師実にはじめて馬2疋を献上し、同時
に荘園も寄進している。以後清衡はたびたび
摂関家に馬を献上して、その関係を密にして
いったようだ。奥羽に所在する摂関家領荘園
は、以前から摂関家にて保有している荘園に、
ゆ ざのしょう
おおだて
出羽国遊佐 庄 の故地、大楯遺跡(山形県遊佐町大字小
原田)。武士の館と付随する農民の集落遺構、および
多量の青磁 ・ 白磁などの輸入陶磁器、かわらけほか
(1156~1158
国産陶磁器、日用品の木製品や「保元」
年)の元号が記された板きれなどが出土している。
(筆者撮影)
70
NETT
NETT No.89●2015 Summer
清衡から寄進された荘園を合わせたものとな
り、清衡そして基衡はこれらの管理や年貢の
そうあずかり
収納業務に関する責任を一手に負う総 預 と
いう地位に立った。
12世紀半ば、基衡と摂関家との間でこれら
の荘園年貢の値上げについて交渉があった。
この5つの摂関家領荘園のうち、高鞍庄に
以下、表「摂関家領奥羽5ヶ庄年貢一覧」を
ついては藤原成隆が、本良庄については源俊
参照頂きたい。関白を引退していた藤原忠実
通がそれぞれ在京の預であった。成隆や俊通
は陸奥国高 鞍 庄 の年貢を値上げしたい旨(表
は近習として頼長に仕えており、年貢の値上
の忠実案)、基衡に通知したが、基衡はこれを
げを頼長に進言したのも彼らだった。年貢に
承諾しなかった。その後、高鞍庄のほか大曾
関する交渉中、基衡は毎年5ヶ庄の年貢につ
禰庄 ・本良庄 ・屋代庄 ・遊佐庄という5つの荘
いて元々の品目と数量のみを摂関家に送って
園を1148年に忠実から譲り受けた子息頼長は、
いたが、成隆と俊通の助言により頼長はこれ
翌1149年、この5ヶ庄すべての年貢について
を受納しなかった。彼らが言うには、受納し
具体的な品目と数量を挙げて値上げしたい旨
なければ、基衡は必ず年貢の値上げに応じて
(表の頼長1149年案)基衡に通知するが、これ
くると。最後は成隆 ・ 俊通の読みの通り、基
も拒否される。再度頼長が督促すると、1152
衡は譲歩したわけだが、逆に言えば、基衡は
年基衡は頼長が求める通りの値上げ額には応
頼長の年貢値上げ案を3年間も拒み続けたこ
じないが、若干の増額のみ頼長に対して提案
とになる。摂関家としては前代の忠実の時か
している(基衡1152年案)。頼長はこれに対し
ら奥羽5ヶ庄の年貢値上げを望んでいたのだ
て、5つの荘園のうち3つについては理由が
が、忠実の時には果たせず、頼長の代になっ
ないわけではないとして認めたが、高鞍庄と
て側近の助言により、ようやく念願かなった
大曾禰庄については基衡の提案では承諾しか
形となる。
ねるとして、金 ・ 布の増額を中心として再提
さらに基衡と頼長のこの交渉内容を見ると、
案する(頼長1153年案)
。基衡はこれを認め、
頼長の1149年案では元の年貢の数量に比して、
1153年にようやく両者にて5つの荘園の年貢
高鞍庄では金と布が5倍、大曾禰庄で布が3.5
額が妥結した。
倍、本良庄の金が5倍などと、大幅な値上げ
ただざね
たかくらのしょう
おお そ
ね
もとよし
や しろ
ゆ ざ
摂関家領奥羽5ヶ庄年貢一覧
庄名
品目
本数
忠実案
頼長1149年案
基衡1152年案
頼長1153年案
高鞍庄
金
布
細布
馬
10両
200反
10反
2疋
50両
1000反
―
3疋
50両
1000反
―
3疋
10両
300反
10反
3疋
25両
500反
―
3疋
大曾禰庄
布
馬
水豹皮
200反
2疋
―
700反
