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論
文
内
容
の
要
旨
ヒトの MLL 再構成陽性 AML では MLL-AF9 陽性である THP-1,MOLM13 において、MLL-AF4
陽性である KOCL48 よりも強く、ATRA 単剤処理により APL と同様な形態学的変化、CD11b
論文提出者氏名
論
文
題
坂本
謙一
目
Sensitivity of MLL-rearranged AML cells to all-trans retinoic acid is associated with the
level of H3K4me2 in the RARα promoter region
の発現誘導、NBT 還元能の亢進、RARα,C/EBPα,C/EBPε,PU.1 の RNA、蛋白レベルでの発現増
加を認め、MLL-AF9 陽性 AML 細胞においては ATRA 投与による分化誘導が可能でありレチノ
イン酸経路は完全には不活化されておらず、MLL-AF4 陽性 AML 細胞ではレチノイン酸経路は
完全に不活化されていると考えられた。次に MLL 融合遺伝子をレトロウイルスによりマウス
造血幹細胞に導入し作成した、マウスの不死化細胞株(MLL-AF9、MLL-AF5q31 陽性)にて同
論文内容の要旨
様の実験を試みた。ヒトの細胞株で観察できた形態学的変化、Mac1の発現誘導、NBT 還元能
急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia: APL)に対して、all-trans retinoic acid
の亢進、Rarα,C/ebpα,C/ebpε,Sfpi.1 の RNA レベルでの発現増加は、MLL-AF9 陽性細胞のみに認
(ATRA)は劇的な効果を示すが、APL 以外の急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia: AML)
められ、ATRA に感受性があることが示唆された。以上の結果より、ATRA に対する感受性は
に対する分化誘導は十分でないとする報告が多い。骨髄球系の分化は、レチノイン酸による
MLL-AF9 陽性細胞が MLL-AF4/AF5q31 陽性細胞に比して優れており、これは MLL 融合遺伝子
RARα 遺伝子の活性化を通しておこるとされている。非 APL 型 AML 細胞を用いて RARα 遺伝子
の相手方の差(AF9 vs AF4/AF5q31)によることが明らかとなった。
発現を検討した報告では、多くの細胞株で RARα 発現が消失しており、RARα 遺伝子発現が低下
さらに、レチノイン酸経路の不活化が、RA response elements を含む RARα プロモーター領域
することによりレチノイン酸経路が遮断され骨髄球系への分化が阻害されていると考えられる。
や好中球分化に関わる因子である PU.1 proximal, distal URE と RUNX1 +24/+25 intronic enhancer
さらに、RARα 遺伝子発現低下には、ヒストンメチル化やアセチル化が関与するという報告も
の H3K4me2 低下と関連するかを検討するために、ChIP を施行したところ、MLL-AF9 陽性細
散見される。我々は以前に MLL-AF9 陽性 AML 細胞に対する ATRA 感受性が、脱メチル化剤で
胞(THP-1, MOLM13)よりも MLL-AF4 陽性細胞(KOCL48)で H3K4me2 が低値であった。これ
ある 5-aza-2’-deoxycitidine により増強される事を報告した。また、ヒストン脱アセチル化阻害
は、マウス不死化細胞株(MLL-AF9、MLL-AF5q31 陽性)でも同様の結果であり、MLL-fusion
剤である trichostatin A と ATRA の併用が、MLL-AF9 陽性 AML 細胞の増殖抑制と分化促進に有
パートナーがヒストン修飾を調整していることが証明された。以上より、MLL-AF9 陽性細胞
効とする報告も見られる。よって、メチル化やアセチル化といったヒストン修飾が MLL 再構成
では、RARα プロモーター領域、PU.1 proximal, distal URE と RUNX1 +24/+25 intronic enhancer
陽性 AML における ATRA 感受性に強く関与しており、分化誘導療法の有効性を左右する重要
における H3K4me2 の程度は MLL-AF4 陽性細胞よりも高く、その結果として MLL-AF9 陽性細
な因子であると考えられる。今回我々は、MLL 融合遺伝子のタイプにより ATRA に対する感受
胞では、ATRA による分化誘導が効果的に起こると考えられた。最後に、H3K4me2 脱メチル
性が異なる事、さらにレチノイン酸経路の不活化の程度が、RARα プロモーター領域、PU.1 gene
化酵素である LSD1 の阻害剤である TCP を ATRA 抵抗性である MLL-AF4 陽性細胞(KOCL48)
upstream region (URE) 、 RUNX1 gene intronic enhancer の H3K4me2 の程度と関連している事を明
に ATRA と共に投与したところ、分化を示唆する形態学的変化、NBT 還元能の増加、CD11b
らかにした。また、ATRA 抵抗性を示す MLL 再構成陽性 AML 細胞において、lysine-specific
発現の増加、RARα, C/EBPα, C/EBPε, PU.1 のタンパクレベルでの発現増加が認められた。さら
demethylase 1(LSD1)阻害剤による H3K4me2 の脱メチル化阻害により ATRA に対する感受性が
に、TCP により RARα プロモーター領域、PU.1 proximal, distal URE と RUNX1 +24/+25 intronic
回復できることを証明した。
enhancer における H3K4me2 が容量依存的に増加している事を確認した。よって、TCP を併用
ヒ ト AML 白 血 病 細 胞 株 ( THP-1,MOLM13;MLL-AF9 陽性、KOCL-48;MLL-AF4 陽性) と
することによりレチノイン酸経路の再活性化が可能であり、これは RARα プロモーター領域、
マ ウ ス AML 単 細 胞 株 ( MLL-AF9、MLL-AF5q31 融合遺伝子を発現する細胞株:マ ウ ス Lin-
PU.1 proximal, distal URE と RUNX1 +24/+25 intronic enhancer における H3K4me2 の回復に伴う
造血幹細胞にレトロウィルスベクターを用いてそれぞれの融合遺伝子を導入した不死
ものと考えられた。
化 細 胞 ) を ATRA お よ び TCP( LSD1 阻 害 剤 ) を 投 与 し 培 養 し た 。 Coulter counter を用い
本研究により、我々は MLL-AF9 陽性 AML 細胞が ATRA 感受性を有しており、RARα、PU.1
て細胞増殖を評価し、単球系細胞への分化については形態学的な評価、フローサイトメーター
URE、RUNX1 intronic enhancer の H3K4me2 高値が ATRA 感受性を規定していることを証明し
による単球での特異度の高い表面マーカーである CD11b/Mac1 の発現解析および NBT 還元能
た。この結果は RARα、PU.1 URE、RUNX1 intronic enhancer の H3K4me2 が高値である AML に
で評価した。Real time RT-PCR、ウエスタンブロットにより、分化に関わる遺伝子の発現を評
おいては、ATRA が Cytarabine の効果を増強させる可能性を示唆するものである。最後に、LSD1
価した。また、クロマチン免疫沈降(ChIP)により、RARα プロモーターと 5 ‘UTR 、 PU.1 URE 、
阻害剤のようなエピジェネティクスを修飾する薬剤は、MLL 再構成陽性 AML を含む ATRA 抵
RUNX1 +24/+25 intronic enhancer における定量的 PCR による H3K4me2 の解析を行った。
抗性を示す AML に対する新規治療剤としての可能性を秘めていると考えられた。
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