2疋
―
200反
2疋
5枚
300反
2疋
―
本良庄
金
馬
布
10両
2疋
―
50両
4疋
200反
20両
3疋
50反
基衡案に同じ
基衡案に同じ
基衡案に同じ
屋代庄
布
漆
馬
100反
1斗
2疋
200反
2斗
3疋
150反
1斗5升
3疋
基衡案に同じ
基衡案に同じ
基衡案に同じ
遊佐庄
金
鷲羽
尻馬
5両
3
1疋
10両
10
2疋
10両
5
1疋
基衡案に同じ
基衡案に同じ
基衡案に同じ
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
71
連載 ・ 歴史研究
の提案だった。これに対して基衡1152年案で
は高鞍庄の金5倍を全く認めず、布の5倍を
「在国司」基衡
1.5倍にする代わりに、これまでなかった細布
基衡の摂関家との関わりは以上の荘園年貢
を付け、また大曾禰庄の布3.5倍は認めず、代
の両者の交渉から推し量ることができる。で
わりに新たに水豹(アザラシ)皮を付け、さ
は国政上、陸奥国を管轄していた陸奥守と基
らに本良庄では金5倍を2倍に抑えている。
衡との関わりはどうであろうか。
『古事談』と
このうち頼長の納得しなかった高鞍庄 ・ 大曾
『十訓抄』に陸奥守宗形師綱と基衡との関係を
禰庄について、頼長は11153年案にて高鞍庄の
示す同内容の説話が載っているので、少し長
金 ・ 布の5倍を半分の2.5倍に改め、大曾禰庄
いが紹介したい。
の布3.5倍を1.5倍に改めている。
白河院に仕えていた師綱が陸奥守として赴
概して頼長は1149年案にて元の年貢の3.5倍
任してきた時、基衡との間に事件が勃発する。
から5倍の値上げを行おうとしたが、基衡は
任期の始めにあたり、師綱は国税収納の業務
ほとんどこれを認めないか、値上げを認めて
のために国中の公田の面積を測る検注を行お
も1.5倍から2倍までの間におさえようとして
うとして、天皇の命令である宣旨を持って信
いた。結果、値上げされた品目でも高鞍庄で
夫郡に入った。これに対して信夫郡を我が物
2.5倍ほど、大曾禰庄 ・ 本良庄 ・ 屋代庄 ・ 遊佐
のように支配していた基衡は、信夫郡司大庄
庄は1.5倍ほどにおさえられた。頼長が最後ま
司佐藤季春に検注を阻止するよう命じたため
でこだわった高鞍庄と大曾禰庄は、田などの
合戦に発展し、陸奥守側に多くの負傷者をだ
面積が広大なので、このようなわずかな値上
した。師綱は「在国司」基衡に怒りを向ける。
げでは不服だったようだ。交渉内容から見る
基衡としては新陸奥守師綱を少し威そうと
と、基衡の圧勝であった。ここに見られるの
思っただけで、師綱が実際に戦闘に及ぶとま
は、摂関家と対等に渡り合う、あるいは交渉
では思わなかったのである。基衡は季春を呼
の主導権を握る基衡の姿であり、中央の大権
んで善後策を相談する。季春は、主命とはい
門である摂関家に対してこびへつらう姿では
え宣旨を持つ陸奥守側と合戦を行ったので、
ない。
違勅の罪は逃れられない、基衡自身は知らな
もろつな
しの
ぶ
すえはる
かったこととして、私のみの罪とし、私の首
を斬って陸奥守師綱の心を鎮めるのがよろし
信夫佐藤氏の館跡とされる大鳥城跡から、陸奥国信夫郡の象徴
的な山 ・ 信夫山を望む。右手前、森の中に医王寺の屋根が見え
(筆者撮影)
る。(福島県福島市)
72
NETT
NETT No.89●2015 Summer
医王寺薬師堂。医王寺は信夫佐藤氏の菩提寺。季春ののち基治
の息子継信 ・ 忠信兄弟の墓など、中世の供養塔が多いことでも
(筆者撮影)
有名。
い、と申し出た。基衡もそれしか方法がない
司が実質的に現地を支配していた。陸奥国す
と思い、師綱に季春の首を献上すると伝えた。
べての郡が季春の信夫郡のように強固に基衡
しかしその後基衡は、季春が代々仕えてきた
の支配が行き届いていたかはわからないが、
後見人の家の出で、乳母の子であるのに、主
国守からも「在国司」と認められた基衡の支
人である自分の命令でたちまちに命を失うと
配は、陸奥国内に相当行き届いたのではない
は大変痛ましいことであると思い直し、良馬、
だろうか。また歴代の陸奥守はこの頃になる
金、鷲の羽、絹布など多くの財物を自分の妻
と任期のはじめの検注を行わなくなっており、
に持たせて師綱のもとに使に出し、基衡は知
自ら国務を掌握しようとせず、
「在国司」基衡
らないことにして季春の命乞いをさせる。し
に任せていたと考えられる。師綱のように基
かしこれに師綱は大いに腹を立てた。朝廷に
衡と対立することは陸奥守にとっても現地支
叛いて国司を侮った、その罪は謀叛に当たる
配上リスクとなり、むしろまれなケースとみ
のに、財物を献上して赦されたとなれば、院
られる。だからこそ人々の噂となり、説話と
に対して恐れ多いことであり、人々のそしり
して残されたと考えられる。陸奥守は任期に
を受けることになると言うのである。基衡は
より交代するが、
「在国司」基衡は実質的に国
力及ばず、泣く泣く季春とその子息 ・ 弟ら5
務を掌握し、季春のような主従関係のある人
人の首を斬って、師綱の気持ちを鎮めた。基
物を郡司としていた。郡司でありながら季春
衡が季春の命乞いのために師綱に贈ろうとし
は大庄司と呼ばれ、信夫郡全体の実質的荘園
た物品は、1万両の金をはじめとした多くの
化が進んだと思われる。
財宝であり、陸奥国の師綱任期中の国税以上
これらから基衡は、陸奥国においては「在
のものであったという。
国司」という現地における国務の統括的地位
この説話から基衡と師綱との関係、あるい
として、また陸奥 ・ 出羽両国の摂関家領荘園
は基衡の陸奥国における支配の程度を考えて
においては総預所として、大きな権限を有し
みたい。まず基衡と師綱の関係では、陸奥守
ていたのであった。次回は、基衡のこのよう
師綱の陸奥国に対する指揮権は宣旨という天
な地位 ・ 権限を背景として、手に入れた奥羽
皇の命令の体現という形で基衡も認め、その
の産物、あるいは北方との交易により手に入
もとに基衡は「在国司」として陸奥国内の実
れた物品について述べていく。
務を統括していた。この「在国司」のもと郡
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
73
ほくとう地域の
文 化 資 本
「人と人とが つどい、つながる 交流拠点」を目指して
~横手市交流センター「Y2ぷらざ」~
横手市 まちづくり推進部
地域づくり支援課 市民協働係
上席副主幹
佐 藤 英 晃
1.
はじめに
横手市交流センター「Y2(わいわい)ぷら
ざ」は、中心市街地である JR 横手駅東側地
区において生じてきている空きビルや空き店
舗など中心市街地の空洞化対策と鉄道バスの
交通結節点としての都市機能の更新、また総
合病院の郊外移転に伴う跡地対策と老朽木造
家屋の更新を一体的対策として、街の再整備
を実施することにより中心市街地の活性化を
図ることを目的に他の施設と一体的に「横手
駅東口第一地区第一種市街地開発事業」とし
て建築されたものです。
駅前地区としての都市機能の整備を身の丈
2.
施設概要
に合った再開発事業で実施し、街の核となる
「Y2ぷらざ」は、中心市街地である横手駅
施設等を整備し、地域の交流と連携を促進す
前において街の魅力と賑わいの再生実現のた
る効果を目指すと共に、中心市街地の再生と
めに検討が進められ建築したものです。市街
コンパクトな街で居住し続けるために必要な、
地再開発事業という手法(国 ・ 県 ・ 市の補助
住宅機能、商業施設、銀行、バスターミナル
事業)を採用、公共施設棟として平成23年3
機能などを一体的に再整備することで、駅前
月に完成、4月にオープンしております。
周辺の賑わい創出ができるものと期待されて
います。
・施設運営管理者 横手市
・本体構造 鉄骨造4階建(高さ20.1m)
・建設費 約15億円(街区全体63億円)
・1階 オープンスペース
図書 ・ 情報コーナー、喫茶コーナー、
観光情報コーナーなど
・2階 横手市児童センター
・3階 研修室1~4、市民活動フロア
防音スタジオ、事務スペース
・4階 健康の駅よこて
東部トレーニングセンター
74
NETT
NETT No.89●2015 Summer
3.
各フロアの紹介 ~コンセプト~
1階 地域情報 ・ オープンスペース
2階 子育て
ファミリーサポートのフロア
~広げよう!笑顔あふれる子育ての輪~
~心豊かに 出会い、ふれあい自由なステージ~
横手市子育て支援課が運営しており子ども、
・オープンスペース
家族、子育てに関わる多くの人の笑顔が集ま
る「つどい」の拠点。誰でもいつでも気軽に
立ち寄れ、子育て支援のさまざまな情報が得
られ、体験、相談もできるフロアです。
大型遊具を配置し、広いスペースで体を動
かしながら親子で気軽に交流できます。
また、乳児、幼児との分離できるスペース
もあり年代に応じた遊び、交流も可能となっ
ています。
壁面には150インチの大型マルチスクリーン
があり、ステージを利用した様々なイベント
や展示会を行うことができます。
スペース内にはイス ・ テーブルが配置され、
自由に利用することができることから読書、
談話、待ち合わせ等、常に人との交流が見受
けられるスペースです。
・喫茶コーナー
障がい者の就労支援事業として運営してい
ます。
・地域情報コーナー
3階 市民活動フロア
~創造!市民と協働のまちづくり~
市内の図書館の図書の予約や貸出、返却が
横手市地域づくり支援課市民協働係の事務
でき、新聞、雑誌を配置し自由に読むことが
スペースがあり、秋田大学の横手分校事業も
できます。閲覧、学習できる机があることか
行っています。市民活動を応援するフロアと
ら学生には人気のスペースでもあります。
して研修室が4室、防音スタジオ、予約なし
でも利用できる市民活動スペースがあります。
研修室では用途に応じた利用ができ、企業
の会議や研修、生涯学習団体の活動の場とし
て利用が多く昨年は60%近くの稼働率で運用
されております。
市民活動スペースでは、簡単な打ち合わせ、
2~3人での趣味活動の場としてや、中高校
生の放課後の勉強、集い、電車や迎えの時間
までの「居場所」として人気のあるスペース
として利用されています。
2015 Summer ● No.89
NETT
NETT
75
ほくとう地域の文化資本
4.
おわりに
人と人とが「つどいつながる」交流拠点を
目指して建設された横手市交流センター「Y2
ぷらざ」はオープンして5年目を迎え、
過去
4年間の来館者は1,260,000人ほどで、年間で
300,000人、一日平均1,000人以上の来館者があ
ります。
昨年6月には来館者100万人を達成し記念イ
ベントを行っています。
福祉、健康施設を併せ持つ複合型のコミュ
4階 健康活動フロア
~健康づくりの案内役~
ニティ施設として市民はもとより広く県内外
の方々から「ワイぷら」の愛称で親しまれて
横手市健康推進課が運営しており、運動指
いる施設であります。
導員が常駐し利用される方一人ひとりの健康
利用者の自主性に委ねた施設利用を心がけ
状態に合わせたトレーニングを指導してい
ており、1階、3階フロアでの飲食(飲酒)
ます。
自由という点も「人がつどう」理由の1つで
フロア内には、様々なトレーニングマシン
あると思います。
が配置され、個人の身体特性に応じた運動メ
小さいお子様から小中高生、高齢者まで用
ニューの提供や指導を受けることができる施
事があっても無くても自分の「居場所」が見
設として1日100人近い利用者で活気あふれる
つけられ「時」を過ごすことができる施設と
フロアとなっています。
して、常に利用者目線に立った施設運営を心
がけていきたいと思います。
アクセスマップ
横手市交流センター「Y2ぷらざ」
〒013-0036 秋田県横手市駅前町1番21号
TEL 0182-32-2418 FAX 0182-32-4044
開館時間 9:00~22:00
休 館 日 年末年始(12/30~1/2)
富士見大橋
虹のホール
アグレム
コンビニ
エンスストア
かまくら館
よこてイースト
駐車場
横
手
駅
羽後交通バスターミナル
横手プラザホテル
アクセス
76
NETT
NETT No.89●2015 Summer
横手市役所
横手庁舎
HOKUTOU DIARY
平成27年4月∼6月
ほくとう総研の活動内容などについてご紹介します。
〈情報発信〉
平成27年 5 月13日 第3回新幹線ほくとう連携研究会(札幌市)
〈総務事項〉
平成27年 5 月27日 第1回理事会
平成26年度事業報告 ・ 決算などを審議しました。
6 月15日 定時評議員会
平成26年度事業報告と決算の承認、評議員 ・ 理事の選任をしました。
6 月15日 第2回理事会
専務理事の選任をしました。
〈役員等異動〉(敬称略)
平成27年6月15日に開催された評議員会 ・ 理事会において、それぞれ選任されました。
【評議員】
評 議 員 阿 部 俊 徳
【理事】
専務理事 横 川 憲 人
理 事 大 江 修
※評議員原田宏哉、専務理事井上徳之、理事渡辺泰宏は退任致しました。
―今後の予定―
平成27年 8 月24日 第4回新幹線ほくとう連携研究会(青森市)
編集
後記
「小さくして」
子どもの頃、街から郊外の農村地帯にある祖父母宅に向かう足は路線バスでした。バスの
本数も1時間に3本と、バス停まで若干遠いことを除けば、行き来に支障はありませんでし
た。坂道を登っていくバスのエンジン音を思い出します。半世紀も前の話です。
一家にクルマ一台、それどころか一人一台すら珍しくないモータリゼーションの進展、そして人口減少
と、社会も大きく変わり、路線バスや地方鉄道を単純に昔のように戻すことはできません。しかし、積雪
寒冷地が多く高齢化の進んだほくとう地域だからこそ、全国に先駆け公共交通についてやれること、やる
べきことが多いのではないかと考えます。その際、十勝バス ・ 野村文吾社長からお聞きした「初めてやる
ものはできるだけ小さくして余分なものはつけない」、とても大事な話だと思います。
ほくとう総研情報誌 NETT
No.89 2015 Summer
発行所
電 話
E︲mail
URL
印刷所
一般財団法人 北海道東北地域経済総合研究所
〒100︲0004 東京都千代田区大手町二丁目2番1号
03︲3510︲6821(代表)
info︲[email protected]
http://www.nett.or.jp
株式会社イーフォー
新大手町ビル3階
本誌に関するお問い合わせ、ご意見ご要望がございましたら、お電話、E-mail 等でお寄せ下さい。
〈本誌掲載記事の無断転載を禁じます〉
一般財団法人北海道東北地域経済総合研究所